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進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
14/32

第十三話 月一恒例のトレーニング 佳純編前編

 暦・新暦二千三十七年

 月日・五月二日

 曜日・土曜日

 現在地・トレーニングセンター

 現在時刻・十一時前


 薄雲が漂う今日この日。俺と佳純、美香佐はディアスパーティーの第二区にあるトレーニングセンターに向かっていた。


 第二、三区は娯楽施設やトレーニングセンター等で構成されている。特に今回の目地はディアスパーティー随一の敷地面積を誇る施設だ。敷地内には大型射撃場や模擬戦が出来る市街地や森林などが完備されている。


 本日は月一度の恒例行事として家族皆でトレーニングを行う為に来ている。また、今日に限っては先日届いた武器の試射と試し斬りの為もある。


 日が昇りつつある為か、朝に比べれば暖かい。まあ、それでも予想最高温度は二二度だそうだ。その為、俺達は若干薄着で来ている。しかし、時折吹くそよ風は春の陽気が感じられ心地よい。


 十時半頃に家を出てバスに乗ると二十分程度でこの場所に到着する。電子パスで決済するとバスを降りる。先に下車した美香佐と佳純は隣り合って歩きながら先行していた。俺はその後ろをついて行くのだ。


 「久しぶりに皆とお出かけですね。美香佐さん」


 「そうだな。私は二人の成長が確認出来るから楽しみだ」


 「うん。いっぱい良い所を見せちゃいますよ」


 浮かれる二人の背は親子の様だ。生みの親の顔など俺達は知らない。その為、美香佐は俺達にとっては育ての親でしかない。しかし、彼女から受ける愛情は()()()()()と何の装飾もない。


 俺はそんな後ろ姿を目にし、口元が緩むのが分かった。


 バス停から数分、足を進めて行くとトレーニングセンターの入口が見えてくる。二人がドアに接近すると自動で開閉した。俺達は中に入ると、施設内は空調が効いており快適な空間が提供されていた。


 他の利用者の邪魔にならない所に俺達は固まって集まる。すると、美香佐は今日の予定を確認するのだった。


 「二人に確認する。今日は例日の体力測定も含まれる。だが、武器の試し撃ちや試し斬りもその項目に含まれている。それでいいな? 武器のある程度の測定は終了している。しかし、実際に使用してみなければ最終判断は出来ない。もし危険を感じたら直ぐさま使用を中止する事。分かった?」


 「ああ、大丈夫だ」


 「大丈夫です。危ない事はしません」


 真剣な表情で美香佐は俺と佳純を捉える。そこで、了解の意志を伝えると彼女の面持ちは和らぐのだった。


 「そうか。まあ、二人なら大丈夫だと信じているよ。……それじゃあ、フロントで受付してくる」


 美香佐はそれだけを言葉にすると先行してフロントの方に向かう。フロントで受付を済ませるといったん俺と佳純達は別れ着替えに更衣室に向かった。


 俺はフロントで指定されたロッカーの前でスポーツウェアに着替え貴重品などをしまう。


 その後、【コックノック】を左太股に装着したホルダーに収め【悪鬼神火あっきしんか】を手にするとロッカーの鍵を施錠し更衣室をあとにした。


 俺は休憩所で待機していると数分後、佳純と美香佐の姿を確認した。彼女らもまたスポーツウェアを着用していた


 まあ、しかし二人は中々の美女、美少女な為か他の利用者からは浮ついた目を向けられていた。だが、彼女らは全く臆せずその四肢をひけらかすのだった。


 「シュウ。待った?」


 「いいや。大丈夫だ……」


 「それじゃあ、行こうか。二人とも」


 二人と会話をしていると周囲から向けられる(特に俺に)視線が突き刺さる。また、男衆からは恨みや妬みの様な発言もちらほら聞こえる。それを無視して最初の目的地である大型射撃場に向かうのだった。




              * *




 ヴァンパイアは能力によってランクが決まっている。ランクはSSからEまで存在する。Eが最低ランクでSSが最高ランクとなっている。因みにSSランクのヴァンパイアは()()()()()()()()()()()()()


 能力が高いほど高ランクの照合を与えれている。また、Sランクで七騎士に匹敵する力を持っているとされてる。秀一と佳純は共にAランクである。(Bクラス以上は、平均のCランクまで抑えられている)


 普段、パーティー内で生活するヴァンパイアはその能力に制限をかけられている。


 何故このような措置が適用されたは、ヴァンパイアの暴走を危惧した一部の政治関係者や軍部の()()でディアス代表が当時のヴァンパイア代表団(後の新人類統括府)との話し合いの末に出された()()()である。


 現在は、能力を制限出来る抑制器具が小型化され左腕に装着出来るブレスレット型が流通している。また、一部の区域(トレーニング施設やその付近)やディアスパーティー外ではその制御を解除できる。それ以外で外せば罰せられる事がある。



 大型射撃場はドーム状だ。標準的なドーム球場より少しばかり大きい。その中には、通常の射撃場や狙撃銃用射撃場などの施設が提供されている。


 最初に【種子島式多才銃機構たねがしましきたさいじゅうきこう軻遇突智かぐつち一弓のひとゆみ】のデータを採取するそうだ。


 普段は各自が設定したプログラムを実施している。しかし、今回はかの武器の性能を把握する為、行動を共にしている。


 長い黒髪をポニーテールに纏めると遮音ヘッドホンを装着し、狙撃銃用の射撃レーンの一つに入る。レーンは一つ一つ壁で仕切れている。壁の所々に排出した薬莢が接触した跡が残されていた。(排薬莢は個人で回収するシステムだ)


 ライフルケースから一メートル程度ある狙撃銃に形を変化させた【軻遇突智かぐつち】が収納されていた。それを取り出すと、スコープとバイポッドを取り付る。そして、弾倉を抜き取り六発の弾薬を装填する。そして、装弾する。


 バイポッドを展開しプローンポジション(伏せながら撃つ)で構えスコープをのぞき込む。因みに床は柔らかいのでそこまで苦にならない。


 不思議な感覚だった。銃自身が自分の身体の一部であったかのような。そんな感じがする


 そして、三百メートル先にある人間を模った的をスコープをとおして眺める。


 この銃は魔力を駆使すれば自分の思い通りに形を変化出来ると美香佐はそう言っていた。そこで、最初はボルトアクションで試射する事にした。


 「仕様変更・ボルトアクション」


 そう思考しながら魔力を送る。すると、先程まで存在しなかったコッキングボルトが生成される。


 「すご……」


 その様に一言言葉が漏れる。


 コッキングボルトを操作し弾薬を薬室に装薬する。そして、再度スコープを覗き込む。


 スコープ内の十字の中心が人間を模った的の頭部に照準する。安全装置を解除しグリップを握る右手を一度握り直すと人差し指をトリガーに添える。


 そして、トリガーを絞った。


 ダンッと、銃身の先からマズルフラッシュが閃く。弾道は頭部中心から若干右上を弾着した。


 「チッ。()()()


 空薬莢を排莢し再度ボルト操作で装薬する。スコープ越しに本体を動かし中心から若干左下に照準する。


 ボルトアクション二発目のトリガーを絞る。発砲。着弾。


 初弾の排莢から次弾の着弾まで掛った時間は十秒以下である。無論、今回の着弾点はど真ん中であった。


 次弾で対象を確実に捉えただけでも佳純は十分凄腕だ。しかし、彼女的にはどうしてもそれに不満を覚えたようだ。


 「ふぅ……。まあ、こんなもんか。……次、仕様変更・セミオート」


 一息付く。すると、今度はセミオートに形態を変形させる。相違点としてはコッキングボルトが消失し自動装薬される所ぐらいだ。


 そして、()()()()()()()()()()()


 三度スコープを覗きくと、今度は人間の心臓がある場所に照準しトリガーを絞った。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッと連続で撃つ。それと同時に空薬莢が薬室から吐き出され空を舞う。そして、周りには空薬莢が転がっていくのだった。


 空になったマガジンを外す。スコープで覗き込むと、四発の弾丸が()()()()()心臓のマークを射抜いていた。


 「まずまずかな。でも、初めて使ったのに余り違和感なく撃てた」


 ボルトアクションは単発ずつしか発射できないが命中精度は高い。逆にセミオートの場合は、連続して撃つ事が出来るが命中精度は低くなる。


 しかし、佳純はその欠点を補填出来る技術。そして、何より彼女だけが持つ所有能力があるからこそだ。



 所有能力――“完全空間把握能力”



 これが、佳純の能力だ。


 それは、その言葉通りの能力だ。意識を集中させる事で数キロ先にある()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 ボルトアクション時はこの能力を発動させてはいなかった。しかし、ほぼ連射のようなセミオートの際にはこの能力の一端を使用した事で神業の様な集弾率を叩き出したのだ。


 戦場でこの能力を駆使してアンデットの数や位置を把握している。


 一定のスコアに満足する。そして、【軻遇突智かぐつち】をライフルケースにしまった。すると、狙撃を目撃していた美香佐は接近してきた。


 「見事だったな。佳純」


 「いえいえ、それ程でもありませんよ。でも、ありがとうございます」


 「それで、この後はいつも通り。偽装実地訓練場に向かうのか?」


 ライフルケースを持ちその場に立った。そして、美香佐の顔を捉えるとニコリと微笑みと答えた。


 「はい。いつも通りです」


 「分かった。では、そちらでも記録を取らせてもらうよ」


 「どうぞどうぞ」


 そこで、会話を続けると次の場所に足を運ばせるのだった。

2023/5/28 改変

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