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焉蒼のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
Ⅰ 安全な戦争
5/202

  4  -七宮宗生-

 補足情報003

 この時代において携帯端末が果たす役割はとても大きい。

 情報収集からショッピング、娯楽に至るまで携帯端末がカバーしており、特に先進国などでは幼い頃から高額の携帯端末を所持するのが当たり前になってきている。

 ただ、シンギはそうでもないようだ。

  4  -七宮宗生-


 ――機内ではとんでもない話を聞かされた。

 絶対に誤解か何かと思っていたのに、スーツ姿の男の話にはかなりの説得力があった。

(俺が9番目の御曹司ねぇ……)

 機内で3時間に渡り聞かされた話を要約するとこうだ。

 ……三代目社長の七宮宗生は、死後数年間に渡り、会社の経営を仮想人格プログラムに任せていた。それがつい最近になって判明したため、急遽後任者を決めることになったらしい。

 後任者の選定と平行して、七宮宗生の財産分与も行われることになった。

 その時に多くの秘密が暴露され、9人もの子供がいる事が判明したのだ。

 ……とは言え、別に七宮宗生が絶倫だったというわけではないらしい。その9名は全て精子バンクを利用して生まれた子供だったからだ。

 遺伝的な繋がりがあるだけで、直接的な関係はないとのことだ。

 七宮宗生が自らの遺伝情報をバンクに登録したのは、当時の七宮の妻が七宮宗生との直接的な性交渉を望まなかったかららしい。

 登録された精子を使い、人工授精によって跡継ぎが生まれるはずだった。

 ……が、その妻は子供を無理やり出産させられる事に反発し、どこかへ消えてしまった。

 彼女は消息不明で連絡もつかない。生きていても120歳を越えているので死んだと判断されているようだ。

 本来ならそこで七宮宗生の遺伝情報は登録抹消されるはずだった。

 しかし、バンク側の手違いによって処分されなかった。その後、凍結された精子は長年にわたって保管され、他の精子と同じように使用されることになる。

 基本的に情報開示されないので、七宮側も確認の取りようが無かったらしい。

 とにかく、死亡後に開示された情報によれば精子は14回ほど利用され、そのうち出産に至ったのは9名。内4名は消息不明で3名は事故や病気で他界が確認されている。

 残りの2名のうち1名は『稲住愛里いなずみあいり』というそこそこ名の知れた女性のスポーツ選手だ。

 俺は彼女を知らないが、有名な大会で優勝してるらしい。

 そして最後に出生したのが俺、シンギ・テイルマイトだ。

 つまり、この世に七宮宗生の遺伝情報を持つ人間は、俺とその稲住愛里という女だけということになる。

 確かに俺は親とは全く似ていない。もともと生まれがスラムなのであまり生みの親には関心を持っていないが、アジア系の人種がほとんどいない場所で生まれた俺がアジア系の顔立ちをしているというのは珍しい。

 どうして貧乏な俺の親が莫大な費用がかかる精子バンクのお世話になれたのかは予想もつかない。その親もとっくの昔に死んでいるので、経緯を確かめるのは不可能だ。

 でも、七宮宗生の精子を利用して生まれたというのは間違いなさそうだ。

 大して鍛えたりしてないのに妙に喧嘩も強かったし、おかげでスラムではナメられずに過ごすことができた。バイクだったり車だったり銃器までも難なく自在に扱えたし、初めてシミュレーションゲームで遊んだ時も驚くほど簡単に操作できた。

 頭はあまり良くないので何とも言えないが、取り敢えず最強のランナーである七宮宗生の血を受け継いでいるのは紛うことなき真実らしい。

 それに、機内で七宮宗生の若いころの写真を見せられて納得してしまった。鋭い目付きや口元、そしてシャープな輪郭がそっくりなのだ。

 違う所といえば、硬い髪質や口元から覗く八重歯くらいなものだ。

 それ以外はまさに七宮宗生そのものだ。もはや生き写しと言ってもいい。

 こうなると声も似ていたのではないかと思ってしまう……。

 とにかく、そんな長い説明もあって俺はスーツ姿の男の話を全面的に信用した。

 長い飛行を終えて飛行機から降りた今は七宮重工の本社ビルに向かう車の中にいる。

 本社ビルは都心部ではなく郊外にあるらしく、窓からは緑の木々や小さな山、そして田園風景が広がる様が見えていた。

 極東の国の景色を興味深く眺めていると、同席していたスーツ姿の男が声を掛けてきた。

「あんな話を聞かされた後ですのに、随分と冷静なのですね。つい先日、稲住様に同じような事をお伝えした時もテイルマイト様と同じく冷静に対応されていました。やはりお二人とも三代目社長に似て堂々としていらっしゃいます」

「そんなことないって、これでも十分驚いてる。……でも確かに、驚くよりも納得のほうが強い感じなんだよな」

「納得と言いますと?」

「もちろんVFランナーのことだよ」

 VFのことを口にすると、スーツ姿の男は頭を大きく上下にふる。

「そうですね。あのCE社でランナーをやっておられるのですから、血は争えないということでしょうか」

 全くもってこの男の言う通りだ。

 生まれてこのかたVFなんて物に興味どころか関心すら無かったのに、いつの間にかVFを操作して戦争に参加している。偶然が重なってここまで来たとはいえ、こうなると運命と言ってもいいのかもしれない。

 その後しばらく景色を眺めていると、背の高い巨大なビルが見えてきた。

 郊外の広い敷地内にどんと構えているそのビル壁面には七宮重工のシンボルマークのオブジェがくっついていた。

「でかいな……」

 ビルを見て思わず口からそんな言葉を漏らすと、すぐにスーツ姿の男が反応した。

「はい、日本企業の中では5本の指に入るほどのトップ企業ですから」

「そうだよなぁ……」

 七宮重工はVFの他にも、VF開発で培われた技術を応用して色々な分野で業績を上げているとも聞いたことがある。VFだけ作ってても十分過ぎるほど利益を上げているのに、とことん貪欲な企業だ。

 そんな事を思っている間に車はビルの駐車場へと入っていく。

 駐車場で降りるとそのまま屋内に案内され、最終的にシンギは個室に案内された。

 ゲストルームのようだ。広い室内には大きなベッドが置かれていた。

 ベッドの上には堅苦しそうなフォーマルスーツが乗っかっている。

 スーツ姿の男は、ベッドの上からフォーマルスーツを取り、こちらに手渡す。

 それを両手で受け取ると、スーツ姿の男は改めて今後の予定を教えてくれた。

「シンギ・テイルマイト様、あなたにはこれから本社の会議室にて三代目社長の後継者決定会議に参加して頂きます。もうしばらく経ちましたらお呼びしますので、それまでにお着替えください」

 いきなり後継者だの何だの言われても納得できない。

 シンギは自分の意見を伝えるべく、ゲストルームから出て行こうとした男を呼び止めた。

「ちょっと待て、後継者とか俺には無理だから。つーか、わざわざ三代目の子供を四代目社長にしなくてもいいだろ。そういうのは役員会とか株主なんたらとかで勝手に決めろよ」

 こんな知らない国で大企業の社長になるつもりはない。

 経営のいろはも知らない俺が社長になったところで会社を傾けるだけだ。

 辞退するつもりで話しかけたのだが、スーツ姿の男は論点をずらしてきた。

「……三代目社長の遺産の分与についても話し合いが行われます。相続について色々とご説明がありますので、是非とも参加していただきたいのですが……」

(そういや、遺産のことをすっかり忘れてたな……)

 大企業の社長の遺産となればその額は莫大に違いない。

 社長に選ばれたとしてもソッコーでバックレれば自動的に違う奴が社長になるだろうし、遺産さえ貰えればCE社に対しての借金も全額返済できる。

 それに、額によっては一生遊んで暮らせるかもしれない。

「分かった。着替えればいいんだな?」

 迷わずに承諾すると、スーツ姿の男は大きく頷いた。

「はい、それではまた後ほど失礼します」

 そして部屋のドアを開け、そそくさとゲストルームから出ていってしまった。 

 部屋の中に取り残されたシンギは早速スーツに着替えるべく、まずは自分の服を脱ぐことにした。

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