雨の夜の綻び
彼との生活は、奇妙な執着に満ちていた。
「妻なのだから当然だろう」
と、食事の際は顎を掬い上げられ、着替えの際も側にいさせられた。目が見えない不安からか、私が少しでも離れると、彼は落ち着きを失い、動悸を激しくする。その独占欲は、時に狂気じみていた。
しかし、ある雷鳴の激しい夜、私は彼の別の顔を知ることになる。
胸騒ぎを覚えて彼の寝室の扉を開けると、彼はベッドの端で、頭を抱えて蹲っていた。いつも完璧に整えられている銀髪は乱れ、人前で見せる傲慢なまでの威圧感は霧散している。
「……来るな」
拒絶の言葉とは裏腹に、彼の手は手探りで私の衣の裾を掴んだ。
驚くほど冷たく、そして小刻みに震えている手。
「暗いんだ……。何も、見えない。……あの日から、私の世界には光も、音も、何の意味もなくなった」
彼は私の腰に顔を埋め、絞り出すような声で囁いた。
「リリアーヌ……君が、あの時の『彼女』なのだろう? 嘘でもいい、そうだと言ってくれ。そうでなければ、私はもう、誰も信じられない……」
昼間の彼なら、こんな情けない姿は見せなかっただろう。
私が身代わりだと知っていながら、それでも私という「救い」に縋らざるを得ない彼の孤独。
私は彼を突き放すことができず、その広い背中にそっと腕を回した。




