3、バレンタイン
やっとのことで公園に着く。誰も居ないベンチに座る。もちろんチョコの確認のため。胸の鼓動が抑えられなかった。絶対あの校門の人からだと勝手に思っていた。だってあんなに自分を見て笑ってくれたから。
僕は偶然にも不運な少年。他人事に巻き込まれた不運な少年。そして女性に縁が無い記録をまた更新。何故かというと、チョコ同封の手紙を見たら、
「ずっと前から圭君のことが好きでした…。よかったら付き合って下さい!byさおり」
って書いてあったから。
良かったじゃんって思うでしょ?でも残念ながら僕の下の名前はしゅう。つまりこのチョコは人違い。僕のかすかな期待はこっぱみじん。
「でも気にしない。15年間こんな調子だったし。」って言い聞かせたけど、気にしない訳ない。あんなに必死にチャリ漕いできたのに。あんなに信号無視したのに。生まれてから今までで一番虚しい瞬間だった。好きになりかけてたバレンタインデーはやっぱり嫌いになった。
しばらくして、こう気がつく。
「1つのチョコに期待した自分もアホだけど、この差出人のさおりっていう人もアホ。普通バレンタインに渡す相手間違う奴いねぇだろ。」
ここで僕の良心が働く。
さおりっていう人を探して届けてやろうか?
気が向かない。
じゃあ圭って奴に届けてやろうか?
これも気が向かない。
だって俺が圭に渡す瞬間、ホモに思われそうで嫌じゃん。こうして30分考えた末にたどり着いた決断は“試食”。
“試食”だったはずが完食してしまった。めっちゃ美味かった。手が止められなかった。ますます自分宛てのチョコが欲しくなった。
「圭って奴のおかげでいい思いさせてもらったわ。」そう心に思って、チョコの箱を公園のゴミ箱に捨てた。こうして6月の薄暗い夜7時に家へと帰っていく。