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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
19/32

第十八話 前段階・『アンデット掃討作戦』

 暦・新暦二千三十七年

 月日・五月三日

 曜日・日曜日

 現在地・ディアス城内施設

 現在時刻・十三時頃


 直径十キロを誇る中規模パーティーのディアスパーティーにとって、中央の小高い立地に聳え立つ居城・ディアス城はパーティーに居住する人々にとってのシンボルともいえる建造物だ。


 そこは、政治や経済、軍事などの中央省庁が存在する。そして、俺と佳純はその場所の守備軍局にあった。大規模アンデット掃討作戦に参戦する為の手続きをする為だ。


 先日のアリスとの会食の際に出た、周辺パーティーからなる連合軍はベルネチアを最終防衛線として『帝国』軍との決戦を立案したそうだが、今回の掃討作戦はその前段階の作戦だ。


 恐らく、守備軍局は今回の掃討作戦での自軍の損耗を嫌ったのだろう。言い方は悪いが小遣い稼ぎに死人を狩っているハンターに損失が出ようが、本職の軍人が生き残っていれば、どうとでも立て直せると思い至ったのであろう。


 それに、俺達は()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分達が暮らしている、このパーティーを存続させる為にやっているのだから。



 手続きを終えた俺達は次に城内にある多目的ホールへと向かっていた。そこでは、ディアスパーティーの守備軍大臣であるギュルス・デーアンからの訓辞があるとの事だ。


 既に、ホール内には多くの人々が集合している。佳純はその光景に感嘆した。


 「シュウ。私、嬉しいな。パーティーの為に大勢のハンターが集まっている事に。皆、本当にこのパーティーを大事に思ってるんだね」


 「そうだな。それもアリスやアリスのお父さん、それを支える人々のお陰で、俺達皆が暮らす事が出来ているんだ。ここにいる彼らも何かしらで貢献したいんだよ」


 「……でも、本当に『帝国』軍は来るのかな?」


 佳純は不安そうにそう呟いた。現在、『帝国』はパーティー内で噂程度の存在としてしか認知されていない。しかし、それをいつまでも隠し通す事が出来るかは分からない。いつかはぼろが出る。


 「……多分来る。遅かれ早かれね」


 「戦争は嫌だな。皆が悲しむ事になる」


 「そうだな、だからこその今回の作戦……。頑張ろうな。佳純」


 俺はそう諭すと佳純は頷くのだった。俺達はステージ近くに足を進めた。


 すると、前方に見知った集団がこちらを確認すると、彼らはを不敵な顔を浮かべながらこちらに近づいてくる。正直、ウザい。


 その人物は【silberKugel】を組織するリーダーのヴァッツ・シュルツ中尉だった。


 「よ~お。FuckinSucker。調子はいかが~」


 「………はぁ。これは、これはヴァッツ中尉殿。貴方方も()()()()()()()()()()()()わけですか?」


 「生意気な。じゃあ、貴様は何しに来たんだ? まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にでもいるのかな~?」


 「まさか、ヴァンパイアの俺が()()()()()()()()訳ないじゃないですか」


 煽り文句に対し彼の仲間がホルスターに収納されている拳銃に手を伸ばす。が、それをヴァッツは静止させる。


 「止めろ。ここで発砲したら叩き出されるのはこっちだ」


 その言葉に彼の仲間は苦虫を噛んだ表情で俺達を睨み付けてきた。


 「まあいい。だが、ヴァンパイアがこのパーティーで暮らせているのも、俺達人間様のお陰である事を忘れるなよ。じゃないと、いらぬ処で不意打ちに遭うかもよ」


 「ご忠告痛み入る。が、例え誰かの兇弾が俺と佳純を捉えようとも、それをはね除けて見せますので、ご心配なく」


 「ああ言えばこう言う。よく口が回る事で……。まあ、精々頑張りな。化け物」


 「こちらこそ。人間様」


 ヴァッツ達は屈辱そうな面持ちをする。そして、言葉を吐き捨てその場を立ち去るのだった。


 彼ら人間にとって俺達はヴァンパイアウイルスと同義なのだろう。『自分達の家族を殺したヴァンパイアウイルスから変化した者達』だという認識が、畏怖する原動力である。


 で、あるからにして、ヴァンパイアというだけで十分に虐げるだけの理由になる。


 恐らく、ヴァッツは『過激思考派主義者』だ。武力によってヴァンパイアを廃絶せんとする思考者。しかし、このパーティーでは彼らのような物は生きにくいだろう。


 それも、このディアスパーティーがヴァンパイア人権主義を提唱している以上はパーティー内での殺害は殺人罪になる。だからこそ、俺達は安心して発言出来る訳だが、俺がここまで彼らを糾弾するのもパーティーの理念上そうあるべきだと思っているからだ。


 「あの人達は異様に私達(ヴァンパイア)を嫌悪しているよね。本当に。」


 「まあ、彼らの思考も理解できないわけじゃないけどね。ただ単に怖いだけなんだよ。ヴァンパイアの事が……」


 「………?」


 佳純は彼怪訝そうな顔を浮かべた。


 二人は適当な席を選び、隣り合って座る部分を倒し着席する。


 数分間二人はそのままの状態で待機していると、続々とハンター達が座席に着席して行く。その数、二百弱。それだけのハンターが今次作戦に参加するもの、彼らなりの思いがあるのだろう。


 ホール内が薄暗くなるまで照明が落される。すると、保安府大臣のギュルス・デーアンがステージ中央にある演台えと足を進めるとの両淵に両手を置く。そして、一呼吸の後に語り出した。


 「諸君。今回、この場に集まってくれたハンター全てに―――」


 ギュルスの演説はその場のハンター達を奮起させる訓辞だった。こうして、前段階作戦の火蓋は切られたのだった。







 だが、この後起きる絶望は俺を含めてこの場全員が知る由はなかった。


2023/5/28 改変

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