第10話 魔王軍の条件
「魔王様の条件は二つニャ。一つは魔王様と面談する事ニャ」
「まあ、どんな人物か分からないのに同盟を組むと言うことはあり得ないわね。あたしも魔王に会ってみたいから、妥当な条件だわ。それで、もう一つは?」
ノアールは腕組みをしながら、うんうんと頷く。
アイリーンはそんな主人の姿を見ながら眉をひそめていた。
そして、カイルは静かにその話を聞いていた。
「今のままでは領土が小さすぎて、同盟国としてメリットが見いだせないニャ。領土を広げること、だそうニャ」
「ちょっと待って!」
ノアールが返事をする前に、アイリーンがネーラの条件に反応した。
「それはつまり、別の王国領を占拠しろと言うことでよね。魔王軍と同盟を結ぶために魔王軍の領土を攻める訳にはいかないですから」
「そういうことだニャ」
「同胞を攻めろと言うことか! ふざけるな! そんなことが出来るか!!! そんなこと、お嬢様が許すはずがなかろう! ねえ、お嬢様」
アイリーンはノアールに同意を求めるが、ノアールはじっと考え込んでいた。
「お、お嬢様?」
「わかった、まず、その魔王に会いに行きましょう。もう一つの条件についてはその時に詳しく、話をさせいてもらうわ」
「分かったニャ、それで、ノアールはいつ、魔王様に会うニャ」
「お嬢様!!!」
ノアールとアイリーンが和やかに話している外で、一人騒ぎ立てるアイリーン。
「何よ、アイリーン。うるさいわよ」
「しかし、お嬢様……カイル、お前も何か言ったらどうだ!」
「騎士団長、僕たちはすでに国王の命に背いています。国王に許しを請うのも、魔王軍と同盟を組むにしても、とりあえず、魔王と話してみてから判断しては如何でしょうか? 判断材料は多いに越したことはないでしょうから」
「それは……そうかも」
「さすが、カイル。話が分かるわね。そういうことよ、アイリーン。そう言うことだから、なるべく早く魔王に会いに行きましょう。いい? 泥棒猫」
「誰が、泥棒猫ニャ!!!」
「そうですよ、お嬢様。ネーラさんに失礼ですよ」
「ネーラって呼んで欲しいニャ。カイルは良い子ニャ、こんな口の悪い小娘は止めて、あたいの恋人になるニャ」
そう言ってネーラはカイルの腕を取り、自分の胸を押しつける。
「やっぱり、泥棒猫じゃない! お漏らし猫のくせに!」
「誰がお漏らし猫ニャ!」
「あたし、知っているんだから、あたしに投げられたとき、おしっこ漏らしていたのを」
「ば、バレてたニャ!?」
「ふふふ、あたしの目をごまかせないわよ」
「あのー、お嬢様……話がずれていますよ」
カイルの言葉に、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしているネーラと悪い笑顔をするノアールは顔を見合わせた。
「ゴッホン。話を元に戻すわよ。それで、あたしたちはいつ、魔王に会いに行けば良いの?」
「そ、そうだったニャ。話がまとまったなら、今から、魔王城へ行くニャ」
「分かったわ。帰ってきて早々、悪いんだけど、あたしとカイルは出かけるわね」
「駄目です!」
アイリーンはきっぱりとノアールの言葉を否定した。
主人であるノアールの言葉を否定する。そこにはアイリーンの決意を込めた言葉だった。
「どういうつもり? あなたも魔王に会うことは反対しないわよね」
「ええ、それは反対しません」
「じゃあ、何なのよ」
「お嬢様とカイルだけで魔王に会わせるなんてことはさせません。私も行きます」
「駄目よ。お父様達がいない、今、あなたまでここを離れたら、誰がこの領地を守るんですか?」
「それならば、エナジーがいます。戦闘能力は低いですが、魔法が使えますし、政治力は高いです。私が鍛えた騎士団も少しくらい私がいなくても、全く問題ありません」
ノアールは長い金髪を後ろにまとめ、垂れ目で嫌みな顔で笑う男を思い浮かべた。
何か、イヤな感じがする男なのだが、確かに政治能力は高いし、それなり魔法も使える有能な男だ。
「た、たしかに……分かったわ。泥棒お漏らし猫、三人で行っても大丈夫?」
「誰が……まあ、もう良いニャ。逆にたった三人でいいのかニャ? 護衛に一個小隊くらい来るかと思ったニャ。でも三人だと話が早いニャ。」
そう言うとネーラは一つ、大きく口笛を吹くと、窓に強風が打ち付ける。
カイルは慌てて、窓を開けるとそこには巨大な飛竜が降りたっていた。
「さあ、ワイバーンに乗って魔王城へ行くニャ」