55 波乱
シリアス未満(*´・д・)?
例えば、これがラノベ主人公ならきっと円満に解決出来るのだろう。漫画の主人公ならきっと許すのだろう。だが、現実とはそうそう上手くいくわけない。人間どうしたって相性が悪い相手がいるし、一生分かり合えないことだってある。
だから俺は俺の大切なものを守るために出来ることをする。例えその結果、誰かを不幸にしても。前の時の恨みがないでもないが、例え悪役だろうと、大切な人を守れるからなんでもいい。
俺は今度こそ絶対に――琥珀を守るんだ。
浪川黒華が放課後、図書室で勉強なんどをして時間を潰すのは単純に家だと邪魔が入る可能性が高いからだ。部活などに入って時間を潰すことも考えたのだが……やはり人付き合いが面倒という結論が強い。
特に先輩後輩の上下関係は必ず足枷になるだろうという判断からだ。だから、黒華は今日も図書室で静かに勉強をして時間を潰す。
「浪川さん浪川さん」
どのくらい時間が経っただろうか。集中していた黒華はふと、呼びかけられて顔を上げると、そこには琥珀が立っていた。放課後、琥珀の方からここに来ることは今まで無かったので少し驚きつつも、黒華は1度シャープペンを置いて聞いた。
「どうかしたの?」
「えっとね……これ、良かったらどうぞ」
そう言って渡されたのは可愛らしくラッピングされた透明な袋に入ったクッキー。手作りなのだろうとすぐに分かったが、それでも、黒華は不思議に思って聞いた。
「嬉しいけど……どうしてくれたの?」
「え?えっとね……なんだか、最近、浪川さん少し疲れたような顔してたような気がして……」
自覚はなかったが、恐らく同級生の幼稚な嫌がらせに確かに少し疲れていたような気がした。まさかそれを見透かされてるとは思わなかったが……
「あとね……浪川さんはお友達だから」
えへへと笑う琥珀。そういえば、こんな風に純粋な好意を向けられたのは初めてかもしれない。上辺だけの付き合いに人間関係が面倒になってから、こんな風に思うとは思わなかったが……悪くないと思った。
「そう、ありがとう」
「うん!じゃあね」
そう言って去っていく琥珀。流石にここで食べる訳にはいかずに鞄に仕舞おうとして……ふと、琥珀がさっきまでいた位置にハンカチが落ちてるのに気づいた。
(落としたのかな?)
女の子らしい可愛いハンカチに少しだけ微笑ましく思いながら黒華は琥珀にこのハンカチを届けてから帰ろうと思うのだった。
(受け取って貰えたぁ♪)
ルンルンっと、琥珀は嬉しく思いつつ廊下を歩く。料理部で作ったクッキーは自分用と黒華用、そして暁斗の分を作ったのだが、暁斗はいつでも渡せるが、黒華は暁斗情報で図書室にいると分かったので先に渡したのだ。
と、そんなことを考えていると窓の外で暁斗が部活をしてる姿が見えた。トスを上げてカッコよくサーブを決める暁斗に琥珀は思わず見惚れてしまう。
(やっぱり、あっくんかっこいいなぁ)
そんな視線を向けていると、暁斗はこちらに気づいたのかウィンクして答えた。あまりのカッコ良さに琥珀が思わず頬を赤く染めてしまうが……
(あ、そういえば、ノート取りに行こうと思ったんだった)
そう思って名残惜しくも教室へと向かう。流石に放課後だし誰も居ないだろうと思ったのだが、何やら話し声が聞こえてきた。
(誰かいるのかな?)
少しだけ隠れて教室内を見ると、あまり話したことがないクラスメイトの女子3人が何故か黒華の席に集まっているのが見えた。しかも黒華の持ち物らしき物を前に何やら話していた。
「これどうする?」
「捨てるだけじゃ芸がないし……いっそ燃やすとか?」
「あ、テストは全部カンニングしてますとか書くのどう?」
「「それいいねぇ!」」
「本当に、ウザイよねぇ。孤高気取ってさ。ちょっと顔と頭がいいからって」
「しかも、何やっても顔色変えないのもウザイ」
「もうさ、早く死んでくれないかなぁ」
「あ、そういう落書きもいいかも!」
そのやり取りで琥珀はここ最近の疑問が解けた。きっと、黒華は彼女達から嫌がらせをされていたのだろう。
(私……友達なんて言って全然気づいてあげられなかった)
思わずぎゅっと服を裾を握ってしまう。と、更に会話は盛り上がる。
「だいたいさ、男子はあんな奴のどこがいいの?今泉くんもさ、あの桐生って人のどこがいいのか分からないし」
「だよね、今泉くんと桐生さんって絶対に合わない。だって桐生さんの方が地味だし」
「桐生はまだいいよ。あの浪川が何でもないような顔して男子からモテてるの本当に腹立つ」
「それな!もう、早く追い込んで自殺して貰いたいよ〜反応見てても面白くないし」
「だよね。心配しなくてもあんな奴誰も友達にならないっての」
ドクン。その言葉に琥珀は我慢できなくなった。
(あっくん……力を貸して)
心の中で好きな人であり、大切な恋人の暁斗のことを思う。普段なら絶対に出来ないことを……勇気をくれる人のことを思って琥珀は勇気を出して教室に入って叫んだ。
「どうしてそんな酷いこと言うの!」