第十話 ジュセキ金属とは……
一悶着あった後、俺と佳純二人は再度準備を整えると、美香佐が朝食を作って待っているリビングを目指した。
階段を下りていきリビングに通じるドアを開ける。すると、テーブルには既に朝食の用意が済まされており、また美香佐もまた着席して優雅にコーヒーを飲みつつ待機していた。
俺達はリビングに進入すると、鞄等をソファーの上に置き所定の位置に付くのだった。
美香佐は俺達が席に着いた事を確認した。そして、佳純に言葉を掛けるのだった。
「やあ、佳純。おはよう」
「おはようございます。美香佐さん」
俺は先程の鍛錬で挨拶したので特に言わなかった。一瞬、美香佐は真面目な表情でそんな自分達を観覧した後、頬を緩めるのだった。
「さあ、冷めるといけない。早速頂こうか」
「? はい。頂きます」
「頂きます」
そんな美香佐の態度に佳純は疑問符を浮かべるのだった。しかし、彼女に対して何か言うでもなく食事を開始するのだった。
俺もまた、その様な感情が生じたが気にしない事にし食事を取るのだった。
美香佐は俺達が食べ始めてから一刻置いて開始した。
「う~ん。美味しい。美香佐さん美味しいです」
「そうか。私も佳純のその顔が見れて嬉しいよ」
佳純はそれはもう美味しそうに食べるのだった。まあ、美味しいのは確かなのだが。
今日の朝食の内容はベーコンエッグに買い置きしてあったクロワッサンが付いている。一番スタンダードな朝食といっても過言ではないだろう。
そんな自分達を見とどめる美香佐の表情は朗らかなものだった。それは、どことなく母親が子供を見る顔のそれだった。
俺達は朝食を数分掛け済ませた。
そして、片付けまで終わる頃にはいつも家を出発している時間の四十分程前まで時間が経過していた。
まだ、少しゆっくりしていても余裕があるな。
片付けを終え再び集う俺達は各々が使用しているカップにジュースやコーヒー等を入れて着席した。
因みに俺と美香佐はコーヒーだが、佳純はオレンジジュースを飲むようだ。
「それで、美香佐さん。昨日持ち帰った武器に関して何か進捗はあったか?」
すると、美香佐はコーヒーを入れているカップを口元までやりそこで一口啜ってから言葉にした。
「あぁ、まあ。多少な」
「それは?」
「………。まず、この話をする事にあたって補足説明をしておかなければならない事がある」
美香佐の神妙な顔に俺達はキョトンとした表情を浮かべるのだ。
「【ジュセキ金属】。この金属の事は特に極秘事項になっているのだが。君達は他人にベラベラと喋ったりしないと見込んで話す事にするよ」
「シュウ。凄い信用されてるね。私達」
「まあ、極秘という事は公言した場合、消されても可笑しくないという事だよね?」
俺の一言を聞いた佳純は若干ビックとするのだった。まあ、仕方ないだろう。
「まあ……。そうなるな。だが、この金属について伝えなければ、話が進まないからね。………。【ジュセキ金属】。それは、別名【ヴァンパイア細胞硬化金属】という。これはここ十年で発見された新種の金属だ」
「「………?」」
「先程も言ったとおりヴァンパイア細胞が硬化して出来た金属。それが、【ジュセキ金属】だ。そして、これはアンデッドの魔力コアのなり損ないが硬化した物である」
そこで、一度美香佐はコーヒーで口内を湿らせてから再び話しだすのだ。
「通常、ヴァンパイアウイルスを接種しそれによって体の変化の際に起きる一つに魔力コアと呼ばれる器官が精製される。そこで、ヴァンパイアになるかアンデッドになるかは別だが。その際、人間がアンデッドに変化した場合、その器官の精製が止まりやがて体内で硬化する」
「でも、ヴァンパイア細胞は全身がそうなるんじゃないの?」
「そうだ。が、それはヴァンパイアになった場合だ。アンデッドは人間の皮膚とそれが混ざり合っている。だから、一部が腐敗してるのにもかかわらず、崩れ落ちないのだよ。まあ、その皮膚から取れる量なんて無いに等しい。だが、純粋に新たに精製される魔力コアは別だ。それは人間が最初から持っている物じゃないからね。だからこそ、硬化するヴァンパイア細胞の割合も高くなる訳だ。因みにヴァンパイアも死ねばこの魔力コアは硬化する」
美香佐は一刻置いた。
「………。まあ、ここからが本題なのだが……。単刀直入にいうと、君達が持ち帰ってきた武器にはこの【ジュセキ金属】が使用されている」
「まあ、これまでの事を聞けばそうなのかなとは思っていたけど」
「フっ……。察しが良いな。……そして、問題なのはこの武器がどういった物かという事だ。……この金属を使用した武器は現存する全ての兵器の中で、最もヴァンパイア細胞を容易に破壊する事が出来る。つまり、アンデッドやヴァンパイアを一撃で殺害出来るという事だ」
「そんな!? まさか!?」
驚愕の余り、俺は思いがけずその場に立ち上がってしまった。それに、佳純はビックとしつつ不安そうな顔をするのだった。
「シュウ。大丈夫……?」
「……ああ。すまない」
「驚くのも無理もない」
冷静になり俺は着席した。そこで、また美香佐は話を続けるのだ。
「問題なのはこの【ジュセキ金属】の特性なのだよ。無論、ヴァンパイア細胞を破壊出来る事は周知の事だと思うが。こいつのもう一つの特徴。それは、ヴァンパイア細胞に反応してヴァンパイア個々人が持つ特殊能力を向上させたり、任意で形態を変化させたりする事が出来るのさ」
「そんな特性もあるのかよ」
「そうだ。そして、【ジュセキ金属】にも二種類あってだが。一つはアンデッド等から精製された【劣化ジュセキ金属】とヴァンパイアの魔力コアを使用して作って【純正ジュセキ金属】の二種類がある。そして、言うに事欠いて二人が持ち帰った武器には後者の金属が使用されている。それも高濃度にな」
つまり、この武器はヴァンパイアが死んだか殺されたかで硬化した魔力コアを用いて作られた物だという事だ。
それを佳純は理解したのか、口元を両手で押さえ苦しそうな表情をした。まあ、無理もない。送られてきた物が同胞同胞を使った武器なのだから。
俺はそんな佳純の背中を摩るのだった。すると、彼女の表情は徐々に回復していった。
「ありがとう。シュウ」
「……ああ」
「大丈夫か? 佳純駄目そうならここで話は終わりにするが……」
「いいえ。大丈夫です。続けてください」
「そうか。……分かった」
美香佐は佳純の体調を気にしつつまた、口を開く。
「二人ともこの武器を提供した人物。山城皐月の事は何処まで覚えている?」
「覚えている? いや。俺も佳純もそんな奴は知らないぞ……?」
「そうか……。………。その人物は恐らく『帝国』の者だ」
そこで、二つ疑問が浮上してくるのだった。
一つ目は何故、ヴァンパイアがヴァンパイアを殺す武器を作っているのか。二つ目は『帝国』の人間が自分達に完全な兵器を提供するのか?
謎が深まるばかりだ。すると、その疑問を佳純は代弁するのだった。
「じゃあ、何故『帝国』は自分達おも殺す武器を作ってるの? それに何故私達にその武器を提供するの?」
「分からない。だが、前者をいえば。それは威厳の象徴の為だろう。『自分はこれだけ強い力を保持しています』とね」
「自己満だな」
「だが、それが周囲には希望になり。活力にもなる事は間違いない」
美香佐はそこまで言うとコーヒーを口に含むのだった。
「最後になるが。現在、国連軍や本パーティーでも【劣化ジュセキ金属】を使用した武器の開発を進めている」
「もの凄い事をしれっというね。美香佐さん。まあ、此所まで聞いているともう驚きもしないがな。……うん? 本パーティー?」
「秀一。良い着眼点だ。……そして、同時に私は君達を裏切っている事にもなる。すまない。私もこの兵器開発に関与している」
「「………!? はあ?」」
正に不意打ちだった。まさか、美香佐がそんな研究をしているなんて……。
「美香佐さん。どうしてですか……?」
「すまない。佳純。研究の一環で軍の援助を受ける事を引き換えに武器製造を手伝っている。君達に誇れる仕事等自分はしてないんだ。でも、信じて欲しい。私の本当の研究の意義は殺戮じゃない。救済なんだ」
「ごめん。言っている意味が分からない」
「すまない。今は多くを話せない。だが、決してヴァンパイア全てを殺したいとか。ましてや大事な二人を殺めたいなど考えもしない」
美香佐の一つ一つの発言には真実みがあった。そして、俺達に信じて欲しいと必死に訴えかけてくる。
「大丈夫です。美香佐さんがそんな事するはずがないもの」
「ありがとう。佳純」
普段クールを装っている美香佐だが、本当に今回ばかりは動揺を隠しきれていない。それを宥めるように佳純は言い寄るのだった。
「すまない。取り乱した」
「もう。さっきから美香佐さん。すまないすまないって言ってばかりだよ」
「フっ……。そうだな。……だが、これだけはいっておく。国連軍や各パーティーの守備軍は『帝国』に対抗する力を欲しがっている。それは『帝国』を構成しているのがヴァンパイアだからだ。
ヴァンパイア細胞は、人間の細胞とは全く違う。人の身体を、形成する細胞は年を重ねるごとに老化していく。しかし、ヴァンパイア細胞は毎秒、老化した細胞を新しい細胞へと修正している。それは、ヴァンパイアの個体差にはよるが、人間では考えられない事だ。そして、そこから推定されるヴァンパイアの推定寿命は、人間の四,五倍だとされている。
つまり、何が言いたいかというと、銃弾を受けて被弾しても致命傷にならない。無論普通の人間は一発でお陀仏だし、ヴァンパイアでも完全な処置を取らなければ死ぬ事もある。それに、頭を撃たれればヴァンパイアでも死ぬ。
でも、それ以外では死ぬ事はない。車に轢かれようが、病気や感染症で死ぬ事もない。まあ、後者に関しては、ヴァンパイアでも風邪のような症状はあるみたいだが。それにヴァンパイアウイルス事態が感染症の一つだからか他の感染症に感染するかも分からない。だから、国連軍や守備軍は他では死なないヴァンパイアを一発で屠る事が出来る兵器を欲するんだ」
カップに入っていたコーヒーの残りを飲み干した美香佐は大詰めの話を開始した。
「【悪鬼神火天照大神ノ一太刀】と【種子島式多才銃機構軻遇突智ノ一弓】は現在も解析中だが、分かった事を話す」
「………」
「まず、【悪鬼神火天照大神ノ一太刀】だが、一見ただの刀だと思うだろうが素晴らしい一品だ。洗練された物だよ。まあ、実際使って見なければ分からないがな。
次に、【種子島式多才銃機構軻遇突智ノ一弓】だが。あくまでも推測なのだがな。この銃は、任意で形態を変化させる事が出来る。それが、銃器であれば何でも。そして、特徴的なところは実体弾や魔弾が撃てるといった所だ。通常のライフル弾やヴァンパイアの魔力コアから精製した魔力弾まで。多種多様に」
そして、美香佐は最後に二人に伝えた。
「そしてこの二つ【悪鬼神火天照大神ノ一太刀】と【種子島式多才銃機構軻遇突智ノ一弓】は二人の細胞と同調してその時のベストパフォーマンスを提供出来る様、調整されているようだ」
「そうですか。ありがとう」
「まあ、この調査の為に若干睡眠の時間を削ってしまっただがね」
「………」
美香佐はほくそ笑むのだった。まあ、先程鍛錬の時にもっと睡眠を取るよう促す説きながら自分のせいで取れなかったらしい。それはすまないと思う次第だ。
俺がばつの悪い顔すると、美香佐はクスリと笑った。その後、彼女は壁に掛かっている時計を見た。そして、戯けたようにいった。
「そろそろ出ないと遅刻するぞ~」
俺達は時計を見て驚愕した。既に登校時間の七時半を超過していた。
「やばい。急げ、佳純。八時には着いていないと遅刻だ」
ある程度、準備が終わっている為慌て無くても良いのだが、こんな時の人間はそうしても焦ってしまうものだ。
急いで支度を整えると俺達は玄関に向かう。そして、美香佐に挨拶するのだ。
「行ってくる」
「美香佐さん。行ってきますね」
「二人とも気を付けて行ってらっしゃい」
挨拶をいい出立する。そんな、二人を見送ると美香佐は既に朝食の片付けは終わっている為、自室に戻るのだった。欠伸をしながら。
「さてと、寝るかな。はわぁ~」
2023/5/28 改変