早すぎた想い
6話目です。今回は短めに書いてみました。よりに日常を切り取ったような感じに仕上がったと思います。
文化祭という一番の学校行事が終わり、いつも通りの学校生活が繰り返されていく日々の中、いつものように放課後に部室へと足を運ぶ。
部室までの道のりの中、掲示板には運動部の新人戦とやらが明日、明後日、来週と行われるらしく激励の念を込めて俺は掲示板に敬礼する。運動部では3年生が引退して世代交代が起き、ようやく一年生にも部活動のスポットライトが当たり始めているのだろう。うちの学校では運動部がそこまで盛んではないにしろ応援だけはしてあげようと思った。まぁ結果に関しては興味がないのだが。
部室には既に俺以外の3人、天草るみ、清水茜、濱田友也がいた。俺も椅子に座り鞄から文庫本を取り出して読み始める。友也と清水は何やらくだらない話で盛り上がっている様子だった。天気予報について議論していた。天草は時折その話に相槌を打ったりしながら本を読んでいた。女性が2つのことを同時に処理できる脳を持つというのは本当なのだろう。俺は本を読んでいると周りの会話があまり入ってこない。逆に話を聞いていると本の内容が入ってこない。
しばらく本を読んでいると、本の向こうには、机に身を乗り出してこちらを覗く天草の姿があった。
「どう思いますか?梅原さん」
急にそんなことを聞かれたもんだから驚き、俺は清水や友也の方を見る。しかし、二人も俺の言葉を待っているような様子だった。
「どうって、なにが?」
「あんた聞いてなかったの?」
清水が残念そうな感じで言ってきた。
「すまん、一つも聞いてなかった」
清水が呆れたようにため息をついた。
「そんなに本に夢中だったのかい?」
いや、そういうわけじゃないが、そもそも俺はお前達の議論に参加などしていないし聞いてる素振りも見せていなかったはずだが。
天草が座り直してから言った。
「では、濱田さん。もう一度お願いできますか?」
「しかたないね、いいよ。孝太は同じクラスだからわかりやすいと思うし」
俺は本を閉じて話を聞く体制を整えた。
友也がそれを確認したのかは定かじゃないが、間を置いてから話し始めた。
「今日の4時間目、体育があっただろう?前回の授業の時の予定では晴れていたらサッカー、雨なら体育館でバレーをするって言ってたんだ。今日は朝から晴れていたから僕はてっきりサッカーだと思っていたんだけど、サッカーはせずに体育館でバレーをした。女子はグラウンドで陸上をやっていたんだよね」
たしかに今日の4時間目の体育は外だと思って億劫になっていたが、室内になり少し喜んだ記憶がある。
「それがどうしたんだ?先生だって暑い外が嫌とかあったんじゃないか?」
そういうと、清水が割って入ってきた。
「あんた達の体育の先生、岡田でしょ?サッカー部の顧問だよ?外が嫌いなんてないでしょ、バカ?」
まぁそう言われれば確かに。
「それだけじゃないんだ。5時間目のF、G組の体育では男子は外でやっていたんだけどサッカーじゃなくてソフトボールをしていたんだ」
なるほど、確かに妙ではあるな、体育という授業も単元というか一年間で何をするかは決まっているはずだし、この時期は晴れればサッカーが当たり前だった。なのに今日に限ってそれが行われなかったというわけか。
「どうです?なにか気になりませんか?」
そう聞いてくるのは天草だった。気になるもなにも先生が考えてそういう行動をとったのだからそれなりの理由があるのだろう。まさかそれを考えろと?
「考えたって分かることじゃないだろう、そんなに気になるのなら先生に直接聞けばいいじゃないか」
これには友也が答えた。
「そんな簡単じゃないよ、岡田先生は生徒指導の長だよ?なるべく関わらないようにするのが生徒の務めだと思わないかい?」
そう言われるとそんな気がする。別にやましいことがあるわけではないがそういう立場の人と世間話ができるほどの人間ではない。
「サッカーをさせなかった理由がなにかあると思うんです」
そりゃ何かあるだろうがそれを考えるなんて無茶じゃないか?ただなにも答えずに帰ろうとは言い出せない。少し考えてみるか。
「F、G組の体育の担当も岡田なのか?」
友也に聞いた。友也は即答してきた。
「そうだね、岡田はABFGの4クラスの担当だよ」
本来サッカーをするはずの今日1日の授業内容を変える理由。サッカー部の顧問なら生徒にサッカーをさせる機会なんて願ってもない楽な仕事だろうに。
サッカーをさせなかったんじゃなくて、やらせてあげられなかったんじゃないだろうか。だが、理由が分からない。
そんなことを考えていると友也が世間話程度に話した。
「僕もバレーよりかはサッカーの方が嬉しかったんだけどね〜。サッカー部の子なんて今日部活が無いから体育でサッカーができることを喜んでいたのに、気の毒だったよ」
それを聞いて俺はふと気づいた。
「サッカー部は今日休みなのか?」
「みたいだよ、まぁ自主練で室内でトレーニングするとは言ってたけど」
なるほど。
「もしかして孝太、何か思いついたのかい?」
「本当ですか?梅原さん」
友也がニヤついた表情をこちらに向けている。天草も目を見開き興味津々と言った感じだ。
「まぁな、もうこんな時間だし話は帰りながらでもいいか?」
そう言うと3人は時計に目をやってからそうだねと言い各々が帰る準備をした。
部室を出て全員で職員室に行き、部室の鍵を返す。
靴を履き替えて外で合流したところで俺は話した。
「俺たちにサッカーをさせなかったんじゃなくてサッカーができなかったんじゃないか。もっと言えばグラウンドが使えなかった」
そこまで言うと清水が口を挟んできた。
「女子が陸上をしたり、他のクラスではソフトボールをやってたんでしょ?だったらそれはなくない?」
「ソフトボールも陸上も使うのはサッカーコート側じゃないだろう。平たく言えば陸上部のスペースと野球部のスペースだ。今日に限ってはサッカー部すらサッカーコートを使えない、だから部活は休みになったと俺は思う」
今度は天草が聞いてきた。
「コートが使えないって言うのは何故でしょう?最近は晴れも続いてましたし、コートの状況としては良い方だと思うのですが」
その質問は想定内だ。俺も正直あることを思い出すまで分からなかった。俺たちはグラウンドの横を歩きながら話していた。
「一年生大会だ」
俺はそう言った。三人はよくわかっていない様子だった。流石に省略しすぎたか。
「明日この学校でサッカー部の一年生大会が行われるらしいんだ、ほら見てみろよ」
そう言って立ち止まり、グラウンドの方を指差す。
そこにはとんぼをかけ、白線の引かれた綺麗なサッカーコートが準備されていた。そして今まさに一年生たちがプラスチック製の長イスを持ち運んでいた。
「まぁあれだ。一年生たちが気負いすぎて早めに準備してしまったのだろう。先生も流石にその気持ちを無下にできなかったんじゃないか?」
そう言ってふぅと息を吐き三人の方を見る。
三人とも目を見開いたまま動かない。
「なるほど、一年生大会か。それは気付かなかったよ」
友也が納得した様子だった。清水や天草も同調している。本当にそれが理由かは分からないがこいつらが納得しているのならそれで良いと思った。随分と日が落ちるのも早くなってきていて空は夜へと誘われていく。俺たちはまた下らない話をしながら帰路を歩く。
何日かして知ったのだが、サッカー部は一年生大会の予選を突破したらしい。彼らの大会に対するあの想いを知れば当然とも思えた。
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