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スペース  作者: 石橋 望
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第一話『丸永商店街』

 言うまで無く中間テストは散々な結果であった。

 勉強の内容が古過ぎて、先生が何を言っているのか分からない事があるものの、化学や数学なんてどこの星も一緒である。

 日本語は地球に来る前にちゃんと勉強していたので何とかなる。

 準にとって問題は社会やら英語なのだ。

 日本の社会、歴史も日本語と同時にある程度の勉強はしてきたはずだったが、『黄金の国ジパング』とか『鬼ヶ島』とか『スペースインベーダー』とか全く出てこなかった。

 英語も理解不能。日本語でさえやっと読み書き出来るレベルなのに、とてもではないが外の国の言葉など覚えられるはずなどない。

「なんで惑星全体で共通語じゃないんだ……?」

 まあそれも未開惑星では当たり前の事なのだろうと思いながら準は丸永商店街を歩いていた。

 この商店街はコロッケや掻き揚げなどの安くて美味しい惣菜屋が多く、夕方には金欠ハングリーな地元学生たちでとても賑やかになる。

 準もそんな賑やかしの一人である。

 いつものように五十円のポテトコロッケを口の中でホクホクさせていると、

「足之本 準! 帰宅途中の買い食いは校則で禁止よ!」

 後ろから急に呼ばれたのと、聞き覚えの無い声に呼び捨てにされた二段の驚きで準は体ごと振り返る。

 一瞬、燃えるような夕日で視界が遮断されてしまったが、よく目を凝らすとそこには女性が仁王立ちしていた。

「あなた、足之本 準でしょ?」

 腰まで伸びた長い黒髪、どこか猫を連想させるつり上がった目、すらりと伸びた華奢な腕と足。

 女性はどこか人を馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

「な……何?」

 警戒しながら準はゆっくりと半歩下がる。

「そんなに引かないでよ、ホラ」

 女性は当り触りの無い自分の胸を指差す。その胸の部分には私立鷹野目高校の校章がパッチしてあった。

「あなたと同じ高校」

「……だから何?」

 そんなの見れば分かると言わんばかりに準は冷たく切り返す。

 しかし女性も相変わらずの不適な笑みで続けた。

「名前は桜庭さくらば 鈴鹿すずか、風紀委員長よ」

「いやいや、風紀委員長様でしたか……買い食いしてゴメンナサイ!」

 準はマッハの速度で謝ると、マッハの速度できびすを返しクラウチングスタートから秒速六百メートルの速度を持つ脚力で逃げ出した。

「き……消えた……」

 もちろん普通の地球人には秒速六百メートルの生物の姿など見えるはずも無く、鈴鹿はポカンと立ちすくむ。

 しかし、しばらくしてまた不敵な笑みを浮かべて呟いた。

「足之本 準……噂通りね」

 マッハで逃げ出した準はアフリカのナントカ族も真っ青の動体視力で人の波を見事に交わしながら……、

(……って、ちょっと待てよ)

 前方に人がいない事を確かめて準は両足を思い切り地面に着いて急ブレーキをかけた。靴とアスファルトが摩擦で擦れる音が周囲に響き渡り、煙を後方に撒き散らしながら準は止まる事に成功した。

 恐らく今ので靴底が一センチ近く擦り減っただろう。

 足元から煙が出ている人間が唐突に出現したことに周りの学生や主婦らしき人達がざわつき始める。

(おい、あいついきなり出てきたぞ!)

(何あれ、煙みたいなのが……)

(不機嫌そうな顔してるな)

(きっといきなり現れては足元から煙を撒き散らす新手の変質者よ!)

(警察に電話したほうが……)

(いや、あの煙を見ろよ)

(なるほど、消防か)

 準は好き勝手にゴチャゴチャ話が盛り上がっている周りの目を気にしながら呟いた。

「何で僕にだけ注意するんだ、アイツ?」

 よくよく考えてみれば、鷹野目高校の生徒は周りに山ほどいる。

 みんな何か食べたり飲んだり、商店街のゲームセンターで遊んでいる生徒だって沢山いる。

「それに僕の名前も知っていたし、いきなり呼び捨てだし……」

 そんな事を悠長に考えていると、


(ウゥ〜ウゥ〜……、ピ〜ポ〜パ〜ポ〜)


 誰かが本当に電話してしまったのか、もしくは近くの交番に駆け込んだのか、パトカーがやって来た。

「どこだ! 体中のありとあらゆる穴から光化学スモッグを撒き散らしている不機嫌な透明人間は!」

 パトカーから降りてきた警官はなんだかよく分からない事を叫びだした。

 どうやら色々と脚色された挙句、誤情報が伝わったらしい。

 準は嘆息して警官の前に歩み出て言った。

「それは多分僕の事です。たしかに機嫌は悪いかも知れませんが、光化学スモッグを撒き散らした覚えも無ければ透明人間でもありません」

「じゃあ何だ?」

「え〜……それはですねぇ……」

「よし、逮捕」

 警官はここぞとばかりに手錠を取り出す。

「何でいきなり逮捕なんですか!?」

 準は目玉が飛び出んばかりの勢いで警官に言い寄った。

「見るからに怪しいからだ」

「怪しくないでしょ別に。見てくださいよ、普通の高校生ですよ?」

「普通ならいきなり現れたり、煙を撒き散らしたりしないと思うが?」

 たしかに警官が言っている事は正論である……逮捕の件を除けば。この警官ならば補導ぐらいは平気でしそうな勢いだ。

 準はしばらく黙り込んで考えた挙句、やっぱりクラウチングスタートの体勢に入った。

「ちょっと待ちなさい」

 私立鷹野目高校の風紀委員長、桜庭鈴鹿が群集をかき分けて風のようにサラッと現れた。

 両手に一個ずつ五十円のポテトコロッケを従えて。

「そっちこそちょっと待て……」

 準はワナワナと体中を奮い立たせて言った。

「何だその両手のコロッケは!?」

「さっき買ったのよ」

「そういう事じゃなくて、買い食いは禁止だってさっき……」

「確かに校則では第四章、登下校時における諸注意に引っかかるわね」

「いやだから、あんた風紀委員長で、さっき僕にだけ注意して、買い食いは禁止だって、みんなしてるのに……」

「そうね、ちょっと面白そうだから注意してみただけ」

「…………」

 準と鈴鹿との緊迫したやりとりに野次馬たちは息を飲む……が、

「とりあえず、どっちでもいいから逮捕させてくれ。何だったらジャンケンで決めてもいいぞ」

 何だか手柄の欲しそうな警官が話しに割り込んできた。

「うるさいわ!」

 準と鈴鹿のダブルアッパーが警官の顎に炸裂した。

 言葉では表現できないような快音を残して警官は五メートル近く舞い上がり、空中できりもみ回転してから地面に落ちてきた。

 服はボロボロ、顔はグシャグシャ。とても可哀相な事になっている。

 野次馬の誰かが救急車を呼んで、別の誰かが仰向けにのびている警官の両足を持って引きずっていった。

「彼は職務を全うしたわ……、立派な殉職よ」

 鈴鹿の一言に準も含めてその場にいる全員が「ウンウン」と頷いて手を合わせた。

この小説を読んでくださった方々、初めまして。

最近、小説に興味を持ち始めて、趣味程度にと書いています石橋 望です。

私は書くのが亀の歩みのように遅いので、無事に完結できるかどうか分かりませんが、長い目で見てやってください。

一言でも良いので、感想や評価を頂ければ幸いです。

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