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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
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第二十五話 西城壁門死守戦 崩壊編

 五月六日 水曜日 時刻十八時



 秀一が覚醒を果たしてから九時間が経過した頃―――


 場所は西側門前。ここには十名以上の門兵がいた。門兵の主な仕事は人間のパーティー内外の出入りの取り締まりとアンデットの侵入を防ぐことである。しかし後者にいたってはあまり“起こりえない仕事”の分類に入る。それはディアスパーティーの周囲約二十キロには鬱蒼とした森があり、そこにはアンデットが近寄ることが出来ない【霧】が立ち込めているからだ。


 【門】は城壁の東西南北に計四つある。【門】のシステムは、常に城壁外に十名以上の門兵が配置され、城壁内には小さい駐屯地ながら戦車も配備されている。そこでは三百名もの兵士が緊急事態に備えて常に待機している。


 「しかっし今日も退屈だな」


グレイ・ヒトマースはいつも通りに城壁の外で見張りを続けていた。グレイは変わらない仕事にぼやくと彼のとなりで警備をしている兵士は苦笑した。


 「退屈はいいことじゃないですか、グレイ軍曹。それだけでおまんまが食えるんですから」


 「確かにな。でもこう何も起きなきゃ銃も錆びるってもんだよ」


 グレイは銃をカシャと言わせる。再び苦笑する兵士にグレイは続ける。


 「まあ、でも気を引き締めておけよ」


 「いきなりなんすか? さっきまで退屈とか言ってた人が」


 「退屈なのはいいことだよ。しかしな、最近……いや三日前のこと覚えているだろ。ハンターの大量虐殺。あんなの俺が知っている中でも無かったぜ。確かにアンデットは舐めてかかる相手じゃねえ。だがハンターがあんなにも容易くやられる事は今までなかったぜ」


 兵士はグレイの重々しい喋り方に今でも彼にはない歴戦の兵士の気迫を感じ取ると、自分の頬からじわりと汗が噴き出す。


 「やっぱり心配ですか?あの二人が……」


 「あの二人?……ああ、秀一と佳純の事か。確かに心配だ。あいつらはたった一年しか戦場にいなかったとはいえヴァンパイアだ。そのあいつらがあこまでボロボロになるぐらいの傷を負ったんだ。心配するさ。それにあいつらだけじゃねえ。ヴァッツ中尉やその仲間達他のヴァンパイアのハンターだって多く失っている。それもかなりの歴戦の勇者ぞろいがだぞ。こりゃなんかあるってもんだよ」


 「噂では【帝国】とか言うテロリストどもが、今回の首謀者らしいですよ」


 【帝国】噂は今に始まったことじゃない。実は三年ぐらい前から囁かれていた。それは世界各地にあるパーティーやコロニーが襲われ始めた時期と一致するのだ。


 「まあ、【帝国】が如何とかは俺たち前線の兵士にはどうでもいいことだ。俺たち黙って兵士やってればそれでいいんだからよ。…………うん!?」


 「どうなされましたか。グレイ軍曹」


 「―――あれは……?…はあ!?―――敵襲!!アンデットだ!!数は数えきれない程いるぞ!!!」


 グレイの声音はその場にいたもの全てに轟いた。兵士たちはグレイがさす方向に銃を構える。するとぞろぞろとアンデットの群団が森の開けたこの場に踊り出した。


 「グレイ軍曹どうしますか!?」


 「決まっているだろ!! 迎撃だ。全員銃を構えろ!! 各員各個撃破でいい。絶対に【門】に近づけさせるな。それと城壁駐屯地にも連絡しろ!!『相手は多い応援を請う』だ!!急げ」


 「「「「「了解しました」」」」」


 グレイの指揮下にあるこの場全てでも、兵士たちが各々が自らがやらなければならない事を開始し始めた。大体の半数が森から躍り出てくるアンデットを機銃掃射で倒していく。その他の数人は彼らのバックアップをしたり、城内駐屯地に連絡する者などがいた。 


 「グレイ軍曹!!なぜこんなにも大量のアンデットがいるんですか!?【霧】が出ているのに!?」


 「知るかッ!!無駄口を叩いている暇があったら一体でもアンデットを倒せ!!」


 「失礼しました!!グレイ軍曹」


 グレイとその他五名以上の兵士たちは弾倉の弾が無くなるまで休む事無く撃ち、弾倉が空になると空になった弾倉をその場に落とし新たな弾倉に差し換える。


 その繰り返しを数分続ける。アンデットの屍が山の様になっていく。すると進むことしか知らないアンデットが後退していく。屍と化したアンデットだけがその場に残った。


 グレイたちは銃撃戦を止め引き金から指を放す。


 「如何したんでしょう。連中」

 

 「俺が知るか。しかしこんな事今までに無かったぞ。一体何が起きてるって言うんだよ」


 「確かにそうですね……あの、グレイ軍曹? 何か聞こえませんか…?」


 グレイは不思議なことを言う兵士に自分も耳を澄ませる。しかし何も聞こえて来ない。


 「何も聞こえないぞ」


 「空耳かな……?」


 最初は兵士の幻聴かと思ったグレイだったが、再度耳を澄ませたグレイには何か規則的な音が聞こえて来た。それはまるでゾウがドシンドシンと走ってくる様な音だった。そして()()は次第に森の向こうから彼らに接近して来ることが分かった。


 「総員銃器構え!」


 グレイはその音に対し、念のため兵士全員に銃を構える事を指示する。


 小さく地揺れがする。それは次第に大きくなっていき、最もそれが大きくなった時“それ”は現れた。


 それは()()()()()()()()だった。


 「な、何だこいつは……!?」


 「グレイ軍曹指示を頼みます!!」


 「わ、分かった。全員撃ち方始め!!」


 グレイに指示された兵士たちはトリガーを引いた。再び始まった銃撃戦はたった一体のアンデットに対するものだった。


 『ぎゃおおおおおおおおおお』


 巨大アンデットは咆哮した。それは痛みによる咆哮だとその場の兵士たちは思い銃を撃ち続ける。しかし、実際はそうではなかった。巨大アンデットはその見事な腕を振り落とす。そると、最もアンデットに接近していた兵士の上半身が吹き飛ぶ。兵士の上半身は宙をクルクル回転しながら落下した。そして、その場にいた全員は察した。奴の咆哮は痛みによるものではないと。兵士たちの背筋に得体の知れない恐怖が襲った。


 『ぎゃおおおおおおおおおお』


 巨大アンデットは再び叫ぶ。それは耳を劈く様な声音だった。恐怖する兵士たちにグレイは怒鳴る。


 「お前ら何をやっている!! 撃て!撃つんだ!!」


 「「「「「は、はい!!」」」」」


 グレイに諭された兵士たちは銃撃を再開する。その時の兵士たちがグレイに抱いたのは、流石歴戦の兵士だという事だった。が、決してグレイは恐れおののいてなどいない訳ではない。しかし、彼の脳裏に最初に抱いたのはこの場の兵士全てを戦わせないといけないと、いう事だった。


 銃弾は巨大アンデットに着弾する。が、その強靭な皮膚は銃弾をいとも簡単に跳ね返す。巨大アンデットは再度動き出す。今度は止まることなく。巨大アンデットはそのがたいからは考えられない程の機動性を駆使し次々と兵士を殴り潰していく。一人、また一人と兵士の命を確実に奪っていく巨大アンデット。その場にいる兵士たちはグレイ含めて再び恐怖を抱くしかなかった。しかし、彼らをこの絶望の中でも戦い続けていられるのは、自分たちの後ろには五万人もの市民が住んでいるからという事だけだった。


 巨大アンデットがグレイの側まで接近しその腕が彼を捉える。ちッ、回避できない。彼は急いで回避しようとするが、まるで自分の身体が何かに掴まれているのではないかという錯覚に陥るぐらい身体が動かない。


 「グレイ軍曹!!!」


 と、グレイの側にいた兵士が彼の身体を突き飛ばす。グレイは一瞬自分に何が起きたのか理解できなかった。グレイは飛ばされた位置から少し離れた場所に転げる。


 「………ッ!」


 グレイは痛む箇所を堪え自分が先程いた場所を見やる。グレイは目を疑った。そこには、自分を慕ってくれていた兵士が原型をとどめないまでにぐちゃぐちゃになって潰れていた。グレイはその光景に吐き気を催した。グレイは今までにこんな事はごまんと見て来たつもりだが、それでもやはり慣れはしない。グレイは吐き気と同時に強い怒りが込み上げて来た。


 「貴様―――!!!!!!!」


 グレイは自分の持つ銃を撃った。弾倉が空になるまで。しかし、巨大アンデットには全く歯が立たない。それでもグレイは撃った。いや撃つしかなかった。それが自分を守ってくれたあいつの為にもなり、本来の彼の仕事であるディアスパーティーを守る事にもなるからだ。しかし、彼の銃弾は強靭な巨大アンデットの皮膚の前には無力だった。


 巨大アンデットはグレイとの間合いを一歩も使わずに詰める。そして腕が彼を再び捉える。グレイは今度もまた回避することができすにいた。グレイの身体は巨大アンデットの腕に跳ね飛ばされる。今の一発でグレイの身体のあらゆるところの骨はボキボキと砕かれた。もうそうなれば戦闘どころの話ではない。グレイの身体が落下した時彼は動く事も出来ず、唯々自分の頭部が森の方に向いたまま倒れ付していた。恐らく今の一撃で首の骨も折れたのであろう。


 上手く呼吸が出来ないグレイ。すると、今度は先程とは比べものにならい程の大量のアンデットが森から出てくる。辛うじて目と耳、鼻は生きているが、その状況は地獄そのものだ。目ではアンデットの群団。耳では仲間の兵士たちの阿鼻叫喚。鼻では仲間の血と泥の匂い。


 ああ、俺もここまでかと、グレイは悟った。接近してくるアンデットたちはグレイの側に近づく。彼は何とかしてここから離れようとするが何分身体が反応しない。アンデットはそれでも接近する。最初のアンデットがグレイの身体の到達すると膝を折り彼の身体を貪る。


 「あがッ………!!!やめろッ……やめてくれ…」


 次々とアンデットはグレイの側に到達すると彼を喰らっていった。彼の肉は引きちぎられている。次第にグレイの意識は遠退いていった。



 その後、グレイ・ヒトマースは人間として目覚めることはなかった。




              * *





 「駐屯地司令。先程城壁の外のグレイ部隊が全滅した。と、報告が入りました。その際巨大なアンデットが現在城壁門に向って進行中。今から城壁外に部隊を送っても遅いとの事です」


 「そうか。保安軍司令部に打電『我緊急事態を宣言す。敵の襲撃の可能性ありと推測される。至急応援を請う』だ。急げ!」


 「了解しました」


 西城門駐屯地司令部作戦対応室では数分前にグレイ部隊から入った応援要請の対応に追われていた。司令官はグレイ部隊が全滅したことに危機感を募らせた。そこで作戦室のオペレーターに緊急電を送信させるとまた別の兵士が休む事無く司令官の元にやって来た。


 「司令官、ご指示をお願いします」


 「分かっている。これより我が駐屯地はアンデット掃討を開始する。一匹たりとも絶対に城内に入らせるな! それと敵には新種の大型アンデットが存在する。この駐屯地に配備されている全ての戦車は直ちに城門前に集合せよ。あと動ける部隊も全てだ! 戦車は大型アンデットを迎撃せよ。兵士諸君は侵入するアンデットを殲滅せよ。諸君ここで食い止めなければ我がパーティーは全滅するぞ。兵士諸君には獅子奮闘を期待する。なお、以後大型アンデットの名称を【ギガス級】と呼称する」


 「「「「「了解!!!」」」」」


 駐屯地司令官は一息で言い終えると深く椅子に座りこむ。彼の脳裏には不吉な予感が過ぎる。彼が知る以上このようなことは一度も無かったからだ。しかし、これまで欧州東部のパーティーが次々に攻撃されていることから、いつかはこのディアスパーティーも攻撃されるのではないかと予見していた。が、実際そうなってみるとあまり実感がわかないのも事実だった。


 「現在城門前に戦車及び兵士が集結中。残り数分で配置完了します。現在【ギガス級】は城門の破壊を開始しています。このままでは城門が突破されるまであと五分との事です」


 「よろしい。早急に部隊を集結させろ。それと軍令部は何と言っている!?」


 「ハッ!現在軍令部は閣僚を集めて早急の閣僚会議を行っています。ですので軍令部からは『自己で判断せよ』との事です」


 バンッ と司令官は机を殴った。余りの対応の遅さにだった。この一大事に悠長に会議を開いている時間などない。が、手続き上は議会の承認がなければパーティー全軍を動かせないのも事実だ。もし誤った命令を出せばそれこそパーティー全体の存続に関わるからだ。それに、現在表には公表されていないが、テロリストによりギュルス・デーアン保安長長官が殉職したことにより、保安軍軍令部も困惑していたのだった。司令官は更に次の様に命令した。


 「無能な参謀どもめ……。これは私の独断の命令だ。責任は私一人が取る。これよりパーティー全体に緊急事態宣言を発令する。なお、第六第七地域には避難実施を勧告せよ。更にここ西城門駐屯地司令部作戦対応室を仮設の指揮系統とする。通信者!北、東、南の駐屯地司令官に回線を回せ!」


 「了解しました」


 司令官の命令伝達が終わると隣で待機していた兵士が話しかけてきた。彼はここの副官である。


 「よろしいのですか?司令」


 「何がだ?」


 「いえ、勝手に命令を出してしまって」


 司令官はフッと笑みを浮かべる。それに副官は疑問を浮かべた。


 「良いも悪いもない。事実はただ一つだ。我々がやらなければ誰がやるというのだ? 司令部が役に立たないのなら現場の我々がやらなければならんだろ。我々が手をこまねいていたらそれこそ手遅れになる」


 「そうですね司令官。私は貴方についていきます。恐らくここにいる全ての兵士が貴方に着いて来るでしょう」


 「すまない。私の勝手に皆を巻き込んで……。だが、ここが正念場だ。各員気を引き締めていけよ」


 司令官が世辞を口にした時、城門前の部隊が集合し終えたのだった。




              * *





 「部隊長。全軍集合し終えました」


 「分かった。この場の全軍に打電せよ。『敵が現れたら構わず撃て』と」


 「了解しました」


 部隊長は副部隊長に指示を言い渡すと、自らも銃器を手にして最前線に赴く。現場指揮官が自ら出向くなど到底考えられる事ではないが、現在一兵でも多くの戦力を必要としている状況なのだ。布陣としては戦車十両を前衛にし、それを盾にして銃器で武装した兵士が後衛に回っている状態だ。


 城壁の門を殴る音があった。門の扉は鋼鉄で出来ている。それを破るのはまず戦車の砲弾や爆弾でなければ不可能である。しかし、それを破ろうとしている【ギガス級】の威力は半端なものではない。次第に【ギガス級】が殴っている位置が城壁内から見て凹んでいく。



 そして今―――城壁は破られた………。



 城門を突破した際に起きた土埃と共に【ギガス級】が飛び出してくる。部隊長はその瞬間を逃さなかった。


 「全車!攻撃はじめ!!」


 戦車十両から撃ち出される砲弾は、轟音と共に【ギガス級】を捉えて飛翔し着弾する。ドドーンと、全弾が命中した音が轟く。


 「部隊長!【ギガス級】に着弾したのを確認しました。次に指示を」


 「分かっている。全軍侵入して来るアンデットに対して攻撃はじめ! 戦車は―――」


 「部隊長!!【ギガス級】健在!!!繰り返します。【ギガス級】健在!!」


 部隊長はハッとした表情をする。そして先ほど言いかけた言葉に付け足して言葉にした。


 「再度通達する。全車【ギガス級】健在! 敵は強靭なり。戦車全車は弾薬が無くなるまで【ギガス級】に攻撃しろ。全軍はそのまま攻撃を続けろ」


 『隊長車了解しました。全車聞こえているか!! ありったけの砲弾を奴の尻にぶち込んでやれ』


 『『『『『『了解!!!』』』』』


 二百人近い兵士の銃声と連れだって再び戦車十両の砲声が鳴り響く。【ギガス級】は先程の攻撃から立て直しておらず、ヨタヨタとしている時に再びの砲弾で今度は完全に【ギガス級】を地に臥せさせた。しかし、戦車隊は止める事無く装填し撃ち込む。その間アンデットも侵入を試みるが【ギガス級】に対する砲撃で共に木っ端微塵に粉砕される。それだけではない。歩兵による攻撃で間一髪砲撃から免れたアンデットも掃討されていく。そんな一方的な攻撃でもいつかは終わりがくるものだ。


 『全車攻撃止め』


 隊長車両の戦車長が全車に攻撃停止命令をだす。流石に戦車十両の砲撃を耐えうる生物はいない。それがヴァンパイアウイルスで強化でもされていない限りは……。


 『ぎゃおおおおおおおおおお』


 その場にいた物はその光景に絶句した。【ギガス級】は土埃煙めく中で“立ち上がったのだ”。しかしそれだけではない。【ギガス級】は二本の腕以外に肩から新たな腕を生やしたのだ。そして再度吠えた。


 『ぎゃおおおおおおおおおお』


 そして、【ギガス級】は戦車が整列し兵士がそれを盾にしている方へ突進してくる。


 「そ、そんな馬鹿な!? 戦車十両に砲撃だぞ!!」


 「部隊長支持を!!」


 「くッ!戦車は再び攻撃を開始しろ!! 何としてもあれを近づけさせるな!!」


 しかし部隊長の命令が聞き届けられることは無かった。四本の腕を携えた【ギガス級】はある一両の戦車の砲身を掴む。するとそのまま“持ち上げたのだ”。戦車の車体は優に持ち上げられたのだ。


 『う、うわあああぁぁぁぁ!!』


 【ギガス級】に持ち上げられた戦車の搭乗員たちの悲鳴が無線機から聞こえてくる。【ギガス級】は持ち上げた戦車を隣に並んでいた戦車にぶつける。二つのぶつかり合った戦車はぐちゃくちゃにお互いを潰し合いながら爆発した。さらに巨体からは考えられない機動性を活かし、新たな戦車に標的を付け、駆ける。その間潰された戦車を盾にしていた兵士たちは爆発に巻き込まれたり押しつぶされたりした。次に餌食となった戦車では砲塔と車体の間に【ギガス級】が指を食い込ませる。すると【ギガス級】は砲塔と車体を引きちぎった。戦車の引きちぎられた車体の中にいた搭乗員たちは眼を大きく見開き【ギガス級】を見た。【ギガス級】は砲塔を砲身を下に構え車体にぶっ刺した。そしてその戦車は弾薬が誘爆したのか爆発を起こす。


 「部隊長、戦車が!!」


 「分かっている。全部隊体勢を立て直せ。戦車は後退せよ」


  『「了解!」』


 しかし、【ギガス級】がそれを許すことは無かった。三両目の戦車を破壊後、新たに四両目の戦車を攻撃するため後退する戦車を追う。【ギガス級】は地べたを這いずる兵士にも目もくれずに疾走した。無論【ギガス級】の軌道上に入ってしまった兵士は突き飛ばされるか踏みつぶされていった。


 もうこうなれば体勢を立て直すのは不可能だった。この戦場にいた全ての兵士はただ逃げることに必死で、侵入してくるアンデットはその数を増すばかりだ。戦車は【ギガス級】によって破壊され、兵士は【ギガス級】に踏みつぶされるかアンデットに喰われるかだった。



 「こちら前線部隊長………。これ以上の戦闘続行は不可能……繰り返す戦闘続行は不可能……」



 そこで部隊長の通信は途絶えた……。




              * *





 「こちら作戦本部!!前線部隊長聞こえるか……。駄目です!繋がりません。司令官如何しますか!?」


 「一体何が起きているというのだ!?」


 「再度部隊長に連絡しろ。『現場報告をしろ』と」


 西城門駐屯地司令部作戦対応室では混乱の層が渦巻いていた。前線からの通信が途絶えて数分が経つが今だに前線からは通信は無い。司令官は両肘を付き頭を抱える。


 「司令官!!市街地にアンデット出現しました。予想より進行速度が早く市民の避難が間に合っていません。それと本駐屯地内にも多数のアンデットが侵入!! 守備隊が対応していますがいつまで持つか分かりません!!」


 「くッ!!如何すればいいというのだ。……各駐屯地の対応は如何している」


 「現在各駐屯地の部隊は市街地に侵入してきているアンデットを掃討しつつ市民の避難を誘導しています。が、既に市民の中にもアンデットによる被害が出ています」


 司令官は頭を抱えるのを止めると指示を出そうと口を開くが……。


 「前線の部隊に次ぐ。残存する部隊は急ぎ市街地に向え!! 負傷している兵は南城門駐屯地に収容せよ。手配は彼らからする!! だからその他の部隊は―――」


 「グハッ……」


 「何だ!!き、君大丈夫か!!……グハッ」


 ダダダッ―――と銃声が作戦室に反響する。銃声音が消えた時作戦室にいた全ての兵士は撃ち殺されていた。作戦室に数名に兵士が入ってくる。


 「クリア。対象全ての無力化完了しました。武閣下」


 「よろしい。では次に移るとするか」

 

 「了解しました」


 武は作戦室の惨状を目にしても思う所は無かったらしくその場を立ち去った。

 皆さん夏月 コウです。


 今回から崩壊編が始まったわけですが、皆さんは楽しんでくれましたか?彼らの奮闘も空しく突破されてしまいましたが。さて、それを秀一と佳純たちはどう乗り切るのか。楽しみですね。


 今回は連続更新となるので次の話は向こうで。では。

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