77 先輩のお気に入り
(´・ω・`)
琥珀との充実した日々、特に悩みなんて無さそうな俺だけど、最近少しだけ困ってることがある。
「今泉くん」
廊下を歩いていると、後ろから声をかけられる。その声の主に心当たりがあり俺は仕方なく振り返る。すると、そこには女子テニス部の現部長……3年の名塚先輩がいた。物凄く美人なんだけど、俺はこの人が少し苦手だった。
「こんにちは、名塚先輩。どうかされましたか?」
「今泉くんの姿を見かけたらかついね。可愛い後輩を弄りにきたよ」
「出来れば違う後輩にして欲しいんですが……」
「残念、面白いのは今泉くんが断トツだから」
ニマニマしているのがなんとも腹立つ。県大会の頃からこうして話しかけてくるようになったのだが、何故か俺がお気に入りらしくこうして見かけると絡んでくる。
「はぁ……用がないなら行きますよ」
「いやいや、用事ならあるさ」
「何ですか?」
「デートしないか?」
「お断りします!」
「そんないい笑顔で断られるとは」
俺が即答するとクスクスと可笑しそうに笑う先輩。こんなことして変な噂たって琥珀に悪影響あると嫌なんだけどなぁ……
「これでも、私はかなり美少女だと思うが、そんな私の誘いを断るのは君くらいだろうね」
「先輩が美少女なのは認めても、俺には心に決めた人が居ますから」
「桐生さんだったね?あの娘は可愛いよねぇ」
「……琥珀に手を出すと許しませんよ?」
「おっと、怖い怖い」
いや、この人は百合の可能性が高いと有名だから釘を刺しておく。女子テニス部でも大人気で彼女目当てに入部する生徒も多いとか。
最初は俺もこの人が話しかけてきてのは琥珀目当てなのだろうかと思っていたが……どうやら、そうではないらしいと最近は思うようになってきた。むしろ危ないのは……
「でも、やっぱりああいう素直で可愛い女の子よりも、不器用で少し面倒くさくて強気な……そうだね、浪川さんの方が私は好みかな」
……浪川。お前は本当にモテるなぁ……女子に。
「それで?先輩の好みを聞くために呼び止められたんですか?」
「おっと、忘れてた」
そう言ってから、名塚先輩はポケットから何かを取り出すと手渡してきて小声で言った。
「塩飴あげる。暑いからねぇ。桐生さんと浪川さんによろしく伝えておいてね〜」
そう言って離れていく先輩。見つかるとまずいので急いでポケットに飴を入れる。こういう所が苦手なんだよなぁ……俺なんかの何を気に入ったのか絡んでくるけど絶妙に空気を読んでいるのがなんともねぇ。
とりあえず琥珀を抱きしめて癒されよう……俺は琥珀の元に急ぐのだった。