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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
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第十七話 月一恒例のトレーニング 秀一編後編

 「お待たせ。シュウ。美香佐さん」


 そう言い個人部道場に入場したのは佳純だった。シャワーを浴びすっきりした彼女の姿はトレーニングにやって来た時に着用していた私服だ。


 「おぉ、来たか。佳純」


 「遅くなった。それで、何処まで終わっているの?」


 「あぁ、ホログラム戦闘が終了した処だよ。今から美香佐さんとの個人戦」


 俺はこれまでの経緯を簡単に説明する。すると、佳純は納得したのか頷いた。


 「うん。分かった。……じゃあ、私は休憩室で二人の試合を観戦してるね。美香佐さん何か手伝う事はありますか?」


 「いや、大丈夫だよ。ありがとう、佳純。先程の疲れもあるだろう。ゆっくりしているといい」


 「はい。じゃあ、そうしますね」


 美香佐の労いを受けた佳純はニコリとする。そして、休憩室に消えていくのだった。


 佳純の姿がその場から失せると、美香佐は俺に向かって言葉にした。


 「それじゃあ、始めるとするか。秀一よ」


 「あぁ。よろしく頼む」


 そして、室内の中央付近に向かい対面した。


 俺は腰に【悪鬼神火(あっきしんか)】を帯刀させている。一方、美香佐は二メートルくらいある薙刀を所持している。



 美香佐は薙刀の使い手である。彼女の家は如月流薙刀の家元だそうだ。


 幼少期から薙刀の心得があり、全国選手権では優勝出来るだけの実力がある。恐らくだが、Bランク程度のヴァンパイアであれば対等以上の戦力を発揮出来ると推測している。



 この個人部道場では真剣を使用する事が出来る。ただし、刀身に特殊な保護フィルムを貼る事が義務付けられている。


 これで模擬試合の際に起きる事故を未然に防ぐ事が出来るのだ。(ただし、当たるともの凄く痛い。)


 向き合う俺達は互いの力を構えた。双方の殺気がその場の空気を染める。



 そして、激突した。互いが踏み出したのは、ほぼ同時だった。



 最初に攻めたのは美香佐だった。


 薙刀を俺の頭部に向かって突き立てる。咄嗟にその攻撃に対して【悪鬼神火】の刀身で薙刀の刀身を斜め上に逸らした。


 しかし、美香佐はそれを見越したかの様に次の攻撃に転じる。


 斜め上に逸らされ薙刀の刀身をそのまま振り下ろしたのだ。俺はその攻撃もまた受ける事で回避する。二つの刀身がお互いに接触したまま鍔迫り合いを起こした。


 俺と美香佐は少々の鍔迫り合いの後に大きく後方に跳躍した。


 距離を離した処で、今度は俺が攻撃に転じる。【悪鬼神火】を後方に跳躍している間に鞘に収める。そして、着地と同時に鞘から引き抜いた。


 「〈九頭竜院流剣術一ノ型・烈風〉」


 魔力を注ぎ込んだ【悪鬼神火】の刀身には圧縮された空気が纏わり付く。


 その圧縮された空気を俺は横薙ぎし美香佐に向かって撃ち出した。美香佐はその圧縮された空気の弾丸を()()()()()()()()


 「〈如月流薙刀術参ノ型・疾風〉」


 この薙刀術は、〈烈風〉の様に()()()()()()()()()を利用した技だ。


 ヴァンパイアは体内で魔力を生成出来る器官がある。故に他の人間にはない魔力と呼ばれる未知の力が彼らと人間の根本的違いと言ってもいい。


 だが、美香佐はヴァンパイアではない。


 では、なぜ魔力を使う事が出来るのか?


 それは、魔力を生成するコアを持った人間が希に産まれてくる事があるからだ。美香佐もまたその人々の一人である。


 俺が放った攻撃に〈疾風〉で対処する美香佐に俺は次の攻撃を仕掛ける。自分は彼女との距離を詰めた。


 「〈九頭竜院剣術六ノ型・天山〉」


 俺は美香佐との間合いに入ると大きく【悪鬼神火】を振りかぶった。


 〈天山〉とは、刀を振り落とす際の位置エネルギーに魔力で威力を高め加えた打撃技である。


 しかし、脳天に向かって振り下ろされた【悪鬼神火】の刀身は止まられた。


 美香佐は薙刀の柄部に魔力を込める事で、柄部の強度を上げる事で受け止めたのだ。


 「やるな、秀一。日々の精進が生きている証拠だ」


 「美香佐さんもヴァンパイア相手にここまで戦闘出来るのだから相当なもんだ」


 「まあ、それでもギリギリなのだがね。悪いがそろそろ片付けさせてもらうよ」


 軽い会話を終えるとまた跳躍した。距離がある程度離れた処でそれぞれに技を撃ち出した。


 「〈九頭竜院剣術三ノ型・紫電〉」


 「〈如月流薙刀術壱ノ型・電光〉」


 〈紫電〉とは電撃系の技である。


 人間の身体は、電気信号を使って人体を動かしている。


 この攻撃はその身体中から集めた微弱な電気信号を魔力で一定量を取り出し、ある一点に集中させる。


 しかし、これではすぐに霧散してしまう。そこで、魔力をさらに注入させる事で固定させる。


 だが、このままでは威力が低い。


 そこで今度は、魔力の有り方を固定概念から増幅概念に切り替える事により弱い電気を殺傷力がある処まで増幅させるのだ。


 これらの一連を技にするまでには、並大抵の努力では出来ない。一言で言うならばヴァンパイアの上級クラスか魔力が使える人間の一部が修練してやっと使いこなせる様になる。


 そして、美香佐の〈電光〉もまたそれによく似た技である。


 技を撃ち出したのは殆ど同時であった。ぶつかり合う二つの奔流は空気を振動させる。


 そして、ぶつかり合った奔流は爆散し相殺された。


 俺はその瞬間で攻撃に転じた。まだ美香佐は攻撃の反動から回復できていない。その為、今だ次の攻撃体勢に移せていない。


 美香佐との距離を詰め【悪鬼神火】を垂直に構える。そして、彼女に向かって速度を上げて突進する。



 彼の攻撃は、美香佐を貫く―――事はなかった。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 美香佐は、突撃して来る事を予感し薙刀を前方に突き出していた。


 俺は驚愕の面持ちを浮かべる。


 すると、美香佐はニヤリと口元を歪めた。反動のインターバルから完全に脱すると同時に切先同士が鍔迫り合っていた薙刀を真上に振り上げる。その時、俺の【悪鬼神火】も弾かれた。


 そして、美香佐は最後の技に行使した。


 「〈如月流薙刀術弐ノ型・隼〉」


 美香佐は暴風を巻き起こした。


 隼は()()()()()()()()()()()()()


 空気を圧縮してた魔弾である〈烈風〉と異なり、身体の周りにある空気を引き連れて相手の攻撃を相殺する技だ。


 その攻撃に為す術もなく俺は体勢を崩し尻もちを突いてしまった。俺は立ち上がろうとした時、美香佐は覆い被さる様にして薙刀の刀身を自分の首元に突き出した。


 「降参だ。美香佐さん」


 俺は降伏を宣言し【悪鬼神火】の柄から手を放した。美香佐もまた薙刀を首元から放した。


 美香佐は、殺気を緩めて俺から離れる。彼女は薙刀を右手に持ち石突を突いて立つと、空いた左手を自分に翳した。


 俺は美香佐の左手を掴んで立ち上がり【悪鬼神火】を持ち上げ鞘に収めた。


 「なかなか、いい試合が出来たぞ。運動不足にはもってこいだな」


 「あれだけ動けるのが凄い方だよ。美香佐さんは……」


 「まあ、それほどでもあるかな」


 美香佐は笑った。俺は苦笑した。


 「今回は、いける気がしたんだけどな。やっぱり美香佐さんは強いよ」


 「当たり前だ。私を誰だと思っている。と、胸高らかに言いたい処だが、実際ギリギリだったよ。秀一も強くなったな」


 美香佐は俺の頭を背伸びしながら撫でた。それはとても心地よいものだった。


 すると、休憩室で待機していた佳純が()()()を出す。


 「あの……? もう試合って終わった感じですか?」


 「どうした、佳純。顔だけだして」


 「いや、本気で技を出しまくるからビビってるんですよ」


 俺と美香佐は互いに顔を見合わせた。そして、声に出して笑った。


 「えっ! な、何よ。二人して……。第一、殺気満ちた空気の中に放り込まれた私の身にもなってよね」


 「ハハハ……。すまない、佳純。俺達あまりにも集中しすぎたよ」


 佳純はそんな俺達の態度に不貞腐れたのか、頬を膨らませた。


 「も―――! じゃあ、何か奢ってよ。シュウ」


 「そうだな。今日の勝負は私の勝ちだし、夕食は秀一に奢って貰おう」


 「マジですか?」


 俺は咄嗟の要望に困惑した。すると、女性陣はウキウキとし始める。


 「ああ、そうだ。よろしく秀一。……あ! 因みに私はパスタがいい」


 「じゃあ、私ハンバーグ食べたい。大判焼きのやつ」


 「あぁ~。……はいはい、分かりましたよ。じゃあ、行くか」


 と、まあ、そんな感じで今日のトレーニング兼調査は全て終了するのだった。


2023/5/28 改変

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