第十八話 前段階・『アンデット掃討作戦』
暦・新暦二千三十七年
月日・五月三日
曜日・日曜日
現在地・ディアス城内施設
現在時刻・十三時頃
直径十キロを誇る中規模パーティーのディアスパーティーにとって、中央の小高い立地に聳え立つ居城・ディアス城はパーティーに居住する人々にとってのシンボルともいえる建造物だ。
そこは、政治や経済、軍事などの中央省庁が存在する。そして、俺と佳純はその場所の守備軍局にあった。大規模アンデット掃討作戦に参戦する為の手続きをする為だ。
先日のアリスとの会食の際に出た、周辺パーティーからなる連合軍はベルネチアを最終防衛線として『帝国』軍との決戦を立案したそうだが、今回の掃討作戦はその前段階の作戦だ。
恐らく、守備軍局は今回の掃討作戦での自軍の損耗を嫌ったのだろう。言い方は悪いが小遣い稼ぎに死人を狩っているハンターに損失が出ようが、本職の軍人が生き残っていれば、どうとでも立て直せると思い至ったのであろう。
それに、俺達は人を殺す為に銃を取っている訳ではない。自分達が暮らしている、このパーティーを存続させる為にやっているのだから。
手続きを終えた俺達は次に城内にある多目的ホールへと向かっていた。そこでは、ディアスパーティーの守備軍大臣であるギュルス・デーアンからの訓辞があるとの事だ。
既に、ホール内には多くの人々が集合している。佳純はその光景に感嘆した。
「シュウ。私、嬉しいな。パーティーの為に大勢のハンターが集まっている事に。皆、本当にこのパーティーを大事に思ってるんだね」
「そうだな。それもアリスやアリスのお父さん、それを支える人々のお陰で、俺達皆が暮らす事が出来ているんだ。ここにいる彼らも何かしらで貢献したいんだよ」
「……でも、本当に『帝国』軍は来るのかな?」
佳純は不安そうにそう呟いた。現在、『帝国』はパーティー内で噂程度の存在としてしか認知されていない。しかし、それをいつまでも隠し通す事が出来るかは分からない。いつかはぼろが出る。
「……多分来る。遅かれ早かれね」
「戦争は嫌だな。皆が悲しむ事になる」
「そうだな、だからこその今回の作戦……。頑張ろうな。佳純」
俺はそう諭すと佳純は頷くのだった。俺達はステージ近くに足を進めた。
すると、前方に見知った集団がこちらを確認すると、彼らはを不敵な顔を浮かべながらこちらに近づいてくる。正直、ウザい。
その人物は【silberKugel】を組織するリーダーのヴァッツ・シュルツ中尉だった。
「よ~お。FuckinSucker。調子はいかが~」
「………はぁ。これは、これはヴァッツ中尉殿。貴方方も小遣い稼ぎに勤しみに来たわけですか?」
「生意気な。じゃあ、貴様は何しに来たんだ? まさか、参加するフリをして、家でママのおっぱいでも飲んでガタガタ震えているだけにでもいるのかな~?」
「まさか、ヴァンパイアの俺が貴方方よりも弱い訳ないじゃないですか」
煽り文句に対し彼の仲間がホルスターに収納されている拳銃に手を伸ばす。が、それをヴァッツは静止させる。
「止めろ。ここで発砲したら叩き出されるのはこっちだ」
その言葉に彼の仲間は苦虫を噛んだ表情で俺達を睨み付けてきた。
「まあいい。だが、ヴァンパイアがこのパーティーで暮らせているのも、俺達人間様のお陰である事を忘れるなよ。じゃないと、いらぬ処で不意打ちに遭うかもよ」
「ご忠告痛み入る。が、例え誰かの兇弾が俺と佳純を捉えようとも、それをはね除けて見せますので、ご心配なく」
「ああ言えばこう言う。よく口が回る事で……。まあ、精々頑張りな。化け物」
「こちらこそ。人間様」
ヴァッツ達は屈辱そうな面持ちをする。そして、言葉を吐き捨てその場を立ち去るのだった。
彼ら人間にとって俺達はヴァンパイアウイルスと同義なのだろう。『自分達の家族を殺したヴァンパイアウイルスから変化した者達』だという認識が、畏怖する原動力である。
で、あるからにして、ヴァンパイアというだけで十分に虐げるだけの理由になる。
恐らく、ヴァッツは『過激思考派主義者』だ。武力によってヴァンパイアを廃絶せんとする思考者。しかし、このパーティーでは彼らのような物は生きにくいだろう。
それも、このディアスパーティーがヴァンパイア人権主義を提唱している以上はパーティー内での殺害は殺人罪になる。だからこそ、俺達は安心して発言出来る訳だが、俺がここまで彼らを糾弾するのもパーティーの理念上そうあるべきだと思っているからだ。
「あの人達は異様に私達を嫌悪しているよね。本当に。」
「まあ、彼らの思考も理解できないわけじゃないけどね。ただ単に怖いだけなんだよ。ヴァンパイアの事が……」
「………?」
佳純は彼怪訝そうな顔を浮かべた。
二人は適当な席を選び、隣り合って座る部分を倒し着席する。
数分間二人はそのままの状態で待機していると、続々とハンター達が座席に着席して行く。その数、二百弱。それだけのハンターが今次作戦に参加するもの、彼らなりの思いがあるのだろう。
ホール内が薄暗くなるまで照明が落される。すると、保安府大臣のギュルス・デーアンがステージ中央にある演台えと足を進めるとの両淵に両手を置く。そして、一呼吸の後に語り出した。
「諸君。今回、この場に集まってくれたハンター全てに―――」
ギュルスの演説はその場のハンター達を奮起させる訓辞だった。こうして、前段階作戦の火蓋は切られたのだった。
だが、この後起きる絶望は俺を含めてこの場全員が知る由はなかった。
2023/5/28 改変




