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たんぽぽ  作者: しゃわ
10/11

10、諭吉

 気がつくと病院の中。

どうやら今は救急病棟に居るらしい。

医者からは、

「極度の慢性疲労で貧血を起こしています。最低でも3日は休んで下さい。」

と言われた。

バイト先にも心配され、1週間はバイトに出なくていいと言われた。

僕は何も言葉を返せない。

今の自分の姿はありえないくらい惨めだ。


 僕はただの貧血なのに、個室にまわされた。

周りに人が居ないからいいけど、個室と聞くと自分の病院が重いんじゃないかって心配になる。

 

 高校の友達、バイトの友達、家族がお見舞いに来てくれた。

自分の不安な気持ちが少し落ち着いた。


 21:14。来ないだろうと思っていたゆいが来た。

かなり機嫌が悪い。

見た感じですぐに分かった。

「何してんの?」

ゆいは不機嫌に言う。

僕は言葉を返せない。

「何で黙ってたの?」

「…………。」

「何かしゃべってよ。」

「ごめん………。」

僕は弱かった。

体も心も全然弱かった。

「話すコト無いから帰る。」

ゆいはこう言ってドアを開けた。

「これホワイトデーのなんだけど………」

そう言って僕は、ベッドの毛布の中から、あのチョコレートを取り出した。

「そういう気分じゃないから。」

ゆいは帰った。


 チョコレートを見ていると、自然に涙が出てきた。

一粒、また一粒と。

バイトもチョコも全てゆいのため。

ゆいの笑顔のためだけにやってきたのに……。

ゆいと一緒に修学旅行に行きたい一心で始めたのに……。

涙が止まらなかった。

涙を止められなかった。


 しばらくして泣き止むと、どうすればいいのか分からず、ただ外を見てボーッとしていた。

何もやる気が起きなかった。

井上さんに電話を掛けた。

「僕、バイト辞めます。すいませんでした。」

井上さんは、

「辞めちゃうのか〜。なんか惜しいな。お前はオレより働いてたし。バイト辞めても、たまに顔出しに来いよ。」

「ありがとうございます。」

井上さんは本当に優しかった。

 

 ゆいとゆっくり話がしたくなった。

このままの雰囲気で居るのが嫌だった。

だからゆいにメールをした。

「ゆっくり話したいから、明日また来てくれないか?」

返信はあまり期待してなかったけど、2分後にすぐ返信が来た。

「わかった。ゆっくり話そ。今日はちょっとごめんね。」

メールを返す。

「じゃあ明日な。おやすみ。」

「うん。おやすみ。」

こんなにやりづらいメールは初めてだった。

僕は、必死で稼いだ7万5000円を封筒に入れて、チョコレートと一緒に病院の部屋の机の一番下にしまった。

この7万5000円は、なんとしてでもゆいに受け取って欲しかった。

自分が貧血になってまで働いた、汗の結晶だから。

不思議なコトに自分で稼いだお金は、いつも見るお金よりも、数倍も輝いて見えた。

よく頑張ったなって、福沢諭吉が笑ってるように見えたんだよ。本当に。

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