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焉蒼のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
Ⅱ 紅の好敵手
51/202

  30 -失ったもの-

 前の話のあらすじ

 ソウマとキノエでは勝負にならなかった。

 ソウマはいとも簡単にレオザントを機能停止に追い込み、コックピットを破壊する。……かと思いきや、ソウマはキノエを殺すことができなかった。

 ソウマに拒絶されたキノエは悲観して自殺しようとする。

 ソウマはその自殺を止めようとしたが、それを先に止めたのはアイヴァーだった。

 ソウマはアイヴァーにアカネスミレを交換条件に、もう二度と自分たちに関わらないようにお願いをする。

 アイヴァーはその願いをアウロスに伝える約束をし、アカネスミレとキノエを回収して去った。

 ソウマは後から助けに来たシンギに事情を説明できなかった。

  30 -失ったもの-


 俺がソウマを回収してから2時間後、山岳部隊の基地に3機のアルブレンが空中投下された。

 3機とも全て遠隔操作VFであり、その中にケイレブが操作しているアルブレンも含まれていた。

 ケイレブのアルブレンは相変わらず豪華な外装甲が装備されていて、そのせいで他の2機とは違う種類のVFのようにも見えた。

 俺たちがここで操作指導をしている間、ケイレブはVF用の盾や装甲の開発製造で有名なクライトマンで何かの開発に携わっていたと聞いている。

 今装備している装甲も新製品なのかもしれない。

 ともかく、ベテランのケイレブが来てくれればもう安心だ。

「やっと来たか……。」

 ――この2時間は気が気ではなかった。

 ソウマは“もう敵は来ない”とか何とか言っていたのに、この2時間の間に6機ほどのVFが基地を襲撃してきた。

 俺はその6機に対し、残されたタガンダカンで交戦したのだ。

 防衛システムのお陰で砲撃やミサイルは防げたものの、このタガンダカンで戦うのは骨が折れた。

 最初に基地を襲ってきたVF、重装甲のシクステインを破壊するために多弾倉式のアサルトライフルを使いきり、その後は両手に鋼八雲とグレイシャフトを持って戦いに挑んだため、かなり危ない橋を渡ったように思う。

 もしこの二つの武器がなかったら死んでいたところだ。

 というか、こんなノーマルVFでよく戦えたものだ。

 こんなことになるなら操作指導の時に少しでもタガンダカンに慣れておけばよかった……。

 そうは言っても全ては後の祭りだ。

 基地を死守できたことを素直に喜んでおこう。

 ケイレブ以外の2機のアルブレンは投下と同時に基地周辺に展開し、拠点防衛用のガトリング砲を地面に固定していた。

 これはアクティブシールド付きの高価な機銃で、CEでも5丁しか持っていない代物だ。

 それが2丁あるとなれば、おいそれと敵も攻めてこれないはずだ。

 このまま大人しく領土外に引き下がって欲しいのだが、一度ついてしまった火を消すのは難しそうだ。

 ケイレブは俺が操作しているタガンダカンに近寄ると、いつものように肩をポンポンと叩いてきた。

「ご苦労だったなシンギ。……つい先程インド国境警備隊から正式に依頼があった。次の人員が確保できるまでここの監視はCEが引き受けることになる。迎えが来るまで基地の中で休むといい。」

「おう。そうさせてもらう……。」

 戦闘能力に劣るタガンダカンがいてもケイレブたちの邪魔になるだけだ。

 俺はすぐに進路をハンガーに向け、タガンダカンから降りることにした。

 ハンガーまで移動すると、セルカが出迎えてくれた。

 どうやらハンガーで俺を待っていたようだ。セルカの周囲には数枚の毛布があり、非常食の包装紙が散らばっているのが確認できた。

 てっきりソウマと一緒にいるものと思っていたので、一人きりでハンガーにいることを不思議に思っていた。

 俺はハンガーに入るとすぐにタガンダカンから降り、セルカの元に駆け寄る。

「おい大丈夫かセルカ、怪我してたはずだろ? こんな寒いところで何してんだ。」

「怪我は大丈夫です。ここで待機していないと、シンギさんが装備の換装をするときに困るかもしれないって思ったんです……。」

「余計な心配だっつーの。」

 戦闘中にハンガーに戻る暇なんてない。

 ただ、その心遣いはなんとなく嬉しかった。

 CEの応援も来たことだし、もうこれ以上セルカがこの場にいる理由はない。

「さて、ここはもういいからビルに移動するぞ。」

 俺はソウマの元に移動するべく、セルカの肩を掴んで無理やり回れ右をさせる。

 なんとなく行ったスキンシップだったが、セルカには不適切なやり方だったらしい。

「……っ!!」

 セルカは急に脇を押さえてしゃがみ込み、無言のまま痛がっていた。

 俺は少ししか力を入れたつもりはない。

 それで痛がるということは、つまりセルカは怪我の痛みを我慢していたという事だ。

 俺に心配をかけないようにやせ我慢をしていたのだろう。

 仮にもオペレーターなのだから、こういうことは素直にありのままを報告して欲しいものだ。

 俺はセルカの隣に膝をつき、怪我の状況を確認する。

「ほら、ちゃんと見せろよ。」

「いえ、平気ですから……」

 セルカは脇を押さえた手を外そうとせず、首を左右に振る。

「いいから手をどけろ。」

 俺は問答無用でセルカの服を捲し上げる。

 すると、腹部の側面あたりが紫色になって腫れているのが確認できた。

 白い肌に浮かぶその痣はどう見ても大丈夫な状態ではなく、病院での治療が必要なのは一目瞭然だった。

 軽く触ってみるとセルカは痛かったようで、俺の手から逃れるように身をよじった。

「これ、骨折してるな。まぁ、その痛がり方からすりゃヒビが入ってるぐらいだろ。」

 骨だけで済んでよかった。

 内蔵まで損傷してたらただごとでは済まなかったはずだ。近くに病院もないみたいだし、病院に運ぶまでに死んでいたかもしれない。

 こういう怪我はよく見たことがあるし、慌てる心配もないだろう。

 怪我の具合を見てひと安心していると、セルカが俺に恥ずかしげに訴えてきた。

「も、もういいですから、早く手を離してください……。」

 なぜかセルカの口調は弱々しくなっていて、顔も真っ赤になっていた。

(あー……)

 それを見て、俺は今自分がやっていることを再確認する。

 俺は女の子の服を捲り、肌をあらわにした挙句、その肌に直に触れて感触を確かめている。

 事情を知らない第三者が見れば俺はただの変態である。

「おう、悪かったな。」

 すぐに謝って手を除けると、セルカはそそくさと服を整えて俺から離れた。

 あまりセルカに気まずい思いをさせたくはなかったが、このまま怪我を放置しておけない。

 俺は再びセルカに近寄り、無理やり手を掴んだ。

「ここはもういいから、ビルの4階に行くぞ。そこで迎えが来るまで休んでろ。」

 そのままセルカを引っ張っていこうとしたが、セルカは俺の言葉を無視して別の方向に行こうとする。

「いえ、私はここで待機しています。まだ戦闘中なんですからいつでもVFを受け入れられるようにしておかないと……」

「馬鹿か……。」

 俺はセルカの言い訳を一蹴し、その必要がないことを伝える。

「今この基地を守ってるのは“あの”ケイレブだぞ? CEの中でも飛び抜けて優秀な奴だ。そこら辺のVFの攻撃でどうこうなるわけがないだろ。」

 こうやってケイレブを褒めるのは気が進まないが、セルカを納得させるには致し方ない。

 俺が真剣に話すとセルカは意を汲み取ってくれたのか、妥協案を言い出した。

「それじゃあせめて防衛システムの監視をさせてください。私、役に立ちたいんです。」

 セルカは何かしら手伝いをしたいようだ。

 多分、オペレータとして仕事ができないので、その代わりに違う形で力になりたいのだろう。

 怪我をしているのに健気なことだ。

 立派な心がけだとは思う。

 しかし、俺にとっては余計な心配事を増やすだけであり、逆に迷惑だった。

「別に何もしなくていい、システムの監視は俺が代わりにやっとくから……今は自分のことだけ心配してろ。」

「……はい。」

 セルカの意見を突っぱねると途端にセルカは勢いを失った。

 ようやく俺の言っていることを理解してくれたようだ。

 そのままハンガーから連れだそうとすると、今度は先程までと打って変わって急に謝罪してきた。

「シンギさん、ごめんなさい。」

「いきなりなんだよ。」

 セルカはフードで顔を隠し、俯いたまま謝り続ける。

「本当に私、足手まといで……。あの時素直に帰っていればよかったんですよね。そうしたら私が人質に取られることもなかったですし、山岳部隊の皆さんも死なずに済んで……。」

 言葉の途中でセルカは嗚咽を漏らし始める。

 やはり体だけでなく心にも傷を負っていたみたいだ。

 平気そうに見えたのだが、それは間違いだった。

 キノエに襲撃され、隊員たちが死ぬ様子を目の当たりにして動揺しないほうがおかしい。

「泣くなよめんどくせー。」

 俺が言ったところでセルカが泣き止むことはなく、より一層体を震わせて泣きじゃくり始める。

 俺は人を慰めるのは苦手だ。

 ましてやその相手が女の子となるともうどうしていいか分からない。

 とりあえず俺の考えを伝えてみることにした。

「あのな、お前が足手まといなのは確かだが、こんな事になった元凶はあのキノエって奴だろ? 悪いのはキノエで、お前は悪くない。……誰もお前を責めやしねーよ。」

 そのキノエもソウマが片付けたのだし、死んでいった隊員も満足していることだろう。

「……。」

 セルカは俺の言葉を聞き、静かに頷く。

 まだすすり泣いていたが、もう俺が慰めてやらなくても大丈夫だろう。

「ほら、さっさと4階の部屋まで行くぞ。」

 俺は再度セルカに言い、先にハンガーの出口に向けて歩き出す。

 しかし、それでもまだセルカはついて来ない。

 まだ何か言いたいことがあるのかと思っていると、セルカはいきなり膝を折り、その場に尻餅をついた。

「おい、セルカ!?」

 慌てて駆け寄ると、セルカは恥ずかしげに俺に伝える。

「すみません、安心したらなぜか足に力が入らなくなって……」

 セルカは手で太ももを掴んで立ち上がろうとしていたが、見るからに立ち上がれそうにない。

 おまけに怪我をした脇も痛むのか、顔を苦痛に歪めていた。

 これ以上は見ていられない。

(仕方ねーな……部屋まで運んでやるか……)

 俺はセルカに悪いと思いつつも、許可を貰う事なくさっと抱き上げる。

 セルカは「わっ」という言葉を口にしただけで、特に文句も拒絶の言葉も言わなかった。

 こういうのを“お姫様抱っこ”というのだろうか。

「軽いな……。」

 持ち上げると、咄嗟に思ったことを口にしてしまった。

 背の低さからすれば妥当な重さだということは分かるが、それにしたって軽過ぎる。

 ちゃんと食べているのだろうか……。別の意味で心配だ。

「あ、ありがとうございます。」

 セルカは両腕を胸元に引き寄せ、足も折り曲げ、小さく丸まっていた。

 俺はそんなセルカをしっかりと抱きかかえ、ハンガーを後にした。

 

 

「――後は大丈夫だな?」

「はい、ありがとうございました。」

 4階の部屋の前まで送るつもりだったが、結局俺は部屋の中に入り、ベッドの上までセルカを運んでしまった。

 別に大変というわけではなかったが、隊員の死体が転がっている中を歩くのは結構堪えた。

 セルカは上を向いていたので見ることはなかっただろうが、あの嫌な臭いは鼻に届いていたはずだ。

 どんな反応をしたのかは顔を見なかったので推測できなかった。

 でも、セルカの体が少しだけ強張ったのは腕からの感触で分かった。

 セルカがハンガーに居座ろうとし続けていたのも、こういう理由があったからなのかもしれない。

 とりあえず何ごともなく部屋まで来たのでそれはいいとして、問題はこの基地の安全性についてだった。

 セルカを運んでいる途中で何度か砲撃の音や固定機銃の銃声が聞こえていたし、敵の攻撃は続いているみたいだ。

 援軍が来れば向こうもすぐに撤退すると思っていたのに、これは予想外の展開だ。

 CEが来ても攻撃を止めないとなると、向こうはやる気満々らしい。

 このままだと再び三国間で紛争が勃発しそうだ。

 ……いや、既にもう始まっているのかもしれない。

 間接的とはいえ、そのきっかけを作ってしまったのはあまりいい気分ではなかった。

「それではシンギさん、防衛システムの件よろしくお願いします。」

 ベッドに横たわった状態でセルカは俺に話しかけてきた。

 俺も適当に体を休めるつもりだったが、セルカとの約束を破る訳にはいかない。

「ああ、そうだったな。……じゃあ行ってくる。」

 俺は生返事をし、ベッドから離れて部屋を出る。

 この基地の防衛システムは長い間使われていないと聞いているし、動作も不安定だ。

 セルカの言う通り、もしもの時に備えて監視しておいたほうがいいのは間違いない。

 そんなことを考えながら階下に向かうため階段を降りていくと、下からソウマが現れた。

 ソウマは階段に転がっている死体や血の水たまりを避けながら階段を登ってくる。

 いつも通りのにこやかな表情は健在だったが、顔に疲労の色が見て取れた。

 ソウマをこの基地に送り届けて、そのまま俺は敵と交戦していたので、ソウマがどこで何をしていたのか全く知らない。

 通信室で待機でもしていたのだろうか……。

 それはともかく、あのソウマがただの死体に怯えている様は何だか意外な光景だった。

 ソウマはある程度階段を登ると俺に気がついたようで、小さく手を振っていた。

「やあシンギ、セルカちゃんと一緒じゃなかったのかい?」

 いきなり質問され、俺は挨拶を返す事なくすぐにセルカの状態について伝える。

「セルカなら今は部屋で休んでるぞ。怪我してたからここまで運んでやったんだ。」

「休んでるってことは別に大怪我をしたわけじゃないんだね?」

「ああ、ちょっとした打撲だ。心配しなくて大丈夫だろ。」

 セルカの怪我が軽いことも伝えると、ソウマは胸を撫で下ろしたようだった。

「そうかい。……2階でシンギがセルカちゃんを抱えているのを見かけてね、もしかしたらと思って後を追ってきたんだけれど……大したことないなら良かったよ。安心した。」

 ソウマは階段の手すりに両手をつき、大きく息を吐く。

 その真下には事切れた隊員の死体があった。

 ソウマはその首から上がない死体を見つめながら辛そうに話す。

「それにしても2人ともすごいね……。シンギもセルカちゃんもあの死体の山を見ても全然平気みたいだ。僕なんかここに来るまでに3回くらい気を失いかけたよ……。」

 ソウマからそんな言葉を聞くとは思ってもなかった。

 こんなことで“すごい”と言われてもどう反応すればいいかわからない。

 俺は若干動揺しつつ、ソウマに受け答える。

「まぁ、俺は昔から見慣れてるからな。……セルカは平気そうに見えてだいぶ参ってると思うぞ。あと、気分悪くなるのは別に変なことじゃねーだろ、そういう反応するのが普通だ。」

 ソウマは相当参っているようで、更にネガティブな言葉を続ける。

「僕は駄目だね。やっぱり命の駆け引きには向いてないみたいだよ。……正直、傭兵って仕事を舐めてたよ。ごめん。」

「何謝ってんだ……。誰だって最初はそんなもんだし、続けてりゃすぐ慣れる。」

「いや、もうゴメンだね。僕に戦争は無理だ……。」

 ソウマはそう告げると手摺から手を離し、階段に腰掛ける。

 本気で凹んでいる様は見ていて気の毒だったが、変に同情してやるのも何か嫌だ。

 数秒間色々と考えた挙句、逆に俺はソウマを誂うことにした。

「おーおー、あの無敗のランナーのソウマ様が弱音吐いてるぞ。情けねーな。」

 言ってみるとこれはこれで何だか楽しい。

 あのソウマがげんなりしている様子を見るのは初めてのことだし、普段だと何をやっても敵わないので、こういう時くらい苛めたっていいだろう。

(……情けないのは俺の方じゃねーか……。)

 すぐに自分の愚かさに気付き反省していると、ようやくソウマが反応した。

「本当に情けない男だよ。僕は……。」

 ソウマは頭を抱え、言葉を続ける。

「僕があの時キノエの提案を素直に聞き入れていれば、こんなにも大勢の死者を出すことも無かったんだ。セルカちゃんだって、怪我をせずに済んだ。……“ただの操作指導だから”って、甘い考えで作戦に参加したことを後悔してるよ。」

「……。」

 キノエからの提案について少し気になったが、このままソウマの愚痴を聞き続けるつもりはない。

 いつまでもウジウジしているのを見ていると俺にまで伝播してきそうだったので、ソウマに簡単な仕事を頼むことにした。

「そういう話はいいから。セルカの面倒見てやれよ。お前が看てやればあいつも安心するだろ。」

 何かしら作業をしていれば気も紛れるというものだ。

 俺がセルカの看護を依頼すると、ソウマは顔を上げてこちらに振り向く。

「そうかい? 最近の様子を見る限り、僕よりもシンギの方が適任だと思うんだけれど。」

 真顔で冗談を言われるとすごく腹が立つ。

 俺は背後から無理矢理ソウマを立たせ、4階へ連れて行く。

「冗談はいいからさっさと行け。俺は防衛システムを監視してるからな。」

 防衛システムが停止すれば冗談では済まされないのだ。

 こんなことをしている場合ではない。

 俺はソウマを4階に押し上げて2階に向かう……つもりだったが、ふとあることを思い出し、再び4階に戻る。

 “あること”とはアカネスミレの行方についてだった。

「あれシンギ、やっぱり君がセルカちゃんの面倒を……」

 俺はセルカの部屋の前に立っているソウマに対し、単刀直入に質問する。

「アカネスミレがどうなったかまだ聞いてねーぞ。教えろよ。」

「アカネスミレは渓谷に落ちて壊れちゃったよ。多分バラバラになって回収も不可能だろうね。」

「マジか……」

 確かにキノエは強いランナーだった。

 操作していたレオザントの性能もかなり高い。

 しかし、ソウマが操作するアカネスミレが手こずる相手ではない。

 俺はソウマから話を聞いてもそれが本当だとは思えなかった。

 ……もしかして、嘘を付いているのではないだろうか。

 ソウマは力なく笑いながら状況の説明を再開させる。

「あの後色々とあってね、生き延びるためにはアカネスミレを捨てざるを得なかったのさ。はは……VFランナー失格だね。」

(絶対嘘だな……。)

 ソウマはVFの操作に関して、VFでの戦闘に関しては最強の男だ。

 そんなソウマがちょっとやそっとの事でアカネスミレを乗り捨てるなんてのは有り得ない。

 何か言いたくない事実があるのが見え見えだった。

 大体、ソウマがレオザントのコックピットにいたのも今考えるとおかしな状況だ。

 ……だからと言って、わざわざ詮索するつもりもない。

 今重要なのは“キノエに勝ったかどうか”だ。

「何があったのかまでは聞かねーけど、キノエには勝ったんだよな?」

 キノエを倒したという話まで嘘だと今後も大変なことになる。取り逃がしたとなれば冗談では済まされない。

 俺の質問に対し、ソウマは何時にもなく真剣な表情を見せた。

「――ああ、僕が勝ったよ。」

「それは本当に……」

「間違いなく殺したよ。間違いなくね。」

 俺の確認の言葉を遮り、ソウマは力強く返答する。

 ここで問い詰めたところで嘘か本当か確認のしようもないし、ソウマの言うことを信じておこう。

 それに、ソウマが負けるはずがないことは俺もよく分かっている。

 これ以上質問するのはやめることにした。

「そうか……だったら問題ねーよ。初めてにしてはよくやったな『無敗のランナー』さん。」

 俺が話を終わらせてる勝利を称えると、ソウマは笑顔で応えた。

「ありがとう、シンギに褒められるとなんだかこう変な感じがするね。」

 そんな感じで部屋の前でソウマと話していると、中からセルカの声が聞こえてきた。

「シンギさん、そこにいるんですよね? ちょっと着替えるのを手伝ってもらえませんか。痛くて腕が上がらなくて……」

 セルカの突拍子もないセリフに対し、俺はドア越しにセルカに言い返す。

「ソウマに頼めよ。今ちょうどここにいるぞ。」

「いえ、あの、ソウマさんに見られるのは恥ずかしいので……」

(どういうことだよ……。)

 俺になら見られても恥ずかしくないという事だろうか。

 何だか釈然としなかったが、怪我人の要求を無視することはできない。

(仕方ねーなぁ……)

 俺は防衛システムの監視をソウマに任せると、再度セルカの部屋の中に入った。


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