騒霊の日々
また、夜が来る。彼女は、夜は好きではなかった。
昔から、夜は孤独を感じさせる。生き物を感じられなくなるのだ。
ただ、『生きていない者』は、その限りではなかったのだが。
扉が開く音。騒がしい三姉妹が帰ってきた音だ。
「たっだいまー!」
「帰る時くらい、少し静かにしなさい」
「そんな事言ってちゃ、騒霊の名が泣くよ!」
いつも通り、騒がしく、それでいて、落ち着く声。
「お帰りなさい。今日のライブはどうだった?」
これまた、幾度と無く繰り返してきた、いつも通りの迎え方。
幻想郷の中でも、忘れ去られたこの邸を訪れる者は、滅多にいない。そこで彼女達は、四人、ずっとこうして暮らしてきた。
「今日は大変だったよ。ルナサはいきなり場所変えようとか言うし、メルランは音間違えるし」
「あれはしょうがないわよ。雨の中演奏したかった?」
「私が間違ったんじゃなくて、二人が音ずれたんでしょ?」
「私のせいじゃないわ」
「キーボードはずれないよ」
「まあまあ、とりあえず、今日の演奏について、詳しく訊かせて頂戴」
そう言って、少女は台所へポットを取りに行った。内容こそいつも少しずつ違うが、見慣れた光景。少女には、それが、たまらなく楽しく、幸せに感じられた。
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「そうだったの。大変だったね」
決して楽ではない仕事ながら、それでいて楽しそうに説明をする三姉妹の話を、少女は笑顔で聞いていた。
「それにしても、雨で移動なら、二人にも言ってあげれば良いのに」
「伝えた所で、雨が降る事に変わりは無い。それに、もし耳の良い観客が聞いていたら、それこそただのアクシデントになる。そのリスクを冒すより、何も伝えずに、サプライズにした方が良いでしょう?」
ルナサの説明に、リリカは納得したが、メルランはそれでも不満そうだった。
「メルラン、前にも言ったけど、客を楽しませられないなら、それは一流じゃないわ。分かるでしょう? 楽しければ、それで良いの。その為のライブなんだから」
「う〜ん、まあ、それもそうね」
メルランは、昔から、楽しいかどうかが判断基準だ。演奏を生業とし始めたからも、それは変わらない。
「どうしたの? 楽しそうに笑って」
リリカの問いに、少女は笑顔で答える。
「いや、ただ、幸せだな〜って、思っただけ」
そして、少女はやおら立ち上がり、椅子を戻した。
「今日は疲れちゃったわ。そろそろ、先に寝るわね」
そう言うと少女は、自分の寝室へ向かう。
「おやすみ、姉さん達」
「おやすみ〜」
「おやすみ!」
「おやすみなさい」
ベッドに入り、昔と変わらぬ日々に満足しながら、レイラは、眠りに就いた。