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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
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第二十八話 戦いは再び 崩壊編

 繰り広げられる剣技は素人のチャンバラの様な適当な技の掛け合いとは違う。両者は的確に相手の急所を突く攻撃を仕掛ける。技量の差は然程感じられない。そうなれば残る力比べは魔力の総量と使い方の差で決まる。秀一は一歩引いた攻撃を繰り出す。そう秀一がこの戦闘で不利なのだ。それに対し武はこの剣の交え合いを楽しんでいる節があった。武は笑みをこぼす。秀一は苦虫を噛み潰したような顔を作る。


 その近くでは同じく佳純と皐月が銃弾の飛ばし合いをしていた。彼女らは相手の裏をかく為様々な方向から撃ち合いをするが、銃弾を銃弾で掠めて軌道を逸らす防御策をとっている為、これといった一撃が通らない。攻防が続くばかりでお互いの銃弾の数を減らすばかりだった。


 ただただ時間が過ぎるばかりで一向に勝負が付かない。寧ろ武と皐月はこの戦闘を先伸ばそうとする意志さえ感じられた。実際戦闘が始まって五分が経過しようとしている。本来武と皐月の今の力であれば秀一と佳純を圧倒できる。だがそうはしない。戦いを楽しむ為か、それとも秀一と佳純をこの場に釘付けにする為かは、今の二人には計り知れないでいた。


 すると、一本の通信が秀一の小型インカムに入ってくる。彼は耳を欹てた。


 『秀一様! 佳純様! 聞こえてますか!? ………お答えできないのであればそのままで聞いてください。現在アンデットの掃討は順調に遂行しています。が、一つ問題が起きました。それは【ギガス級】と呼称されている、巨大アンデットが一直線でディアス城に向かっているらしい事です。ディアス城が陥落すれば今度こそ私たちはおしまいです。……秀一様、佳純様、どうかこれを食い止めてください……』


 ブッと通信が切れる音が鼓膜を振動させた。二つの刀を鍔迫り合わせながら再度考えを巡らせる。秀一は瞬時にある仮説に行き当たる。


 そうか。こいつら俺たちをディアス城から遠ざけているのか!畜生まんまと罠にはまっちまった。共に鍔迫り合わせる武を睨め付けた。武もその秀一の表情から感づいたのか一瞬目を大きく開くが、直ぐにニッと口を歪ませた。


 「気づいちまったか……。そうだよ。俺たちは兄さんと姉さんを足し止めしているのさ」


 「そうか……。それなら、なおさらここを通してもらおうか!」


 「いやなこった」


 鋼を打ち合わせた音を響かせる。ぶつかり合う刀身は炎で少し明るく照らされている中でもはっきりと分かるぐらいに火花を散らせる。啖呵を切るも秀一は上手く戦闘から抜け出す事ができないでいる。秀一は一度距離をとる。インカムに手を当て佳純のインカムの周波数に合わせると話しかけた。


 「佳純。アリスの通信聞いていたな。早く切り上げるぞ」


 「分かってる。でも、こっちも手が離せない。行くならシュウ、先行って。私も直ぐに追うから」


 「分かった。そっちも頼む」


 佳純にはそう言ってみたものの戦況が変わる訳じゃないしな……。内心で呟くがそれでも戦況は変わらない。口元を歪ませる武は再び接近して来る。再度秀一は苦虫を噛み潰した表情をとる。軽く舌打ちする。


 「チッ…!」


 「そう舌打ちしないでよ兄さん。まだまだこれから遊ぼうよ。ほら…ほらほらほら」


 「チッ…!うぜえんだよ、お前!! こちとらお前と戦っている暇なんてねえんだよ!!とっとと消えろ」


 右足を一歩前に踏み出し横薙ぎする。武はそれを刀身を立てて受け流す。この戦闘初の秀一からの攻撃だった。攻撃はまだ続いた。しかし、それでも武は一向に引くことは無い。寧ろ立ち向かってくる。秀一は苛立ちを隠せないでいた。一刻も早くディアス城に進撃する【ギガス級】を殲滅しなければならないからだ。しかしその為にはまず目の前の敵を倒さなけれなならない。秀一は焦っていた。そのせいか攻撃の手も単調になりつつあった。武は秀一の剣技の単調さに先程まで笑っていた表情を暗く落とした。二人は鍔迫り合う。


 「兄さん真面目に戦ってよ。つまんない」


 「悪いな。そんなに嫌ならさっさと軍をまとめて下がればいいのに」


 「それは出来ない。ここを落としておかなければ後々面倒なんでな。それに話は変わるけど、焦ると技が単調になる癖直した方が良いよ」


 やっぱり知ってるわな。俺の弟であれば……。思わず秀一は絶句する。心中で自分が何を言ったのかに。


 また、あの時と同じことが起きている。最近秀一の心の中で昔の記憶らしきものが思い出される。それは日を追うごとに強くなっていく。それは恐らく佳純も同じであろう。そして今秀一が思い出した事は、武と皐月が彼らの弟妹でその下に四人の弟妹が居る事。また、自分たちの上に兄姉が居る事だけだ。しかし武と皐月以外の名前や顔つきまでは思い出せない。その他にも武や皐月たちと何所で会い何所で暮らしていたのかもだ。


 「やっぱり兄さん少しは思い出して来てるよな」


 「ああ、俺がお前の兄貴だって事はな」


 「まあゆっくり思い出したほうがいい。あの【言霊】は相当きついらしいし。なんたって十年も記憶が戻らないんだからよ」


 このままでは相手の思うつぼだ。何とかして佳純と合流して【ギガス級】を倒さなければ負ける。鍔迫り合う二人は一度後方に飛びのいた。そして技を繰り出した。


 「〈九頭竜院流剣術二ノ型・震電〉」


 〈震電〉は〈烈風〉の上位互換である。基本的に魔力で圧縮空気を放つ〈烈風〉と大差ない。しかしその威力は四、五倍に跳ね上がり、ビル一個分を軽く吹き飛ばせる。人間なら跡形もなく塵に還す事が出来る。肉片がのこれば御の字だろう。故に秀一は人間に対し余り使わない。が、今回ばかりはそうは言っていられる程余裕などない。


 〈震電〉の射程距離は〈烈風〉より短いがワイドレンジな為、近くに居れば避ける事は出来ない。しかし、流石は秀一の弟だ。その攻撃を〈烈風〉で相殺したのだ。秀一は何度目かの絶句をする。流石の秀一もこれには愕然とする。


 「危ない危ない。兄さん昔言われなかった? この技は対人相手に使わない様にって」


 「ああ、知ってるさ。でもお前が聞き分け悪いからだぞ」


 「でも、兄さん。何だか楽しくないか」


 「ああ、ここまで俺の技をくらっても凌げる奴がいるなんてな」


 いつの間にか秀一の口元はニヤ付いていた。まるで自分が戦いを求めているかのように心が躍る。しかし秀一はそれを振り払う。そして、再度秀一は連絡をとった。


 「佳純。逃げられそうか」


 「無理っぽい」


 「そうか。……俺はこれから最後の一技を放って逃走する。そちらも何とか切り抜けてくれ」


 むりゃぶりを言う秀一に佳純は無言で了解する。秀一は武とある程度距離をとり一度【悪鬼神火】を鞘に納まる。そして刀に魔力を集中させた。


 「〈九頭竜院流剣術九ノ型・桜花〉」


 〈桜花〉―――必殺必中の技。絶対に“当たる”技だ。鞘を引き抜くごとに淡い桃色に染めた刀の刀身が現れる。引き抜かれた刀はただひたすらに暗闇を照らした。


 「まさか……兄さん。その技は……!」


 「ああ、九頭竜院流剣術の最終奥儀。桜花だ。必殺必中の剣技。受けるがいい」


 「おいまじかよ。冗談じゃねえ。あんなもん下手に受けたら死ぬって……!?」


 仰天する武をよそに秀一は刀の柄を両手で持ち大きく振り下ろした。〈桜花〉は一直線に武を捉える。武は魔力障壁をはる。〈桜花〉はドリルの様な形態へと形を変える。〈桜花〉の貫通力は凄まじく先程の〈震電〉のビル一個分を吹き飛ばす威力の比ではない。障壁と〈桜花〉がぶつかり合いお互いの威力を相殺していく。が、武のはる障壁はガラスにひびが入ったようにパキパキと次第に割れていく。武は察した。秀一の能力は戻りつつある事に。


 「ぐ、ぐぐぐ……!! く!?しまっ……」


 盛大に爆発が起き粉塵を巻き起こす。武の身体は宙を舞う。そして数メートル先まで吹き飛ばされ身体を強くうち付ける。秀一はその隙に【悪鬼神火】を鞘に納め佳純が居る方向に走った。


 「佳純。こっちは終わった。そっちはどうだ?」


 「私も終わったわ」


 「分かった。急いで合流しよう」


 その後秀一と佳純は合流を果たし次の最後の戦闘に赴いたのだった。

 どうも夏月 コウです。


 今回は崩壊編二話と過去編一話を更新しました。ので、次回の更新の話は過去編の後でという事で。

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