表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
進化し人類の名はヴァンパイア  作者: 夏月コウ
13/32

第十二話 『帝国』司令官達の野望

 暦・新暦二千三十七年

 月日・五月一日

 曜日・金曜日

 現在地・『帝国』軍最前線基地

 現在時刻・十七時三十九分



 空の色が夜闇に溶け込む頃。山中の一画では光が灯り出す。


 そこには、直径一キロメートルにもなる楕円形に広がる空間があった。自然的に形成されたには不自然な空間だ。まるで、重機を使用して整地したかのようだ。


 そして、楕円形の外周にはまだ真新しい二重の有刺鉄線柵で囲まれていた。それには何者をも侵入させないといった確固たる意志が感じられた。


 では、それが守るに価する()()とは何か。それは生物であり、人間の亜種。ヴァンパイア逹だ。そして、()()()()がヴァンパイアである。


 そう、この場に存在するのは『大東洋吸血鬼帝国』軍欧州方面軍最前線基地だ。場所は旧首都ベルネチアを挟んでディアスパーティーから南東。百五十キロメートル地点。


 基地内は綺麗に整えられており兵舎や武器庫などが存在した。また、装甲車や哨戒ヘリなどの近代兵器が一角に並べられている。その物量はテロ組織にしては圧倒的だった。その比は国連軍の一つの基地に匹敵する。


 しかし、ここは『大東洋吸血鬼帝国』軍にとっては一つの基地でしかない。本格的な拠点。つまり、航空機を使用できる拠地は別にある。


 基地には一万人のヴァンパイア兵士が活動している。この数はあくまでも兵士の総数ではあるが、実際に戦闘する兵士はその半分といった所だ。そして、残り半分は基地運営など後方サポート要員である。


 そんな、前線基地に一機の輸送ヘリと二機の護衛戦闘ヘリが太陽を背に接近する。ヘリ群は沈みゆく太陽光で機体をオレンジ色に照らされる。


 そして、その輸送ヘリはHを丸で囲んだヘリポートに着陸するのだった。この輸送ヘリは大型車両も搭載する事の出来るタイプの物だ。


 ヘリの四つの車輪は若干の衝撃を地面に与え静かに着地する。すると、輸送ヘリは後方のハッチを開放させた。


 ハッチが地上に接地した時。一台のエンジンの掛ったジープが格納庫内から走り出す。ハッチを乗り降りると、その車両は基地内になる司令部指揮所に方向を取った。


 走行するジープは数分間の移動で指揮所に辿り着いてしまう。ジープは停車した。


 すると、助手席に同乗していた女性士官がジープから降りる。そして、後部のドアを開放させたのだ。


 「山城少将。目的地に到着しました」


 「ご苦労ですわ。理美達は現状あるまで待機していてくださいまし」


 「はっ! 了解しました」


 山城 皐月少将。【大東洋吸血鬼帝国軍・欧州方面軍・第二司令官】という、とてつもなく長い肩書きを持ち、秀一と佳純に武器を提供した人物だ。まあ、実際は()()からの『渡してこい』との命令だったので部下に持って行かせただけであり。手紙は次いででしかない。


 薄いルビーの瞳は女性士官をしっかりと捉えた。その眼差しには部下を労う様な優しい眼差しだった。すると、女性士官は敬服した様に敬礼して応答するのだった。


 その態度に心底満足したのか、皐月はジープから降り両足で地面を捉えた。そして、司令部指揮所の方向にその深紅の髪を靡かせながら足を進めるのだ。


 その間も女性士官といつの間にか降りていた運転手をしていた士官の二人は、彼女の後ろ姿に対して敬礼を止める事は無かった。


 威風堂々。その様はまさにそれだった。皐月が道行く兵達は皆足を止め、仕事の手を止め彼女に敬礼する。それに対して皐月もまた軽い敬礼で返しつつも前進した。


 『帝国』兵の士気は上々。する戦に負けなし。現状の『帝国』軍は国連軍にもひきを取らない軍隊である。


 その一つの要因として皐月やその他、【十席の将】達の人気も勿論の事だ。が、それだけでなく、する戦で培った技術は百戦錬磨の如く『帝国』兵士の血肉となっているからだ。


 兵士達の敬意と畏怖を背にしつつ皐月は指揮所の入り口に接近する。すると、【皇族親衛隊員】が彼女を確認すると敬礼をしドアを開けるのだった。彼女もまたそんな彼らに他の兵士達同様の行為をして難なく指揮所内に侵入した。


 指揮所は平屋一戸建て程度の大きさだ。入って直ぐそこは、作戦会議などに用いられる場所になっている。複数人で行われる作戦会議の為か広めに作られている。


 そして、それより奥に進んで行くと二つの部屋が隣り合った場所に突き当たる。一つは皐月の部屋だ。


 今回、皐月の用事がある場所はもう一つの部屋。【大東洋吸血鬼帝国軍・欧州方面軍・第一司令官】のネームプレートが掛った部屋だ。


 皐月は一度その部屋の前で立ち止まる。そして、身なりを整えるとドアをノックした。


 「山城 皐月少将ですわ。入れてくださる?」


 「………。入れ」


 「失礼しますわ」


 一刻の間を置き中にいる人物が入室の許可を出す。すると、皐月は一度断りを入れるとドアを開くのだった。


 部屋の内装はシンプルだ。執務机が部屋奥に設置されている。その手前には、革製のソファーが二つ、向かい合いながら置かれていた。また、その間にガラス机があった。


 今、執務机では少年が書類仕事に勤しんでいた。皐月は机から二、三歩離れた位置で正確な敬礼をする。それは、彼女が兵士達にしていた簡易的なモノではない。


 「【大東洋吸血鬼帝国軍・欧州方面軍・第二司令官】山城 皐月少将。旧ポートレル共和国旧首都ワルトワの抵抗勢力の掃討からただいま帰還しましたわ。詳細はこちらに添付されているので、確認してくださいまし」


 皐月は右手に所持している鞄からファイルを抜き出すと少年に差し出す。すると、少年はそれを受け取りその鋭い目付きで確認する。


 彼は名目上皐月の上官であり、【大東洋吸血鬼帝国軍・欧州方面軍・第一司令官】を拝命されている長門ながと たける中将だ。


 すると、そのファイルを机の書類入れに片付けた。


 「ご苦労だったな少将。事前偵察での敵兵数は五千人を超えていた用だが、よく短期間で片付けてくれた」


 「当然結果ですわ。雑多な連中などこのわたくしの力を持ってすれば余裕ですわ。それに優秀な部下もいますし」


 皐月は髪をかきあげると、鼻息を吹かすようにいった。彼女はその一連の行動を経てソファーの一つに腰を下ろすのだった。


 「【帝国の深紅クリムゾン死神リーパー】と、恐れられる事はある。今回も大暴れして部下を困らせたようだな。しかし、あまり将が凸るのは如何な事かな」


 「また、理美の奴。チクったりましたわね」


 「まあ、そう邪険にするなよ。こっちはここ最近のデスクワークで身体が鈍っているんだ。なあ、このあと二人で模擬戦でもしないか?」


 皐月はその問いかけにため息を付く。そして、若干呆れ気味に言った。


 「はぁ……。わたくし達、【十席第五席】と【第六席】が戦ったら、この前線基地が()()()()ますわよ」


 「はぁっ! 違いねぇ」


 空笑いする武だった。


 「それで、前線では何か面白い事でもありまして?」


 「それがな。ディアスパーティーの連中。周りのパーティーの軍隊をかき集めてるようだ。どうやら俺達と相対するようだぞ」


 「まあ、楽しみですわ。今回はそれなりの規模の作戦ではなくて? でも、かき集めの軍隊で何が出来るのかしらね?」


 皐月はその情報を耳にし、今にも小躍りしそうな所を我慢するのだった。


 「出来れば、向こうの態勢が整ってから正々堂々と戦ってみたいものだ。だが、シュベンベルグパーティーが出てくるらしい。あのパーティーを相手にするにはこちらも相当な準備をしなければならなくなる。短期決戦だ。皐月」


 「そうですわね。それで、いつ動くのかしら?」 


 「本体を動かすのは来週の水曜日だ。それまでは威力偵察と陣地構築の為にここの軍で対処する。まあ、案外それで沈めれそうだがな」


 余裕綽々な表情で答える武に皐月は言葉を発した。


 「しかし私達も、やっと東欧州まで来る事が出来ましたわね」


 「ああ。だが、ここから先は激戦になるだろう。現に中東の油田地帯は人間の頑強な抵抗で遅々として進まないと嘆いていたしな」


 「でも、わたくし達は始めてしまった。もう後戻りは出来ませんわ。ならば、勝たねばなりません……」


 自分達【皇族】が始めた『ヴァンパイア解放戦争』。ならば、どうあっても勝利しなければならない。でなければ、人間は俺達を今度こそ滅ぼすだろう。


 武はその様な事を考えつつも口元はニヤつくのだった。


 「そうだな。ならば()()()()()。まずは、シュベンベルグか」


 「はい。その他にも、

 【七騎士の一対】・ブリタニア連合王国のクリスティーナ・エドワード・レパルス将軍。

 【七騎士の二対】・旧フラシウス公国のジャンヌ・ダルク・リシュリュー将軍。

 【七騎士の四対】・旧神聖ロマリア帝国のガリレオ・リットリオ・ヴェネト将軍。

 【七騎士の五対】・旧ネーデルハーグ王国のアレックス・ガレン・プロヴィンシェン将軍。

 【七騎士の六対】・旧イスパニア王国のレオノール・ハイメ・エスパーニャ将軍。

 【七騎士の七対】・旧ヘントブルージュ共和国のレオン・エウレカ・イレジスティブル将軍。

 わたくし達はこれらの脅威を排除しなければなりませんわ」


 【七騎士】は、()()()()と謳う人物達だ。


 「どいつもこいつも、癖者揃いだな。だが、()()()()()()()()()()はないけどな」


 椅子に背を深く預けると再び空笑いをするのだった。


 「まあ、しかし我々欧州戦線だけが大変な訳じゃない。世界各地の戦線では、弟や妹たちが苦戦しているようだしな」


 『大東洋吸血鬼帝国』は、旧大和皇国を中心に北東アジアから東南アジアの一部の地域を完全支配している。また、帝国が進攻している地域は全世界に及んでいる。


 「本土から近い、反抗勢力は、【十席第二席】がサハリン島で戦力を整えていますわ。北米大陸は【十席第七席】がベーリング地峡から大陸沿って南下しながら進攻していますわ。また、南米大陸は【十席第八席】がホーン岬から北上しながら進攻していますわ。オセアニア州に対しては【十席第二席】が進攻してますわ。最後に、アフリカ大陸と中東アジアは【十席第九席】と【第十席】が進攻にあたっていますわ」


 皐月は、今の帝国軍の進行状況を説明する。


 「まあ、他のところは弟と妹達に任せておけばいいさ」


 「そういえば、本土から()()()()()が届いたみたいですわよ」


 「ああ、()()か。そうだな、今度の作戦で使用してみるか」


 「まあ、何であれ。日向兄様――日向第一皇帝陛下が目指す、『ヴァンパイアの解放』と『()()()()』は私達の悲願ですもの。遂行しなけらばなりませんわ」


 悲願を胸に彼らはこれからも邁進する覚悟を再確認するのだった。

2023/5/28 改変

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ