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ベルセルク・オーバードライブ~ダンジョンの底であなたを創る~  作者: 佐倉美羽
第三層『エリュシオン・ノクス』

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第28話 心を重ねて

「はぁ……。ただの思考停止を、よくもまぁ誇らしげに晒せるな。がっかりだよ。お前」


 脳に直接響く不快な声が降り注ぐ。次元の狭間が縫い合わされるように消えていく。夢の王の身の毛もよだつ気配も遠ざかっていった。


「現で死ねぬ者ほど、夢に縋る。惨めだな。狂戦士。……いや、惨めを通り越して、もはや哀れだ」


 マキナは何も答えない。ただ、次元の狭間の残滓を泣きはらした目で見上げていた。


「いいだろう。覚めることの無い悪夢をくれてやる。我手ずからな。ハハッ」


 嗤い声が城壁に吸い込まれて行く。空気に染みついた嗤いが、まだ耳の奥で蠢いていた。そして、辺りに静寂が戻る頃には、邪悪な気配は消えていた。大橋に清涼な空気が流れ込む。そして、城門がゆっくりと開いていった。


「……ふぅ。何とか勝てましたね。ヤマト。立てますか?」


 彼女は感情を無理やり切り替えるように、優しく微笑んだ。だが、赤みを帯びた目元が、演技ではなかったことを物語っている。安心したからか、俺の身体から熱が引いて行った。


「ああ、もうヘーキだ。ありがとう。マキナ」


 身体を起こすと、関節の節々がバキバキと悲鳴を上げる。ハッと思い出したように頭や胸腹を触って確かめた。真っ二つに斬られたけど、ちゃんと繋がってるよな……?


「大丈夫ですよ。ラストスタンドは回復というよりも巻き戻しに近いですから。斬られた事実がなかったことになっています」


 そう言ってマキナはアダムを使って、俺に手を差し出す。手を取ると、リリスに背を支えながら立ち上がった。まるで執事とメイドにお世話されている感覚になる。なんだか、無機質な見た目だけど愛着が湧いてきた。


「そっか。心配かけてごめんな」


「……いえ。私も冷静さを欠いていました。すみません。ですが、ああいった運用は今後無しにしてください。私の心臓が持ちませんので」


 ようやくマキナはいつもの無表情に戻った。ほっと胸をなでおろす。初めてラストスタンドが発動したけど、思いがけずに臨死体験をしてしまった。正直、あの感覚に慣れると、本格的におかしくなるだろう。マキナには、今度何か埋め合わせをしておいた方がよさそうだ。


「ああ。俺も死にたくないしな」


「さ、今日はもう帰りましょうか。初日にしては十分すぎる成果です。本当にお疲れ様でした。ヤマト」


 そう言って、マキナは地につき刺さっている杭を魔力の糸で器用に引き抜いた。ジャバウォックの爪、一層から使っていたがついに壊されてしまった。杭の部分は無事なのが流石と言うほかない。彼女はそのまま手繰り寄せて鞄の中に閉まった。


「あ、そう言えば、新しいスキル覚えたんだ」


「……えっ?」


「EXスキル……?だってよ」


「なっ……!み、見せてください!」


 マキナは血相を変えて駆け寄って来た。過去の記憶の中でも知らないスキルだ。冒険者ライセンスをスワイプして空中に表示させる。青い半透明のパネルが浮かび上がった。


 ◇◇◇


 〈スキル詳細〉


 ★EXスキル:ロゴス=ベヒモス(Lv.1)

 ソウルの炎を纏い、理を越えて獣となる。


 ◇◇◇


「ソウルが……変質した……?なぜ、そんなことが……」


 マキナが口を覆い、スキル詳細画面を見つめる。瞳に怪しい光を灯らせながら、ボソボソと考えを整理している。


「な、なんかヤバいのか……?」


「……い、いえ。EXスキルは確認されているだけでも数種しかないものですので……。どうして、ヤマトがこれを……」


 そんなことを言われても、自分でもよくわからない。だけど、スキルがソウルの力と言うのであるならば、心当たりがある。


 ――夢の中で、俺は“俺”を殺した。あの手の感覚は今でも覚えている。


 あの紅い蜘蛛が、俺のバラバラになった心をつなぎ合わせた。きっと、あれが俺のソウルを強くしたんだろう。使い方は感覚が理解していた。拳を握ると、腕にひび割れたような模様が浮かび上がり、そこから紫色の炎が燃え広がった。音もなく空気を揺らす焔は高密度のエネルギー体。これが、新しい俺の力――身体の中心で核融合を起こしているみたいだ。


「俺、マキナのことが好きだ。力になりたい。それがスキルになったんじゃね」


「え、あ、は、はい。ありがとう、ございます。わた、私も、ヤマトのことが、好きです」


 珍しくマキナの眼が激しく泳いだ。制御不能な演算が走ったように瞬きをしている。やった、一撃食らわせてやったぜ。でも、なんだか俺の耳も熱くなってきた。ロゴス=ベヒモスの紫炎も水を掛けられたように鎮火してしまった。


「さ、帰るとするか。疲れたし」


 照れくさいので、さっとマキナに背を向けてセーフティエリアになった大橋を歩いて行く。なぜか鼓動が早くなっていき、走りだしそうになる。すると、後ろから駆けて来たマキナにそっと腕を組まれた。


「ふふっ。待ってください。さっきの、もう一度言ってくれませんか?」


「い、言わない……」


「まあ!意地悪ですね。でも、嬉しかったです。本当に――」


 俺の掌にマキナの柔らかな指が触れる。彼女の指先が震えていた。こそばゆい感覚に胸の奥がくすぐられる。そして、絡められた指は、どちらともなく握られていく。互いの掌の熱が、魂の輪郭をなぞるように重なっていった。


 つづく

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