第9話 騎士団長との決闘結果
「装着!」
アイリーンの剣は空を切った。正確に言うと、剣を持っていたはずの腕だけが空を切ったのだった。
アイリーンの手から突如として剣が消えたのだった。
カイルに剣を跳ね飛ばされたわけではない。手には何の衝撃もなかったのだ。
「え!?」
唖然としているアイリーンの首元に剣が突きつけられていた。
「勝負ありで良いですか? 騎士団長」
「なにが起きたんだ? なぜ私の剣をお前が持っている?」
「神具コンバットスーツと共に授かったスキル、瞬間装着です。僕が触ってマーキングをした物は僕の意志で自由に装着できるのです。先ほど、僕の右手で剣を触った時にマーキングをしたので、いつでも僕の手に取れる状態だったのですよ」
「な! ま、まだだ、剣を取られたならば、奪い返せばいい」
篭手で剣をはじくとそのまま、カイルにボディブローを打ち込もうとする。
ゴッン!!!
素手で金属を叩く音が響く。
アイリーンの手がカイルの金属の鎧を叩いていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
カイルが右手を押さえるアイリーンを心配する。
「き、貴様! 私の鎧まで奪い取ったのか!」
「まあ、そういうことです」
アイリーンの鎧を装着したカイルが答えた。
そして、カイルはすぐにアイリーンの鎧を着脱した。
スキル瞬間装着は装着も着脱も可能なのだった。
そして、カイルは恥ずかしそうに真っ赤になって、アイリーンから目線をそらした。
「騎士団長、鎧の下は下着なのですね。すみません」
「え、あ! きゃー」
アイリーンはここで初めて、自分が下着姿になっていることに気がついたのだった。
男勝りだと言われるアイリーンの密かな乙女心。見えない部分は、かわいらしい下着をつけているのだった。
「カイル! 見ちゃ駄目! カイルが見て良いのはあたしの身体だけなんだから!!!」
そう言ってノアールはカイルの首を無理矢理、後ろにひねった。
「痛い!」
アイリーンとの戦いで一番のダメージを受けたカイルだった。
~*~*~
「それで、アイリーンは納得したの?」
三人は屋敷に戻り、アイリーンは鎧を付け直していた。
「ええ、カイルがここを出て行った時とは全く変わったと言うことは分かりました。確かに今のカイルであれば、戦力になりますね。しかし、それだけで、王国に対応する戦力にはなり得ませんよ」
「それはそうだニャ。こんな小さな領土だけだと兵士数が圧倒的に足りないニャ」
「そうでしょう。王国が見せしめをかねて攻め込んできたら、一週間ももたないですよ。どうするんですか?」
「条件次第では、魔王軍が後ろ立てになりますニャン」
「本当に魔王軍が後ろ盾になってくれるなら、ありがたい……って、お前は誰だ! 魔族!?」
アイリーンは自然に溶け込んでいるネーラに、やっと気がついた。
黒猫獣人である事を隠すことなく、長く黒い尻尾をフリフリしながら、普通にそこにいるネーラを見て剣を抜いたのは人族としてはごくごく普通の反応だった。
「アイリーン、剣を収めなさい。この獣人はあたしの知り合いです。魔王軍との窓口になるネーラですよ」
「ネーラだニャ。よろしくお願いします、下着騎士さん」
「だ、誰が! 下着騎士だ!」
「じゃあ、なんで鎧の下に見られても大丈夫な可愛いピンクの下着を着けてるのかニャ」
「う、うるさい! 何なんですか? この失礼な獣人は!」
「ですから、魔王軍との窓口になるネーラですよ」
「お嬢様、それは聞きました! なぜ、ここにいるのかと聞いているのです!」
アイリーンは一人、血圧高めな発言をする。
「それは当然、これからの私たちの方針を決めるために来てもらったのよ」
「呼ばれたニャ。部長の伝言も持ってきたニャ」
「お嬢様、本気で魔王軍と手を組むつもりですか? 人族の敵ですよ」
そう言ったアイリーンにノアールは静かに、はっきりと言った。
「あたしにとって、人族の敵よりも、カイルとあたしの敵の方が罪が重いのよ。アイリーンになら分かるでしょう」
そういったノアールの目の闇はドス黒く、闇が深かった。
「は、はい」
「アイリーンはお利口さんね。それで、ノアール。魔王の条件は何?」
ノアールは爽やかな笑顔で、ネーラに尋ねたのだった。




