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焉蒼のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
Ⅰ 安全な戦争
19/202

  18 -戦争の傷跡-

 補足情報017

 一見、非道な殺し合いが行われているように思える戦場にもルールは存在する。

 それを無視することが多くなれば、戦火も加速度的に増加していくだろう。


  18 -戦争の傷跡-


 ――国際治安支援部隊カンダハル基地。

 アイヴァーのHEATミサイルの雨によって壊滅状態だったこの基地も、1時間後に到着した援軍のお陰で基地の体裁を取り戻しつつあった。

 真っ先にアクティブ防弾システムが修理され、今は怪我人の救助が行われている。

 一番早く到着したケイレブも、今はアルブレンを操作してVFの残骸を回収する作業を行なっていた。ケイレブは武装勢力と戦闘する気満々で、多くの兵装を携えて降下してきたのだが、その兵装は今は取り外されて基地の隅に積み上げられている。

 他にもアルブレンが二機ほど援軍として派遣されてきて、その二体は現在市街地でパトロール中だ。

 残存兵力が無いかどうかの捜索も兼ねているらしいので、しばらくしたら俺も駆り出される可能性が高い。リアトリスは他のVFとは違ってほとんど無傷だったからだ。

 あれだけ戦闘して、自爆の際の爆風も受けたのに破損場所がアイカメラ2つだけだというのは奇跡に近い。

 しばらくリアトリスを操作してVFの残骸を片付ける手伝いをしていると、ケイレブが操作していたアルブレンの残骸を見つけた。

 俺はそれを眺めながらケイレブに話しかける。

「なあケイレブ、アルブレンを完璧に破壊されたのって今回が初めてじゃねーか?」

 あのケイレブのことだ。平静そうに見えて内心ではかなり悔しがっているに違いない。

 しかし、返ってきた返事は悔しいと言うよりも諦めに近い口調だった。

「いや、これで2回目だ。……しかし、あそこまで完全な不意打ちだとどうしようもない。味方から撃たれるなんて想定していなかったからな。」

「……ま、そりゃそうだ。」

 俺だってアイヴァーが話しかけてくれなかったら回避できていたかどうか怪しい。

 それに、セルカが写真撮影という余計な事をしてくれたお陰で、結果としてフォルンセイルから離れた場所に移動できたわけだし、運が良かったとも言える。

 今度はケイレブが俺に訊いてきた。

「あの後どうなったんだ。フォルンセイルをどうやって破壊したんだ?」

「一応セルカに聞いただろ。それに、どうせUAVの映像がウォーノーツで配信される。それを見りゃ分かることだ。」

 そう答えた俺だったが、実際俺もUAVの映像を改めて見たい気持ちはあった。

 あんな高速弾を回避したり、あまつさえ刀身で受け止めたのが未だに信じられない。

「そんな事言わずに教えてくれよ。シンギ。」

 断ったというのにケイレブはしつこく俺に要求してくる。

 ここまでケイレブにお願いされるのも悪い気はしない。

「仕方ねーな……。」

 俺はあまり説明は上手い方ではないので不安だったが、とにかく順を追って説明してやることにした。

 ――作業を進めながら説明すること20分。

 アイヴァーが元々基地内からフォルンセイルを操作していたことを教えると、ケイレブはアルブレンの頭部を上下に動かして大袈裟なリアクションを取った。

「そうか、アイヴァーも遠隔操作していたのか……。」

 そう言って感慨深げな反応を見せた後、ケイレブは俺の説明を短くまとめる。

「……つまり、アイヴァーは支援部隊のVFや武装勢力の奴らに殺されることを予見して安全な基地内部から操作していた。だが、作戦が思いのほかうまくいって、武装勢力の戦力も予想以下だったため、フォルンセイルは破壊されなかった。だから、シンギを使ってフォルンセイルを有効利用したのかもしれないな。」

「有効利用?」

「そうだ。自爆したことを考えると、元々フォルンセイルは使い捨てにするつもりだったと考えていい。玉砕覚悟ならシンギを倒せると踏んでいたんだろう。……それに、わざわざダムまでおびき寄せたのもシンギを基地から遠ざけるためだ。遠ざかれば遠ざかるほどアイヴァーが基地から逃げる余裕が増えるからな。」

「それは確かにそうだな。」

 普通に考えればケイレブの予想も納得できる。しかし、アイヴァーは「俺がいるからこの依頼を受けた」なんて言っていたし、遠隔操作をしていたのも俺の実力を恐れてのことかもしれない。

 そう考えると完全にアイヴァーを打ち負かしたように思えて、とても気分が良かった。

 気分よく片付け作業をしていると、不意にケイレブのアルブレンが腕を持ち上げ、ある一点を指さした。

「シンギ、お前にお客さんだぞ。」

「ん?」

 視線を誘導されてアルブレンが指した先を見てみると、こちらに走ってきているフード姿の少女を確認できた。

「セルカか……。」

 そう言えば、基地に戻ってきてからセルカとは直接会っていない。

 セルカは援軍が来てからすぐにアルブレン2体のオペレートをすることになったからだ。

 今こうやって基地から出てきたということは、そのオペレートが終了したということであり、つまり市街地のパトロールが終了したことを示していた。

 セルカは近くまで来ると大きく手を振る。

 それに応じて俺はコックピットから降りてセルカの元まで移動した。

 近付くと、今更ながらセルカの腕や脚に包帯が巻かれていることに気付き、俺はそれについて言及する。

「おい、その怪我大丈夫なのか。」

 俺の言葉に反応し、セルカは自分の体に巻かれた包帯に視線を落とす。

「はい平気です。ただの切り傷だったんですけれど、基地に残っていた方に治療していただいて……。」

 セルカは腕の包帯をさすりながら答えると、続いて視線を上げて俺を見る。

 その際に俺はセルカの顔を見ることができたのだが、その予想外の表情に驚いてしまう。

 なんと、2つの深い青色の瞳が涙で潤んでいたのだ。

 セルカはそんな瞳を俺に向けたまま呟く。

「それよりも、無事で良かったです。あのまま応答がなかったらどうしようかと……。」

 そこで言葉を区切ると急にセルカは両手を広げて小走りで接近してきた。

 俺に抱き付くつもりだろうか。

 今まで心に溜めていた不安が俺の顔を見ることで溢れ出てしまったのかもしれない。

(仕方ねーなぁ……。)

 ここでセルカの抱擁を拒否すると、“男”以前に一人の“人間”として駄目だと思い、俺も軽く両手を広げて構えてやることにした。

 ついでに優しく言葉をかけてやる。

「無事で当然だ。これもお前のオペレートのおかげだな。」

「……。」

 しかし、セルカは俺の言葉を無視した挙句、真横をすり抜けてしまった。

(へ……?)

 何が起きたのか一瞬理解できず、俺は軽く両手を広げた体勢で固まってしまう。

 一体セルカは何をするつもりだったのだろうか……。

 気になった俺は振り返ってみる。すると、リアトリスの脚にしがみついているセルカの姿が見えた。

「本当に良かった。――リアトリスが無事で。」

 セルカは満面の笑みでリアトリスを撫でていた。

 VFマニアもここまでくると病気である。

「……。」

 色々と苛ついた俺はすぐさまセルカをリアトリスからひっぺがし、仕返しとばかりにセルカの頬を容赦なくつねる。

「きゃっ!?」

(あ、やわらけーな……。)

 思いのほか柔らかい感触に驚いたが、それでも口角が上がるまで捻る。

 セルカは無抵抗のまま俺に痛みを訴えていた。

「いた、いたたた……痛いです。」

「当然だ。」

 本当に今後一切セルカの心配などしてやらない。

 赤色に変色していく頬を見つつそう決心していると、背後からケイレブの声が聞こえてきた。

「シンギ、コックピットに戻れ。残りは重機に任せてオレたちは市街地の後片付けに行くぞ。市街地でも数カ所で爆発が起きて瓦礫の撤去に忙しいらしい。」

 どうやら新しく指示が入ったみたいだ。

 そうとなればこんな事をしている場合ではない。

 至極真面目なケイレブの声を聞いて俺は気持ちを改め、最後にセルカの頬を十分にこねくり回すと手を離し、ケイレブに了解のサインを送った。

 俺の手から開放されたセルカは頬を撫でながら俺に不平を言う。

「もうシンギさん、いきなり何するんですか。」

「自業自得だ。……危ないから離れてろよ。」

 それだけ言って俺はリアトリスのコックピットに戻る。

 セルカは俺の指示に従って足元から離れており、それを確認すると俺はケイレブと共に市街地へ向かった。


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