7話
ロケットと黒い石だけが残っている。
さっきまで俺とイズを襲ってきていた黒い鳥の姿などどこにもない。
……目の前で起こった事が信じられなかった。
「……今のは?」
「魔物を見たことがないんですか?」
驚いた様子でイズ聞いてくる。
魔物って、本とかゲームとかでお馴染みの?
「……魔物って?」
イズが答える。
魔王が生み出したか、あるいは召喚した、人類を含むこの世界の生き物を襲う存在らしい。
倒すと溶けて、謎の結晶を残す……何故溶けるのか、この結晶が何なのかまでは知らないらしい。
「結晶は、おばあちゃんに渡すことになってるんです。」
そう言って彼女は結晶を拾う。
結晶の用途は不明らしい。
そしてロケットを拾い、それをこちらに手渡してきた。
感謝の言葉を伝えながらロケットを受け取る。
多分、俺がこの世界に来た理由のヒントとなるロケットペンダント。
魔物とやらについては、ゲームで言う"敵"。
その元締めに魔王とやらがいる。…とりあえずそれでいいだろう。
そんな事を考えながら、受け取ったロケットを見る。
銀色で、表面にはよくわからない模様が刻まれている。
……見覚えがあるような気がした。
でもそれがいつどこでだったか思い出せない。
「何かわかりましたか?」
「見覚えはあるような。」
アクセサリーに詳しいわけではないのでよくわからないが、見覚えがあるという事は、もしかしたら有名なブランドの奴なのかもしれない。
「それ、ロケットって言うんですね。」
「あ、はい。えっと、首からかけるアクセサリーで…
中に何か小物が入るんです。」
彼女はロケットというものを初めて見たようだ。
そう考えながらロケットを開こうする。
………………
「どうかしたんですか?」
「いや、ロケットが開かなくて。」
何故かロケットは開かなかった。
隙間はあるが、全く開く気配がない。
押したり引っ張ったりしてみるが、ビクともしない。
鍵がかかってる様子も無いのだが。
……もしかして、魔法とか?
「イズさん、ちょっと見てもらっていいですか?」
「あ、はい。」
そう言ってイズにロケットを渡す。
「……これ、魔法が掛けられてるみたいです。」
当たりだ。
「開かないんですか?」
「鍵開けの魔法は覚えていなくて……おばあちゃんなら、もしかしたら使えるかもしれません。」
どうやら開く目途はありそう、一安心だ。
「とりあえず戻りましょうか?」
イズが提案してくる。
結構探したが、これしか落ちていなかった。
多分、これ以上探しても無駄だろう。
それにさっきのような魔物に襲われる可能性もある。
「そうですね。」
「はい。行きましょう。」
イズが先導し、家へと向かう。
……そうだ、言い忘れていた事がある。
こういう事は早めに言っておいた方がいいだろう。
「あの、イズさん。」
「何ですか?」
イズが振り向く……ちょっと恥ずかしい。
「……その、助けて頂いてありがとうございます。」
「……いえ、気にしないでください。いつもの事ですから。」
彼女は笑顔でそう返してきてくれた。
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老婆は一人、暗い部屋で水晶を睨んでいた。
水晶に手を翳し、口からが謎の言葉が紡がれる。
水晶は淡い光を帯び始め……やがて何事もなかったかのように光は収まった。
「……いよいよじゃな……。……が……」
老婆はぶつぶつと一人、呟く。
やがて、思考を振り払うかのように頭を振ると、暗い部屋から出ていった。