閑話 マスターの楽しみ
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私がこの店を親父から継いだのはもう随分前のことだ。普段は物書きをしているのだが、ネタ作りと趣味も兼ねて喫茶店の経営もしている。
あまり繁盛してるとは言えないが、来る客の様子を見て人間観察をしてネタを作る。まあ、来る客層はまちまちだが……最近気に入ってるのはとあるカップルだ。
中学生くらいだろうか?ここ最近、デートなのか土日にたまに来るカップルなのだが……男の子の方があの年頃にしては随分と積極的に見えた。
「ほら、琥珀。あーん」
「琥珀、これも美味しいよ」
「口にクリームついてるよ」
……いや、オブラートに包まずに言えば見てるこっちが恥ずかしいくらいに彼女を甘やかしているのだ。特に驚いたのはこの前のこと。突然メロンソーダを頼んだと思ったら、今時どこで手に入るのか私的に不明な恋人用ストロー(カップルストロー、アベックストローなど名称は色々だけど)を持参して実際に使っていたのだ。
私も若いころ嫁さんと似たようなことはしたけど……人前でやろうという勇気はなかなか出せなかったものだ。この話を嫁さんにしてから冗談で「久しぶりに一緒に飲まない?(カップルストローを差し出しつつ)」と聞いたらえらく冷たい目で見られた。
……まあ、私だって50越えたジジイとババアのカップル飲みなんて見たくないけど、何もそんなに冷たい目をしなくても……
そんな私はさておき、色々と大変そうな彼氏だと思っていると、彼女の方もそれを素直に受け入れつつも、甲斐甲斐しく彼氏に色々してるみたいで、微笑ましくなった。
「あっくん、最後の一口どう?」
「ありがとう、琥珀はいつも優しいね」
「うぅ……あっくぅん……」
ウチみたいな混んでない店だと、客の話し声や内容がかなり正確に聞こえてくるものだ。どうにもこのカップルは幼なじみみたいな関係性だったらしいが……その関係からここまで進展したのは凄いと思う。
ちなみに、一昨日その2人を題材に書いた砂糖みたいに甘い本が発売されたが、えらく売れ行きが良かったのにはびっくりした。ただ、娘に「若い子と浮気でもしたみたいにリアルだね」と言われて、妻に馬乗りで何発か殴られたのは記憶に新しい。
顔面は止めて!せめてボディーに……!そんな願いで殴られたが決してマゾではないとだけ付け加えておく。
これからも常連になるようなら、サービスしないとな。若いカップルは見ていて微笑ましく恥ずかしくなるくらい若いのでなお、そう思うのだった。