海
………タイトルが死ぬほど適当な雲居です。
完全に意味のないコメディです。読み飛ばし可。ではどうぞー(蹴
砂浜と道路は、アスファルトの坂の一番下の部分から、緩やかに砂浜と同化している。靴の中に入った砂粒が少々痛いが、我慢しよう。
「本屋じゃないの!?」
「誰がそんなとこ行くか! 冗談も大概にしろ!」
「冗談じゃないし! 私海嫌いなんだけど!」
「るっさいカナヅチ! Are you hammer!?」
「英文違うし! I don't swim wellだし!」
「最後で見栄張ってwellつけやがった! You don't swimだろ!」
「浮けるんだから全く泳げないわけじゃないのよ! そうよね鏡!?」
「!?」
我関せずで海を見ていた鏡先輩が、物凄く驚いて振り返る。
「……いや、そう言われても………」
珍しい。あの鏡先輩が動揺している。
「いや、浮けると泳ぐは等号で繋げないと思うけど……」
曖昧な否定はしかし、夢路さんの一睨みで抹殺される。
「そ・う・よ・ね、鏡ぃ?」
かがみぃ?(↗) と、ものすごい上昇形で念を押され、鏡先輩は黙り込んでしまう。その視線が泳いでいる。彼は普段冷静で淡白な性質だから、そんな人がこうまで追い詰められる様などはそうそう無い。折角だから見物しておこう。
「……そう言えば、」
言いながら僕の方を見遣る。って、僕?
「お前はこれから何処に行こうと思ってるのかな?」
あからさまな誤魔化しに、夢路さんがあんたの顔面の筋肉はそんな風に稼働させることができるのかと言いたくなるような満面の笑みを浮かべた。
「え? そりゃあ詩歌ちゃんの計画で」「あーちゃんっっ!!」
僕の正直な回答は詩歌ちゃんによって阻まれた。
「なんなのよ鏡あんた何話逸らしてんのよ露骨過ぎるでしょもうちょっとまともに話逸らせないのこのでくのぼうそもそもあんたは会話の才能なさすぎるのよ接続詞の意味分かってんのていうか文学オタクのくせに日本語上手く使えてた試しないじゃない大体鏡は」
以下略。
こめかみにリアルに青筋を立てて、こうまくし立てている夢路さんが息継ぎをしたタイミングで僕は声をかける。
「疲れませんか?」
「疲れた」
満面の笑みで振り返る夢路さん、しかしその笑顔には無理があります、よく見ると口元も引き攣っています。少々怖いのでこちらを向かないでくださるとありがたい。
「ていうか典雅あんたこそ何してんのよなんで海なんか来なきゃいけないのよ毎日見てるじゃないのよこんな塩水溜りそれとも何あんたは私が泳げないのを知ってて嘲笑うために来たわけ普段いつも意味の分かんないこと言ってるくせにこういうときだけ何やってんのよ何か言い分があるのないでしょうそもそもこの計画最初は海なんか来ない予定だったのよそれをあんたは」
「ストップ! ストップなんだよ夢路ちゃん!」
頭に血が上り、計画の全貌をバラしそうになった夢路さんに慌てて詩歌ちゃんがストップをかける。両手をぶんぶんと振って、派手なボディランゲージで夢路さんを宥める。
僕はその騒動から視線を外し、青い海を見つめる。作り物めいて見えるほど鮮烈な青は、見慣れている。
目に沁み透るほど青い景色。青い檻。
文明とはかけ離れた美しさ。
こういったものを見ると、僕はいつも美は美ではないのだなと思う。
意味が分からないが、それは、人間が美しいと感ずる為に自然は美しくあるのではないということだと考えてもらいたい。喩え人が消えたとしても、人に美を認識する知能が無かったとしても。海も空も、青いままなのだろう。
まあ、こんなことを考えていても意味は無いんだが。
「あっくん!」
「は?」
間の抜けた声をもらして後方を見ると、歯を食いしばって目を吊り上げた、有体に言って般若顔な夢路さんが立っていた。
「早くしなさい! 典雅を虐めたおすんだから!」
言うが早いが、僕の左腕を掴んで走り出した夢路さんに引きずられながら、僕は内心で嘆息した。今日もまた、意味の無い事柄に僕は振り回されるのだろう。