第四話 帰路での出来事
俺と佳純は夜空を眺めながら黄昏ている事を止めその場の後かたずけをし、狩りに出掛ける時に頻繁に使用するジープで森深くに進んでいく。
森に入っていくとは言えけっしてその道は荒れた獣道とかではく中途半端に舗装された様な道路を走っていた。
この道路はディアスパーティーに通じる道の一つだ。実はこの道が整備されたのは今から八年前の事だ。
しかし、その八年間で荒れ果ててしまったのだ。これは嘗ては今の様にアンデッドによって世界が覆いつくされておらず一定数のアンデッドが確認されているだけに過ぎない時代に次世代ニュータウンと謳いアンデッドから人類を救う為の鳥籠計画の一環として整備された道の一つである。
鳥籠計画―――それは、人類を支配する人々によって計画されたものだ。
十年前、大和皇国がアンデッドによって滅ぼされた事に対して危機感を覚えた上流階級は人類の存続計画の一環として立ち上げたプロジェクトだ。今の様にアンデッドに対しての認識力も人々中では薄く当時の人々は一国が滅んだ事件程度で十年前の報道ではアンデッドに対して言及されなかった。
(支配層による報道規制があった)一年半後、世界各地では初期型のパーティーが出来上がり、世界中で選定された人間二十万人分の居住地が確保された。しかし、既にこの頃にはアンデッドの被害が拡大し始めていた。
国連は全国家群に対してパーティー急増建設計画を発令し各国はアンデッドの侵攻を食い止めつつも急ピッチで建設する。
更に一年半後、人類の総人口とアンデッド群の総数は半々となっていた。そして、結局はパーティーが整備され運用が開始た時には既に人類の総人口は十五億人まで減少していたのだった。詰まる所推定五十五億の人間がアンデッドに変異或いは死に絶えた。それから、人類は互いに支援しながらこの世界を生き抜いている。
ディアスパーティーは八年前、鳥籠計画の一環として旧貴族、ディアス・ヒュート・プリンツオイゲン氏が主導を取って建設された中間型パーティーである。一年で急造されたパーティーであるが収容可能人口は約十万人。
旧ドルギニア首都ベルネツアから二十キロ離れた山中を切り開いた場所にある。円形に城壁が囲まれており直径は十キロある。
ディアスパーティーは時計回りに八つに区分分けされているが、弟一、八区分を北側地区となっている。北側地区では主に農産業地域である。弟二、三区分を東側地区でありここでは工業地域とされている。第四、五区分は南側地域でありこの一体は商業地域が展開している。最後に第六、七区分は西側地区で集合住宅地域となっている。そして、このパーティーの中心にはディアス城がありここでは軍事、経済、政治の中央省庁がある。これが、このパーティーの全容である。
ジープを走行し始めた当初は若干のアンデッドがチラホラ目撃したが(見つけたアンデッドはサンルーフから佳純がライフルで撃退した)森の奥に入っていくるれアンデッドの姿はなくなっていった。また、それと同時に霧が立ち込め始めた。それはヘッドライトで照らしても視界数メートル程度の濃い霧だった。
アンデッドの減少と霧については関係性があった。実はこの霧にはアンデッドを寄せ付けない特殊な気体で出来ている。無論、生者に人畜無害だ。因みにヴァンパイアウイルスによって体が変異してしまったヴァンパイアにとっては気だるい程度の症状がでる。
この霧であるがその成分が何で出来ているかこれを開発した科学者でしか知られていないが、陰性のヴァンパイアウイルスに感染しているアンデッドの細胞に作用しているそうだ。
濃い霧の中を走らせる事数分、徐々に霧が晴れて生きた。ヘッドライトの灯りによって明らかになった事だが、前方には高さ五メートルはありそうな巨大な壁が現れる。この壁は人類が生存するにあたって最も重要な壁である。いくら霧が存在するとはいえやはりごくまれにアンデッドが霧を向けてやって来る。だが、この壁がある限りは内部に侵入して来る事はない。
ジープの速度を落としていくと壁の方から二人の人間が接近してくる。二人は武装しており彼らはこの西門を守る衛兵である。三十代後半の男性と新兵の青臭さが残る青年だった。
「よう、秀一と佳純ちゃんお疲れさん。……んでもって、今日は何体狩って来たんだ?」
「ざっと、六十ぐらいかな。おっさんこそ俺たちが居ない間大丈夫ったのかよ?」
「おうとも。今日はアンデッド一匹すら見てねえや」
俺と話す彼は西門衛兵隊隊長のグレイ・ヒトマース軍曹だ。彼は俺と佳純がハンター業を始めた頃からの付き合いでかれこれ一年はたっただろう。彼は旧ドルギニア共和国軍所属の軍人だったが、大厄災時期にディアスパーティー建設護衛師団の一員だった。しかし、大厄災時多くの兵士を失い、現在は民兵と旧護衛師団残存兵による軍―――ディアスパーティー守備軍として活動している。
「まあ、一重にお前たちハンターが奮戦しているおかげでこっちは楽が出来るんだがな」
「てっか、おっさん達が忙しくなったらもう危機ですわ~」
「だな、だからよ頼んだぞお前ら」
そんな軽い挨拶の後、秀一はジープを走らせ城門を潜っていった。すると、グレイと共に居た兵士が彼に問いかける。
「軍曹。彼らは何者なんですか? ただのハンターではないですよね? 一晩で六十とか中々できないですよ」
「ああ? あぁ、あいつ等はヴァンパイアだよ」
「ヴァンパイアですか!? どおりで撃退数の数が多いと思いましたよ」
人間のハンターが一晩で撃退出来るアンデッドの数は三十~四十体前後(二人組のハンター換算では)である。つまり、秀一達はそんな彼らから見れば二倍弱の撃退数がある。これは、人間とヴァンパイアの身体能力と所有能所有能力などがその力の差を歴然とさせているのだ。
しかし、ながらハンター業界の中では(人間のハンターにとっては)彼らの様なヴァンパイアがハンターをしていることをよく思ってない連中も中にはいる。
何故なら単純に自分たちが狩れる個体数が減少してしまうからだ。つまり、撃破数が減れば収入も減少してしまうからだ。そんな人間ハンター達はヴァンパイアのハンター達の事を友殺しなどと揶揄する者もいる。
「つかぬ事をお伺いしますが軍曹は彼らを特別視なさらないんですね」
「貴様はヴァンパイアは好きになれないか?」
「いいえ。ですが彼らは人間とは異なりますので」
ヴァンパイアは人間の能力を大幅に開花した新人類だ。だからこそ、旧人類にとっては彼らがいつか来るべき日に自分たち旧人類を根絶やしにするのではないかと、旧人類が抱く第一の感情だ。それは、即ち旧人類が培ってきた歴史を抹消し旧人類を粛正するのではないかと、疑念を抱いても他ならないだろう。
「まあ、ヴァンパイアは俺たちから見れば脅威だ。しかし、今だ彼らは成長段階。つまり、子ども見たいなものだ。だからこそ、旧人類が導き指導することで恐怖ではなく、共存の道が開けんるんじゃねえのか? まあ、難しい事は知んねえが一つ言えるのは彼らは元人間だと言う事だよ」
「軍曹………。ですが、自分はまだわかりません」
「それでいい。一番いけねぇのはそう決めつけてしまうことだ。つまりその場の柔軟性が必要って事さ。ガハッハッハ」
グレイは高笑いをしつつ城門へ足を進め、彼の部下は今だ困惑の表情を浮かべながら彼の後を追うのだった。
2023/5/28