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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
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第二十一話 ハンター・鍵咲 佳純VS帝国司令官・山城 皐月 再会編 後編

 皐月は夢の中で過去を思い出す。



 それはまだ彼が五歳の頃の記憶だ。



 それは良く晴れた日のことだ。彼女ら、霧島きりしま 陽菜はるな鍵咲かぎさき 佳純かすみ及び山城やましろ 皐月さつきの三人は家事の一環で洗濯物を屋外で干していた。


 洗濯物の量は、それはもう大量であった。それもそのはずだ。何故なら自分たち合わせて十人もの人が昨日一日に出した洗濯物の量なのだから。さらには()()()()は毎日の様に外で駆けずり回っては汚してくるのだ。彼女らにとってはそれが当たり前であった。むしろ彼女らはそれを嫌とも言わず、むしろもっと汚してこいと言わんばかりの意気込みなのだ。その方がやりがいがあるとか……。


 彼女らが洗濯物を干している場所は寮の屋上であった。屋上では三人の女の子たちが談話を楽しみながら、せっせと大量の洗濯物を捌いていた。数分もしないうちに山ほどもあった服たちはその影を無くすぐらいにまで減っていた。


 「ねえ、陽菜姉はやっぱり日向兄のことが好きなの?」


 佳純は唐突に陽菜に向かって聞いた。


 「まあ~。……そうですね。確かに私は日向くんのことが()()()()()。…もちろん()()()として、ですよ」


 陽菜は佳純のその問いを茶化すことなく彼女自身の答えを言った。佳純はやっぱりか、という表情を浮かべる。すると、今度は聖母の様に穏やかな口調で陽菜は切り出すのだった。


 「では、今度は私から聞きますが、佳純は()()好みなのですか?」


 「へぇッ…!…わ、私!?」


 「そうですよ。私に答えさせて自分は答えないつもりでいたんですか?」


 その穏やかな口調とは裏腹に、少しばかり意地悪気味に既に知れたことを聞くのであった。すると、今度はその話を盗み聞きしていた皐月が好奇心で聞くのだった。


 「そうですわよ。佳純姉様。自分ばかり聞いていては不平等ですわよ。それで、どの殿方ですの!?」


 「も、もう。皐月まで。……はぁ~。分かりましたよ。言えばいいんでしょ、言えば」


 「「………」」


 二人は佳純の“答え”に息を飲む様に聞き耳を立てた。佳純は二、三度小さく呼吸すると、小さな声で答えた。


 「し、秀、一兄……」


 「えッ!聞こえないですよ。もう一度言ってください」


 「……ッ!…だ、だから、秀一兄だって!何度も言わせないでよ」


 うん、知ってた…。と、二人はニコニコと微笑んだ。佳純の今の顔は蛸が茹で上がった様に真っ赤であった。ううう、と顔を歪ませるも今度は佳純はニヤリとすると皐月に問いただした。


 「じゃ、じゃあ。皐月は誰が好きなの……!?」


 「うん。もちろん武兄様ですわ(ドヤ)」


 「そ、即答!?す、少しぐらい躊躇したら」


 「好きなものに躊躇する必要がありまして?」


 そんな彼女ら三人の他愛もない談話は洗濯物を干し終えるまで続いたのであった。




              * *



 秀一と武が雑談を挟んでいる頃―――。


 最強のヴァンパイア―――佳純と皐月は、先程いた場所から数百メートル地点のとある建物の屋上で、お互いの距離を保ったままにらみ合っていた。屋上の広さは縦横二十メートルぐらいあり十分な広さがある。構造物としては屋上への出入り口と四方には給水塔が置かれている。


 まさに一触即発な緊張感を佳純は感じているが、皐月の方はそうでも無く寧ろこの状況を楽しんでいた。


 しかし、だからといって皐月も無警戒とはならず、薄っすらと殺気を纏わせていた。いや、それ以上に内心では殺気が蠢いているようでもあった。だがその殺気はどちらかといえば佳純に向けられたものではなく“別の誰か”に向けられていることを、佳純は薄っすらとその隠しきれていない殺気から感じ取る。それを感じ取った佳純はその殺気にどこか謎の身震えと、嫌な予感が自分の脳裏を横切る。そして問題はこの殺気の種類だった。


 普通の殺気は人を単純に殺そう、と、そういった類の殺気だが、皐月が放つ殺気の類は“恨みがこもった”殺気だった。佳純は更に緊張感を高めた。佳純の周りでは彼女自身が放つ緊張感がその空間を張り詰めさせていたが、皐月はその佳純の緊張感に気付いたのか、ふと口を開き発言した。


 「佳純姉様。そんなに最初から緊張をしていては間が持ちませんわよ。大丈夫ですわよ。別にわたくし佳純姉さまを取って食べようなんて思っていませんから。それにそんなに身構えていては、ろくにお話も出来ませんわ。リラックス、リラックス、ですわ」


 「貴女が身に纏っている殺気が原因だよ。その殺気が私に向けられていないものでもね。それに敵が目の前にいて、すぐに対応できるようにしているのさ」


 「流石佳純姉様ですわ。わたくしが薄く放つ殺気を捉えるなんて。でも、心配要りませんわよ。今日わたくしたちがこの場に来たのには他の理由がありまして、それには佳純姉さまが失礼ながら少々邪魔なのですよ。それで、この場で少しお休みになっていただこうかと思いまして。あ、別に殺そうなんって思っていませんので。そこのところは悪しからずに」


 佳純は皐月が言い終えると同時に、【種子島式多才銃機構たねがしましきたさいじゅう軻遇突智かぐつち一弓のひとゆみ】を突撃銃型の【春雨】から二丁拳銃の【夕立】と【時雨】に展開し構成させ皐月に構えた。皐月はというと銃を向けられているにも関わらず、今だに武器を手にしようとはしなかった。


 「まあ、そう焦らないでくださいまし。まだ、久闊を叙することもしていませんし。少しぐらいはお話をしませんこと?」


 「私としては何も話すことはないし、第一私は貴女のことを何も知りません。まあ、この状態じゃ貴方が一歩でも動いたら、私のこの銃が火を噴いて貴女のその綺麗な両足が真っ赤に染まるだけですけどね」


 「まあ!佳純姉様は私の足を綺麗と言ってくれましたわ。何って嬉しい事ですの。まあ、自慢じゃありませんけど確かにわたくしの美脚は()()()()()()()()()ですから。この艶やかな肌にキュッと締まった脚ライン。知ってまして? あの武もわたくしの美脚には一目置いてますのよ。あの朴念仁の武が、ですわよ」


 何故か皐月は一人自分の美脚をべた惚れしながら自慢げに話した。佳純は思った。何て綺麗な足なの…!?。実際皐月の背丈の長い灰色のコートとタイトな灰色の軍服の間から地に伸びる脚部はそれはそれは綺麗だった。


 それこそ世界に美脚コンテストなどがあったら上位に食い込むのではないかというぐらいに綺麗だ。佳純は彼女が自分の美脚を艶めかしく触っているのを傍から見ていて恥ずかしい気持ちと、どこか悔しい気持ちを内心で感じていた。何故か佳純と皐月は戦場であったことを忘れ美脚の話をしていたが、佳純は二、三度程首を横に振って我に返った。


 「そ、そんなことはいいのよ……!とにかく投降しなさい。これは最後通告よ」


 「もう、結構話が盛り上がってまいりましたのに。………分かりましたわよ。わたくしはここで投降なんかはしませんわ。もし、わたくしをお止になりたいのでしたら、わたくしを倒してから言ってくださいまし。まあでも、今の佳純姉様ではこのわたくしには勝てませんけれど」


 「なら是が非でも止めるわ。それにさっきの口ぶりと貴女からにじみ出ている濃厚な殺気から察するに、貴女今日あたり誰かを始末する(殺す)するつもりでしょ」


 皐月は今までのニッコリとした表情から影を落とした様な笑みへと変わった。その笑みは何所となく不気味なところがあった。佳純の背筋にゾクリとした悪寒が流れる。


 「流石ですわ。佳純姉様。わたくしのことは昔から何でもお見通しなんですね。そう、わたくしが今日殺害リストの中にいる人物、元大和皇国国立感染症研究所鬼病研究センター代表研究員・如月美香佐をぶっ殺しますわ。これで、はれて秀一兄様と佳純姉様はあのアバズレから解放されるのですわ」


 「………ッ!美香佐さんを…殺害!? そんなこと……させると思っているとでも!」


 「そんなに大切な人なら、守り抜いてみせることですわね。まあ、結果は既に見えている様なものですけれども。さあ、きなさいませ!」


 【夕立】と【時雨】のトリガーが引かれる。今、賽は投げられた。二丁拳銃から放たれた弾丸を、皐月は当然の様に灰色の背丈の長い灰色のコートを翻しながら回避し、一蹴りして後方に跳躍した。その際にコートの中に隠し持っていた“二丁拳銃”を取り出した。佳純はその取り出された“二丁拳銃”の姿に秀一が【悪鬼業火】を見た時と同じ反応をした。


 「その銃!これと同じ型の―」


 「そうですわ。この銃は佳純姉様が持つ二番目の銃、【種子島式多才銃機構たねがしましきたさいじゅう軻遇突智かぐつち一弓のひとゆみ】と同じ型の()()()()。その三番目の神器武装、【種子島式多才銃機構たねがしましきたさいじゅう八岐大蛇やまたのおろち一弓のひとゆみ】ですわ。……何を驚く必要がありまして。佳純姉様がお持ちになっていられる銃器はわたくしたちが贈呈した物ですわよ。わたくしたちが同じ様なものを持っていたって何ら可笑しくはありませんわ」


 「そう言えばそうでしたね。……でも、何で貴女たちは私やシュウに塩を送る様な行為をしたの? この武器を使って貴女たちを倒すことが出来るとは思っていなかったのなら、それはただの大馬鹿者ですよ、貴女」


 佳純は嫌味を含め口を曲げながら言って見せるが、皐月は全く動じる様子もなく寧ろ不思議そうな顔を浮かべる。皐月は首を傾けながら考える素振りをしてから何かが分かった様な表情をした。


 「ああ、そのことについてですか。それは単純にお中元の様なものとして送ったものでありまして、別に敵に塩を送ったなんてことはありませんわ。それにわたくしたちは決して秀一兄様や佳純姉様のことを敵だなんて思ってもいませんし、そのことについてはただの佳純姉様の勘違いですわよ」


 「そ、そうですか……」


 「それに、佳純姉様がこちらに来て下さった時のために武器が無くてはお困りになると思って、先んじて送らせたものですわ」


 皐月が言っていることに一応の理解をした佳純は、それはご丁寧にと、お礼の挨拶をした。佳純は、ハッと先程の美脚の話の時の様にぶんぶんと首を左右に振った。


 「ああ、もう!さっきから、何だか貴女のせいで調子が狂うんですけど!なに、私と戦いたくないわけなの!? それとも侮辱しているわけなの!?」


 「そ、そんな。誤解ですわよ!わたくしは決して佳純姉様を侮辱してなんかいませんし、確かに出来れば戦いとうはありませんけど………佳純姉様が邪魔立てするのであれば、こちらだってそれ相応の対処をしなくてはなりませんし……」


 「じゃあもうさっさと片を付けましょうよ!私が勝ったら貴女はこちらに投降する。貴女が勝ったら私を好きにするといいわよ。ともかく私にはシュウが待ってるんだから早くして!」


 佳純は無理矢理話の腰を折ると、佳純はトリガーを引いた。狙いは皐月の脚部だ。しかし、その銃弾も皐月の脚部を掠めることもなく逆にあさっての方向に飛ばされていった。原因は至極単純だが一般人では到底出来ない神業を披露したのだった。それは、佳純が撃った弾を皐月が自分の二丁拳銃を発砲しその銃弾で相手の弾を掠めさせ銃弾の軌道をずらしたのだ。


 「へえ~。なかなかやるじゃん」


 「この程度雑作もありませんわよ。それに佳純姉様だったらこのくらい出来ますわよね?」


 「ええ、出来るわ。……じゃあ、じゃれ合いはこのくらいで……今度のは本気よ」


 「ええ。是非そうして下さいませ」


 殆ど同時に接近するため動いた佳純と皐月は交互に撃ちあう。佳純が撃てば次はその撃った銃弾を皐月が弾き、今度は皐月が佳純にトリガーを引く。しかし、それもまた皐月同様に銃弾で弾く。二、三度の応酬繰り返すと二人の距離はお互いの間合いに入る距離まで近づいた。次にお互いの攻撃は銃による超接近戦に移った。


 佳純は右手に持つ【時雨】を、皐月も同じく右手の【陽炎】でお互いの顔面に構えようとするが、お互いは攻撃を受けない様に銃身の部分を弾き合い、トリガーを引いてもあさっての方向に銃弾は逸れる。しかし、これでもまだ終わりではない。


 佳純は間をおかずに今度は左手に持つ【夕立】を皐月の胴体に撃ち込もうとするが、皐月が左手に持つ【不知火】の銃身で【夕立】の銃身の側面を叩いて発射軸の軌道をずらすと同時に佳純の左太ももに打ち込む。が、佳純は左足を一歩後ろに引きギリギリで回避すると、左足を振り上げ皐月の顔面目掛けて蹴りを入れるが、腕をクロスさて蹴りを受け止める皐月は、佳純が足を戻したときには既に【陽炎】と【不知火】を佳純の胸部辺りに構え撃つ。しかし、佳純は【夕立】で【不知火】の底面の銃身を【時雨】で【陽炎】の底面の銃身を弾き上げる。


 【陽炎】と【不知火】からは銃弾が発射されるが、弾き上げられたため銃弾の軌跡は夜空に消えた。佳純は攻撃をやめなかった。今の行為で今度は先程の皐月の様に胸部に銃口を向ける。皐月は二丁とも弾き上げられていて今までの様に拳銃の銃身を利用した攻撃回避アタックスラッシュは出来ない。


 佳純は勝利を確信しかけトリガーを絞るが、そうは問屋は下ろさなかった。皐月は右足を軸に高速で半回転させ銃弾を回避し、その半回転で回避した時左脚を少し浮かせていた。そこで、今度は左足を強く蹴り数メートル後方に宙で身体を回転させて退避した。


 二人は息も付かずに攻撃を仕掛けていたため大きく肩で息をしていた。彼女らの荒い息づかいだけが、この空間の空気を振動させる。ほんの数秒の休憩を挟み、二人は今度も同時に動き出す。佳純は時計回りに、皐月は反時計回りに動く。その時双方から放たれる銃弾は、危険な軌道を描く銃弾を撃ち払いながらお互いの致命傷を狙い合う。が、その前にお互いの持つ二丁拳銃のマガジンが空になる。


 ちッ、あいつは私と同じぐらいの技量の持ち主か。なら…!。と、佳純は銃弾の応酬の切れ目に【夕立】と【時雨】を近づけ突撃銃の【春雨】に魔力変換し、マガジンポケットからアサルトライフル用のマガジンを引き抜き装填し、チャージングハンドルを引き薬室に弾丸を送り込む。


 ここまでの動作を十秒も掛からずに済ませた。皐月も同じく【陽炎】と【不知火】の装填を済ませ構える。先に撃ったのは佳純だ。フルオートではなく、弾を節約することが出来て精度も上がる三点バーストの撃ちかた方をとり、マズルフラッシュをはためかせ三発づつ発射された銃弾は的確に皐月の身体を捉える。が、装填をし終えた皐月は左手に持つ【不知火】で“一発だけ”発砲する。その銃弾は三点バーストで発射された最初の一発に掠め、次にその右後ろを少しズレて飛翔する銃弾に当たり、さらに二発目に当たった皐月の銃弾は三点バーストの最後の発砲し二発目より上を飛ぶ弾に当たった。三点バーストで放たれた弾はそれぞれが皐月への弾道軌道を大きく外れ、掠めることもなく皐月の後ろに聳える夜闇に溶けて行った。


 二人はこの場で一回だけ銃撃戦をし対角線になる様に建物の角にある給水塔を盾にし身体を隠す。給水塔を盾にし佳純と皐月による中間距離での銃撃戦が繰り広げられた。お互いが盾にする給水棟には無数の銃痕が刻まれていく。給水棟の中からは十年間外に出されることが無かった腐った水が、小滝の様に無数の銃痕の跡から噴出する。佳純は鼻をつんざく異臭に鼻を曲げながらもその異臭に堪えながらマガジンの中が空になるまで撃ち続けた。


 再び銃声が鳴り止んだ時には二人のマガジンは空になっていた。二人はマガジンを交換するが再び構えることはなかった。皐月は給水塔の陰から口を開いた。


 「流石佳純姉様ですわ。わたくしとここまで張り合えた者はそうはいませんでしたわよ。でも、このままじゃ、埒が明きませんわね…。……なら、仕方ありません。今後は本当の本気でいきますわよ」


 「あ、貴女!あれで今まで本気じゃなかったの!やっぱ貴女私を馬鹿にしているのね!」


 「いや、別に本気ではなかったと言うと嘘になりますが。言ってしまうのであれば、今までの本気度は三分の二ぐらいですわ。それにヴァンパイアであればアレぐらいの神業は雑作もありませんでしょ」


 何が、アレぐらいよ! 十分以上よ、以上。いくらヴァンパイアでも(私やシュウ以外)出来るわけがないじゃない。つうか、神業って言っている時点でもう普通じゃないんだよ。と、佳純は心中で毒を吐くようにいった。皐月はまだ言葉を続ける。


 「ですから、今からの攻撃はただの攻撃とは思わない事ですね。出来れば佳純姉様のヴァンパイアの能力、完全空間把握能力を行使することをお勧めしますわよ」


 「……ッ!……何だか、もう貴女が私の能力を知っていても可笑しくない様な気がしてきたよ。……いいわよ。私がこの空間を全て掌握してあげますよ」


 「その意気ですわ。では、こちらも行かせてもらいます。―――所有能力・物体空間転移能力」


 二人の意識が拡張していく。屋上の空間全てを佳純は把握する。皐月てきの位置。そしてどんな物がどんな位置に置かれているのかも。佳純は元いた給水塔の陰から“身をさらし屋上の丁度中心点に移動した”。その間に【軻遇突智かぐつち】を突撃銃の【春雨】から二丁拳銃の【夕立】と【時雨】に魔力転換させた。佳純は屋上の中心点で仁王立ちし目を瞑った。皐月は彼女の奇行に眉を曲げつつも面白いですわ、と微笑し、皐月も給水塔の陰から身をさらした。



 向かい合い、無言で立ち尽くす。佳純が目を開いた時が双方の能力戦の始まりであった。



 両人の内先に撃ったのは皐月からだった。【陽炎】と【不知火】から放たれた銃弾は佳純に直進―――しなかった。


 “放たれた銃弾は佳純の頭上三メートルからと背中後方五メートル先から現れのだ”。佳純は目を瞑ったまま右足を後方に動かし背中からの銃弾に対して水平に身体を持っていき、【夕立】を頭上に銃弾に向け【時雨】は背中の方から接近している銃弾に向けると―――。


 撃った。


 頭上からくる銃弾は【夕立】から放たれた銃弾に接触し【時雨】の銃弾は対象の銃弾を弾く。それらの銃弾は軌道が逸れる。【夕立】の銃弾が接触した銃弾は背中すれすれを通過し、地面のコンクリートにめり込み【時雨】の銃弾が弾いた銃弾は彼女の前方一メートル先を通過する。


 それから両人の攻撃は単純であった。皐月が撃って佳純が弾く。それだけだった。それで決着が付くのかというとそうではない。寧ろこの場の戦闘を二人は愉しんでいた。しいていうのであれば、それはどちらが先に相手の身体に銃弾を掠めさせるかだ。


 【陽炎】と【不知火】から吐かれる銃弾は空間を通って佳純の通常の死角を狙うが、今の佳純は死角なんてものは無く、空間を通って現れる銃弾を佳純はやすやすと自分が放った銃弾で撫でる。二度目は佳純前方からと後方から。三度目は頭上からと足元から。四度目は左翼斜め下と右翼斜め上から。五度目はその逆から。六度目と七度目は前方後方左右から一発ずつ。佳純はバク転し自分の頭が屋上の地面を捉えると、【夕立】から一発だけ放ち四発の銃弾が接触、上手く自分の方向に飛んでくる四つの弾を【夕立】の銃弾が弾き銃弾の華を作る。


 佳純が着地し一息つく暇もなく八度目が来る。くッ…と、小さく呻きその銃弾に対応する。しかし、彼女の疲労も限界に来ていたのは事実だった。二つの銃弾に二つの銃弾を撃つ。が、今度の銃弾の軌道は変則的だった。飛んでくる銃弾は佳純が放った銃弾より先にお互いが接触し軌道を変えた。無論そうなれば佳純が放った銃弾は掠めることなく夜の闇に消える。


 「……ッ!」


 回避できない…!。佳純がそう思った時には銃弾は佳純の右腕と左足を掠めた。彼女の痛覚が一気に脳を駆け上る。思わず膝を着いてしまった。掠めたところからは血が流れる。


 苦痛に座り込んで動こうとしない佳純に皐月がゆっくりと近づいていく。佳純の目の前に皐月が立ち無言で右手に持つ【陽炎】を彼女の頭部に向けて構える。佳純は睨み付けるように皐月を見た。二人は数秒間視線を交差させる。それは彼女らにとって時間の長く感じられるものだった。二人の間には冷たい風がふく。五月とはいえベルネチアの夜は未だに寒い。それ故に佳純の傷口は冷たい風でしみた。佳純は痛みと敵愾心で顔を歪ませる。皐月は口を開く。


 「佳純姉様。貴女の負けですわよ。さあ、投降してくださいまし…」


 「……ふ。まだよ……」


 「今の佳純姉様に何ができまして。その傷と疲労ではろくに立つことも出来ないでしょ? それにわたくしはそんなお痛わしい佳純姉様を見たくはありませんわ」


 「……確かに戦えないわ。……でも、だからといって捕まるわけには行かないわ。だって、私にはシュウが待っているのだから!」


 佳純は【夕立】を明後日の方向に構える。皐月は佳純が何をするのかを理解できずにいると【夕立】トリガーが引かれた。放たれた銃弾は屋上の出入り口の扉に跳弾し方向を変え先ほどの佳純がいた給水塔の方に飛翔し、給水塔に括り付けてあった手榴弾のピンを抜いたのだった。


 爆発が起こる。


 爆風が皐月の身体を揺らがせた。すると、佳純は座り込んでいた位置から前屈みで皐月にタックルする。皐月は自分と同じくらいの体重を持つ佳純にタックルされ屋上の床に叩きつけられる。その隙に佳純は屋上の縁に駆ける。と、そのまま飛び降りた。


 「くッ……」


 皐月はタックルされたお腹を左手で押さえながら右腕に体重を掛けて起き上がる。そして佳純が飛び降りた屋上の縁を見るが、既に誰もいなかった。彼女の身体は燃える給水塔の炎で照らし出され、その給水塔の中に入っていた腐った水を数秒間浴びていた。


 皐月の唇は悔しそうに歪んでいた。

 どうも夏月 コウです。


 早速ですが。祝「進化し人類の名はヴァンパイア」十万字突破です!。正直のところ当時の自分はこの小説を十万字以上書けるか分かりませんでした。(途中で打ち切ろうかと思った時もありました……)まあ、何はともあれここまで書いてこれたので良しとしましょう。これからも本作をよろしくお願いします。


 皆さんは今回の話どうでしたか?秀一と武もそうでしたが、本当この人たち人外ですね。今回で再会編は無事に終了できましたが。この話はまだ続きます。


 次回は12話ぶりの登場となる美香佐さんが出てきます。


 では、また次回にお会いしましょう。


 追伸~感想や質問、誤字脱字等がありましたらお気軽にお伝えください。

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