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探偵とは名乗らない  作者: 亜拓 来人
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僕なりの人生謳歌

はじめまして。初投稿となります。


1.進路

伝統ある海星高校。入学してから何事もなく1年が経った。

高校2年の春。大して面白くもない授業を聞き流しながら外を見て、1つの疑問を抱いていた。

【青春】とはなんなのか。

俺は今の自分の人生を卑下するつもりはない。

部活動に熱心でもなく、色恋沙汰があるわけでもない。成績も中の上くらいで、クラスの人気者というわけでもない。

それでも十分に高校生活を謳歌しているつもりだ。

しかし、高校生活といえば【青春】とつけがちな世の中に疑問を抱く。高校生がみな【青春】を過ごしていると思うのだろうか。そもそも【青春】とはなんだ?

主観的判断で決めつけていいなら今の自分も【青春】していると言っていい。

客観的に貼られるレッテルのようなものならば少なくとも俺は除外されるだろう。


「青春ってものに定義は無いんだよ。」

放課後の教室でペンを回しながらそう言うのは濱田友也。中学からの仲で俺の数少ない友人の一人だ。

コイツにこの話をしたのは間違いだったと思う、長くなりそうだ。

濱田は昔からものごとの起点やウンチクが大好きで、こう言う無駄話が好物だ。歴史研究会なるものに入るほどだ。

「結論が出ないのは分かってる。ただふと思っただけだ」

そう吐き捨てた俺は自分の目の前にあるプリントに目をやる。

進路表だ。高校2年になった途端にこんなものを出されても、書けるわけがないと思っていた。

「ウチのクラスじゃ出してないのは孝太だけだよ、今日までだったはずなのに」

そうだ、意外にも皆すんなりと書いて提出していた。

俺が考えすぎなだけなのだろう。どうせ後からでも変更は効くものだと思い、進学に丸をつけた。

「それにしても孝太がいきなり【青春】について考えるとはね、何かあったのかい?」

ニヤニヤしながら聞いてくる友也を相手せず立ち上がる。

「別に。むしろ何もないからそんな事を思ったのかもな。」そう言って俺は教室を出て職員室に向かう。


職員室に入り担任の先生の席まで行き、紙を渡す。

特に先生に何か言われることもない。それにしても職員室は好きになれない、忙しそうにしている先生達とコーヒーの匂い、謎のアウェイ感がある。

俺は職員室を出て帰ろうとした。階段を降りている時に声をかけられた。

「あの…梅原孝太さんですよね?」

俺は唖然とした。急に知らない女子生徒から話しかけられるなんて生まれてこの方なかったからだ。

女子との会話が一切ないわけではないが、それはあくまで同じ中学か同じクラスの人に限っていた。

だが、目の前にいるのは全く知らない女子生徒だった。

俺は返答に困った。

「えっと…その…」

それを察してくれたのか慌てて話し出す。

「私2年A組の天草るみです。」

自己紹介をされてもピンとこない。肩まで伸びたストレートの髪、童顔とはこのことと言わんばかりの顔、おそらく可愛いという部類入り人気者なのではと思う。

「俺どっかで会ったことあるか?」

もし初対面じゃなかったら俺はひどく失礼なやつだろう。

「いえ、お話しするのは初めてです、でも以前見かけたことがあります。去年の夏、海で」

そう早口で言われ呆気に取られた。

たしかに去年の夏海に行った。だがそれは、友也や他の男友達で、だ。しかしふと気付く、彼女は「みかけた」と言った。一目見ただけで俺の名前がわかる人なんているとは思ってなかった。

「それで、何か用?」

驚きながらも用件を聞いた。

「海で梅原さん、女性のサングラスを見つけてましたよね?その時少し気になってたことがあって。それと是非お力を貸して欲しいと思いました!」

そう話しながら接近し顔に似合わず力強く言われ、少し怯む。

言ってることがよくわからなかった。力を貸して欲しい?いやそれよりもあの海でなくし物を探していた俺を見てたのか?ずっと?

俺は少し後ずさりしながら聞いた。

「気になってたことってなんだ?」

悪いが力を貸す貸さないは流させてもらう。俺にそんな人情深いところはない。それより気になってたことというのが問題だ、半年以上も疑問を抱かせる言動をしていただろうか?

「そうですね、少し長くなりそうなので教室に行きませんか?」

俺は黙って頷き、ついていくことにした。


夕暮れの差し掛かる教室に入り2人は座る。

「それでは話をしたいと思います。」

天草が話し出す。

「去年の夏、私は友人と海に遊びに行きました。その海は海の家がいくつかあって、地元の方でかなり人がいて賑わっていたと思います。私たちもそこで遊んでいたのですが、少ししてからちょっとした騒動が起きました。ある女性が海の家の従業員や監視員のような方と揉めていたんです。それも周りに分かるくらい大声で。その方はどうやらサングラスを失くしたようでした、それなりに高価なものなのか思い入れのあるものなのか分かりませんが必死な感じも伝わりました。従業員や女性の方は店内や荷物を置いていた浜辺を探してましたが、見つからなかったようです。そこにそのサングラスを持って現れたのが梅原さん、あなたでした。覚えていますか?」

そう話して俺の方を見る。確かに覚えていた。

あの日は海開きの日で多くの人がいた。俺や友也は夏休みの暇を潰す感覚で海に遊びに行ってたのだ。

俺たちは海の家の近くの浜辺にパラソルを広げ荷物を置いていた。その隣に陣取っていたのがそのサングラスの女性だった。

海にサングラスをしてくるのは不思議ではなかったが、その女性のサングラスはよく覚えている。なんというか異常なほど派手で目立っていたからだ。金と銀のゴツめのフレームにキズ一つなさそうな大きなレンズ、ここがハワイや有名な海水浴場ならまだ分かるが、たかが地元の海にそんなものを身につけてくる人がいると思わなかったのを覚えている。

その女性を横目に見ながらも俺たちは海に入ったり海の家で焼きそばを食べたりしていた。

女性がサングラスを失くし、従業員たちと揉めているのも見ていたし聞いていた。そして俺はサングラスを見つけ渡した。

十分に思い出した上で質問した。

「覚えているがそれがどうかしたのか?」

「サングラスを渡した梅原さんに対して女性はすごく感謝しているように見えました。私も少し安堵しました。でも同時に1つの疑問が出ました。所持者の女性や従業員があれだけ必死に探しても見つからなかったのにどうして梅原さんは見つけることができたのか、ということです」

そう言ってまっすぐな目で見てくる。

参った、そんなことを聞いてくる人がいると思わなかった。適当に話をして帰るつもりでいたがそうもいかなくなった。ここでたまたま見つけたからと言っても通用しないだろう、俺はため息をついてから正直に話すことにした。

「異常に目立つサングラスをしていたからその女性をたまに見てたんだ。あの人は海に入る時以外は必ずサングラスを付けてるか持っているかしていた。そんな人が帰る準備をしているときサングラスを失くしたと騒ぎ出した。自分の陣地をくまなく探し、海の家にも聞きに行っていた。だが、俺には思い当たる節が1つあったんだ。それはシャワー室だ。」

天草るみは首を傾げた。

「シャワー室にサングラスを持って行ったとして忘れるでしょうか?」

「女性がサングラスを見失ったのがそのシャワー室ならどうだ?あの海のシャワー室は入り口に荷物を置く棚が設けられているが仕切りはなく、個別で使用できる状態ではない。彼女がそこにサングラスを置いた後誰かがその近くに物を置けば、落ちるか隠れるかするだろう。他人のタオルや着替えを触るわけにもいかないだろうから見た目で無くなったと判断してしまっても責められないだろう。俺はそう思ってシャワー室に行ったら予想通り棚に置いてあったよ。」

ここまで説明してもう一度天草の方を見る。

彼女は頷きながら小声で言った。

「シャワー室、なるほど、それは盲点でした。必ずしも海辺でなくなったとは限らないということですね」

納得してもらえてなにより、これでようやく帰れる。

その時、教室のドアが勢いよく開いた。友也だ。

「やぁ孝太、まだ帰ってなかったのかい?おっと、邪魔しちゃったかな?」

「案ずるな、お前の考えているようなことじゃない」

「なんだ、期待しちゃったよ。あれ?君天草さんだよね?A組の」

「友也はこの人知ってるのか?」

「なに言ってるんだよ。当たり前だろ、天草るみ、容姿端麗、眉目秀麗、成績は学年トップだよ?知らない人はいないさ」

目の前にいるぞと心の中で呟いた、成績優秀者は知っておくべきことなのかという疑問も。

「容姿端麗だなんてそんな…」

恥ずかしいのか少し頰を赤らめている。

「濱田友也さんですね。はじめまして。」

この人は友也のことも知ってるのか、つながりのない人間の顔や名前を知って覚えられるとはさすが成績優秀者といったところか。

「それで?2人でなんの話を?」

そう友也が聞いたとき天草が大声をあげた。

「あぁ!私梅原さんに頼みごとがあるんです!」

そう言って立ち上がる。思い出されるとは、友也も余計なことを聞く。

「孝太に頼みごとなんて珍しい人がいるもんだ」

俺をなんだと思ってるんだこいつは。しかしそう言われればそうだ、ついさっき知り合ったような人間に頼みごとなんてどう考えてもおかしい。

「梅原さん!私と探偵部を作りましょう!」

一瞬思考停止した。友也も流石に唖然としていた、この人はなにを言ってるんだ?

「全然意味がわからないんだが」

そう問うと、天草が深呼吸してから答える。

「私、2年から部活動をしたいと思い、探偵部を設立しようとしたんですが、先生に部員が4人はいると言われてるんです。そこで海の一件を思い出して是非梅原さんにと思った次第です」

目を輝かせながらそう言われた。探偵部?そんな部活が認められるのか?いや歴史研究会があるくらいだから一応認められるのだろう。だが、

「仮に俺が入ったところで2人しかいないのなら同じ話だろう。」

「いいや、僕も入るよ。歴研と兼部になるけど面白そうだ。なにより孝太が部活動をすることになるとはね」

「ありがとうございます!あともう1人ですね」

勝手に人数に入れられてることに釈然としないが明確に断る理由もない自分が情けなかった。

「もう1人なら心あたりがあるよ。頼んだら入ってくれそうな人」

「ほんとですか?それでは早速」

といって荷物をもつ天草を友也が止める。

「今日はもう帰ってると思うから、明日の放課後にしよう」

「そうですか、わかりました」

少し寂しげな顔をする天草に質問する。

「天草、1つ聞いていいか?」

天草がこちらに目を向ける。

「どうして俺の名前を知ってたんだ?」

少し考えるそぶりをしてから天草が返す。

「入学式の時に、隣のクラスで先頭にいたので、その時に覚えたような気がします」

といってニッコリと笑っていた。

外は完全に陽が落ちていた。こんなに学校に長居したのはいつぶりだろうか、そんなことを思いながらカバンを持ち立ち上がった。天草と友也は探偵部の話で盛り上がってる。友也は人と仲良くなるのが異常に早い。そんな二人の後ろから声を飛ばす。

「俺はまだ入部するとは言ってないぞ」と ー。


2.創立


とある日の放課後、天草るみという女子生徒に声をかけられ流されるままに"探偵部"というものに勧誘された。

「聞いたよ海の話。あれをきっかけに孝太を誘ったんだって?」

友也が弁当を食べながらそう聞いてくる。昼は大抵コイツと食べている。

「あんなものは運だ。探偵とは何の結びつきもないだろうに」

海で失くし物を見つけたくらいで過大評価されて入部を依頼するとは天草るみという人間は変わっていると思う。

「まぁでも、確かに孝太はたまに変な知恵を働かせることがある、それを見込んでのことじゃないかな」

他人事だと思って簡単に言ってくれる。

「そうだ、今日の放課後天草さんと茜のところに行こうと思うんだ、孝太もくるだろ?」

やはり、先日友也が入部してくれそうな人に心あたりがあると言っていた人はアイツか…。

「特別な用事もないからな、ついていくよ」

俺はため息混じりにそう言った。


放課後になると、天草と合流した俺たちは美術室へと向かった。道中天草が茜さんとはどんな方なのかなどの質問をしていた。

「茜はね、僕と孝太と同じ中学なんだ。色々とアクティブに動く子でね、きっと仲良くなれると思うよ」

そう友也が言うと天草は目を輝かせてワクワクしている様だった。俺は決してそんな人間だとは思っていない。

そんなことを話しているうちに美術室についた。扉をガラガラと開けると中に数人生徒がいて一斉にこちらを見る。ただし自分に関係ない人たちだと分かるとすぐに視線を戻した。その中で手を振りながら近づいてくる女子生徒がいた、清水茜だ。

「ヤッホー友也。それに梅原」

俺はついでってことか。

「久しぶりだな清水、美術部にいたのか」

「なによ、なんか悪い?」

コイツは昔からああ言えばこう言うタイプだ、相手にしてるだけ無駄だ。俺は視線をずらして無言の返事をした。それで納得したのか清水も友也の方を見て聞いた。

「それで?なにか話があるって?」

「そうなんだ、実は…」

そこまで言った友也を無視して天草が勢いよく前に出る

「茜さん!是非探偵部に入りませんか?」

清水はきょとんとしている。そりゃそうだろう俺たちも初めはそうだったのだから。

「え、えっと、あなたは?」

清水が戸惑う姿はなかなか珍しいものだ。

「あ、失礼しました。私は2年A組の天草るみです。実は探偵部を設立しようと思って、是非茜さんに入部してほしいと思いまして。」

おそらく、そう言われてはい、わかりました。と言える人はいないだろう。戸惑う清水が友也の方を見る。

「んー、茜ちょっと時間あるかな?詳しく説明するよ。」

友也がそう言うと清水は、他の生徒から1番離れたテーブルに俺たちを誘導した。

そして、友也と天草が先日あったこと詳しく説明していた。俺は美術室内の絵や彫刻などに目を向けていた。

「へぇ、なるほどね。あの梅原が部活動ってのは確かに意外ね、天草さん、アイツを変に期待しない方がいいよ」

聞こえているが特に反論する気にもならない。

「でもほら、孝太って変なところで頭が働いたりするじゃん?」

友也がフォローに入るが、それはフォローになってない。

「そうだ!」と手を叩きながら清水が言う。俺も思わず清水を見た。

「それなら梅原少し頭使って考えてみてよ」

挑戦的な視線で俺をみてくる。天草がなにかあったのか聞いている。

「実はね、私昼休み一人でここで絵を描いていたの。

それで昼休みが終わるチャイムが鳴ってこの教室の鍵を閉めて、担当の先生に鍵を返したの。それで部活が始まる時、私がまた先生に鍵を貰ってこの教室に入ると昼休みが終わる時には無かったものが置いてあったの。」

そう言って指を指した先には、3人分の絵の具セットのようなものが真ん中のテーブルに置かれていた。

この学校ではある程度の備品などは学校側から借りることができる。おそらく誰かが借りていたのだろう。

だが、あまり不思議な点がないように思えたので聞いた。

「今の話がなにかあるのか?お前が出た後誰かが持ってきて置いただけだろう。」

清水が睨みながら言う。

「今日の午後は美術室を使う授業がない上に、先生に聞いても私以外鍵を貰いにきた生徒はいないって言ってたのよ。」

鍵の管理は先生個人がしているとは知らなかった。

「単に閉め忘れていたとかじゃないのか?」

そう聞くと友也が答える。

「それはないね、この学校のドアの鍵は外側にしかないし、鍵が閉まっていなかったとしたら開ける方向に鍵が回ることはないから気付くだろう。茜が鍵を開けたって言うんだから、鍵は開ける方向に回ったってことになる。それなら必然的にドアの鍵は閉まってたってことだ」

隣で清水が頷く。そもそも学校のドアの構造を知っている友也に呆れた。

しばらく考え込んでいたような天草が口を開いた。

「確かにおかしいですね。だとしたら絵の具などを返しにきた人はどうやって入ったのでしょうか。」

「ね、ちょっと面白いでしょ」

清水が自信満々な顔をして俺たちを見ている。別にこの話に付き合う必要はないと思っている俺はまた絵や彫刻を見ることにした。

すると、いつのまにか隣に天草がいた。

「梅原さんも考えていますか?一緒に考えましょう?」

俺は相手にせず歩き出そうとした、その時腕を掴まれた。

「まさか!もう答えを知っているんですか!?」

天草は目を輝かせて寄ってくる。 その後ろから清水もやってきた。

「なにか分かってるなら教えなよ、私だって気になってるんだから」

これは困った、全く考えていなかったなどといえば暴言を吐かれ勝手に失望されるだろう。

助けを求めるように友也を見た。アイツは目を細めてニヤニヤしていた。面白がっていやがる。

俺は二人に分かるくらいに大きなため息をついてから問題のドアの方に目をやる。

「清水、鍵持ってるか?」

そう聞くと清水はポケットから鍵をとり出した。

俺はそれを確認してからドアの方へ近づいた。自然と天草と清水もついてきた。何かあると自信があるわけではない。ただなにかの意見を言わねば開放されないだろう。

俺はドアを調べる、鍵はすごくシンプルなものだった。鍵を回せばバーのようなものが伸縮してドアが開かなくなる構造だ。俺は試しに清水にドアに鍵をかけさせた。カチャという音がし、清水は鍵を抜いた。

無論ドアは開かない。二人掛かりで力を加えれば開かないこともないだろうが鍵の部分は破損すると思う。

俺は鍵を開けさせ、鍵の部分を覗き見た、流石に古くなっていて汚れやキズ、鯖のようなものが付いていた。そして気付く、バーの掛かる部分が摩耗していることに。

俺はもう一度清水に鍵をかけるように言った。

カチャという音がして、鍵を抜いた清水の方を見てから俺はドアを開けた。ドアは何事もなく開いたのだ。

「え?」

「なんで?」

二人とも不意を疲れたような顔をしている。

俺は自分の意見をもったいぶる趣味はないので、説明する。

「摩耗だよ、今清水が鍵をかける時、俺は少しドアを開けていた。その微妙な差で本来バーがはまる溝から外れたところにバーがかかったんだ。鍵は空回り。美術室に鍵が掛かっていることを知らない生徒からしたら何事もなく教室に出入りするだろう。その後お前が来て、鍵を開けたんだ。正確にはバーを引っ込めただけでドアは元々開いていた、だな。」

ここまで説明して流石に二人もなにも言うことはなかった。

「私が閉まっていると思い込んでいただけってことか」

清水は自分に呆れていた。

「すごい、やっぱり梅原さんはすごいです。そんなことに気がつくなんて」

天草は俺を称えようとしている。

「やめてくれ、たまたまドアが開いただけだ。それかお前たちの考えすぎだ」

俺は称賛されるために考えたわけでも自信を持って意見したわけではない。現に俺の今いったことが本当だとも限らない。

「解決したみたいだね」

友也が嬉しそうに近づいてくる。

「なんか、梅原に納得したくないけど…」

清水は何か言いたげな表情をしている。

天草の方をみると小声で何か言っている。

「やはり梅原さんには相談した方が良いかもしれません…」

はっきりとは聞こえないので、帰ろうとだけ言って荷物を取りにいった。

「どうだい茜、探偵部なかなか面白そうだろ?」

友也が清水を勧誘していた。清水は悔しそうな顔をしながら、考えておくとだけ言っていた。

かなりの時間をここで過ごしていたみたいで日も落ちそうな頃合いだった。友也が清水と一緒に帰ると言って美術室で別れた。俺は天草と帰ることになった、途中まで同じ帰路だったことに気づいた、別れ際に天草がこう言い出した。「梅原さん、今度時間ありますか?少しご相談したいことがあります。」

真面目な感じでそう言われて俺は少し戸惑った。ただ、断るような用事もない為週末は空いているとだけ伝えて連絡先を交換して帰った。

その夜、ふと思うことがあった。なぜ、天草は探偵部なんてものを作ろうと思ったのだろうか。なぜ1年の時ではなく2年になった今、作ろうとしたのか。

そんなことを考えても答えが出ることはないと分かって眠りについた。


3.暗号

土曜日の昼前、普段ならまだベッドでゴロゴロしているのが当たり前だが、今日はそうもいかず朝から出かける準備をしていた。天草るみから相談したいと言われていて、彼女の家で話を聞くことにした。友也と清水も呼んである。清水は入部したと言うことだろうか、俺は友也が迎えに来るまでリビングに置いてあった本を読んで時間を潰していた。姉か親が読んでいたであろう海外の作者の本、サスペンス物かと思い、読んでいたがやたら愛だのなんだのと出てきて正直流し読みになっていた。

家のチャイムが鳴り、本を閉じ家を出た。

「やぁ、少し遅れちゃった」

友也が軽く手を合わせて言った。

「俺は構わんが清水や天草には謝るんだな」

俺は鼻で笑いながらそう言ってやった。

「茜にはさっき連絡しといたよ。もうついてるんだってさ、僕たちも急ごうか」

口ではそう言うが、別に早歩きになるわけでもない。遅れていることに変わりはないのだから今更急いだとして疲れるだけだ。

友也は口笛混じりで楽しげに歩いてた。

「お前はいつも楽しそうだな」

俺は思ったことを口にした。

「そうかい?僕的には僕は変わらない。強いて言うなら孝太は前よりは確実に楽しそうだ」

痛いところを突かれた、自分でも薄々感じていたことだ、天草るみと出会い探偵部というものに入り、明らかに前よりアグレッシブに動いているからだ。

「今の孝太は前より【青春】してるんじゃないかな?」

「その話はもういいよ」

今の俺にそんなことを考える気はさらさらない。

青春だの人生だの考えるだけ無駄で考えたところでなにも変わらないと思うからだ。

そんなことを話してるうちに天草家に到着した。

チャイムを鳴らし待っていると天草が出てきた、思えば私服姿を見るのは初めてだった。お嬢様的格好を想像していたが、意外にも短パンに半袖のパーカーというカジュアルなものだった。

「どうぞ、上がってください。茜さんももういますので」

そう言いながら門を開けて俺たちを招き入れた。

家に入り靴を脱ぐと奥のリビングから声が聞こえた。

「ヤッホー、やっときたわね」

すでにテーブルでお茶とお菓子を堪能している様子だった。

「今お茶もってきますね」

天草がそう言ってキッチンの方へ向かった。俺と友也も座り天草を待った。

天草が俺たちにお茶を出して、自分も座り深呼吸をした。

「それでは早速ですが、お話させていただきます。」

そう言って天草は静かに話し始めた。

「まず、私が探偵部を作りたいと思った訳から話したいと思います。私は両親が共働きで小さい頃からよく面倒を見てくれるのが父方の祖父母でした。特に祖父には懐いていたと思います。祖父は私によくなぞなぞや暗号じみた問題を出してくれました。私もそれを解くのが好きで、趣味みたいなところがありました。中学に入ってからは祖父が海外旅行をするようになり、会う頻度が減っていました。それでも祖父は会うたびに問題を出してくれていました。」

そこまで話すと一旦お茶を飲んだ。そしてまた静かに話しを続ける。

「ですが、そんな祖父が去年の冬に亡くなりました。この家に向かう途中で交通事故で。病院に運ばれた時にはすでに意識はなかったそうです。私はすごく落ち込み、悲しみました。亡くなった後、祖父の遺品整理のため書斎を掃除していると1つの封筒が見つかりました。」

そう言って天草はポケットから封筒を出しテーブルに置いた。かなり古い感じがした、表に「るみへ」と書いてあった。

「中を見てもいいのか?」

俺が聞くと天草は黙って頷いた。俺は封筒を手に取り中を覗くと小さな紙切れがあった。

それを開いて友也や清水にも見えるように置いた。

そこに書いてあったのは数字の羅列。

【22322181322174329143814291422181936382234263637432】

なにかの暗号というのはすぐにわかったが思っていたよりも難題な気がした。子供に出すなぞなぞレベルではないと言える。天草は全員が見たのを確認してから口を開いた。

「正直、ここまでの謎はこれまでに一度もありませんでした。それに古さからしてかなり昔に書いたものと思います。私は遺書のようなものだと認識して解こうと思いましたが一人では解けませんでした。家族に聞いても相手にはしてもらえませんでした。そこで誰かの力を借りたいと思い、探偵部を作ることにしました。」

なるほど、2年になってから作ろうとしたわけがようやく理解できた。だが、

「どうして俺たちなんだ?クラスの友達や先生でもよかっただろう?」

俺はそういうと、天草が下を向きながら答えた。

「家族にも相手にしてもらえなかったことを友達や先生に聞くことができませんでした。これはあくまで私個人の問題であり、他人を巻き込みたくはなかったのです。」

だとしたらおかしい、現に俺たちは巻き込まれているではないか。

「それでも誰かの力を借りたい、このことに向き合ってくれる人を探してました。そこで海での一件を思い出しました。梅原さんは他人のためになにかをできる人だからもしかしたら力を貸してくれるかもと。私はどうしても祖父が、私になにを伝えたかったのか知りたいんです!」

そう言って天草は俺の方を見る。

買い被りもいいところだ、俺はそこまでお人好しではない。メリットデメリットはあまり考えないがそれでも人のためになんでもするわけではない。

清水も流石に思うところがあるのか

「梅原をそこまでいう価値はないよ、周りの人間より熱を費やすものごとがないだけよ」

少し悔しいが間違ってはいなかった。そう言われても天草は引かなかった。

「それでも考えてくれればなにかヒントを得られる気がするんです。美術室の時もそうでした、梅原さんは違う観点で物を見てる気がして」

ずっと黙っていた友也が口を開く。

「別にいいじゃないか、この暗号を少し考えてみても。今日は一日暇なんだし、相談に乗ることを前提として天草さんの家まできたんだろ?」

そう言われてはぐうの音もでなかった。ここまでの謎めいた相談をされるとは思っていなかったにしろここで全て聞かなかったことにもできない。俺はため息をついてから天草に言う。

「そうだな、みんなで少し考えてみるか。ただし、ここで答えが出るとも限らないしヒントを得ることができるかもわからない。それでもいいんだな?」

大体、書いた本人がいない以上答えがないといってもいい。

天草はハイとだけ返事をした。

「じゃあ早速考えよう」

そういってもう一度暗号を見る。ただの数字の羅列、50個の数字。暗号ということは数字以外の何かに変換されるということだろうか。

周りを見ると全員が頭を悩ましているようだった。

「るみちゃん、全員分の紙とペンある?」

清水がそう言い出し、天草は慌てて立ち上がりルーズリーフと人数分のボールペンを持ってきた。

俺は天草に質問した。

「なぁ、お前の祖父はどんな人だったんだ?」

天草が少し考えてから言い出した。

「そうですね…正直あまり真っ当な人では無いと思います。祖父は女性との付き合いが多かったらしく離婚や再婚を繰り返していたと聞いたことがあります。あとは機械音痴だったり、目が少し悪いってことくらいですかね。あとよく言っていたのは他人の意見を信じすぎるな、です」

なにかヒントになることがあると思ったが、繋がりそうなことはなにもないな。

「暗号って言ったらなにを思いつく?」

俺は全員に聞いた。真っ先に声をあげたのは友也だ、

「僕はいろは歌かな、有名だろ?"咎なくてしす"ってやつ」

俺は聞いたことはあるが有名だとは思わない。現に清水はピンときてないようだ。

「私はホームズの踊る人形かな。誰かへのメッセージに使われるもんじゃないかな」

清水はそういうと思っていた。俺もどちらかというとそのイメージだった。だが、今回においてはいろは歌の方が近い気がした。

「とりあえず平仮名に変換できないか?」

清水や天草が不思議そうな顔をこちらに向ける。

友也が察してくれた。

「なるほど!最初の22を2行目の2列目ってことにするんだね」

俺は頷く、50音で2行目の2列目なら「き」となる。そう説明すると清水も天草も自分の紙にその要領で洗い出しを始めた。

そうすると25文字の平仮名がでてきた。

【きしかやしかめしらつやちらちかやるふゆくちふふめし】

「これで何かの文章になるってことなのかな?」

友也が平仮名を見ながらそう呟く。やたら文字が被ってる気がする。

「使われている文字だけに着目してみるのはどうだ?」

そういうとすでにそれをしていた清水が紙をテーブルの中央に出した。

【きしかやめらつちるふゆく】

12文字、なにか一言くらいなら表せる文字数だろう。

「これらを並べ替えて言葉を作ってみよう」

そう言って各々がいろんな言葉を作り出した、意味がわからなかったり字余りになったりと苦戦している。

「天草、悪いがトイレを借りてもいいか?」

俺は用を足したいと思って立ち上がった。

「廊下を出て階段の隣にあります」

俺はそう言われて廊下にでた、リビングの向かいに部屋があった、扉が少し空いていて中を覗くと書斎のような感じだった。祖父のだろうか?その時、後ろから天草が声をかけてきた。

「祖父の書斎です」

俺はかなり驚いた。勝手に部屋を覗いたことを申し訳ないと言うと天草は書斎の扉を開けた、入っていいということだろうか。俺は中に入り周りを見渡した。

世界地図や旅行先と思われる写真が飾ってあった。

机にはいくつかの本があった。どれも海外の著者の作品だった。その中に昼間俺が読んでいたのと同じ本が置いてあり少しだけ親近感が湧いたが、うちにあったのとは比べものにならないくらい読み込まれた感があった。それほど面白いのだろうか。

ガラケーやメガネも置いてあり事故の影響なのかボロボロになっていた。

俺はある程度見渡してからトイレに入り用を足した。

出るときにふと思うことがあった。

【きしかやめらつちるふゆく】

俺は頭の中で文字を並び替え、1つの答えにたどり着いた。

俺はトイレを出てリビングに向かう。

リビングでは明らかに降参している清水と友也の姿があった。天草は必死に考えていた。

俺は座りペンを持つ。

「孝太、なにかわかったのかい?」

友也がそう聞いてくる。

「分からない、時代を言い訳にしていいなら1つ思いついた」

俺はそう言って文字を書き始める。全員が俺の紙に視線を向けた。

【ふつくしき ゆめや ちらかる】

俺はこう書いてペンを置いた。

「うつくしき、ゆめや、ちらかる…美しき夢、散らかる!」

そう声をあげたのは友也だ。俺は頷く。

「どういうことですか?」

天草が聞いてくる。

「書斎においてある本だよ。一冊だけ異常なまでに読み込まれた本があるだろ。その本のタイトルが【美しき夢破れ】っていうヘレン・ブルックスの書いた本なんだ」

「その本がどうかしたの?それを読めってこと?」

清水が追求してくる。

「それは俺にも分からない。だが、あの本は序盤に男が主人公を裏切り愛人の元へ行くって始まり方でな、主人公は誰からも、親からも愛されていないことに苦難するが実は周りのみんなが愛してくれていたことに気付いていくってストーリーだ。俺は、その裏切った男と祖父自身を照らし合わせてそのことを悔いている、もしくは天草、お前と主人公を照らし合わせて両親が共働きで寂しい思いをさせているけどみんなに愛されている、ということを伝えたいんじゃないかと思う」

3人とも黙る。なにか引っかかるのだろうか。俺は少し気まずくなりお茶を飲む。

「なるほどね、納得だよ。」

友也が言うと、清水も自分なりに納得してくれたようだった。天草が俺の方に体を向けて言った。

「さすがですね、梅原さん。これが答えかどうかは確認のしようがありませんが十分納得できる答えです。本当にありがとうございます」

そう言って頭を下げた。無論こじつけと言われればそれまでだ。それでもこれで納得してくれるのなら、それでいいと思えた。気づけば夕方になっていた、俺たちは帰ることにした、帰り際に天草にもう一度感謝をされた。

俺は家に帰り、ベッドに倒れ込む。さすがに疲れた。

天草の祖父はなぜ暗号としてあの言葉を残したのだろう。あの本を読んで自分の人生を悔いたとしても、孫に伝えたいことができたとしても暗号にする必要はない気がする。そもそも他人の意見を信じるなと言う人が本を読んで感じたことを誰かに伝えようとするだろうか。

気付くと俺は数字の羅列の紙を見ていた。なにか違う気がする。

俺たちは複雑に考えすぎていたのかもしれない。俺は勉強机に向かいペンを走らせた。疲れていたことなど忘れて暗号と向かい合っていた。


4.僕なりの人生謳歌

週明けの放課後、俺は探偵部の3人を部室に呼んでいた。部室に入るとすでに3人とも集まっていた。

「呼んどいて1番最後とは偉くなったわね」

清水が嫌味なことを言ってくるが触れるつもりはない。

「どうしたんだい?暗号のことで話って」

友也がそう聞いてくる。俺は椅子に座って話始めた。

「この前の答えが正解かどうかは分からない。でも少し引っかかることがあってな」

「引っかかること、ですか?」

天草の問いに俺は頷く。

「天草の祖父は他人の意見を信じすぎるなとよく言っていたんだよな?」

天草が頷く、それを見て俺は話を続ける。

「そんなことを言う人が、本を読むことで感情が左右されるとはあまり思えなくてな」

「それは本人にしか分からないことだろう、僕たちで知ることはできないよ」

友也が正論を言う。

「その通りだ。だから別解を出したんだ。あの暗号からもう一つ言葉がでてきた。」

「あの平仮名の並べ替えで別の意味を持つ言葉ができたとしても不思議ではない気がするけど、そんなの言い出したらキリがない気がするわ」

清水がそう言ってきた。友也や天草も同調している。

「そうだ、だから平仮名ではなくアルファベットにした」

清水が声を強めにして意見してくる。

「ちょっとまって!アルファベットには行や列なんて当てはまらないじゃない」

「そうだよ。それにアルファベットにしたらそれこそいろんな言葉を作れるじゃないか」

二人の言いたいことはわかる。だが俺が言いたいのは根本から違った。

「とりあえず聞いてくれ、この前の解読方法は一旦無視する。英語だと思った理由は天草の祖父が海外によく行っていたことと読んでる本が海外のものばかりだったからだ。おそらく英語の方が親しみがあったんじゃないか」

そこまで話して俺はカバンから暗号の書かれた紙を出した。

【22322181322174329143814291422181936382234263637432】

「どうやって区切ってアルファベットを洗い出すつもりなんだ?」

友也が聞いてくる。

「洗い出しなんか必要無かったんだ。このままで文になる」

3人とも理解していないようだ。

「分からなくても無理はない。これは天草の祖父のようにガラケー使用者しか解けない暗号だったんだ。打ち込む文字を英語にしてここに書かれたキーと回数を入力すると英文になるんだ。22なら2のキーを2回打つって感じで」

俺はそう言ってペンを取りだし、暗号の下に英文を書く

【Be at ease with what you choose】

それをみんなに見えるようにして置く。

全員が驚いた表情をしている。そして、清水が英文を読み上げ、天草が日本語に訳して言った。

「"自分で選んだことに胸を張れ"」

「そうだ。これを天草の祖父がどういう想いで残したかは分からないがおそらく彼は人生を悔いてなかったのかもしれない、そしてこれから先の天草へのメッセージ、だったのかもしれないな」

そこまで話して俺は外を見る。おそらくこれが最も正解に近いだろう、ここにいる誰もがそう思っている。

天草が少し涙目になって近づいてくる。

「ありがとうございます。梅原さん。祖父の想いを伝えてくれて、私はあなたに出会えてよかったです。」


"自分で選んだことに胸を張れ"か…。前に友也に以前の俺よりか今の方が【青春】していると言われたが、それは違う。少なくともあの頃はあの頃で俺は人生を謳歌していたのだ。今だって十分に謳歌していると言える。ただ、どちらかを選ぶなら迷いなく今の自分の人生を選ぶだろう。そう胸を張って。



お読みいただきありがとうございます。

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