舞踏会の逆転
そして、社交界への復帰を告げる舞踏会の日がやってきた。
周囲は「盲目の公爵」と「出来損ないの身代わり」を嘲笑うだろう。
「……リリアーヌ。やつらが私をどう見ているか、教えてくれ」
会場の入り口、彼は微かに顔を寄せ、私にだけ聞こえる低い声で問うた。
彼の指先が、私の腕を少しだけ強く掴む。その微かな震えが、彼が抱える深い闇を物語っていた。私は反射的に、添えられた彼の手の上に自分の手を重ねた。
「私が見えています、ギルバート様。……ここにいる誰よりも、貴方が気高く、素晴らしいお方であることを。私がお教えします」
彼は一瞬、驚いたように唇を戦慄かせた。
だがすぐに、その口角が傲慢なほどに吊り上がる。
「……ふん。ならば、見せつけてやろう。この私を唯一操れる、生意気な『身代わり』の君を」
彼は私の手を引き、会場のど真ん中へと、迷いのない足取りで踏み出した。
完璧なステップ。目隠しをしたまま踊る彼の姿に、嘲笑は驚嘆へと変わる。
しかし、ダンスの合間に事件は起きた。
かつて姉を捨て、我が家を没落の淵に追いやった男、子爵令息が近づいてきたのだ。
「やあ、リリアーヌ。……いや、偽物の妹君かな? 姉の身代わりで公爵家に潜り込むとは、いい度胸だ」
粘りつくような声。私は息が止まった。「身代わり」「詐欺師」——冷たい囁きが、鋭い刃となって私を切り刻む。
男が私の手首を乱暴に掴み上げた。
「さあ、白状しろ。お前は一体、誰だ——っ!?」
男の言葉が、短い悲鳴に変わった。
どこから現れたのか、ギルバートが男の腕を、万力のような力で掴み上げていたのだ。
「……喧しい。私の庭で、誰が、誰に、無礼を働いている」
漆黒の目隠し越しに放たれる、凍てつくような殺気。
「ギ、ギルバート公爵! 騙されてはいけません、その女は本物の婚約者では——」
「黙れ」
ギルバートは、怯える私を抱き寄せ、その背を隠すように大きな掌を添えた。
「……彼女が誰であろうと、私が『妻』と定めたのはこの声の主、この香りの主だけだ」
彼は私の耳元に顔を寄せ、会場全体に響き渡るほど凛とした声で続けた。
「偽物は貴様の方だろう。……私の妻を侮辱した罪、その命で贖うか?」
その圧倒的な威圧感に、男は腰を抜かし、周囲は静まり返った。




