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焉蒼のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
Ⅱ 紅の好敵手
43/202

  22 -再確認-

 前の話のあらすじ

 基地に来た翌日から訓練が開始され、シンギとソウマは模擬戦闘訓練を行うことにした。

 しかし、ソウマは基地から離れた場所でシンギと手合わせをしたいと言い出す。

 シンギは仕方なくそれに応じたが、大きな音を立ててしまい、山岳部隊のVFに発見されてしまった。


  22 -再確認-


 手筈通りに事は運び、俺は裏側から基地内部に侵入していた。

「おいどうなってんだ。こっち側ガラガラじゃねーか。」

 どうやら4機ともが囮のアカネスミレに集中砲火しているみたいだ。

 俺の存在を忘れているのだろうかと心配になってくる。

 ちなみに、今回の訓練では基地の中央にあるフラッグを手にすればこちら側の勝利となる。

 一応1機ずつ相手をするという方針なので旗を取る気はないが、こうもガラガラだと呆れを通り越して悲しくなってくる。

 最低でも1機くらいは旗の周辺にいるべきではないのだろうか。

 俺とは違ってソウマは4機を相手に戦うのが楽しいらしく、たまに通信機から笑い声が漏れてきていた。

「攻撃の連携は取れてるけれどタガンダカンの性能が低すぎるね。反動のせいで全く照準が安定してないみたいだよ。」

 既に4機は基地から離れており、扇状にアカネスミレを包囲して容赦なく銃弾を浴びせている。

 アカネスミレはその銃弾を巧みに回避し続けていた。

 1機あたり2丁のアサルトライフルを持っているので、合計で8つの銃口がアカネスミレを狙っているわけだが、そのどれもが一度足りともアカネスミレを捉えられていなかった。

 旗の隣に立ってその様子を遠くから眺めていると、自然とため息混じりのセリフが出てきた。

「……よくこれで防衛できるなんて言えたよな。」

「僕もそう思うよ。この分だとハイエンドクラスのVFが1機でも投入されたら守り抜くのは難しいだろうね。」

 俺やソウマが強すぎるというのもあるだろう。

 しかし、あの程度ならばCEのランナーであればほとんど実現可能だ。

 もし、相手国がCEのようなVFランナーの傭兵を雇えばこんな基地などあっという間に瓦解してしまう。

「性能いいVFを揃えりゃ何とかなるんだろうが、高いVFは買えそうにないしな……。」

 できれば機動力の高い二脚型VFを導入して欲しい。だが、四脚型でなければ険しい場所を移動できないみたいだし、それを望むのは無理だ。

 せめて硬い装甲とアサルトライフルの射撃反動を抑えられる高出力のアームに換装するべきだ。そうすれば多少なりともマシになるだろう。

 今後のVFの事を考えていると、不意に銃声が止んだ。

 どうやら4機ともほとんど同時に弾切れを起こしたようで、アサルトライフルを持ったままバツが悪そうに後退していた。

 飛び道具が無くなったのだから、後は直接攻撃するしかない。

 ところが、前方にいる4機からは戦意というものが全く感じられなかった。

 確かタガンダカンにはVF用のナイフが装備されているはずなのだが、1機としてナイフを手にとってはいない。

「情けねぇなぁ……」

 こんな情けない有様を考えると、高度な格闘戦など夢のまた夢だ。

 操作指導という言葉を聞いて変に構えていた俺が馬鹿に思える。

 そんな俺の思考を読んだのか、ソウマは前向きに発言する。

「だからこそ教え甲斐があるってことさ。……僕への対応は間違いってわけでもないし、防衛プランも決めていたみたいだし、それなりの意欲はあるみたいだよ。」

 意欲があっても戦意がなければ意味が無い。

 死ぬ心配のない模擬戦闘なのだから、失敗する覚悟でアカネスミレに突撃くらいすればいいのに、何を恐れることがあるのだろうか。

 ……とは言え、あれだけの弾丸を浴びせて全く無傷のアカネスミレを見れば、戦意を喪失しても仕方がないのかもしれない。

「……じゃ、もう終わらせるぞ。これ以上やったって意味ねーだろうし。」

「そうだね。」

 ソウマの返事を聞くやいなや俺は基地の中央にあるフラッグを手に取った。



「――シンギさん、トレイ運ぶの手伝って貰えませんか?」

「おう、分かった。」

 山岳部隊基地本部ビル、その3階にある食堂は大いに賑わっていた。

 狭い食堂はほとんど満員状態で、昼食を食べに来た隊員で溢れかえっている。

 元々ここにいる兵士の数は少ないのだが、狭い部屋に集まると大勢いるように見えるから不思議だ。

 現在俺はセルカに頼まれて昼食が載ったトレイを運んでいる。

 トレイの上には6つほど深皿が配置されていて、その中にはビーンズカレーがなみなみと入っていた。

 既にテーブルの上には無数のナンがあるので、それと一緒に食べるのだろう。

 俺が向かうテーブルには5人の男が座っていて、何やら話し込んでいる。

 それはソウマとカルティカと3名のVFランナーであり、話の内容は先程の模擬戦闘訓練についてだった。

 俺も最初は会話に参加していたのだが、暫くすると専門的な言葉が色々と出てきたので話から抜け出したというわけである。

 そのテーブルに俺がトレイを置くと話は中断された。

 全員腹が空いているようで、その視線はビーンズカレーに向けられている。

 俺はトレイをテーブルの中央にスライドさせ、開いている椅子に座ってVFランナー達にきつい言葉を送った。

「……お前ら下手すぎるだろ。大体最後のあれは何だ? 弾が切れたんなら玉砕覚悟で敵に突撃しろよ。運がよけりゃ相打ちできるかもしれねーぞ。」

 半分呆れ口調で言うと、カルティカを含めた4名は気まずそうに俯いてしまった。

 それをフォローするようにソウマが話し始める。

「まぁまぁ仕方ないさ。実戦経験も無ければ訓練できる環境も整ってない。何だかんだ言ってVFの運用は大変だからね。……むしろ僕達のほうが経験し過ぎてるだけだと思うよ。CEのエンジニアにしろ京姉にしろ、あそこまで優秀な整備スタッフはそうそういないからね。」

「そうなのか。」

「そうだよ。あと、みんなに乱暴な言葉遣いをするのは良くないね。僕らの目的はVFの戦力増強なんだ。ダメ出しするだけじゃなくて、改善策もきちんと講じていかないと。」

「わかってるっつーの……」

 悔しいがソウマの言っていることは正しい。

 きちんと指導をして、間違いを潰していくのが俺たちの今回の仕事だ。適当に悪い点を言っているだけでは全く意味が無いのだ。

 話をソウマに任せて腕を組んで座っていると、お茶が入ったカップが目の前に置かれた。

 それを持ってきたのはセルカだ。

 セルカは他の人にもカップを配りながら何気なく言う。

「シンギさん、ソウマさんと一緒に上手くやれてるみたいですね。今はなんだかパートナーって感じがします。会った時とは大違いですね。」

「そうだね。あの頃よりはだいぶ仲良くなったかな。」

(仲良く……?)

 俺はお茶を啜りながらソウマとのことを考える。

 ソウマとは仲良くなったつもりはないが、周りからはそう見えているみたいだ。

 良く思い返せば普通に話もしているし、長い時間行動を共にしている。

 こんなに特定のランナーと一緒にいるのはケイレブ以来かもしれない。

 しかもソウマはケイレブよりも、そして俺よりも強い。

 これではまるで俺がソウマに付き従っているようではないか……。

 朝のハンガーでもカルティカには“ソウマの助手”だなんて紹介されてしまったし、明らかにみんな俺を格下だと認識している。

 VFBの王者であるソウマを前にすれば誰だって格下になるのは当たり前だ。

 しかし、俺はその事実を簡単に受け入れるつもりはなかった。

 そもそも仲良くするつもりもない。

 ソウマは未だに俺の敵だ。ソウマを負かすことが当面の目標なのだ。

 それなのに、その相手と一緒に仕事をして、あまつさえ稽古まで付けてもらっている。

 敵にアドバイスをもらった事実に今さら気付き、俺は自分のことが猛烈に情けなくなった。

「……仲良くなんてねーよ!!」

 俺は大声でセルカの言葉を完全に否定する。

 もう一秒足りともソウマとは話さないし、話し掛けられても徹底的に無視だ。

 ここ最近の俺はどうかしてた。

 数カ月前の俺なら負けたことを根に持ってソウマと行動を共にしなかったはずだ。そのくらい闘争心に満ち溢れていたはずだ。

 それなのに、今の俺は負けたことも忘れて、薄ら笑いをいつも浮かべているような奴と一緒にいる。

 このままでは駄目だ。

 最強のランナーを目指すためにも、ソウマは敵だと認識しておかねばならない。

 大声を出した後、俺はお茶の入ったカップをテーブルに叩きつけ、席を離れる。

「……。」

 そして何も言うことなく、ビルの4階にあるゲストルームへ向かう。

 食堂にいた全員が俺を黙って見ており、誰一人として声をかける人間はいなかった。


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