真夏の昼の謎
来週テストなのにパソコンの前に陣取ってる私って(おい
どうも、杠です。
前回の謎かけの解決です。分かりにくくてごめんなさい。
まず状況を整理しよう。
僕が立てた推測は、B→A、A→夢路さん。このいう風に間違えたのではないとしたら。他にどんな推測が成り立つかというと。
かというと。
「………夢路さん。あの、Bさんの下駄箱の中には何が入っていたんでしたっけ」
僕の問いに、夢路さんはすっと目を細めて、何か意味深な口調で、
「普通の、通学靴よ」
―――――――――解けた。
「あー! あーちゃん分かってるー!」
余計なことを言わないでほしかった。
「何!?」
「分かったのかい?」
「えー! もう?」
典雅先輩と鏡先輩と夢路さんから、三者三様のコメントを貰う。
「いえ。分かりません」
「うーそーだー」
「嘘つきは人生の終わりなんだよ、あっくん」
「嘘つきは人間の終わりなんだぜ、"人間失格"」
人間失格は貴方でしょう、典雅先輩。
「………嘘つきは、人類の終わり、かな」
無理にボケようとして失敗する鏡先輩。最初を「人」で揃えようとした努力は認めたい。というか僕が嘘をついたら人類滅亡ってどんだけ責任重大なんだ。
「知りたければ自分で考えてください」
「はぁ?」
思いッきりバカにした口調で典雅先輩は眉をしかめる。
「それが面倒だからお前に解明してもらおうとしてんじゃねえか」
根性が腐ってやがる。
しかしここで黙るのも労力の無駄だ。
「いいですか、一回しか言わないからよく聞いていてくださいね」
こくこく、と一同が頷く。いや、ちょっと気味が悪い。こうも真剣に聞かれても。
「――――Bさんは、悪くありません」
「………………………」
………………………。
「……………で?」
それだけです。
「死ぬかおい? おい死ぬかテメェ? 俺が今すぐその願い叶えてやるよああん?」
典雅先輩、とりあえず僕の襟を掴んでいる手を放してください。
夢路さん、何ですかその眼は。「……君に期待した私が愚かだった」そうですか。
鏡先輩の表情は彫刻のように動かない。もしかして、固まってる?
………もしかしなくても、僕の次の言葉を待っているのかも。
「…………」
あまりにも鏡先輩が不憫になってきた。まだ待っている。
「………………」
仕方が無い。
「……まずですね、」
僕は地面にしゃがみ込み、要点を箇条書きする。
・Bは、ごく普通に帰る(この時点で、Bの下駄箱には上履きだけ)。
・その後Aがやってきて、自分の上履きを夢路さんの下駄箱に入れ、夢路さんの靴を間違えて履いて帰る(B・上履きだけ、A・両方無し、夢路・Aの靴だけ)。
・少しして、Aは自分が誰かの靴を間違えて履いていることに気付く。
・戻ってきたAは、自分が履いている靴はBのものだと勘違いし、Bの下駄箱に夢路さんの靴を入れて普通に自分の靴に履き直し、上履きを入れ替え、帰る(B・夢路の靴が入っている、A・Bの上履きが入っている、夢路・Aの上履きが入っている)。
・夢路さんがやってくる。
「―――――理解できましたか?」
「できない」
すっぱりと言った詩歌ちゃん。
「ややこしい」「分かりにくい」「まわりくどい」
…………ひどい言われようだ。
夢路さんは、細い両手をぱんぱんっと打ち鳴らす。眼鏡の奥の眼を細め、「正解」と言った。「でも、まわりくどいね」
大きなお世話だ。
「分からない人はこれ」僕は、地面に書いた文章をとんとんと指で叩く。「何度も読み返して頑張ってください」
「どんだけ不親切な探偵役なんだ!」
典雅先輩が怒鳴る。でも、理解できない方が悪いと思うんですよ。僕は最初に、Bは悪くないと言ったのだから、それで納得してほしいものだ。後は自分で推理するなり人に聞くなりしてほしい。端的にいうと、結論が分かったなら過程は省いてほしい。
ただ一人納得したような表情でいるのは鏡先輩だけだ。こういう人はとてもいいと思う。願わくば、この世がこういった人々で埋まってほしいものだ。そうすれば、文明に対する僕の憎悪も、多少は和らぐだろう。
そうこうしている間に、海岸へと続く緩やかな下り坂に差し掛かる。油照り、という言葉が丁度良いような陽射しが照りつける。
「――――――今は、夏なんですかね?」
誰に問うでもなく発したその言葉に、意外なことに典雅先輩が振り返った。
「夏だろ」
「でも十月ですよー」
「でも夏だ」
「大和はもう秋真っ盛りですよー」
「そもそもさ」
しまった。この話し方になると、典雅先輩は長い。
「何を基準として季節を決める? 月か? それとも気候か?」
僕は黙る。
典雅先輩の独白は続く。
「月で決めるんなら、"常夏"はどう解釈するのさ。この一年中クソ暑い、むしろバカ熱いこの島に、冬なんて来ないんだよ」
冬なんて、来ない。
僕らが、この島にいる限り。
路の脇には、濃い緑の葉が生い茂っている。生命力に溢れたそれは、どういうわけだかけぶるように霞んで見える。
スクリーンの向こうの映画を観るように、僕はその光景を認識している。
「とまあ一席ぶったところで」
終わりらしい。今回の独演は割に短かった。
「到着だ」
そう言われ、足元に落としていた視線を上げると、目の前には白い――いや、砂色の浜辺が広がっていた。