1、笑顔
今日も気持ちのいい晴れ。道路には一輪のタンポポが当たり前のように咲いている。僕は目も向けなかった。その咲き様に。その咲く意味に。
小学三年の時に両親が別居した。理由は父さんだった。酒を止めようとした母さんに手を出した。
それから僕は劣等感に浸っていた。
「なんでよりによって俺なの?」
電車のドアの目の前で周りを気にせず大きな声で友達と話す女子。そんなに面白い話をしてんのか知らないけど、相変わらず大きな笑い声。
コンビニのゴミ箱の前でどっしりと座る男子高校生三人組。明らかに自分より年上だが何が偉いんだか。不幸な思いはこいつらでもよかっただろって神様に言ってやりたい。神様はアホだ。
自分で言うのもなんだけど、性格は明るいし、リーダーシップもあると思う。実際に委員長とかやってたし。一緒にバカやる友達もいる。
恋愛だけが苦手。こんな風に意地張ってみたけど、ようするに付き合った事が無かったんだよね。
バレンタインデー。一番俺がムカつく日。俺が言うのもおかしいけど、男って単純。学校来た途端にずっとそわそわしてやんの。マジで笑えるよ。俺なんか15年も貰ってないから、こういう奴を見るのが趣味になっちゃった。我ながら悲しい奴。
いつものように下駄箱のロッカーを開ける。無いって分かってるけど少しばかり期待してる自分が恥ずかしい。玄関に出て自分のコトを待ってる人が居ないか見回す。もちろん居ないけどね。落胆した僕は自転車置き場へ向かう。そこにはいつもの自転車と、カゴの中にあるいつもは無い赤いラッピングの箱。
びっくりした。好きな人が目の前にいる訳でもないのに、とても緊張した。高鳴る鼓動を抑えようとしたけど無理。こんな気持ち初めてだった。そしてチョコを貰っただけで、誰が自分にくれたか犯人探しのようなものが始まるんだ。
校門を出ると、迎えを待ってるような女子が居た。自分の学年て1、2位を争う程の美貌の持ち主。このかわいい人はカッコイイ彼氏にあげたんだろうな。バレンタインデーはやっぱり美男美女のカップルが輝く日だって、自分は勝手にイメージを作ってた。それにしてもめっちゃ笑顔。最初に言う言葉でも考えながら彼氏を待ってんだろうなぁ。
でも僕を見てた。そしてあの笑顔。思わずドキッとして急いで走り抜けた。振り返るとまだ見てる。僕も思わず笑顔で返した。家に帰ってもあの笑顔が忘れられなかった。
この話はフィクションです。毎週金曜に更新するので楽しみにしていて下さいね(^o^)/