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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
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第二十話 ハンター・天城 秀一VS帝国司令官・長門 武 再会編 中編

 武は夢の中で過去を思い出す。


 それはまだ彼が五歳の頃の記憶だった。


 彼らは孤児院が所有する敷地の中にある武道場にいた。そこでは歳が一つ違いの兄―――天城 秀一との九頭竜院流剣術の免許皆伝のための稽古に勤しんでいたのだった。


 武道場の空気を竹刀が打ち合う音で振動させていた。数分の剣劇の後に二人は後方に大きく飛ぶ。


 武は〈九頭竜院流剣術一ノ型・烈風〉を繰り出すため体勢を作る。すると、秀一もまた武と同じ技を放つため型を作った。二人が技を繰り出したのはほとんど同時だった。


 「「〈九頭竜院流剣術一ノ型・烈風〉!」」


 空気をも切り裂く二つの大技はお互いが衝突すると、絡まり合い同じ総量分だけを中和させた。と、なればこの大技決着はただ一つ。それはどちらの力が強力かということだけだ。二人の中央でぶつかり合い、結局勝ったのは秀一の方だった。武は秀一によって放たれた〈烈風〉の中和し切れなかった分の突風が、彼の身体を彼が立っている場所の後方の壁まで吹き飛ばした。


 「ぐっ……。ぐあぁぁぁぁぁぁ―――」


 武は最初の一瞬は耐えたものの、最後は足を取られることとなってしまった。秀一は攻撃を止めることなく前方に跳躍し武が背を打った壁までたどり着く。次に秀一が動いたときには武の左頸動脈には秀一が持つ竹刀の切先が添えてあった。


 圧倒的だった。この稽古の勝負は最初から決まっていたようなものだ。武の秀一に対しての勝率はさほどない。(日向への勝率はその半分もない)


 秀一は真剣な眼差しを解くと、ふと柔らかい微笑みを浮かべ添えていた切先を首筋から放し、秀一は自分の左手を武の前にかざした。


 「はぁ…はぁ……。流石兄さん…。やっぱり兄さんには何度やったって勝てないや」


 「そんなことはないぞ。前よりも格段に強くなっているし、なんたってさっきの〈烈風〉、中々筋がよかったぜ。お前はもっと強くなれる。そのうち俺を超えるぐらいにな」


 「ならさあ俺、きっと兄さんより強くなるよ。でも、だかと言って兄さん自身が弱くならないでくれよ‼」


 そんな、約束をした日の夢はそこで覚めるのであった。




              * *




 アンデットが取り囲む中心には秀一と佳純の姿があった。双方は背中合わせで周りを囲むアンデットに対峙していた。最も彼らがこの場で敵と認識しているのはアンデットではない。その存在はアンデットより強力な者たちだ。秀一はその一人である武と対峙し、一方佳純は皐月と対峙するような布陣をとっていた。


 「久しぶりだね。兄さん、姉さん。元気してた?」


 最初に沈黙を破ったのは武の方からだった。秀一はその一言に若干の違和感を感じつつも鋭い眼で睨み付けた。


 「おうおう、そんな怖い顔しないでよ。久々の兄弟の再会じゃないか」


 「俺はお前たちのことなんか知らない。ただ知っていることは一つ。貴様ら【帝国】が俺たちパーティーにとって害する存在であることだけだ。大人しく投降すれば命ぐらいは保証する。投降しろ」


 「……流石に俺たち兄弟のことを覚えていないとはいえ傷つくな…。まあ、いいか。どのみち兄さんと姉さんはその内にこちら側に付くと思うからね…」


 武は意味深な言葉を吐いたが、秀一が詮索するより早く次の行動に出た。


 「なあ、兄さん。久しぶりに()()付けてくれよ」


 「………良いだろう。貴様の性根を俺が叩き治してやるよ」


 「ヘッ…!。やれるもんならやってみやがれっての。皐月、お前は佳純姉さんと挨拶でもして来たらどうだ?」


 すると、先程まで黙っていた皐月は佳純に向かって言葉を口にした。


 「それは良い提案ですわね。どうです?佳純姉様。念願の再会ですし少し談話でも」


 「………」


 「まあそう警戒されなくても。何も取って食べようなんて思っていませんですことよ」


 佳純は少し身体を捻ると、目で秀一に合図を要求した。秀一は佳純の行動に気付くと彼女に軽く囁いた。


 「わかった。奴らの提案を飲むのは何だかシャクではあるし奴ら二人を連携で倒すのが得策かもしれんが、ここは一人が一人を相手にした方がやり易いだろう。なにぶん、奴らを見たところ俺の前にいるやつは刀を使う奴らしいし、後ろにいる女は逆にお前と同じく飛び道具を使うようだしな…」


 「了解した、じゃあ皐月(あいつ)つは私が相手するよ。でも、シュウも気をつけてね」


 「わかってるよ。だが言っておくが余り派手にやるなよ。殺したらなんの役にもたたなくなるからな。出来れば生け捕りな」


 二人は頷き合った後、背中を密着させていたのを離し少しづづ距離を開けていった。その後、皐月が建物に方に駆け出すのを見て、佳純もすかさずその場を駆け出した。数秒後には二人の姿は無かった。


 秀一は左腰に帯刀していた【悪鬼神火】を鞘から抜刀し構える。すると、武もまた“【悪鬼神火】”によく似た刀を白手袋に包まれた手で抜刀する。秀一は彼が抜刀した刀を見て、いや、彼が現れた頃から気付いていた刀を目撃して疑問を浮かべる顔をした。


 「うん?………あぁ。兄さんはこの刀を見ていたのか。……これはな、【悪鬼あっき業火ごうか須佐之男命すさのお一太刀のひとたち】って言ってな。兄さんのその刀。【悪鬼あっき神火しんか天照大神あまてらすおおみかみ一太刀のひとたち】の三番目の一太刀なのだよ。つまり悪鬼シリーズ・三番目の刀だ。あ、因みに二番目の刀の名前は【悪鬼あっき月火げっか月讀神つくよみのかみ一太刀のひとたち】って言うんだよ」


 「……まあ、そんなことはどうでも良い。俺の名は天城秀一。行くぞ」


 「全く…つれないな……。まあ良いや。俺は、大東洋吸血鬼帝国欧州戦略第一司令官・長門武。階級は中将だ。まあ、こんなことは些細なことだけど。体裁ぐらいは保たないとな」


 秀一は武が無駄口を叩いてるなかでも前方に跳躍し、武との間を積めていく。彼は武が自分との間合いに入ると、躊躇することなく攻撃を仕掛けた。しかし、武は彼の攻撃を当然のように受け止める。


 「なかなか良い攻撃だったぜ。しかし、その攻撃に昔のような()()がない。今の兄さんの攻撃は()()()()ぜ。何でそんなに弱くなっちまったんだ」


 「………!?何だと!?」


 「ヘッ!!なら、今度はこちらからやらせてもらうぜ……。ちゃんと攻撃を相殺しねえと危ねえぜ」


 武は秀一との刀による膠着を解くと右足を強く前に突飛ばし身体を後ろに跳躍させる。その際、ある技の型を打ち出す身体の体勢を作った。


 「行くぜぇ……。〈九頭竜院流剣術一ノ型・烈風〉‼」


 「なッ!!なぜその技が使える!?」


 「そう、驚くことじゃねえよ。なんたってこの技は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ」


 武が無駄口を叩きながらも彼が放ったなにをも切り裂く風が秀一をバラバラにするため接近してくる。が、秀一もこの程度の技ならどうとでもできる。秀一もまた、武同様に〈烈風〉を打ち出すことで風を相殺した。


 「へっ!!まあ、そのくらい出来て当然か」


 「………」


 「なあ、兄さん。少し二人で話でもしないか?」


 武は唐突に切り出す。が、秀一は何も語ることなく、武が口を開くのを待つ。秀一がこの絶好の機を見過ごしたのは単純に少し彼の話に興味があったからだ。それに先程も同じように相手が話しているとき奇襲したが、余り効果がないことを察したからでもあった。


 「なあ、兄さんはなぜ人間なんか守るんだ?参考までに教えてくれよ?」


 「………。…俺は別に人間を守っているつもりはない。俺が守ろうとしているものは、家族や友人だ。だから必然的にこのパーティーの人々も守っていることになるんだよ。……これでいいか」


 「ああ、十分すぎる答えだよ。何て言うのかな~。…兄さんのその思想ってさあ、まるで人間みたいだぜ」


 秀一は両手で構えていた【悪鬼神火】を右手だけで持ち刀の切先を地面に近くまで落とすと、戦闘態勢を解いた。武もまたそれいならった。


 「どう……言うことだ。至極真っ当なことを言ったと思うのだが」


 「確かに兄さんは人間の考え方としては十分すぎる答えだよ。……だがな、兄さんは()()()()()()()()としてはまだまだの考え方だ。そもそも俺や皐月、兄さんや姉さんは人間じゃない。ヴァンパイアというこの地球上でもっとも優れた生命体の中でも、その頂点に立つ存在なのだからな。それはもう()ともいえるものなのだから」


 「ヴァンパイアは()なんかじゃない……!」


 武の傲慢な口調に秀一は憤りを感じた。そして武の言葉はさらに続いた。


 「神さ……。もっとも兄さんが覚えていないだけで、俺たち家族が根源なのだからな。…まあ、それは置いておくとして。兄さんはさ、人間がその昔何故植物や動物保護をしていたのか分かるか」


 「それは、この地球上で共に暮らす生物だからだ。そして、人間は彼らを守るだけの知識があるからさ」


 「ちっちっちっ…。確かに人間は知識がある。そしてそれを実行出来るだけの力もある。が、人間の本性ってのはそんな善良なものなんかじゃない。簡単に言ってしまうならば、人間たちこそ自分たちのことを神だと誤認しているのさ。

 ―――人間は植物や動物を管理することで自分たちがこの地球の自然環境を淘汰して来た。自分たちがこの地球で他に類を見ない力を持っていると固持したいからさ。そして植物や動物といった低生物にはそれはない。

 だから、人間は感謝でもしろと言わんばかりに無駄に管理してきた。知っているか兄さん。植物や動物は本物の自然でも生きていけているってことを。

 そして、人間はそれでもまだ自分たちのことを満足できていない。だから、人間は今度は自分たちをも管理し始めた。その対象になったのが俺たち身寄りのない孤児だった。所詮人間は皆哀れみの感情でしか人間を救おうとはしない。『哀れんで、やっているのではない』と、言いながらも心中の奥底ではそんなのが蠢いているのだから。

 ……要するにだ。人間は不完全な生物だってことさ。しかし、ヴァンパイア、いや()()()は違う。俺たちは哀れんでヴァンパイアを救おうなんて痴がましいことなんか思っていない。俺たちがヴァンパイアを救うのは()()()だからなのさ。

 だが、俺もそこまで鬼ではない。鬱陶しいことに人間だった頃の感情が少しはある。だから仲間意識ぐらいはあるさ。でもな、勘違いしないでくれよ。俺たち()()にとって他のヴァンパイアなんか自分たちの目的のためなら道具にしかすぎないのだからな。まあ、まだ俺にはヴァンパイアたちのことも大切だと思っている感情はあるがな」


 秀一は唯々絶句した。彼の言っていることの全てを理解することはできなくても同情する点が少しでも思い当たる自分がそこにいたからだ。確かに人間は身勝手な生物だ。言い替えるのであれば行き当たりばったりな生物でもあるということだ。この地球上で自分たちが支配者だという感情が強いのは人間なのだから。


 「まあ、話ってのはこのくらいなものかね。じゃ、そろそろ決着つけようぜ」


 「俺はお前の考えに納得した訳じゃない。が、俺は少なくとも哀れんで人間を守っているのではない。守ることが出来る力があるから利用しているにすぎないだけだ!」


 「だから、それを哀れみっていうんだよ……!!」


 秀一が語る言葉に武は激動したかのように声を荒げる。と、彼は一気に戦闘体勢にまで身体を持っていった。武は数歩で秀一の間合いまで躍り出る。秀一もまた、武が攻撃体勢に切り替えたことを瞬時に確認すると防御体勢に移行した。


 秀一の防衛行動が終わるころには二人は隙をついては一撃を加えていた。二つの“伝説の刀”の刀身と刀身は残光と火花を散らせた。二人の剣術の腕は殆ど互角といっても良いがやはり秀一の方が有利だった。数分間の剣劇のち二人は大きくお互いに後方に後退した。ここからは技と技のぶつかり合いの時間だ。先に仕掛けたのは武だった。


 「さっきの〈烈風〉の威力はさほど魔力を使っちゃいない。だか、これから放つ数々の〈九頭竜院流剣術〉は俺の三分の一程度の魔力を使う。兄さん。間違っても死ぬんじゃねえぞ。―――そらぁ、行けぇ。まずは、〈九頭竜院流剣術一ノ型・烈風〉だ」


 「……お前がどれだけ魔力で技の威力を増大させようと、俺には勝てないことを教えてやるよ。―――〈九頭竜院流剣術一ノ型・烈風〉」


 「おうおう、その意気だぜ!!。それこそ兄さんだぜ。昔と何一つ変わんねえな~」


 ()()放つ剣劇はまさに鎌鼬〈かまいたち〉の様な鋭利な風と化し、二人の中間地点である空間で混ざり合いお互いが持つ総量の分だけ削り合う。この結果勝利した〈烈風〉は秀一の方であった。


 半減以上にまで威力が落ちたとはいえ、その鋭利な風は人の胴体を分断させるには十分なほどの力がある。殆ど秒速に近い風速は放たれて数秒と掛からずに武の元まで猛攻した。が、武は回避するでもなく唯々迫り来る〈烈風〉に立ち向かう。


 普通の人間であれば立ち向かうことも回避することも出来ないが、武の様なS()S()()()()のヴァンパイアであれば、まず回避出来る。ならば結果は自ずと一つに絞られる。そう、彼は秀一が放った〈烈風〉を一刀両断せんばかりに「魔力で強化した振り下ろし技」、〈六ノ型・天山〉で切り捨てたのだった。武は穏やかに技の名称を語った。


 「〈九頭竜院流剣術六ノ型・天山〉……。流石は兄さんだぜ。いくら()()()()()()()()って。兄さんの得意とする〈烈風〉はキツイね~。昔はこれでよく俺は苦しめられたぜ」


 「〈九頭竜院流剣術〉では、技の基礎となる〈烈風〉を習得しなければ次の剣技をご指南してもらえなかったからな。確かに()()()()()一人だけ〈烈風〉の上達が遅かったよな」


 「日向兄さんと秀一兄さんの上達の速度が早過ぎ……!?兄さん今何て言った…!?“お前!?”まさか、兄さん記憶を思い出したのか!?」


 武は驚愕の顔色を浮かべる。秀一もまた、己が口にした言葉に驚きを隠せなかった。


 ―――俺は何を言っているんだ…。奴のことなんか知りもしないのに!? でも、奴と言葉を交わしていくにつれて何だかとても懐かしく感じる。そう言えば、つい最近にもこんな“感覚”があった様な…。もしかして、俺は……。


 実のところ秀一と佳純がこの()()に襲われる様になったのは約半年ぐらい前の頃のことだ。最初は何気ない佳純の一言だった。


 それは、とある日の学校から家への帰宅途中のことだった。


 「ねえ、シュウは覚えている?あの日のこと」


 「なんだそれ、いつのことだよ?」


 佳純はあったかのかなかったのか分からない身の上話を語り出す。


 「ほら、皆でシュウの誕生日をお祝いしたことだよ。日向兄や陽菜はるな姉、武や皐月、美寿穂みずほ響輝ひびき隆雄たかお舞耶まやたちでシュウの誕生日パーティーを企画して。それでね日向兄と武はその時シュウをパ―ティーの準備が出来るまで引き付けをお願いして、でも結局バレちゃってね。でも、楽しか………あれ?おかしいな。そんな()()あったっけ?」


 「……佳純。確かに俺たちは孤児だったが、俺はそんな連中のこと知らないぜ」


 「……そ、そうだよね。ごめん。変なこと言って」


 その日以来無かったはずの過去の記憶がふと、思い出されることがあった。当初は一週間に一度ぐらいの頻度で“過去の記憶”が蘇ることがあり、今では一日から二日おきに過去の記憶が蘇る程になっていた。



 脳裏にはここ半年ぐらいの過去の記憶に付いての出来事が怒涛の様に思い出されて来た。次第に武が言っていることに信憑性が涌いてきた。秀一は【悪鬼神火】を握っている右手とは逆の手で自分の左半分の顔を覆って項垂れた。彼の脳裏ではこれまでの出来事と今武が語ったこれまでの話で、次々と掛けたピースがパズルの様に繋ぎ合わさっていく。


 そして、これまで霧が掛かった様な過去の記憶がほんの一部ではあるが鮮明になっていった。その時、秀一の中の何かにヒビが入った様な感覚を感じたのだった。しかし、その感覚は直ぐに消え失せる。まるで、今はまだ早いと言われたような感じだった。秀一は、首を左右に二、三度ふり今起きた感覚を振り払う。そして、三度武に【悪鬼神火】を両手で持ち構える。しかし、今だ彼の中には違和感は残っている状態だ。


 「俺は…俺は……。一体何を…言っているんだ。でも、確かに…記憶はあった。なら何で思い出せないんだ」


 「やはり。日向兄さんが言った通りまだ()()()()じゃないようだな。でも、あと“少し”の様でもある」


 「如何言う事だ。何か知っているのか…!?」


 今までのふざけ面な顔から日を落としたような表情で無言のまま武は数秒間の沈黙後。


 「今の俺では何も言えない。無理に言えば記憶の逆流が起きて記憶に飲まれる可能性があるらしい。でも、兄さん。一つだけ言えることは、これから兄さんと姉さんは過去の記憶を取り戻すということ。そして、その時が兄さんと姉さんがこちらに戻って来る時期だということだ」


 「………」


 「じゃあ、そろそろこの戦いにも決着を付けようか。兄さん。俺にだってやることは沢山あるんでね。一気に叩かせてもらうよ。あと、いくら俺が兄さんを殺さないからと言って、手を抜いたら骨の二、三本は折っちゃうかも知れないから。嫌でも手を抜くのはやめてな」


 武の殺気がこの場を支配する。それは今まで彼が出していた殺気の数十倍のものであった。彼は鋭く目を凝らし再び【悪鬼業火】を構えるが、それは今までになく隙の無い姿勢で秀一に構えた。緩い風が二人の間を駆け巡った。その一瞬で二人の刀はお互いの刀身を強打し合う。


 唯々お互いの隙が出来たところを狙って攻撃し、そして防御をする。しかし、この攻防がいつまでも続くわけも無く、秀一の方が失速していく。秀一は眉を顰めた。次第に自分が押され気味になっていることにだ。彼は武の攻撃から脱却するため一度【悪鬼業火】を大きく弾き、その後に大きく後ろに跳躍すると同時に今度は〈三ノ型〉繰り出す体勢を作る。


 「〈九頭竜院流剣術三ノ型・紫電〉!」


 【悪鬼神火】を自分の左腰で構えると、刀に攻撃性電気魔力を刀身に一時的に貯めた後に【悪鬼神火】の容量ギリギリまで高めた魔力弾を横薙ぎして放つ。魔力弾は吸い込まれる様に一直線で武に飛翔し、彼に当たるすんでのところで爆発を起こした。


 普通のヴァンパイアでは耐えれるはずの無い一撃。しかし、その例外は少し灰色の軍服を煤で汚すぐらいで平然と視線の先に立っている。


 ただ絶句するしかなかった。秀一が武を殺さない様に出した技がこうも簡単に避けられる。いや、相殺されるなんて考えられない事だったからだ。


 雄叫びの様な声が響き渡る。


 「だから…!その程度の攻撃で…!俺を止められると、思っていたら、大間違いなんだよおぉぉぉぉ!!」


 「……ッ!」


 「そんなに、俺を本気にさせたいのなら。見せてやるよ。俺たち兄弟が“SSクラス”である理由を。伊達や酔狂で俺たち兄弟が大佐以上の階級にいない事を。―――【悪鬼業火】あぁぁぁぁぁぁ!」


 胸部より上で首元より少し下の位置で【悪鬼業火】を水平に構え左手を刀身の中心辺りにかざす。すると、足元から腰の辺りまでで弱いつむじ風が武の周りで廻る。武は次の様に祝詞を詠った。


 「我、己が盟約者。長門武が要求する。【悪鬼あっき業火ごうか須佐之男命すさのお一太刀のひとたち】よ。かの己が力を持って敵を打ち果たさんために盟約の血を持って英雄をここに降臨せんと欲す。我は英雄なり」


 刀身を武の左腕に少し当たるように添えると、武は多少顔を歪ませ皮膚を切った。傷口は直ぐに塞がる。【悪鬼業火】の刀身には少しばかりの血が滴る。血の一滴が【悪鬼業火】の切先の先端に行き渡り今にも一雫が垂れる寸前で【悪鬼業火】には大きな変化が現れた。


 【悪鬼業火】の刀身は火炎の如く閃く。それはまさに、罪人を聖なる火で炙るための炎その物であった。


 「これが俺の【悪鬼業火】の()()。〈天叢雲剣あまのむらくものつるぎ〉だ。その炎は敵を焼き尽くし、そしてこのつるぎによって俺は英雄となる。出来れば使いたく無かったが、相手が相手だ。力を惜しんでいたらこっちがやられかねない。先に謝っておく。すまない。殺しはしないが腕の一本は吹き飛ぶかもしれない。だが、これは兄さんが手加減なんかするからだよ」


 「それなら、俺にだってお前は手加減しているではないか」


 「それは、今の兄さんが()()()()()()()()からだよ。本来なら俺の方が手加減されるのに。まあそれは良いとして。―――死ぬなよ。兄さん」


 最後に武は言葉を残すと、〈天叢雲剣〉を放つ。それは、放たれた直後からそれが通り過ぎた後の物をドロドロに融解しながら進む。そして“それ”は形態を変化させ一匹の炎の鳥―――()()と化した。


 秀一は瞬時にして悟った。あれはやばい。彼は逃げることも出来ない。回避したところで奴は追ってくる。これを撃退するには同じかそれ以上の攻撃を仕掛けるしかない。だが、〈九頭竜院流剣術〉にはこれを撃退する方法は無い。そこで彼は―――やるしかないか。俺も。秀一は()()()()()()()()()()


 「我、盟約せし者。天城秀一なり。汝、【悪鬼あっき神火しんか天照大神あまてらすおおみかみ一太刀のひとたち】が持つ全ての力を使い我が脅威を打ち砕かん。()()()()()()()。神技・〈八咫鏡やたのかがみ〉!」


 秀一は【悪鬼神火】を自分の胸元垂直に構えると、切先を中心に半径一メートル程度の円が粒子の粒を伴って集合する。そして、大鏡が出来上がる。


 「……ッ!兄さん。それ、何で!?」


 「お前に出来て。俺に出来ないわけがない」


 「まさか、この数秒で会得したってことかよ!?どんなチートだよ!?」


 大鏡は光を集約させると、まるで太い柱の様な閃光を撃ち出す。


 そして、武の〈天叢雲剣〉と秀一の〈八咫鏡〉は激突する。二つの奔流はバチバチと身を削り合う。



 その決着は―――武の〈天叢雲剣〉が多大な力を失いつつも勝利した。



 説明するなら、ただ単に〈八咫鏡〉が先に破砕したからだ。


 しかし、〈天叢雲剣〉もまた軌道をそらし秀一の前方数メートル先に着弾しアスファルトを抉りながら爆散する。秀一は〈八咫鏡〉で大量の魔力を消耗したためか、その衝撃で吹き飛ばされる。


 「ぐあぁぁぁぁぁ――――――くへッ!」


 秀一は後方の建物の壁まで飛ばされ、そこで身体を強打して停止した。膝が勝手に折れると、うつ伏せのままその場で気が遠くなっていく。


 すると、遠くから秀一に近づいて来る者があった。その歩き方からアンデットではないことは確かであった。であれば、残すは自分を打ち破った“存在”だけだ。


 「やっぱり、兄さんは侮れないよ。なんて力だってんだよ。流石()()()()()()()()()だけはある。が、今はそうしていてくれ。次会う時はもっと皆でいろんな話をしようぜ」


 そこで、武の気配はきっぱりと消えた。それと同時に秀一は気絶した。

 どうもお久しぶりです。夏月 コウです。


 今回の話は秀一VS武の戦いです。まあ、思うところは今回も自分が予想する以上に長くなってしまった(;゜Д゜)。いや、それにしても二人ともチートも良い程に強いですよね。(ちなみに佳純と皐月の戦いも…げふんげふん。ネタバレは良くないですね。失礼しました)次回は佳純VS皐月戦です。お楽しみに。


 「進化し人類の名はヴァンパイア」を読んでいただきありがとうございました。これからも頑張って更新していきますので、どうぞよろしくお願いします。


 それでは、次回でお会いしましょう。


 追伸~感想や質問、誤字脱字等がありましたらお気軽にお伝えください。

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