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9話

「ようやく着いたか。」


 しばらく歩き、川のほとりにたどり着いた。

 この川の水をろ過して煮沸したりして、生活用水にしているそうだ。

 不便だなー、と思いつつ屈み、バケツに水を汲むと中はすぐに一杯になった。

 立ち上がり、家に戻ろうとした矢先。


 

 ――突然、大きな音がした。

 何かが崩れるような音。

 同時に、強烈な風が来る。


「うッ――」


 咄嗟に目をつむり、バケツを持っていない方の腕で風から身を守る。

 ……しばらくして、風が収まった。


「なんだったんだ?」


 目を開き、風が来た方向――イズと老婆の家がある方向を確認する。

 

「なっ!?」


 ついさっき通ってきた森が燃えていた。

 煙が立ち上り、空が赤く照らされている。

 こんな光景をテレビで見た覚えがある。


 山火事だ。


 辺りを見回すと、家の方向だけではなかった。

 周りの空も同じように、赤く照らされている。


「逃げ……」

 

 ……森から出ようにも、どの方向に進めばいいのか分からない。

 下手な方向に進んで、森の奥深くに進んでいたら本末転倒だ。

 それに、俺が行った所でどうにかなるわけではないが、イズと名乗った外の世界に憧れている少女の事も、見知らぬ俺に親切にしてくれたあの老婆の事も心配だった。

 

「嫌だけど、行くしかない……!」


 どの道ここでずっと待っているわけにもいかない。

 覚悟を決め、バケツに水を汲み、森の中へと入った。



 ――――――


 

 あちこちから激しく火の手が上がる中、家へと向かって森の中を全力で駆ける。

 

 辺り一面が火の海と化していた。


 よく聞く表現ではあるが、俺にはそう表現することしかできない。

 足元の枯葉や草、頭上の木々……周りの物のほぼすべてが燃えていた。


「ああクソッ寒――熱っ!」


 頭上から、火の粉やら燃えている枝などが落ちてきて危険極まりない。

 バケツの水で鎮火しながら進もうとしたのだが、バケツ一杯程度の量では満足に火を消すこともできなかった。

 なので、頭から水を被り、燃える森の中を強引に駆けている。

 川の水は異様に冷たく、朝早い時間という事もあって、かなり寒い。

 炎の中でもいけるんじゃないかと思ったが、さすがに無理そうだった。

 バケツの中にはもう少ししか水が残っていない。


「こんなところで死んでたまるか……!」


 家の方へ進むにつれ、炎の勢いは強くなっていく。

 出来る限り燃えていない場所を進みながら、家の方へ走る。

 やがて、無我夢中で駆けている内に、家までたどり着いた。 


 

 ――家は焼け落ちていた。



「……嘘だろ……」


 目の前で起こっていることが信じられない。

 つい数分前まであった家が、今やその跡形もなくなっていた。

 恐らくさっきの何かが崩れるような音と言うのは、家が壊れる音だったのだろう。

 あまりに突然すぎる出来事に呆然としていたが、すぐに我に返る。

 こうしている間にも火の手は広がっているはずだ。


「イズさんっ!おばあさんっ!誰かいませんかっ!?」


 大声で呼びかける、が、返事はない。

 まさか家の倒壊に巻き込まれたか、と思った時。


「…………!…………!」

 

 家の向こう側からイズの声が聞こえた。

 何かを叫んでいるようだが、その内容まではわからない。

 声の聞こえた方へと急ぐ。

 

「おばあちゃん!返事してよ!」


 ――老婆が倒れていた。


 老婆の服はところどころ焦げており、手には杖を持っている。

 動かない老婆に対して、イズはしきりに声を掛けている。


「ハハハ……! 抵抗しなければ楽に死ねたものを。」

 

 甲高く、ザラついている、不快な声がした。

 声のした方向を見ると、そこには人型の魔物がいた。


 上等そうなローブを羽織り、頭にはよくわからない形状の兜を付けている。

 これだけなら人と見間違えてしまうかもしれない。

 だがその肌は、遠目に見ても分かるほどに謎の粘液で包まれており、何よりその肌の色は鮮やかな緑色。

 ローブから出ている腕は、異常に細く、なのに手と爪は異常に長い。

 ……人と同じ形をしているのに、どこも同じではない姿に、生理的な嫌悪感を覚えた。


「……私に指示されたのは、精霊の力を持つ者を見つけてこい、というだけだが……」


 魔物はこちらに気が付いていないようで、イズと老婆の方を見ている。


「イズ……まだ間に合う、遠くへ、森の外へ逃げろ……」


 老婆が立ち上がる。

 どうやら死んではいなかったようだが、立っているのがやっとというような様子だ。

 老婆は何かを唱え始めると、その杖の先には白い光が集まり始める。

 老婆が生きていた、と安心したのも束の間。

 魔物は話を続ける。


「その事を報告すれば、魔王様はこういわれるに違いない……精霊の力を持つ者を始末しろ、と……」


 そう言いながら、魔物はブツブツと何かを言い始める。

 そして、その手に赤い光が集まり始めた。

 イズの使っていた魔法と似ている。

 おそらくあの炎の魔法で森に火を付けたのだろう。


「嫌、おばあちゃん……!」


 イズは、逃げようとしなかった。

 部外者である俺にだってわかるのだから、身内であるイズに分からないわけがない。

 あの老婆は、ほぼ間違いなくここで死ぬ気だ。

 そう考えると同時に、俺は魔物に向かって走り出す。

 

「なら!!今ここでアイツをブッコロシちまっても問題はねェはずダァァァアァーーーーッ!!!」」


 魔物が突然ラリッたように叫ぶ。

 その手からは今にも魔法が放たれそうだ。

 

 ――奴に魔法を唱えられれば、今のイズはまず間違いなく喰らうだろう。

 そして、俺がこのまま走っても、ナイフは届かない。

 そこまで考え、俺は咄嗟に、



「やめろバカヤロオオオオーーーーーーーーーーッ!!!」



 ――全力で叫びながら、手に持っていたバケツをぶん投げた。


「な、貴様……ぐッ!?」


 突然の叫び声と、飛んできたバケツに驚いたのか、奴は詠唱を止めた。

 赤い光がどこかへ霧散していく。

 そしてその瞬間、老婆の手から吹雪が放たれた。


「なに――ぐうぅッ!?」


 吹雪は魔物の体が凍り付かせてゆき、やがて完全に魔物は沈黙した。


「ユウさんっ!?」 

 

 イズがこちらに気が付いた。

 最初は驚いた顔をしていたが、魔物を倒したという状況に気が付いたのか、笑顔でこちらに手を振ってくれる。

 だが、老婆は嬉しそうではなかった。

 目の前で起こった事が信じられない、というような顔をしている。

 確かに奇跡みたいな状況だが、妙にオーバーな反応だ。


「バカな……占いでは儂はここで……」

 

 何事かを呟き、何かに気づいたようにハッとした表情をしていたが、そんな事はどうでもいい。

 そんな事より、戦闘に集中しすぎて忘れていたが、この森は現在進行形で燃え上がっているのだ。

 早い所この森から出なくてはならない。


「二人とも、大丈夫ですか? 早く脱出しないと」

「ユウさんっ後ろっ!」


 前にもこんなことがあったような。

 

 振り向くと、そこには魔物が今にも魔法を撃ちそうな状況で立っていた。

 いつの間にか氷が解けて、と思う間もなく。


「この、生意気なクソガキがッ!」



 俺に向かって、巨大な火球が放たれた。

時間がなくて、適当に字数だけでも書かなきゃと思ってたら、倍くらいの量になってしまいました。

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