くじ運なんてない
10話目です。
ぜひ感想などください。
1
年が明け1月末、まだ肌寒さを感じるこの季節に俺は風邪をひいて休んでしまった。別に皆勤賞を狙っていたわけでもないし、風邪でも無理して学校に行こうとも思わない。ただこの2年生としての生活が残り少ないことを考えるとどこかもったいない気もしていた。
部屋のベッドに寝転がりながらそんなことを考えていた。寝たほうがいいのは分かっているが流石に眠気もやってこないくらいに寝た。ふと時計を見ると午後3時、なんとなくテレビの電源を入れてみる。面白い番組がないかとザッピングするがどれでもいいと思える内容ばかりだった。
横になりながら見ているうちに俺はもう一度夢の中へと誘われていた。
目が覚めたときはもう19時を回っていた。体も随分と楽になり空腹感を感じてリビングへと降りる。
キッチンには俺の分だろう焼きそばが残っていた。俺は電子レンジで温めてからご飯をよそいテーブルに持っていった。
誰かが風呂場にいるのがわかる。おそらく姉貴だろう。
俺はテレビを見ながら夜ご飯を平らげた。
念のために風邪薬を飲んでからまた部屋に戻る。その時、ポケットの携帯が鳴った、相手は天草だった。
「もしもし」
「天草です、夜分遅くにすみません、濱田さんから風邪で休んだと聞きました。具合はどうですか?」
「随分と楽になった、明日からは学校に行けそうだな」
そう答える反面そんなことを聞くだけで電話をしてきたのだろうか?天草という人間がそんなはずがないと疑っていた。
「何か別に用件があるんじゃないか?」
「すごいです梅原さん、どうして分かったんですか?」
やっぱりだ、そんなことだろうとは思っていたが。
「別にそうじゃないかと思っただけだ、それでなんだ?」
天草は少し間を置いてから話した。
「実は今日不可解な出来事が起きまして、それがどういう理由なのか考えても分からなくて。それで梅原さんに相談しようと思いました」
学校でなにかがあったらしいがその状況に居合わせた天草が分からなかったことを話を聞くだけで分かるとも思わなかった。
「明日じゃダメなのか?」
「私は今気になっているんです!このままではうまく眠ることもできません」
20時前に寝ることのできる高校生はいないだろう。しかし、そんなことを気にしても解決しない。俺も暇をしていたところだ少し付き合うか。
「分かったよ、なにがあったら詳しく話してくれ」
「では話します。今日私のクラスでは最後の席替えが行われたんです。事件はその席替えで起きました。
私たちのクラスの席替えの流れを説明しますね。まずクラス委員の二人が教壇に立ち、A4の紙を40等分します。クラスの人数は36人なので最終的には4枚の紙が残ることになります。そして40枚になった紙切れに1から順番に番号をペンで書いていきます。書いた紙をもう一人のクラス委員が4つ折りにして箱に入れていきます。最後の席替えということもあってこの一連の流れはスムーズに行われていたと思います。そのあと全員が順番にくじを引いていきました。ここまで大丈夫ですか?」
まぁ今の流れは簡単に想像できるしおかしな点はないような気がする。うちのクラスでも似たようなもんだ。そもそも席替えでなにか起きる気もしないのだが。
「大丈夫だ、続けてくれ」
そう答えると天草は話を続けた。
「引いた人はそこで紙を開き、番号をクラス委員に伝えます。それを聞いたクラス委員は黒板に書かれた座席表に引いた人の名前を書いて行くという流れです。
事件はこの途中で起きました。ある女子生徒がくじを引いてクラス委員に伝えるとクラス委員が少し戸惑った様子を見せました。なにがあったのかと誰かが聞いたんです。するとその女子生徒が引いた番号は既に誰かが引いた番号だったんです」
なるほどね、同じ番号を引いた人間が二人現れたということか。
「今になってそんなことが起きることが分からないんです。そのあとクラス委員の方々は何人かの生徒から責められてしまう形になりました。私はそれが気の毒に感じて、なにか別に原因があったのではと考えたのですが、これといった答えが思いつかないんです」
正式に行われなかった席替えに対して怒りを感じる生徒はどこにでもいるもんだなと感じた。
「聞きたいことは分かった。いくつか質問をさせてくれ」
「はい、いいですよ」
「まずくじを引いたあとその紙はどうなるんだ?」
「すぐ横にゴミ箱を持ってくるのでその中に入れます」
つまり、引いた人にしか番号は分からない、後ろの人やクラス委員が見ることはできるがわざわざ覗き見ようとは思わないだろう。
「その被った番号は何番だったんだ?」
「19番です」
「クラス委員がくじを作るときに間違えて19を2つ作ったんじゃないか?」
40枚の紙切れに番号を書いていくとして途中で番号を2回続けてしまうことくらいあるだろう。しかし、これには天草から反対された。
「それは私も考えたんですが、なにも書かれていない紙切れが4枚教卓に残されていたのでそれはないと思います」
40等分にした紙切れ、36人の生徒ではあまりは4枚できる。その4枚があったとなれば2つ存在したということは却下される。
「じゃあ、逆に誰にも引かれていない番号があったということか?」
「そうなんです。全員がくじを引いたあと黒板を見ると1つの席が空いていたんです。その番号は9番でした」
19が二つあって9が一つもなかった。なんだかこのことを考えるのがめんどくさくなってきた。自分のクラスでもないし、そもそも今日は学校にもいっていないのにこんなことを考えさせられている自分が嫌だった。適当に天草が納得する答えを探すか。
「単純に9番の席がものすごく不人気で19番の席が人気だった。だから9番を引いた生徒は19番と嘘をついたと考えられないか?」
しばらく天草からの返答はなかった、考えているのだろうか?少ししてから天草が言い出した。
「それはないと思いますよ、私のクラスは36人で6人の席が6列です。そうなると9番は真ん中の方ですが、19番は一番前、なんなら教卓の前に位置します。そこが人気とはかんがえられないんですが……」
確かに、クラスの席というのはできる限り後ろ、なんなら廊下側か窓側が誰もが望む場所だろう。教卓の前にわざわざいきたいと名乗り出る人間が二人三人といるとは思えないな。困ったな、今以上の案が思いつかない。少なくともクラス委員にミスはなく、引いた人間も嘘をついていないとして19番が二つ存在した理由を表すことなんて不可能ではないだろうか。
「最終的にはその二人どうなったんだ?」
「最後は二人でジャンケンをして勝った人が9番の席に行くことになりました」
おそらくこの問題は天草の中だけで起こっているのだろう。ほかの生徒たちからすれば丸く収まった話。
強いて言うならクラス委員の二人は少しもどかしい気持ちを抱えているかもしれないが、天草がここまで気にすることではないと思う、しかし、天草は一度気になればタダでは引かない人間だと言うことくらいこの一年でよく分かっている。
なにか、天草が納得する案を出さねば。幸い引かれたくじはゴミ箱に捨てられている、恐らくもう教室にないだろう。
だとすれば明日天草が確認のしようがないと言うことだ。それなりの嘘は問題ないだろう。
「梅原さん?なにか分かりますか?」
その問いに俺は曖昧な返事をした。頭の中ではなにかないかと思考回路が回っていた。そこで一つの答えを思いついた。
俺はふぅとため息をついてから天草に説明した。
「恐らく、俺の推測の範疇だが二つの19番のうち1枚は9番だったんだろう」
「どういうことですか?」
「9の最後の直線部分が滲んだんじゃないか?ペンで書いたあと乾く前に紙を折れば9の横に一本の縦線が移るだろう。9番が無くなり19番が増えた理由はそれなんだと思う」
少しの間天草の声がすることはなかった。あくまで推測であった事実ではない。俺の考える中での可能性の話だ。
「なるほどですね、それならありえるかもしれません。梅原さんに相談して良かったです。ありがとうございます」
俺は安堵した、天草は納得してくれた。
部屋の時計を見ると21時を回っていた。
「用が済んだようだから電話を切るぞ?」
「はい、また明日学校で。おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言って電話を切った。電話をしているうちに一通のメールが来ていた。友也からだった。
【体調はどうだい?そういえば今日天草さんが面白い話をしていたよ、もしかしたら孝太のところにも連絡が行くかもしれないよ】
送ってくるのが遅い、いまさらそんな報告を受けても、そもそも友也が俺に投げたんじゃないだろうか。アイツならやりかねない。
俺は返信することなく携帯を閉じた。
明日は学校に行く。席替えの話をしていたからか不明だがどうせなら席替えをしたい。
席替えという生徒にとってのイベントを題材にしてみました!




