6、帰り道
学校に行くのが楽しい。
登校するのはもちろん嫌なんだけど、放課後にゆいと帰ると学校も楽しいなぁって思うようになるんだ。
人を好きになると見る世界が変わるって言うけど、全くその通り。
テストとかマラソン大会とか普段だったら最悪な学校行事も、ゆいと一緒だと楽しく思える。
あの日から1ヶ月が経って、僕がゆいを思う気持ちは、2倍3倍…と増えていった。
ゆいは電車で通学していたから、僕は毎日駅までゆいを送っていた。
今日もいつものように、ゆいが乗る18:52発の電車が来るまで、駅の待合室でゆいと話していた。
ちょうど春休み前だったから、春休みどうしよっか?っていう話で盛り上がっていた。
今日は偶然なコトにほとんどの他校がテスト期間中で、駅がガラガラだった。
待合室でゆいと2人きり。今日は最高に運が良かった。
18:46。ゆいが乗る電車が来た。
ゆいが言う。
「いつもいつもありがとね。明日もいろんな話聞かせてよ〜!春休み楽しみにしてるからね。」
「今日みたいにくだらない話ならなんぼでもしてやるよ〜。気をつけて帰ってな!」
「気をつけてって言われても電車乗るだけだから!」
「点字ブロックでこけるかもしんないだろ〜!ありえないけど。」
「ありえないから〜〜!」
こう言ってゆいは笑った。いつもこんなように、たわいもない話をしていた。
でも、この話をするためにゆいを見送りに来たんだ。
ゆいといつでも話がしたいから。
例えば、ゆいが夜の2時とか3時に電話を掛けてきたとしても、僕は眠そうな声とかをせず、どんな話をすればゆいが笑うかを考えて、元気にゆいと話をするだろう。
それくらいホントはもっと話していたかった。
けど、この電車を逃すと次は20:24になってしまう。住んでいる所が田舎だから電車の本数が少なかった。だから、仕方なく見送るしかなかった。
「次の電車で帰れよ。もっと話していたいんだ!」
って言いたかった。
こんなコトを言ったら、ゆいに嫌われそうで、いまだにチキンな僕は言えなかった。
ゆいが電車に乗ったのを確認して、僕はしぶしぶ帰る。
ゆいに手を振ろうとして振り向いてみると、そこには出発した電車と、その電車に乗るはずのゆいが、僕を見て立っていた。