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身代わりの花嫁は、盲目の公爵に声で溺愛される  作者: 輝久実


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2/8

執着の始まり

公爵邸の奥深く、陽の光を遮った薄暗い書斎。


そこに、彼は座っていた。漆黒の目隠しを纏い、微動だにしない姿は、まるで美しい彫像のようだ。かつての向日葵のような笑顔は消え、そこにあるのは凍てつくような美貌だけ。


「……お初にお目にかかります。今日からお仕えすることになりました、リリアーヌです」


震える声を絞り出し、私は深く頭を下げた。姉の名前を名乗る瞬間、罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。


「……リリアーヌ。我が婚約者殿、か」


彼の声は低く、酷く冷ややかだった。


しかし、彼が私の手を取った瞬間、その指先が微かに跳ねたのを私は見逃さなかった。


節くれだった大きな手が、私の掌を、手首を、なぞるように確かめる。盲目の彼は、触覚ですべてを判断しようとしているのだ。


「おかしなことだ。書類によれば、君はもっと……騒がしく、香水のきつい女性だと思っていたのだが」


彼は私の手首を掴んだまま、ぐい、と自分の方へ引き寄せた。


視界を奪われているはずの彼が、正確に私の耳元に唇を寄せる。


「……いい声だ。そして、懐かしい花の匂いがする。ねえ、君は本当に、私の知っている『リリアーヌ』なのかな?」


吐息が耳に触れ、背筋に甘い戦慄が走る。


彼がニヤリと、残酷なほどに美しい笑みを浮かべた。


「まあ、いい。どちらにせよ、私は君を気に入った。……もう二度と、この屋敷からは出さないよ」


それは歓迎の言葉ではなく、永遠の囚人にするという宣言のようだった。

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