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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
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第三話 狩りの後の一時

 【ヴァンパイアウイルス】に感染しているアンデットとヴァンパイアの違いは単純だ。


 それは生命活動である。呼吸し生体エネルギーを補う為に食事という行為を行い意思を持って行動する。それが、生物という形だ。


 しかし、アンデットにはそれらが圧倒的に不足している。確かにアンデットは生者を喰らうがそれは生命活動を持続させる為の行為ではない。


 どちらかと言うとそれは繁殖行動に近いのではないだろうか。まあ、“奴ら”自身にはそんな思考を巡らせている訳が無いのだが。


 しかしながらこうも明確に分かれると次の様な疑問に至る。


 それはアンデットからヴァンパイアに、又はヴァンパイアからアンデットに変化するのかと言う事だ。


 結論は至極単純明快、それは()()()()()と言う事だ。【ヴァンパイアウイルス】は完全な毒液。つまり、一度感染すれば人間以外の存在にしかならないと言う事だ。言って仕舞えば、アンデットとして変化すれば二度と人間あるいわヴァンパイアに戻る事も()()する事もない。


 仮に【ヴァンパイアウイルス】にアンデットが持つ【ヴァンパイアウイルス】を負極とし、ヴァンパイアの持つ【ヴァンパイアウイルス】を正極とする。


 この場合、例えばヴァンパイアがアンデットに噛まれ体内にアンデットが持つ負極の【ヴァンパイアウイルス】がヴァンパイアの持つ正極の【ヴァンパイアウイルス】とが対立し負極が勝てばヴァンパイアは生命活動を行えなくなる(つまり、アンデットには成らずに完全な死を迎える)し正極が勝利すれば、その負極の【ヴァンパイアウイルス】おも取り込み新たな力とする事が出来るのだ。


 つまりこれを人間で例えるのであれば、正に細菌或いは毒素などと白血球などによる免疫効果のそれと同じ発想をしてもらえれば納得してもらえるだろう。


 

 ヴァンパイアの常人を逸した体力を生かし一気に街外れの山中の入口付近まで駆け抜ける。ウルフ型に噛まれ牙後から今だに血が流れ出ている左腕を右手で強く押さえながら遠目で佳純の姿を確認する。


 また、佳純は気配を察知しただけで、()()()()()()()()()()()()()()から手を振ってくる。まあ、俺が彼女を視認できたのも周りが開けた草原だからだが……。


 俺は少々スピードを上げると佳純がいる場所までは直ぐなのだが、自分が到着するちょっと前に彼女は大声で呼びかけてくる。


 「おお~い。シュウこっち、こっち」


 「ああ、分かってるよ」


 佳純は恐らく気配だけで俺の事は無事だと分かっていたのだろうが、俺の存在を目視で確認するや否や若干不安げな表情から綻んだ笑みを浮かべる。


 俺は徐々に駆けていたスピードを緩め彼女の二~三メートル前で歩いている程度の速度に調整した。距離が近くなったからか自分の怪我を負った左腕を目にした彼女は再び血相を変えた。


 「シュウ! その腕、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね。()大丈夫…!?」


 「まあ、大丈夫ではないが……。悪い。包帯と消毒液、あと鎮痛剤をくれないか?」


 「う、うん分かった!。待ってて。直ぐに持ってくるから」


 いくらヴァンパイアとは言え痛みにまで耐性がある訳ではない。ヴァンパイアは人間からすれば治癒能力は異常なのだが、それがすぐに完治する訳ではない。確かに擦り傷程度の軽症ならば数分で完治する。まあ、ヴァンパイアの全員がそうとは限らない。遅い者は人間並みに遅い。


 そして、ウルフ型の牙は細かい鋸歯になっている為、噛まれた時の筋肉組織はズタズタに破壊される。まさに相手を確実に殺す事の出来る代物だ。因みにだが、今回この様な傷を負ってしまったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。然しながら、尋常じゃない痛みは今だに残っている。何て言ったって肉を引き裂かれたのだから。普通の人間ならそれだけでショック死しても可笑しくないだろう。


 「はぁ、はぁ……。戦闘で興奮していた為なのかは分からんが、さっきよりめっちゃ痛ってえ……」


 少し休もうと近くの木に背を預ける様にへたり込み座る。戦闘中はアドレナリンの以上分泌があった為か興奮状態にあった。しかし、今は戦闘が終わって一応の身の安全が確認され冷静な判断が出来る様になる為か、一気に激痛と疲労が襲ってくる。額に脂汗が滲み走っている時の動機からくる心拍ではなく痛みからくる心拍が息をも荒くする。


 「うぅ……くッ。()()()アイツ(ウルフ型)”に噛まれたが、流石にこりゃあ、応えるな……」


 「―――シュウ。持ってきたよって、物凄い汗じゃない……!?」


 「済まない。……佳純、鎮痛剤を打った後、消毒と包帯を巻いてくれないか? ちょっと予想以上に動けないや」


 佳純は俺の指示通りに注射器と液体の鎮痛剤が入ったバイアルを救急セットから取り出すとまず、注射器の先端部分の針が折れないようにカバーしてあるキャップを抜くと、バイアルのゴム製の栓で封印されたとこに注射針を突き刺し注射器のピストンを引く。すると、バイアルの中の鎮痛剤が注射器の中に流れ込んでくる。彼女は適量まで注入すると、バイアルから注射針を抜くと右手の人差し指の関節で注射器を挟み込み、親指と中指でアルコールで湿った小さな布で俺の噛まれた左腕の関節よりちょっと上部辺り(噛まれたのが手首の上あたり)を軽く殺菌すると、並行で血管を確認し浮き出た血管に針を刺す。ピストンを押し鎮痛剤を体内に注入させた。すぐさま、針を抜くと次は消毒瓶の蓋を開け木綿の布に付けるとウルフ型に噛まれた箇所の消毒を開始する。


 「ッつ……!!」


 「シュウ! 頑張って!」


 「あ、ああ」


 俺が一瞬嗚咽を漏らすが彼女は一喝した。恐らく男ならこんな事で喚くなと言いたいのだろう。実感『彼女は鬼畜かな……?!』と思ったが、言わないでおこう。ある程度の消毒が完了したのか次に傷口にガーゼを当てると包帯を巻いて簡易の治療を終わられた。ここまで、熟練の看護師見たく手際よく完遂させていく。まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。


 治療後、傷が塞ぐのを待ち二人は周囲を警戒しつつここまでの戦闘で疲れた(俺が主に)体を休める。焚火を起こし、体を温めるためペットボトルの水をケルトに入れ焚火の中で水を沸騰させる。その間に佳純は車から軽食が入ったバスケットとカップを二つ持って来た。バスケットにはサンドイッチと二人分の分量が入った粉末状のインスタントコーヒーの小瓶が付属してあった。俺はササっと場を整理する彼女を横目にさっきよりは痛みが引いた左腕を他所にリラックスしていた。


 ケルトのお湯が沸き粉末状のインスタントコーヒーが入ったカップ二つにお湯を注ぎ佳純は俺用のカップを若干スプーンでかき混ぜると自分に差し出してくる。俺はそれを右手で受け取ると、フーフーと息を吹きコーヒー冷ます。そして、口元に持っていきゆっくりを口にコーヒーを口内に含む。コーヒー独特の苦みが味覚を刺激する。彼女もまたコーヒーを飲み一刻の余韻に浸ると次の様に口を割った。


 「ねえ、シュウは最近〝狩り”をしていてさあアンデッドの数が少しずつ増えているように感じない?」


 「……。分からなくもないな。実際〝群れ”としての集合体での体数は多いと思う」


 「じゃあさあ、シュウはこの噂って知ってる? “アンデッドの数が増えると『帝国』の進行がすぐそこまで迫っている”って噂なんだけど……?」


 「まあ、美香佐さんから聞いている事だけだけどな……」



 『帝国』―――“ヴァンパイアのみ”で構成された国際テロ組織だ。テロ組織ではあるもののその組織構成はほぼ国連軍正規部隊のそれに匹敵し国連軍と『帝国』この二大勢力以外それ以上の軍事組織は存在しない。


 『帝国』の活動が勢力的になってきたのは今から二年ほど前からだ。この世界には今だに数億もの人間が生存している。そしてその人々はパーティーやコミュニティ、コロニーなどの仮初の地で生き長らえている。それらにたいして『帝国』は攻撃をしている。


 初期は東アジア辺り(旧大和皇国辺りとその周辺)のパーティーやコミュニティなどが襲撃されていたそうだ。国連軍はその主犯がヴァンパイアだと特定し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と推測した。


 彼らのテロ行為は統率が取れたテロ行為であった為、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と説を立てた国際残党国家連合は国連軍を派遣し鎮圧に謀ったそうだ。


 派遣されたのは完全武装した一個師団だ。しかし、派遣された部隊は殲滅されてしまう。確かに支援する何らかの組織があったとしても、当時最強の国連軍を撤退処か剰え殲滅してしまうのだから驚き。それを機に『帝国』は更なる軍事力拡張と占領地域拡大が今日まで続き、今では地球上の三分の一程度の地域を侵略しているそうだ。


 そして、『帝国』の侵攻とアンデッドとの因果関係として『帝国』に所属するヴァンパイアの内、高位の存在はアンデッドを使役する事が出来る存在がいるそうだ。


 なお今の所は未確定なので非公式情報だ。『帝国』の侵攻を()()()()アンデッドが()()()()()()なるものから難民の様に侵攻地域からの逃亡しているのではないのか、と言った馬鹿々々しい仮説を立てる物もいる。


 つまり、それだけ『帝国』は得体のしれない存在でなまじ意思を持ってい行動をしている分、アンデッドより恐ろしいと言う事だ。



 コーヒーとサンドイッチを飲食しながら『帝国』の侵攻が近いのではないかと心配する俺たちは暗い話から離れたいのか二人して夜空を眺める。ここは旧首都から近いのだがそこには満点の星空があった。嘗ては都市の灯りで星空など見る事は出来なかったが、世界が崩壊した今では今は無い人類の灯が無い為よく眺めることが出来た。本来、これはあり得ないいや、あってはなら居ない星空なのだが、俺と佳純はそれを見て心を落ち着かせた。俺たちは対外“狩り”後はもっぱらこの様に星空を眺めている。


 すると、彼女は接近し横に座ると俺の左肩に頭部を預けてくる。俺は一瞬彼女の行動にビクッりと小さく反応する。彼女からは女性特有のフェロモンとでもいうのか、男を誘う甘美な香りがした。実際、彼女は俗に言う美少女だ。しかし、それはあくまでも他人であれば欲情するのであろうが、彼女は俺にとっては()()だ。だからこそ、彼女を襲おうだなんて考えにはいたらない。それに、彼女の表情には若干影が見られた。そんな彼女から俺に言葉がかけられた。


 「ねえ、もし……。もしも、これからの敵がアンデッドだけじゃなく人間やヴァンパイアもそうなったらシュウは戦える?」


 「……ああ、多分な」


 「そう……。そうなんだ。……やっぱり、シュウは私よろもズートズート強いね………」


 佳純は言葉には不安の色が見えていた。無理もない。今まで相手にしてきたのは、屍なのだから。アンデッドは元は人間であるがそれでも人類を脅かす化物でしかない。そうか、理性で分からせてやれば、戦えない事はない。


 しかし、それが生者ならばどうだろう。俺も彼女も今の所は人間やヴァンパイアも殺してなどいない。十年前ならこれが正しくそれは罪となる。だが、この世界はいざ鳥の籠の外にでれば、殺人さえ許されてしまう言わば無法地帯になる。だからこそ、人は鳥の籠から態々出ようともせず潜在的な恐怖と主に生きている。そして、自分たちはそんな彼らを守る存在。彼らの中の恐怖を少しでも軽減させる為の存在なのだ。


 では、()()()()()()()()()()()()()()()()。俺の場合は()()()()()()()()だ。彼女らは仲間でありそして何より勇逸無二の家族だ。血の繋がりなど無くても一緒に生きてきた時間や育んできた絆はそこら辺の下手な家族と呼ばれる存在より厚いのだ。だから、俺は次の様に言葉を繋げた。


 「別に俺は強く何かない……。ただ守りたいものを必死に守ろうとしているだけだ。だから、お前や美香佐さんに何かあったらと思うと怖いんだ。………でも、お前や美香佐さんは必ず守る。いや守ってみせる。今はそう思っている」


 「///……。凄いねシュウはでも忘れないであなたが思っている事は私も思っているから」


 「すまんな。頼りにしているよ」


 はたから見れば、『お前ら何て小っ恥ずかしい言っているんだよ』とツッコまれそうだが、事実なのだから言う事はない。彼らヴァンパイアは確かに普通の人間よりは身体能力などはずば抜けているだろうが、結局は元人間だ。心まで強化させる事はない。もし人間とヴァンパイアが一緒とする所があるとすれば、それは精神だろう。


 それから、二人は数分ほどその体制で星空を眺めていた


2023/5/28 改変

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