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ベルセルク・オーバードライブ~ダンジョンの底であなたを創る~  作者: 佐倉美羽
第三層『エリュシオン・ノクス』

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第33話 悪夢は討ち払われた

 爛れた夜空から黒い羽が降り注ぐ。しんしんと舞う羽は夢の王の白炎に触れると、理性を乱すように引火し、塵となって消える。その度に、夢の王が顔をしかめた。


「……!小癪な真似を……!!」


 息つく間もなく金色の流れ星が瞬く。零れ落ちた輝く飛沫は夢の王へと一直線に飛来し、砂ぼこりを巻き上げながら炸裂した。


 ――この技は……!


 芹澤ミヤコと信田リカ!思はぬ援軍に胸が高ぶる。だが、夢の王は劣勢を悟ったのか砂塵の中から飛び出て強襲する。


「まずはお前からだ。狂戦士。死にざまを晒せ」


「やってみろ!!」


 呼吸が止まるほどのインファイト。一瞬の隙が命取りの乱打戦。だが、夢の王には前までの覆い尽くすような圧が無い。熱を帯びた拳が心地よい痺れになっていく。


 ――いける!


「なんだぁ!?理性も大したことねぇなぁ!計算外だらけじゃねぇか!!」


「黙れ。想定の範囲内だ」


 割れんばかりの地鳴りが響く。空を漂う月がひび割れ、ゆっくりと瞼を開ける。それは、巨大な虹の瞳。月の群れは飛び回る金色のほうき星を睨みつけ、赤雷を放つ。芹澤ミヤコは攻撃を止めて、その間を縫うようにして躱していた。


「我が人間如きを恐れる?断じてあり得ない。理性は全てを覆すものだ」


 腕を取られ、投げ飛ばされる。地に手をついて、受け身を取る。だが、顔を上げると目の前にオルフェウスの両足。砲弾のように追って来たオルフェウスの飛び蹴りが襲い掛って来た。


「グッ……てめぇ、さっきマキナを殺し損ねたよなぁ!?」


 何とか腕で庇うもミシリと音を立てる。折れたかもしれない。苦し紛れに出た言葉。オルフェウスがマキナに迫ったあの一瞬の隙。あれが無ければマキナは殺されていた。だが、奴はなぜかすぐに拳を振り下ろさなかった。

 夢の王の脚を掴み、投げ飛ばす。だが、夢の王は軽々と地に足をつく。その顔は不快そうに歪められていた。


「あれも“理性的な判断”だったんだよなぁ!?おかげで助かったぜ!」


「……黙れ」


 声色が変わった。効いてる。腕が痺れるように痛むのを押し殺し、ニヤニヤ笑みを作りながら夢の王へと語り掛けた。


「なんですぐに殺さなかったんだ?教えてくれよ!」


「なぜ、その選択を……なぜ。その感情を……理解、出来ない……」


 夢の王の瞳が揺れている。困惑している。バレないように呼吸を整える。両の掌を握り込んでみると、左手の指が少しも動かない。


「……待て。理解出来ない?我が……?理解できぬことが、理解できない……?」


 夢の王がそう呟いた瞬間、空が息を呑む、星を砕く轟音。見上げると月が二つに割られて落ちていくのが見えた。重力を無視したように飛行する金の彗星が次の獲物へと飛翔する。


「……!」


 一瞬の隙。弾かれたように夢の王へと肉薄する。握りしめた拳。紫炎がうねりを上げる。瞳孔が開かれた虹目と視線が交差する。渾身の踏み切り、腰が入った鋭い打撃が今、放たれた。


「ウグッ………!!」


 メキメキと音を立ててオルフェウスの腕に俺の拳が沈み込む。マジかよ……!【強襲】が入ってるのに、防御しやがった……!だが――


「砕けろ……!!!」


 白炎の膜を突き破り、拳を振り抜く。確かな手ごたえ。完全に折った。オルフェウスは地に跡を残しながら吹き飛ぶ。その顔は、理性が崩れた苦悶の表情。


「弱ぇなあ!夢の王!“ベルセルク”が聞いて呆れるぜ!」


「舐めるなよ……!人間……!」


 オルフェウスは折れた腕をぶら下げながら構えを取る。ようやく身体が馴染んで来たとでもいうように。その足元には異常なまでに白く光り輝くエネルギーの塊。アパテイア=オブ=ゼロの焔が圧縮されていく。


「零式――」


 ――ここだ!!


 下がるのではなく、前に踏み込む。いつもそうやって、困難を乗り越えて来た。オルフェウスが足を振り上げる。白光がさらに輝きを増していく。使い物にならない左手にロゴス=ベヒモスの紫炎を纏い、間合いを潰していく。ただひとつ、近づいて、ぶちのめすために。

 だが、それよりも早く、オルフェウスは渾身の蹴りを打ち込んだ。


 ――光が弾け、音が消えた。


 白く輝く波動砲撃が地を抉りながら迫ってくる。悉くを消滅させる、荒れ狂うエネルギー。歯を食いしばりながら左手で殴り掛かる。わずかな衝撃。左腕は、肩から千切れ飛んだ。微かに攻撃の軌道を逸らしながら。


 ――ここで倒れたら、マキナの笑顔にもう届かない。なら前に出るしかねぇだろ……!


 そのわずかな隙間に身体をねじ込み、前に出る。目の前が真っ白に染まる。耳鳴りがして、肩が焼けるように熱い。目も開けられないほどの光が消えていくと、最後の力を振り絞りオルフェウスの目の前へと踏み込む。。


「な……!!」


 反動で無防備なオルフェウスは硬直した。ガラ空きだ!右腕に力を込めると、爆発するように炎が巻きあがった。


「っぱこれだよなぁ!!」


 握りしめた拳を振り上げる。オルフェウスが息を呑む音が聞こえた。恐怖に揺れる虹目。瞳の奥に、迫る俺が映し出される。


 その顔は、心底楽しそうに、笑っていた。


 ――……見つけた。そこに……いましたか……


 マキナの声が響く。吹き飛ばされるオルフェウスを追うように、俺の身体から一本の糸が伸びていく。深紅の糸は一直線に伸びていきながら俺の器の中心に繋がった。俺は息を切らしながら膝から崩れ落ち、ただ見ていることしかできない。


「アアアァァァッ!止めろ!我に触れるな!!獣共が!!」


 地獄の底から湧いて出るような絶叫。オルフェウスはのたうち回りながら胸を掻きむしる。だが、糸は少しずつ胸の奥から虹色に輝く光を引っ張り出していく。

 そして――


「この我が人間如きに……!!認めん……!!理性が敗北するなどと!!あってはならない!!おのれ……計算外……いや、計算できない……!理解不能だ……理解不能だ……!!このオルフェウスが――」


 呪いの断末魔は唐突に切れた。糸を切ったように動かなくなった俺の器の傍らには糸が巻き付いた水晶玉。その奥底には虹色に輝く炎が輝いていた。糸に力が籠められ、震えている。そして――


 ――パキン


 小さく、儚い音を立てて砕けた。


 〈悪夢の王、オルフェウスを倒しました〉

 〈経験値1,000,000ポイントを獲得〉

 〈レベルが76に上がりました〉

 〈各種ステータスが向上しました〉

 〈ベルセルク・オーバードライブを解除〉


 ロゴス=ベヒモスの紫炎が煤けて落ちていく。呼吸が細い。頭がくらくらとして力が入らない。そのまま身体が倒れていく。


 ――ヤ、マト……あ、い、して……


 マキナの消え入るような声が聞こえた。すると身体が幽体離脱のように浮かび上がった。空中に漂いながら片腕を無くし、倒れて動かない俺が見える。身体の自由が効かない。操られるように大の字に倒れる本当の俺の器へと落ちていった。


「――っ!」


 冷や水を頭からかけられたように飛び起きる。空は明け方のように白んできている。いつしか星は消え、月が一つしかなくなっていた。

 体中の痛みで現実だとわかった。そうだ……!マキナは……!?ソウルリンクが切れて、声が聞こえない。身体を起こすと、腕に鈍痛が響く。庇いながら何とか立ち上がり、辺りを見回すと、さっきまで俺が入っていた人形に日が差し込んでいた。


 ――身体が戻った……。生き返った……!


「あー、君、ヤマトくんだよね?」


 金色の羽とともに快活な声が落ちて来た。空を見上げると、黄金の翼にボロボロになったコート、ほどけた髪を耳に掛ける女性、芹澤ミヤコが鋭い視線を向けていた。


「は、はい。芹澤さん!」


「よかった……。死んじゃったと思ったよ~!」


 そう言うと、芹澤ミヤコは翼をフッと収めて着地した。そして、俺と倒れている人形を口語に見ると「いやー、やっぱそう言うことだったわけね~」と笑顔を向けた。


「来てくれてありがとうございます……!でも、マキナが……!」


「マキナちゃん……?ちょっと待ってね。リカ―?マキナちゃんどこ―?」


 芹澤ミヤコは虚空に向かって話し出す。だが、次第に笑顔が消えていった。心臓が握りしめられるように冷たくなる。血の気が引いて、指先が小刻みに震えた。


「ヤマトくん、こっち」


 芹澤ミヤコが翼を出して飛ぶ。ゆらゆらと揺れながら飛んでいくのを何とか追いかけていく。止めろ。止めろ止めろ。考えるな。そんなこと。そんなことあるわけないだろ。


 見えた。信田リカの黒い翼。その足元にマキナ。倒れて動かない。心の中で呼びかけても声が届かない。全身から力が抜けていく。視界が回って上手く歩けない。


「落ち着いて、ヤマトくん。死んでない。信じてあげて」


 マキナ。嘘だろ。返事をしてくれ。答えてくれ。

 倒れこむようにマキナの手に縋りつく。氷のように冷たい手。青ざめた顔。起きてくれ。俺、戻ったんだぜ。全部思い出した。君とのこと。これからだろ。なぁ……!


「リカ。マキナちゃんどう?」


「……先輩、ソウルが……欠けています。生きてはいますが……」


「……そっか」


 エリュシオン・ノクスの空に朝日が差し込む。陽の光は荒れ果てた花園を包み込むように照らし出す。そして、光の粒が集まっていくようにゲートが現れた。新宿ゲートの出口。俺たちは人類史上初の踏破者になった。名実ともに英雄。なのに、心に穴が開いたように身体が動かない。まるで、魂の半身を喪ったように。


「……マキナ。起きてくれ。俺たち、勝ったぞ。生き返った。俺やっとわかったんだ。こんな俺でも、誰かの役に立てるってこと。生きる意味ってやつを……。なぁ、聞いてくれよ……」


 ……言えなかった。

 言わなきゃいけなかった言葉が、

 喉で引っかかって、どうしても出てこない。


「俺まだ、ありがとうも言ってねぇんだぞ……!!」


 真っ赤な花園で死んだように眠るマキナは何も答えない。とても静かで、美しい。朝の光が差すのに、あまりに静かすぎた。だけど、こんなものが欲しかったわけじゃない。とめどなく流れる涙がマキナの肌を伝う。


 その手は、昨夜の死闘より冷たかった。


 〈第三層『エリュシオン・ノクス』を踏破しました〉

 〈勲章:ヘラクレスの凱旋 を手に入れました〉

 〈新宿ゲートダンジョンを完全踏破しました〉

 〈勲章:英雄 を手に入れました〉


 ここまでのお話をセーブしますか?

 ⇒はい

  いいえ


 つづく

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