1話
瞼の奥から光が差し込んでいる。
電球とかの人工的な明かりじゃない。
もっと自然で暖かい……太陽の光だ。
……だがどれだけ太陽が暖かろうが、布団の中の温もりに適うはずもない。
というか朝だから外は普通に寒いし。
さらに都合のいいことに光の加減は弱めで、恐らく朝方であろう事がわかる。
こんな時間にわざわざ起きる理由がないのだ。
そう考え、二度寝に入ろうとしたのだが……ふと枕がないことに気づいた。
寝相でどこかにやったか?
手探りで頭の上やら横やら布団の中まで探すが、全然見つからない。
……まだ朝早いし、枕を探して二度寝するには十分な時間があるだろう。
そう考えると、仕方なく重い瞼を開ける。
「……はい?」
そして、全く見知らぬ部屋の光景が視界に飛び込んできた。
――――
ログハウス……のような室内。よくわからない柄の絨毯や、無味乾燥なクローゼット、丸い形のランプ、観葉植物…俺の寝ている布団、というかベッド。
そして見慣れぬ扉と、ガラスの張ってある窓が一つずつ。
部屋自体はあまり広くなく、特別おかしな場所はない、が……。
さすがに自分が見知らぬ部屋にいると知ってから「よっしゃ寝るぜ!」というほど豪胆な性格はしていない。
肝心の枕も見当たらないのも気になるが、それよりも気になることが…
「……なんで俺、裸なんだ?」
しかも何故か傷だらけというオマケまで付いている。
体が動かせない程じゃないが、動かすと割と痛い。
普段寝るときは寝間着で寝ているはずなのだが……というか寝ぼけてたとはいえ気づかないものか、俺は。
「落ち着け、こういう時はまず、直前に何をしていたかを思い出すんだ。」
よく解らない状況に陥った時は、冷静に自分のステータスや持ち物を確認。
そして前後の行動を思い出す。ゲームの基本だ。
努めて冷静に、自分の最後の記憶を思い出す。
「そうそう、自分の部屋で2ちゃんねるを見ていたけど、夜遅い時間になって寝たんだ。」
……どう考えても今の状況に繋がらなかった。
家族で旅行に来たか?そんな記憶は全くないし。
あ、寝ていた時に誘拐されたか?それなら傷だらけなのも犯人にやられたってことで、しっくりくるような。
しかし、我が家はお世辞にも裕福な方とは言い難いし、そんな家の息子を狙ったって意味がないと思うが……。
「とりあえず、起きるか?」
なんにせよ、ここにいたって仕方がない。
それに、誘拐されたというのであれば、こんな朝早い時間にこっそりこの場所を出れば、シレッと脱出できる可能性もある。
覚悟を決め、名残惜しいがベッドから出ていざ部屋の外へ……という瞬間、部屋の外から足音が聞こえてきた。
足音は明らかにこっちへ向かっている。
「やばい……っ」
足音の主が誰であれ、さすがに全裸を見られるわけにもいかない。
それに、もし誘拐犯や、それに類する誰かだったとすれば、起きている姿を見られるのはマズイかもしれない。
急いでベッドへ戻り、そのまま布団を被ると鮮やかに寝たふり。
……しばらく待つと、扉が開く音、そして誰かがこちらをうかがっているような気配がした。
「目が覚めたんですか?」
全く知らない女の子の声だった。
完全に意表を突かれた俺は、ついとっさに体を起こし、声の主の姿を確認しようとして目が合う。
……やっぱり女の子だ。
年齢も身長も大体俺と同じくらいに見える。
顔たちがやや幼く、活発そうな印象。
だが、何より印象深いのは、鮮やかな明るい黄緑色の髪。
ここで始めて、一つの可能性に思い当たる。
――これが噂の異世界転生という奴か。
そんな突飛な発想が出てしまうほどには、黄緑という現実離れした髪の色の印象は強かった。