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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
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第十六話 月一恒例のトレーニング 秀一編前編

 「お疲れ。佳純」


 「……あ、うん。ありがとう。シュウ」


 俺はそう言うと佳純に真っ白なタオルを差し出す。彼女は額に汗を蓄えつつもその表情にはどことなく満足したものだった。


 佳純はタオルを掴もうと俺に近寄る。しかし、そのすんでの所で躊躇するのだった。


 「うん? どうした?」


 「え! いや、だって汗臭いかもしれないし……」


 どうやら佳純は汗の臭いを嗅がれる事を気にしたようだ。だが、そんな彼女の芳香はどことなく俺は落ち着くものがある。


 「いいや。佳純は別に大丈夫だよ」


 「そ、そうかな……?」


 別に俺は佳純の臭いを嗅いで興奮するとか、そんな性癖はない。でも、後方にいる女性はどことなくニマニマとした面持ちで俺達を眺めていた。


 「ま。まあ、何だ。……いい結果だったんじゃないか?」


 「……うん。まあね」


 佳純は微笑みを浮かべながらそう言った。


 現在、俺達がいるのは美香佐が手配したVIPルームに存在している。一応、政治関係者とのコネクションがある為か、彼女にはある程度の権限が付与されているとの事だ。


 まあ、その恩恵を有り難く頂いている俺達に取っては、文句の付けようがないのだがな。


 すると、ソファーに座り俺達を捉えていた美香佐は立ち上がる。そして、俺達の方へとやってくる。


 「お疲れ。佳純。おかげで色々なデータが収集できたよ」


 「うん。ありがとう美香佐さん」


 「しかし、その銃。……【軻遇突智かぐつち】とは、相性がいいみたいだね」


 美香佐は佳純のホルスターに収納されている二丁の拳銃に目を落した。


 「はい。今まで使ってきた銃の中で、一番いい物です」


 佳純はそう言葉にすると、左太股の【夕立】を指でなぞった。彼女の行為には愛おしい物をあやすような雰囲気があった。


 「それで、この後はどうするの?」


 「ああ、予定通り。今度は俺の【悪鬼神火】のデータを取るそうだ。佳純はどうする?」


 「行くよ。……でも、先にシャワーだけ浴びたいわ」


 「了解。じゃあ、その後に個人武道所に来てくれ」


 俺は佳純に伝えると、その場で分かれたのだった。



 * * *



 美香佐は武道所の受付カウンターで個室の訓練場を使用する手続きを終わらせる。そして、互いに更衣室のロッカーの鍵を持ち男女別の更衣室に身体を運ばせた。


 この武道所には、大きく分けて二種類の訓練場がある。


 一つは、総合武道所だ。それは、大勢の人が格安で使用できる場所だ。総合武道所の大きさは、百人が一斉に竹刀や木刀、模造剣を振っても余裕がある大きい施設だ。


 基本的にこの場所は、大人数で使用する為、真剣などの刃物類の持ち込みは禁止されている。


 一方、個人武道所は使用金額も高額で普通は、名の有る剣士や武闘家しか使う事はない。個人武道所は、十人程度が剣や刀などを振るっても邪魔にならない程度の適度な広さがある。


 この場所は、総合武道所とは異なり刃物類の使用が許可されている。そして、特徴としてはもう一つある。


 それは、偽装実地訓練場で実装されているホログラム謄写機が導入されているのだ。これにより、対アンデッドの近接戦闘が疑似体験出来るのだ。


 俺と美香佐は支度を済ませる。そして、指定された個人武道場に向かった。


 到着し計測器設置などの準備を整えると、俺は早速武道場内に侵入した。すると、武道場の様子が監視出来る休憩室からタブレットを片手に美香佐はインカム越しに話しかけてきた。


「それじゃあ、秀一。……これから【悪鬼神火あっきしんか天照大神あまてらすおおみかみ一太刀のひとたち】を使用し疑似戦闘をしてもらう。基本的には、アンデッドを倒してくれるだけで十分だ。分かった?」


 「ああ。了解だ」


 【悪鬼神火】の鯉口辺りを左手で持ち上げ、柄を右手で掴む。右足を少し前に出し身構えた。


 すると、ブザー音が室内に響き渡ると真正面から三体のアンデッドが出現する。


 俺はアンデッドに間合いを詰めさせる。それまで、抜刀しない。俺は一体のアンデッドが間合いに侵入したところで行動した。


 【悪鬼神火】を鞘から引き抜くと、アンデッドの身体を左から右へと薙ぎ払った。


 胴体を真っ二つに切断させるアンデッドはノイズと化して消失する。しかし、俺はそれを見送る事なく次に移る。既にその時には獲物を目で捉えていた。


 両手で【悪鬼神火】の柄を持ち、頭の上まで振りかぶる。左足を少し前に進ませ一気にアンデッドの頭部をスイカを割るかの様に叩き斬った。


 そして、刃紋が右側になる様に構える。刀身が水平から少し斜め上に傾け、三体目のアンデットの頭を跳ね飛ばした。


 これらの一連の動きをものの一分と掛らずに完遂させる。毎朝の鍛錬が生きている証拠だ。



 * * *



 美香佐は、彼の太刀捌きに見惚れつつも握っている【悪鬼神火】と秀一の状態を機器で調査する。そして、データを手元に所持しているタブレットで確認した。


 「………秀一と【悪鬼神火】の相互魔力パス良好。秀一の魔力バイタルも安定。それにしても凄いな。この刀、まるで刀の方から秀一の身体に合わせようとその都度に魔力調整や体力の強化回復をしている。これほどに、完成された【ジュセキ金属兵器】は初めて見る。まあ、これだけの動きが出来るのも秀一だからなのかもしれないけど。さすが、()()()()()()()()()だけはあるわね。()()()とまでは、いかないようだけども……」


 三体のアンデッドを屠った秀一の後方二メートルから更に三体が出現する。


 左足を軸に身体を反転させると両手に持っていた【悪鬼神火】を右腰辺りで斜め下に構える。そして、勢い良く左足を踏み出した。


 駆け出して数歩でアンデットの間合いに入る。斜め下で構えていた【悪鬼神火】をバッティングをするかの様にアンデッドの右腰を切断した。


 次に右足を半歩踏み出し、さっきの振で左まで持って行った【悪鬼神火】を秀一に近づいていた二体目のアンデッドの頭を切先で突き飛ばした。


 三体目が秀一との間合いに入ると、彼は【悪鬼神火】を大きく振りかぶり左足を大股で踏み出し、左足が道場の床と接触すると同時に【悪鬼神火】を振り下ろした。


 三体目も無事に秀一は消失させた。


 六体目のアンデッドを倒すした当時に、秀一の正面から十体のアンデットが現れる。彼はその集団に再度構え、アンデッドの集団に向かって駆けた。


 【悪鬼神火】を右側から左側に横薙ぎした。しかし、その秀一の行動は先行していた一体のアンデッドの首元薄皮一枚すんでで止まった。


 訓練を終了するブザーが部屋に響き渡ったのだ。それと同時に、十体のアンデットは行動を停止させていた。


 すると、美香佐は個室から出て来て個室のドアにもたれ掛かって口を開いた。


 「取り敢えずのデータは収集出来た。一端、停止する」


 合計六体のアンデットを倒したところで美香佐は、【悪鬼神火】の調査を停止させた事を秀一に伝えた。


 秀一は【悪鬼神火】を鞘に収めた。そして、美香佐がいる方向に振り返って言った。


 「分かった。で、どんな感じなんだ?」


 「ああ、来てくれ」


 美香佐は秀一を誘導し個室内に侵入させた。



 * * *



 


 直径一メートルぐらいの丸いテーブルが一つ個室の中心に置かれている。そのテーブルの上には調査機器などが備わっていた。


 すると、美香佐は壁沿いに配置されているソファーに足を組んで座った。


 美香佐は左隣をポンポンと叩く仕草をした。恐らく、ここに座れという意味だろう。


 俺は指示された通りに美香佐の左隣に座る。


 美香佐は、水の入ったペットボトルを手渡すと俺の肩にもたれ掛かって来た。自分は彼女の行為にドキリとしたのだった。


 「み、美香佐さん!? どうかした!?」


 少しうわずった声だった。


 「親子のスキンシップ見たいなものだよ。何? まさか、私を一人の女性として見てくれるのかい?」


 「そんな事。ある訳ない!」


 即答で否定する。それに美香佐はどこかガッカリした様な面持ちをした。しかし、すぐにまたいつもの態度に戻るのだった。


 俺は美香佐から少し離れる。残念そうな顔をしながら彼女は【悪鬼神火】について聴いてきた。


 「秀一は【悪鬼神火】を使ってどう思った?」


 「【悪鬼神火】を使って思った事は、魔力が安定して行使できた事だな。それに、初めて使ったのに使い心地が良かった。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな感じだ」


 「それは、こちらでも確認できた。数値だけで、この刀が君専用の【ジュセキ金属兵器】だと判断できる。でも恐らく、【悪鬼神火】の力はこんなものではないと思う」


 俺は美香佐が言った事に疑問を持ち首をかしげた。


 「と、言うと?」


 「言葉では、表しにくい。でも一言で言うと、この刀―――【悪鬼神火】が()()()()()()()()()()()だという事だ。まあ、実戦じゃないから実際のどのような動きを見せるかまでは分からないけど」


 美香佐はテーブルに置いてある水の入ったペットボトルを掴み、一口煽ると一息つく。俺もまたそれに続きペットボトルの水を煽った。


 「美香佐さん。あの何ですがね。使用時、記憶が見えた様な気がした」


 「記憶?」


 「昔の記憶。俺と佳純には、十年前以降の記憶がない。でも、【悪鬼神火】を振っている時、何だか懐かしい気分になった。そして記憶が断片的に蘇ってくる様なそんな、曖昧な感じで。でも、とても大切な事のような……。何言ってるんだか」


 俺はそんな曖昧な事を口にする。すると、美香佐は左手で自分の頭を引き寄せる。俺はその行動に抵抗しなかった。


 「すまないな。秀一と佳純には心配ばかりかけて。これじゃあ、親失格だ」


 「そんな事ない。確かに俺や佳純との血の繋がりはない。でも俺達は家族じゃないか。それに、美香佐さんが拾ってくれなければ俺達はここにはいない。俺達は感謝してるんだ。美香佐さんに……」


 「……ありがとう」


 そのままの状態で数秒間沈黙していた。


 「よし。じゃあ今日の特訓の続きでもするか。秀一」


 美香佐は俺の頭から手を放しソファーから立ち上がる。そして、【悪鬼神火】の調査の続きに乗り出すのだった。


2023/5/28 改変

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