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焉蒼のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
Ⅰ 安全な戦争
10/202

  9  -0.03秒の壁-

 補足情報008

 遠隔操作に使用されている通信衛星『明神』は七宮重工が直接管理している。その守りは堅く、通信回線を乗っ取るためには最新の機器を用いても数日を要すると言われている。

 全72機ほどが同期しており、大量のVFを遠隔操作することが可能であり、ほぼ全ての地域をカバーできている。


  9  -0.03秒の壁-


 ――移動し始めてから30分後、俺はアイヴァーがいると思われるサバンナ地帯に来ていた。

 そこは背の低い黄色の草が生い茂り、小規模な山脈が幾つか見られた。その山の頂上付近には緑の木が生い茂っており、身を隠せるスペースは十分にあった。

 アイヴァーもこのような小さな丘の上から狙撃していたに違いない。

 他にもキリンや馬などの野生動物もちらほら見える。雰囲気的に自然公園っぽい気もするのだが、許可も取らずに勝手に入っていいのだろうか……。

 周囲を見渡しているとライオンも発見できた。しかし、予測ポイント周辺にアイヴァーの四脚型VFの姿は見られなかった。

「本当にここなのか?」

 まだ到着したばかりなのですぐに発見するのは難しいのは分かっている。だが、視界良好にもかかわらず全くVFの気配が感じられない。

 上空からも発見できないみたいで、オペレーターは困惑混じりに俺の言葉に応えた。

「おかしいですね……。今までの情報から推測すると、この一帯に潜伏しているはずなんですが。」

 推測は飽くまで推測だ。相手がプロフェッショナルであるほど推測というものはあてにならない。裏をかかれる可能性だってある。

 こんな見渡しのいい場所で長い間突っ立っているのは危険だと思い、俺はオペレーターの指示を無視して適当に歩き出す。

「あ、ちょっと待って下さい。もうしばらくそこで索敵を……」

「アイヴァーは5週間も身を隠せてるんだ。俺らの通信……つーか、支援部隊の通信が筒抜けになってるかもしれないだろ。俺がここに来るっているのもバレてるかもしれないし、そうなると場所を移動してても不思議じゃねーぞ。……索敵の範囲を広げたらどうなんだ。」

 自分なりの考えを披露して移動することを提言すると、意外にもオペレーターは同意してくれた。

「分かりました。では第2候補にも行ってみますか?」

「なんだ候補があったのか。とりあえず今日はそこを見て回るぞ。さっさとポイントを教えろ。」

「了解です。」

 送られてきた地図を見ると、そこはここよりも少し標高が低い場所だった。

 もしアイヴァーにこの情報を傍受されていたら、待ち伏せされる可能性もある。しかし、コソコソ隠れて姿を見せないよりも待ち伏せされる方が俺にとっては好都合だ。

 相手が現れてくれることを望みつつ、俺は第2候補地に足先を向ける。

 すると、オペレーターが作戦と関係ないことを口走った。

「……今更ですけど、今日もチェーンソードだけなんですね。」

「銃なんて重いだけで何の役にも立たないからな。」

 VFの装甲を貫通させるだけの威力を持つ弾丸を放つには携帯銃器では不十分なのだ。それこそ、十分な威力を持つ弾丸を発射できる銃火器は軽いものでも800kgを越してしまう。機動性を犠牲にすれば簡単に狙撃されてしまうのは火を見るより明らかだ。

 別の方法として電磁レールガンやミサイル、ロケット砲を装備するのもアリだが、電磁レールガンは撃つ度に膨大なエネルギーを消費するし、ミサイルなどの兵器は一介のPMCが装備できるようなものではない。民間軍事会社が過度の戦力を保持しないよう、正規軍からの許可が降りない限り、使用できる兵器のレベルは厳しく制限されているのだ。

 自由に使いたいのなら軍に所属するか、フリーランスとなって個人的に非合法的に入手するしかない。

 アイヴァーもそんな狙撃銃を使っているのだろうな、と思っていると、今まで黙っていたセブンが急に警告を発した。

「――殺気を感じます。しゃがみましょう。」

「は?」

 起動してから久々に喋ったかと思ったのに、いきなり何を言い出すのだろうか。

 また何かの冗談かと思い、俺はセブンに対してツッコミを入れる。

「AIが殺気を感じるなんて有り得ないだろ。というか、人間ですら殺気を感じるなんて芸当できねーよ。ああいうのはフィクションだっての。」

「どうしたんですか?」

 セブンに対して話していると、オペレーターが不思議そうな口調で通信してきた。

 そういえばオペレータには直接AIの音声は聞こえないのだった。俺も俺で毎回デフォルトAIのアシスト機能を切っていたので、独り言か何かかと勘違いしているみたいだ。

 結構気になっているようだったので、俺はオペレーターにAIの発言を教えてやることにした。

「いや、サポートのAIが変なことを……」

 しかし、その説明の途中で再びセブンが俺に警告してきた。

「――強制的に操作系統に介入します。」

「うおっ!?」

 セブンは俺のアルブレンを勝手に操作し、素早く地面に伏せさせた。

 それは、伸びきったバネが一気に縮むような動作だった。もし俺がアルブレンに直接搭乗していたら頭をコックピットの天井に強く打ち付けていたことだろう。

 俺はセブンに抗議の声をあげようと口を開ける。しかし、その口から声が出ることはなかった。

 何故なら、セブンの警告が現実となってしまったからだ。

「!!」

 アルブレンがしゃがむと同時に付近から空気を切り裂くような音が聞こえ、続けて近くの地面から土が舞い上がった。

 その土の塊はまるで水柱のように高く舞い上がり、周囲に降り注ぐ。数十メートル先の地面は重機で掘られたのかと思うくらい深くえぐられ、小さなクレーターができていた。

 間違いなく特殊弾による狙撃だった。

「見えました!! 6時方向、距離は500m……かなり近いです!!」

 銃を使用したことでUAVで敵を補足できたみたいだ。こちらのHMDにもUAVカメラからの映像が映し出される。

 四脚型VFは俺の真後ろに位置しており、右アームに装着された巨大で長い銃は……いや、大砲は俺のアルブレンに向けられていた。

(つけられてたのか……。)

 裏をかかれるという俺の嫌な予感は的中していたらしい。

 それにしても見事なストーキングだった。この距離で発見できないというのはかなり驚きだ。相手も俺が回避したことに驚いているようで、2射目を撃つことなくじっとしていた。

「レベル6-44を思い出しましょう。相手の射線は……」

「うるせぇ!!」

 セブンに訓練プログラムの番号を告げられ、俺の脳裏にレベル6-44の内容が浮かぶ。その内容は弾丸それ自体よりも敵の所持している銃器の射線に注意せよ、というものだ。

 俺はセブンのアドバイスに従って、すぐにその場から離れる。

 それで相手VFも我に返ったのか、急に射撃が再開された。

 今までの俺ならばその2射目を被弾していただろうが、今の俺には回避するのは容易かった。射線に入らなければ弾は絶対に当たらないのだ。

 俺はアルブレンを自在に操り、相手の狙撃を回避しながら接近していく。聞こえてくるのは銃声と付近を掠めて飛ぶ弾丸、そして自分の鼓動だ。

 自分でも分かるくらい俺は興奮状態にあった。

 心拍数は上昇し続け、脳内麻薬も大量に放出されているのか、かなり気分が高揚している。そして、全く理屈は理解できないが、相手の狙っている場所も予測できる気がしていた。今なら相手の思っていることすら読み取れるかもしれない。

 ある種のトランス状態に陥った俺は全ての弾丸を回避し、高揚状態のまま四脚型VFに接近していく。

 その時初めて俺は正面から相手のVFを見ることができた。


挿絵(By みてみん)


 正面から見ると普通のVFにも見える。しかし、脚部の後方には余分に2本の足があり、胸部部分もたなびくマントのように後方へ伸びていた。これがVFのボディをすっぽりと覆い、地面と似たパターンを表示させることで上空から発見しにくくしていたようだ。なんとも立派な擬態機能である。

 ある程度接近すると、俺は手に持っていたチェーンソードを起動し、ブレード部分を回転させる。それを地面に押し当て推進動力代わりにして更に加速すると、相手が銃撃を止めて後ろに退き始めた。

 チャンスだと思い、俺はそのまま追跡しようと考えていたのだが、またしても嫌な予感がして追跡を止めることにした。

 俺はチェーンソードを前に持ってきて地面に突き立て、急制動を掛ける。

 すると、直ぐ目の前の地面が不気味なほどに盛り上がり、続けて先ほどの着弾とは比べ物にならない規模の爆発が巻き起こった。

「……。」

 アイヴァーはトラップまで仕掛けていたみたいだ。俺が弾丸を回避して接近してくることまで想定しているとは、末恐ろしい奴だ。いや、むしろ接近してくることを想定してわざと俺に弾を命中させなかったのかもしれない。

 どちらにしても、もしあのまま追い続けていたらまた一体貴重なアルブレンを失っていただろう。

 これ以上追いかけると今度こそトラップに引っ掛かるかもしれない。

 しかし、トラップがあるとしても俺は追跡を止めるつもりはなかった。

 俺はなるべく直線的に移動するのを避け、迂回するように弧を描いて四脚型VFを追跡していく。だが、爆発によって生じたロスは大きく、四脚型VFはかなり遠くを走っていた。

(速いな……)

 こちらが全速力で走っても距離は広がる一方だ。

 四脚型VFは前側の脚と後ろ側の脚でリズムよく交互に地面を蹴っている。それは、馬が本気で疾走している様子を連想させた。

 あちらのほうがここの地形にも詳しいだろうし、未だに砲口は俺に向けられている。

 追いつくのは不可能かもしれない。

 ……しかし、一度発見してしまえば後は簡単だ。UAVならばいかなる物でも上空から追跡可能だ。場所さえ分かれば後は増援を呼んで包囲して一気に叩けばいい。

 なんとか頑張って追い続けていると、やがて四脚型VFは小さな山を越え、一瞬こちらから姿が見えなくなってしまった。

 姿を見失った俺は慌てて頂上まで移動し、敵の姿を探す。

 すると次の瞬間、付近から閃光が発生し、カメラの映像が真っ白になった。

(しまった……!!)

 これはカメラ潰し用の特殊閃光弾だ。

 またしても初歩的なトラップに引っ掛かり、俺は視界を得るべくUAV側の俯瞰映像に視点を切り替える。その時アルブレンの近くから銃声が響き、間もなくUAVの映像も途切れてしまった。

 ここに来てUAVも撃ち落されてしまったらしい。

 その数秒後、視界が回復したアルブレンのカメラで上空を見ると、小さな爆発が発生しているのが確認できた。

「……すみません、また落とされてしまいました。」

「謝るのは後でいいだろ!! あいつはどこ行った!?」

 既に周囲には四脚型VFの影はなく、痕跡すら残されていなかった。

 アイヴァーは俺のカメラを潰し、続いて上空の目も破壊。そのまま逃亡したらしい。

 俺のアルブレンを破壊しなかった事を考えると、向こうにはあまり余裕はないみたいだ。

 それにしても、追手を断ち切るよりも逃げることを優先するなんて、俺には到底理解できない方法だった。 

 小さい山のてっぺんで周囲を見渡していると、オペレーターが注意を促してきた。

「シンギさん、ここは一旦撤退したほうがいいと思います。敵を補足できない今の状況はかなり危険です。」

「馬鹿か。俺が操作してるのは無人機だぞ? 多少の危険は関係ねーんだよ。」

 あそこまで追い詰めていたのにここで見逃したとなると腹の虫が収まらない。

 オペレーターの注意を無視し、俺は自分の勘を頼りに駆け出す。

 その時、何者かが通信回線に割り込んできた。それは数ヶ月前のあの時と同じ状況だった。

「――これ以上追跡しても無駄だぞ、CEのランナー。」

「!!」

 それは四脚型VFに乗っているであろうアイヴァー・グレゴールからの通信だった。

 そして何を思ったか、アイヴァーは俺を褒め始める。

「それにしても見違えたな。アルブレンとは言え、衛星経由の遠隔操作でここまで機敏に回避行動をとれるのは珍しい。動きからしてAIの補助に頼りきっているわけでも無さそうだ。30msミリセカンドもラグがあればこちらが有利なはずなんだが……。正直今も驚いている。」

 俺も驚いている。ここまではっきりと実力が向上するとは思ってもいなかった。

 ちなみに、30ms……0.03秒というのは遠隔操作時の時間的な誤差だ。VF遠隔操作システム専用の通信衛星『明神』を経由するため、どうしても誤差が発生するのだ。

 遠距離での撃ち合いならともかく、近距離において0.03秒の壁はとても厚い。もしこの誤差がなければ俺は余裕を持って銃弾を回避でき、アイヴァーのVFを破壊できていてたかもしれない。

 それはともかく、敵とは言え、訓練の成果を褒めてくれると嬉しいものだ。

 こんな感じで実力が上がるなら訓練プログラムの続きをやってみるのもいいかもしれない。

 立ち止まって考え事をしていると、セブンの短い警告がコックピット内に響いた。

「――来ます。」

 俺はその言葉の意味を把握することなく、ただ声だけに反応してアルブレンを一歩後ろに下がらせる。

 すると、左手から飛んできた弾丸がアルブレンのヘッドカメラの真ん前を通過し、右手へと抜けていった。

 どうやら俺を試したらしい。

 事前にセブンの警告があったことも知らないで、アイヴァーは機嫌良さげに言う。

「その実力、本物みたいだな。……お前がCEに所属している限りまた会う機会もあるだろう。今回は俺に全弾撃たせた前の勝ちだ。増援が来る前に撤退させてもらう。」

「派手にぶっ放して場所を教えておいて逃げられると思ってるのか? 今度こそ逃さねーぞ。」

「いや逃げられるさ。」

 撤退などさせるつもりはない。俺はアイヴァーと会話をしながら弾が飛んできた左手に向けてダッシュしていた。しかし、アイヴァーの言葉通り四脚型VFの姿は全く見当たらず、間もなく通信も元通りになった。

 それ以降アイヴァーが通信に割り込んでくることはなく、弾が飛んでくることもなかった。

 それでも俺は一応アイヴァーが最後に狙撃したであろうポイントまで行ってみる。

 そこには大きな薬莢がこれ見よがしに置かれていた。

 これを見て、なぜか俺はこれ以上の追跡は無意味だと悟った。

「シンギさん、アイヴァー・グレゴールと話していたんですね?」

「ああ、あいつは撤退するってよ。」

 オペレーターの質問にぶっきらぼうに答え、俺は支援部隊の基地に戻るべく南東にアルブレンを向ける。

 歩きながらチェーンソードを腰の後ろに固定していると、再びオペレーターが確認してきた。

「撤退するって……本当ですか?」

「嘘じゃないと思うぜ。あと、弾切れらしいからUAVで追っても撃墜されることはないだろ。俺のサポートはもういいから、さっさと新しいUAVで付近を探せ。……俺もアルブレンを基地に戻す。」

 ついさっきまで危険を無視してでも追跡すると言っていた自分が情けない。足は向こうのほうが速いし、本気になれば簡単に身を隠すことができる。そんな一枚も二枚も上手な相手を追跡するのは不可能なのだ。

 俺の言葉を信用したのか、オペレーターはすぐに今後の対策を俺に告げる。

「分かりました。退却経路を予測して改めてUAVで捜索してみます。シンギさん、お疲れ様でした。」

「おう。そっちもお疲れ。」

 そう言って俺は通信を切ろうとしたのだが、それはオペレーターの「えっ?」という若干動揺気味の声で遮られてしまった。

 俺はすぐにオペレーターに何があったのか訊いてみる。

「なんだよ。また問題でも起こったのか?」

「いえ、シンギさんから労いの言葉を掛けられたのは初めてだったので……」

「そうか……?」

 確かに、言われてみればそうかもしれない。

 でもたったそれだけのことで驚く必要はない。俺は改めてオペレーターに告げる。

「こんなこと話してる暇ねーだろ。さっさと捜索しろよ。」

「あ、はい、それでは失礼します。」

 こちらが少し強めの口調で言うとオペレーターは気を取り直したのか、すぐに俺との通信を切った。

 俺は一息つき、アイヴァー・グレゴールについて考える。

 ケイレブの話によれば、奴はVFを19機、UAVも先程のを合わせて12機破壊している。それに加えて施設の一部も壊しているみたいだし、その被害額は甚大だ。

 今日の俺はアイヴァーに無駄弾を撃たせて弾薬をゼロにしただけで、具体的には何もしていない。追いかけっこをしてちょっと話しただけだ。

 それを改めて認識すると、急に気が滅入ってきた。

「はぁ……。」

 アルブレンを遠隔操作してとぼとぼと歩かせていると、不満気な合成音声が耳に届く。

「私に労いの言葉はないんですね。」

 それはセブンの声だった。

 俺はHMDのマイク部分に向けて今の気持ちを素直に伝える。

「AI風情が偉そうにしてんじゃねーよ。使ってやってるだけありがたいと思え。……つーか、なんであの時狙撃されるって感知できたんだ? しかも2回も。」

 セブンの警告により俺は2回も難を逃れている。そのうちの初めの1回は回避行動まで取ってくれた。感謝しているのは事実だが、それを言葉にして言ってやるつもりはない。なにせ相手は道具なのだ。

 セブンは少し遅れて俺の質問に答える。

「各種センサーからの情報と地図情報、そしてあなたの行動パターンとアイヴァー・グレゴールが過去に行った狙撃情報を総合的に捉え、適切な判断を下しただけです。」

「お前、滅茶苦茶性能いいんだな。」

 説明を聞いて俺は無意識の内にセブンを褒めてしまった。

 セブンもAIらしく俺の言葉を素直に喜べばいいのに、何故か謙虚な態度をとる。

「それほどでもありません。私に蓄積された七宮宗生の戦闘経験値も判断材料として大きく関係していますから。つまり、簡単に言うと“年の功”というものでしょう。」 

 要するに七宮宗生の戦闘データのお陰で感知できたということらしい。半世紀も前のAIだというのになかなか侮れない。

 俺が感謝するべきは七宮宗生とこのAIを制作した技術者なのかもしれない。

 続いてセブンは俺に対して質問をしてきた。……それはあまりにもわざとらしい質問だった。

「しかし、こうも操作に時間的な誤差があると不便ですね。何かいい解決方法はないんでしょうか?」

「分かりきった質問するなよ。遠隔操作じゃなくて直接コックピットに乗って操作しろって言いたいんだろ。」

 アイヴァーも言っていたが、やはり0.03秒の誤差はセブンにとっても結構な問題みたいだ。

 セブンはそんな俺の言葉を肯定する。

「その通りですが私は強制できません。それはあなたが判断することです。私は操作技術の向上のために直接搭乗することをお勧めします。」

「……。」

 俺はもっと操作技術を上達させたい、そしてもっと強くなりたい。

 その為には0.03秒の壁は大きな障害になる。つまり遠隔操作では限界があるということだ。

 しかし、強さを求めるために安全性を犠牲にするのも本末転倒だ。

 戦力と安全性を兼ね備えた遠隔操作システムは実によくできている。もともと戦力を増強するために編み出された遠隔操作技術を捨てるのは逆行した考えなのだ。

 でも、ここで言う戦力は組織的な戦力であって、個人的な戦力ではない。

「直接乗れば強くなれるんだな?」

「以前言った通り、“VFと一心同体になる”ことが上達への早道です。」

「だから、もっとこう具体的にさぁ……。」

 直接乗ったところで0.03秒だけ反応が早くなるだけのように思えるのだが、セブンの言い方には別の要素も含まれている気がする。

 それが何なのか、アルブレンを基地に戻すまで俺はずっと考えていた。

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