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ベルセルク・オーバードライブ~ダンジョンの底であなたを創る~  作者: 佐倉美羽
第一層『惑いのラビリントス』

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第7話 死線の報酬

「死に慣れるな、なんていうだろ?それ、ダンジョンだと結構難しいんだ」


 一流の冒険者は皆頭おかしいって言うけど、俺の場合はちょっと違う。


 ◇◇◇


 ジャバウォックの脅威から生き延びて数日たった。あの時、初めて人の死体を見た。死体と言うにはバラバラで実感がわかなかったけど。でも、こういう時って悪夢を見たり、夜眠れなくなったり、そんな感じになるわけだよな。ありがたいことに、そう言ったことは一切なく、寝たらスッキリしてた。


 朝起きて、顔を洗って、鏡に映った俺の顔。なんだか、ダンジョンに入る前よりもハンサムになっている気がする。隈は消えてるし、血色もいい。それどころか、活力がみなぎっている。ここ最近はずっとこんな調子。頭も身体も、眠る度にオーバーホールされているみたいだ。


「よし。今日もやるぞ」


 パチンと頬を叩く。潤った頬が波打ち水が跳ねる。俺は急いで着替えると、食事も摂らずにゲートに向かった。


 ◇◇◇


 あの日、ダンジョン内でどこかのパーティーが8人を超える人数で行動した、ということは明白だった。しかし、ゲート管理協会の話では入る時点ではどのパーティーも8人以下で入っていったそうだ。


 俺はスライムにメイスを振り下ろしながら「なんでだろうなぁ」と、ぼやく。口にした瞬間、自分の声がやけに軽く響いた。

 あれだけ血を見たのに、もう“いつもの俺”に戻ってる。21人も死んだんだよな。確か。俺もその場所にいたはずなのに、なんだか、遠い知らない国の出来事のように、ふーんとしか思えない。

 ――それが少し、気味悪かった。


「ダンジョンは他パーティーへの救助や援護がいつでもできるように4人編成が基本なのですが、もしかすると人数に気づかずに助けに入ってしまったのかもしれませんね」


 後ろでマキナがジュクジュクとスライムを解体しながら答える。大人数で挑めば対応できる状況も増えるが、追い詰められても誰も助けられない。逆に少人数パーティーはフォローが受けやすい、とのことだそうだ。


 〈スライムたち倒した〉

 〈経験値8ポイントを獲得〉


 よし。これで今日の晩飯は牛丼が食えるぞ。メイスにこびりついたジェルを振り払い、ベルトにぶら下げる。

 あ、そう言えばレベルアップしたんだった。

 冒険者ライセンスをタップして、ステータス画面を上方向にスワイプした。


 ――――――――――――――――

 〈ステータス〉

 名前:武神ヤマト

 レベル:3

 HP:50(+9)

 MP:8(+2)

 力:41(+14)

 技:6(+1)

 物防:21(+7)

 魔力:3(+0)

 魔防:9(+2)

 速さ:27(+9)

 幸運:7(+3)


 〈スキル〉

【メイン】ベルセルクOD(Lv.1)

【サブ】強襲(Lv.1)(NEW)


 スキルポイント:1


 〈装備〉

 武器:メイス

 防具:チェーンメイル


 ――――――――――――――――


「強襲……?」


 いつの間にか知らないスキルがあった。スキル【強襲】をタップして詳細を見てみる。


 ◇◇◇


 サブスキル:強襲(Lv.1)

 不意打ち成功時に威力ボーナスを得る(2.0倍)(Lv.1)

 ・視認した相手を確率で恐慌状態(一定時間ステータスを30%低下させる)にする

 ・戦闘開始時に力、速さを10%(Lv.1)向上させる。


 備考:常時発動


 ◇◇◇


「お、いいじゃん!マキナ―、そう言えばレベルアップしてたんだった~」


 自分でも驚くくらい明るい声が出た。

 感情よりも先に、音だけが先に出たみたいだった。


「まあ!おめでとうございます。あっさり追いつかれてしまいましたね」


 マキナは解体作業を終えて、素材を鞄に入れながら小走りで俺のステータス画面をのぞき込んだ。


「スキルポイントが溜まっていますね。スキルレベルが上げられますよ」


「マジ?上げた方がいいのか?」


「もちろん。とりあえずメインスキルから上げていきましょう」


 珍しく滑らかに笑う。その笑顔の裏で、一瞬だけ瞳が焦点を失ったように見えた。


「……いえ、違いましたね。おすすめ、です。私の、個人的な」


「わかった。じゃあ、上げるわ」


 マキナが言うのなら間違いないのだろう。

 俺は特に思うこともなかったので、マキナに進められるがままベルセルクODにスキルポイントを使った。


 ◇◇◇


 メインスキル:ベルセルクOD(Lv.2)LEVEL UP!

 状態【狂化】を得る。

 ・力、速さを40%(Lv.2)向上させる。時間経過とともに10%ずつ継続的に向上。防御力が減少する。

 ……

 ・残りHPが低いほど力、速さが上昇する(NEW!)


 ◇◇◇


 頭の中で電撃が走るような感覚。文字で読んでもよくわからなったけど、感覚的に理解した。今まで以上に、力強く、早くなったはずだ。口角が吊り上がっていく。俺のこれまでの実績が、しっかり記録されているようで気分がいい。


「ふふ。それでは、先日のお礼とお詫びを兼ねて、私からささやかなプレゼントです」


 マキナは鞄を置いて、両手で手を入れると‘よいしょ’っとかわいらしい掛け声と共に引っ張った。中からスレッジハンマーのようなものがズルりと出てくる。先端についた鋭利な杭が物々しい。柄には蜘蛛の巣の意匠が細かく彫られていた。


「これはジャバウォックの爪を加工して作ったウォーピックです。力の補正が高いですので、上手く扱えるはずですよ」


「えぇ!マキナが作ったのか!?」


「いえいえ。私が手を加えたのは柄の部分だけです。あとは、ほとんど加工屋さんが作りました」


「それでもすげぇ嬉しいよ!マジでありがとう!」


 誰かから何か贈り物をもらったことなんて初めてだ。マキナから受け取った武器【ジャバウォックの爪】を試しに振り下ろしてみる。まるで、ずっと使っていた武器のように手になじむ。


「ヤマトの手に合うように、調整しておきました」


 マキナが微笑む。でも、その目は——何かを観察しているような目だった。


 ――はやく試しに何かを壊してみたい。


「焦らずに焦らずに。一層程度ならその武器で倒せないモンスターはいません。殲滅していきましょうね」


「おう!」




 ジャバウォックの爪は、ただ振り下ろすだけで岩を裂いた。

 ゴブリンの頭が、音もなく弾ける。理由もなく、笑みがこぼれた。

 一撃、沈黙。二撃、血霧。三撃目で、世界が赤く染まった。気づけばレベルも着実に上がっていった。

 しかし、あまりに破壊力が高すぎるせいか、殺したモンスターはほとんど原型をとどめておらず、マキナの腕をもってしても剥ぎ取り部位は如実に減っていた。


「やべぇな……、もっと手加減した方がいいのか」


「とんでもない。ヤマトはそのままでいいんです。だから皆、深層を目指すんですよ。より高価な素材やアーティファクトを目指して。それが冒険者の常です」


 マキナはジャイアントバットの腑分けを手慣れた様子で進めていく。ナイフで迷いなく腹を裂いていき、黒い手袋は血まみれだ。なのに、服や顔には返り血一つ跳んでない。俺がやるとぐしゃぐしゃになるのに。不思議なものだ。


「じゃあ、俺らもそろそろ次行った方がいいのかな」


「そう……ですね。おそらく今でも階層主に勝てると思いますが……もう少しレベルを上げましょう。超回復も死んでしまっては効果がありませんので。慎重に、です」


「へーい。今日も稼ぎまーす」


 通路の一角で、俺たちは獲物をばらしていく。

 マキナがナイフを入れるたび、血が飛び散る。その光景が——綺麗だと思った。


「ヤマト、どうかしましたか?」


 マキナが覗き込む。血まみれの手袋を脱ぎ捨て、俺の頬に触れた。冷たい。でも、心地よかった。




 だが突然、爆発音が鳴り響き、爆風が腐臭とともに流れて来た。


「くっさ!!なんだぁ!?」


「ふむ。おそらく他の冒険者ですね。魔法使いがいるのでしょう」


「ま、魔法!?マジか!見てみてぇな!」


「ええ、構いませんよ。行ってみましょうか」


「やった!行こうぜ!」


 爆発音は鳴りやまない。派手な戦いをしているようだ。マキナ以外のスキルは初めてだ。遊園地を巡るような足取りで、俺たちは洞窟の奥へと進んでいくと、開けた空間に出た。


「でけぇ……あれもゴブリンか?」


「ボブゴブリン、ゴブリンの支配種です。第一層の頂点捕食者ですね」


 目の前には4人パーティが無数のゴブリンに囲まれていた。血肉が焼ける匂いが鼻の奥に入り込む。背を預けるようにして戦っているが、見上げるほど巨大なボブゴブリンがキツイらしく、どんどんと輪が狭まっている。

 ボブゴブリンが身の丈はあろうかという棍棒を頭上から叩きおろし、盾持ちの男が何とか受け止めているが、苦悶の表情をしていた。


「ファイアウォール!」


 杖を持った女がそう叫ぶと、パーティの周り炎の壁が立ち上がった。赤い熱風がここまで届いて肌がひりひりする。炎は取り囲むゴブリンを焼き払って行くが、横穴から次々とゴブリンが這い出てくる。炎の壁ごしに弓が放たれるも焼け石に水。心なしかボブゴブリンはニヤニヤと嗤ったように見えた。このままではジリ貧だ。


「すげぇ!あれが魔法スキルか!」


「……ご立派な装備ですが、実力が伴っていませんね。あのまま全員死ぬでしょう」


 その声が、妙に冷たいように聞こえた。


「助けなくていいのか?」


「冒険者にとって装備は履歴書です。あの装備群でゴブリン如きに苦戦する“はずがありません”。放っておきましょう」


 炎の壁が弱まって、ゴブリンが中に入り込んでくる。俺が見ても、なだれ込まれて終わりだろうなってのが分かった。


「いや……でも……助けた方が良くね?」


「……なるほど。ヤマトがそう望む――」


 そう言いかけた時、大きな剣を持ったリーダー各の男が絶叫した。


「お、おい!そこの二人っ!た、助けてくれ!!」


「だってよ。どうする?」


 マキナは無表情だった。だけど、わずかに瞼がぴくついていたように見えた。


「……ヤマト。私が閃光玉を投げ込んだあと、ボブゴブリンを【強襲】で始末してください。周りのゴブリンどもは無視して構いません。蹴散らしながらこちらに戻ってきてください」


 俺は肩に担いだ“ジャバウォックの爪”を両手に握り、死神の鎌のように構えた。


「あいよ。ボス」


 姿勢を低くして、足に力をこめる。狙うは脳天。一息に近づいて不意打ちする。


「誰がボスですか。それでは、合図、行きます。3,2,1……」


 マキナは鞄から出した閃光玉のピンを外すと見事なウィンドミルでゴブリンの群れに投げ込む。風を切りながら伸びていった玉は、パーティの上空で炸裂。


 キィンッ!!


 鼓膜を破くような破裂音をともに辺りは強い光に包まれた。


 ――今っ!


 光をかき分けるように飛び出していく。

 一歩、二歩。ゴブリンの頭踏みつけながら、ボブゴブリンの頭目掛けて飛び掛かる。奴はめちゃくちゃに棍棒をふりまし、俺に気づいていない。


 一瞬だった。放たれた矢のように一直線に飛んでいった俺の、渾身の一振り。ボブゴブリンの頭が爪に触れた瞬間、弾けとんだ。


 ――スパッァアアン!


 声も上げる間もなく頭を失ったボブゴブリンはバタバタと棍棒を振り回した後、ゆっくりと血を吹き出しながら倒れた。


「ギャ……ギャギャ……」


 取り感んでいたゴブリンたちの動きが緩慢になった。尻餅をついて、必死に逃げようとする。恐慌状態だ。


「今だっ!走れっ!!」


 固まっていたパーティに怒号を浴びせる。

 我に返ったように動き出したパーティーは俺の後に続いて、ゴブリンを蹴散らして行った。


 づづく

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