9、あなたのために
バイトを始めて1ヶ月。
そして修学旅行まで1ヶ月。
僕は1日も休まず、毎日バイトに通っていた。
体はかなりくたくただけど、心はゆいへの愛情でいっぱいだ。
疲れた体を栄養ドリンクで奮い立たせ、今日もバイトへと向かう。
バイトをやり始めてから、ゆいと会う時間が短くなった。
ゆいは会う度に、
「なんか疲れてない?部活大変?」
って気にかけてくれる。
「大会近いからメニューキツくてさ。体くたくただよ。」
って嘘をついた。
「無理だけはしないでね。」
「分かってるから。じゃあ、今日はここまでな。明日も一緒に帰ろうな。」
「うん!バイバイ!」
ゆいと別れた後、急いでバイトへ向かう。
最初は、土日だけという条件だったが、店長から仕事に対する姿勢をかわれて、平日も部活終わってからの2時間、特別にやらせてもらえる事になっていた。
これも全てゆいのためと思うと、重い体にもムチを打ってがんばれるんだ。
バイトの先輩の大学生の井上さんに、
「しゅう、この一覧に載ってる商品を全部注文してくんねぇか?オレこういうの苦手で…。代わりに今日メシおごってやっからさ。頼むわ!」
「全然いいっすよ。」
「悪いな。俺、あっちでレジやってっから。」
「分かりました。」
先輩から与えられた仕事をこなしていく。
急に、もうすぐホワイトデーが近いということに気づく。
「何返そうかな…。悩むなぁ…。」
すると、僕の目に飛び込んできたのは、一覧表の中にあった、“パリの本場パティシエが作る高級チョコレート詰め合わせ”。
値段は4800円。
決して安い値段ではない。
たまには奮発してみようかなと思い、こっそり注文した。
ゆいを驚かせたかったんだ。
ホワイトデー前日。
高級チョコが業者から届く。
ラッピングの時点で、普通の物と質が全然違う。
少しばかり優越感。
俺にもこんな高いもん買えるんだぞ的な。
「楽しみだなぁ…。」
ゆいと会う約束をした夜を楽しみにしていた。
ゆいには内緒のバイトが終わってからだけどね。
「今日も注文やってくれる?」
と井上さん。
「いいっすよ。」
と俺。
こうしてまた机に向かいながら、片手にボールペンを持ち、もう片手には受話器を持つ。
一生懸命僕は仕事をしていた。
いや、一生懸命仕事をしすぎていた。
僕は椅子から落ちて倒れていた。
2話の本文中で、「昨日の6月4日のこと」と記載しましたが、「今日の2月14日のこと」の誤りでした。お詫びして訂正致します。