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はだかの軍隊

作者: 福島 まゆ

当作品を読むにあたり、注意点

・従来の『はだかの王様』の世界観を、崩壊させる危険があります。

・題などにも在るとおり、そもそも結末も異なります。

・以上、引き返すなら今のうちです。

誤字の指摘や感想などがあれば、遠慮なくお寄せ下さい。

「その者を捕らえよ!」


「うあァ!!」


 王は激昂げっこうして、2人の男連れを兵士に捕らえさせる。

この男・・仕立て屋は、天下一をうたっており、王に立派な服を仕立てると言った。

そうして城に上げたのだが。


「何が『バカには見えぬ服』じゃ、この大うつけ者めが!」


 神の加護を受けたという織物おりものは、『バカには見えない』と彼らは言った。

仕立てて居る最中に見に行った時には、王は自分がバカなのではないかと、本当に心配したのだ。

 むしろ、まんまとだまされた自分自身も、腹立たしかった。

もしあのまま信じていたら、文字通り『はだか』で王都中を練り歩く所である。

 だが仕立て屋は、それでもなお食いさがった。


「そ、それは違います陛下! 確かに私どもが織っていたのは、『真実の神』の加護を受けし代物。 王陛下にもお見えになっているのでは!?」


 彼らの発した言葉に、ギリッと奥歯を噛む国王。

魔力を流して、対象を見えなくさせる服なら、確かにある。

ほんの少し、ほんの少ーしだけ、王は心配になった。

 それに対して奥に控える大臣がゴホンと咳き込み、プライドに押し負けそうになった王を諌める。


「・・・陛下。」


「う゛ぅん! ともかく一国の王をたばかった事は、死をも恐れぬ愚者ぐしゃのする事。 すぐにこの者どもの首をはねよ!」


 気を取り直し、兵士にそう威厳たっぷりに命を下す。

そうして処刑台へしょっ引かれる2人のペテン師だったが、去り際に気になる言葉を残していった。


「お待ち下さい陛下、私どもの『世にも不思議な品々』はまだまだこんなモノではありませんぞ!」


「・・・何っ?」


 てっきりペテン仕立て屋かと思っていたが、取り扱っている品々は他にもあるらしい。

気になった、それが何なのか。

好奇心に負けた王は、なおしょっ引こうとする兵士の、それを止めさせた。

・・と、同時に大臣が鋭い視線を王へ浴びせかける。


「・・・陛下っ!」


「黙れ大臣、処刑はいつでも出来る!」


 処罰するのはその、珍しい物を見てからと、王は好奇心に心をトキめかせた。

兵士に捕まれていた2人組みも、ホッとした面持ちで王に相対す。


「で、その『世にも珍しい物』を見せよ。 場合によっては褒美を取らせても良い。」


「へェへェ、ありがとうございます。」


 ペコペコと頭を下げ、下卑げびた笑みを見せる2人だったが、そんなものは王の目には映らない。

彼はただ、珍しいという物をその目で拝んでみたいという好奇心で動いていた。

この期を逃さず、彼らは持っていた小さな灰色の小汚い袋から、物を取り出した。


「・・・それは何じゃ?」


「へェ、これは『目に映らぬ鎧』にございます。」


 何のことは無い、『バカに見えぬ服』の同系物である。

後ろに控える兵士は呆れ、王は頭から湯気が出んばかりに、激昂げっこうした。


「この大うつけ者めが、まだ私をたばかるのか!」


「いぃえ、滅相もございません。 『目に映らぬ鎧』見えては何にもなりません。」


「・・・どういう事じゃ?」


 彼らの言い分は、こうだ。

目に映らぬ鎧は、着ても見えないし、重さも感じないので兵は早く動ける。

しかも敵からは無防備な兵隊が攻めてくるように見えるので、『これは勝った』と油断させられる。

ところがどっこい、『見えぬ鎧』を着用しているので矢も槍も通らず、ワケの分からない敵は、戦意を失って逃げ出す・・という寸法だ。


「ふーむ、なるほどのぅ。」


「・・・陛下っ!」


 大臣に諌められ、王は買おうとする寸前で思いとどまった。

一度ならず二度までも、危ないところである。


「えぇい、他に無いのか、他には!!」


「では、こちらなどは、如何いかがでしょう?」


 そう言って今度は、紙の筒を王の前で広げ始める2人。

よく見えるようにと、王の眼前で開いて見せる。


「どうです、陛下?」


「どうって・・・、これはタダの大砲ではないか。」


 何のことは無い、紙に書かれていたのは、何の変哲も無いごくごくフツーの大砲であった。

魔導師が魔力を流すことで、凝縮した攻撃魔法を撃ちだす仕掛けらしいが・・・・

そんなモノ、既に十分な数が王国軍に配備されているのだ、今さら必要は無い。

 しかし彼らは首を横に振り、その考えを否定する。


「トンでもございません陛下、これをそこらの大砲と同じにされては困ります。」


「・・・何が違うと言うのだ?」


 彼らの言い分は、こうだ。

目に見えぬ大砲は、撃ち出される攻撃も、目には映らない。

しかも敵からは、満足な武器も持たない軍隊が攻めてくるように見えるので、『これは勝った』と油断させる事が出来る。

ところがどっこい、『見えぬ大砲』の攻撃は城壁を崩し、万の兵をぎ払う。 

状況の分からない敵は、戦意を失って逃げ出す・・という寸法だ。

ちなみに、撃つと発砲位置が分かってしまうので、撃ってはならないとか。


「ふーむ、なるほどのぅ。」


「・・・陛下っ!」


 大臣に諌められ、王は買おうとする寸前で思いとどまった。

何度も何度も、危ないところである。

とうとう兵士や大臣は、あきれて閉口へいこうした。


「えぇい、目に見えないものはもう良い。 目に映る実物を見せんか!」


「へェへェ。 では、こちらなどは、如何いかがでしょう?」


 そう言って、今度は灰色の袋の中から1人が、手のひら大の品を、取り出して見せた。

小さくて見にくいので、王は体を乗り出してソレを見る。


「・・・それは何じゃ?」


「へェ、これは『霊石』にございます。」


「れいせき・・・とな?」


 いぶかしむ王を畳み掛けるように、2人組みは説明を始める。

この石は、かの軍神の加護を受ける特別な石。

 使えば、一の兵は百の力を得、百の兵は万の力を手に入れる。

攻撃魔法の増大効果もあり、初級レベルの小さな火は、大平原をも溶ろかす火炎となる。

それこそ戦争で使えば、百人力・・・いや万人力とも言えるだろう。


「ふーむ、なるほどのぅ。」


「・・・陛下っ!」


 今度は大臣に諌められても、王は耳を貸そうとしなかった。

程なくして霊石を買うことを決め、ありったけをその場で購入する。

むろん大臣が、黙っては居ない。


「・・・へ、陛下っ!?」


「へェへェ、毎度ありがとうございます。」


 しかし大臣が止めるのも聞かず、売買は成立してしまった。

兵士達はもう、知らん振り。


「大丈夫じゃ大臣、彼らは効果が見込めるまでの期間、無期限で幽閉する! 連れて行け!!」


「はっっ!」


 売人達は途端に両脇を兵士に固められ、牢屋のほうへしょっ引かれて行った。

コレで一安心、もし騙されて居ようものなら、処刑すれば良いだけの話だ。

問題は霊石、もはや王の頭にペテン仕立て屋の姿の事など、無かった。

 そんなときに、朗報・・・

もといトンでもない情報が、この王室にもたらされた。


「国王陛下、一大事にございます。 南の土地で獣人族が反乱を起こしました。 族長を筆頭に反乱組織を形成し、王都へ向かっております。 数、およそ2万!」


「何っっ!」


 この王国は、実に多くの部族によって形成されている。

獣人は、中でも一番多く構成されている部族の一つ。

奴らは無駄にプライドが高く、そして時に団結するのだ。

 今回の騒ぎも、今に始まったことではない。

毎度まいど困ったものであるが、今回こちらには、切り札がある。


「大臣、兵を挙げよ! 各個中隊には『霊石』を持たせるのだ。」


「は・・・ははっ!」


 驚き半分、呆れ半分といったていで、大臣は大急ぎで城内の兵士に出陣の命を下した。

 しかし城内に居る兵は、すべて合わせても1000に届くか届かないか。

全員を出払わせるワケにも行かないので、前線へ送れるのはせいぜい700が限界。

いつもなら窮地きゅうちだが、今回は『霊石』という切り札があるので、王はそれに掛けた。

むろん、掛けられた『はだかの軍隊』は、たまったモノではないが。



 その間にも獣人の反乱軍は快進撃を続け、とうとう大平原の先は、王都というところまで、到達していた。


大酋長だいしゅうちょう様、まもなく我が革命軍は、王都に着きます。」


「ああ、忌々しい人間の街。 すべてを打ち壊して今度は俺たちが、人間を奴隷にしてやるのだ!」


「「「おおーーーーー!!」」」


 そのときだった。

平原の向こうに、国軍の兵隊が陣取っているのが視界に映り、進撃は中断された。

国王が派遣したのだろう、しかし規模は小さく、こちらの2万に対して、あちらは700かそこら。

 一騎当千とも言われる身体能力の高い獣人にとって、それは障害でも何でもなかった。


「急ごしらえの兵隊など、何になりましょう。 一気に蹴散らしてしまいましょう。」


「いや・・・待て、様子がおかしいとは思わんか?」


 ただちに進撃を再開しようとする軍を、大酋長が制した。

700と2万、戦力差は歴然としており、王国軍もソレぐらいは分かっている事だろう。

しかし兵士達はひるむ事無く、こちらの出方を伺っているように見えた。

伏兵かとも思ったが、そのような気配は感じられない。


 そしてすぐ、妙な事に気が付いた。

兵隊は2個大隊いるか居ないか、そのウチの数十人クラスの魔術師のような人間が、タダの石を手のひらに載せているのが散見されたのだ。

少人数ならまだしも、それが数十人クラスともなれば、話は変わってくる。


「大酋長様?」


「だめだ退け、革命は中断する!」


「えぇ!?」


 獣人たちは『ワケの分からない石』に警戒して、波がひくように退いて行った。

しかし驚いたのは、兵士のほう。

血を流さずして獣人2万を、追い返す事ができたのだから。

半信半疑だった兵達も、『霊石』の効能を信じざるを得なかった。

 そして概要は、すぐに王の下にも伝えられた。


「そうか、反乱組織は瓦解がかいしたか。」


「はいっ陛下、獣人たちは脱兎だっとの如く勢いで敗走していきました。」


 王国の窮地は、ペテン仕立て屋の『霊石』によって救われる形となった。

気を良くした王は、収監した2人の詐欺師も釈放するように命令し、褒美もたんまり出してやった。

大臣達は目を白黒させたが、特に異議を申し立てるような事はしない。



これが俗に言う『はだかの軍隊』と後に語られる笑い話の、その大元となったそうな・・・


今回の投稿は、全5作品です。

「マッチを売りたくない少女」   (マッチ売りの少女)

「桃太郎 ―鬼ヶ島奪還作戦―」(桃太郎) 

「人魚姫が恋焦がれた王子が、思ってたのと違う件」 (人魚姫)

「鶴は恩返ししたい」     (鶴の恩返し)

「はだかの軍隊」       (はだかの王様) 


よろしければ、どうぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いわゆる空城の計ですか? [気になる点] はだかの軍隊ではなく、石を持っているだけの普通の軍隊なのでは? 鎧は身に着けているわけですし。 [一言] お時間があれば、私の小説も読んでみてくだ…
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