3話
「…お前さんは何者だい?」
老婆が優しく聞いてくる。
だが目が笑っていない……明らかに警戒されていた。
さて、どう答えたものか。
異世界から来た、と正直に伝えるのも普通にアリだと思う。
だが、もしこの世界が異世界人に厳しいような場所だったらどうなる?
ここで素直に異世界から来たと言うのは
あまり良くないだろう、だが、問題はこの老婆だ。
……ここは恐らく異世界なのだ。
嘘を見抜ける魔法とか、そういう何かがあってもおかしくはない。
色々迷い、やがて一つの答えを出し、それを老婆に伝える。
「ジャパンという国にいたんですが…いつの間にかここへ。」
同じく二ホンから転生した人がいた可能性を懸念して、ジャパンにしておいた。
考える限り、何一つ嘘はついていないと思う。
「ジャパン…聞いたことのない国だね。」
とつぶやき、こちらの目をじっと覗き込んでくる。
しばらく見返していたが、その目力の強さにたまらず目を逸してしまう。
老婆はふう、と息を付いた。
「……嘘はついていないようだね。」
……本当に嘘を見抜ける術があったのだろうか、と、固まっていると、
「寝てる間に何度かお前さんの素性を占わせてもらったが…」
「……」
占いとやらの精度はわからないが、それはプライバシーの侵害なのではないか、と思った。
「何度やっても水晶玉には何も映らなかったよ。」
「…そうですか。」
「ここに来た理由は分からないのかい?」
「はい。」
「心当たりは?」
「全くないです。」
そう答えると老婆は困ったような顔をして、少し考え込み、
「お前さんを見つけた場所に行ってみるのはどうだい?」
と提案してきた。
「お前さんを見つけた時、何も持っていなかったんだよ。」
「何もって。」
「お前さん、裸で転がっていたんだよ。…傷だらけでね。」
「…何も着てなかったんですか?」
「ああ、裸だったよ。」
……どうにも都合の悪い転生である。
服くらい初期装備であってくれてもいいと思う。
「もしかしたら、そこに理由に繋がる何かがあるかもしれないしね……行ってみるかい?」
老婆に聞かれる。
断る理由は特になかった。
「決まりだね」
老婆は笑みを浮かべてそう言った。