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ベルセルク・オーバードライブ~ダンジョンの底であなたを創る~  作者: 佐倉美羽
第三層『エリュシオン・ノクス』

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第27話 魂の接続

 刺し穿つ大剣の一突きが頬を舐め上げた。


 ――こいつ……動きが読めねぇ……!


 何とか回避して、爪を横薙ぎに振り回すも、跳び下がりながら距離を取られる。騎士は大剣を背負いながら手をついてにじり寄ってくる。まるで獣の騎士だ。


「ヤマト!ベルセルクODを!」


「おう!」


 〈ベルセルク・オーバードライブを起動〉


 世界が静寂に侵食されて行く。目の間には薄汚い汚物。やるべき事はすぐわかった。柄を握り込んで、姿勢を低く構える。足の筋肉が膨張し、地がひび割れた。

 一歩、一呼吸でさざなみの騎士に肉薄する。フルプレートの兜目掛けてジャバウォックの爪を振り下ろす。しかし、騎士は紙一重で躱して見せ、続けざまに振り上げた大剣が宙を舞い、叩き落としてきた。


 ――しまっ……!


 振り抜いた反動で受けることは出来ない。ダメージ覚悟で下がろうと足が張りつめた瞬間、後方に勢いよく引っ張られた。見なくても分かる。マキナの糸だ。騎士の凶刃は空を裂き、橋に突き刺さる。鋭い斬撃音と共に赤い汁が飛び散った。


 ――あの躱し方、動き。モンスターとは思えねぇ……!迂闊に飛び込んじゃダメだ……!


 息を呑んで手汗で滑る爪を握りなおす。どうする……何とか隙を作らないと……!その声に応えるようにアダムとリリスが前に出る。狂化しているのにその輪郭がはっきりとわかった。


 リリスが指を鳴らすと、空中に氷のつぶてが現れ、騎士に飛翔していく。アダムが地に拳を突き立てると、騎士の逃げ道を塞ぐように地がせりあがった。だが、さざなみの騎士は守るそぶりすら見せずに立ち上がり、赤い水に穢された剣を祈るように高く掲げた。


「避けろッ!!」


 もはや誰に言ったかのも分からない。さざなみの騎士の剣に赤い光が収束していく。

 そして――光が反転した。


 滴り落ちる死の流水。半月状の斬撃が大橋に刃を通していく。何とか真横に身体を投げ出して避けた。飛沫一つ上げずに俺の足元を通り抜ける流水斬刃。無駄な破壊をせず一直線に大橋を切り裂いていった。


 ――マキナッ!


 慌てて振り返るも、マキナも橋のたもとで驚愕に目を開き、冷汗を流していた。よかった、無事だ。だが、どうすればいい……!立ち上がり、爪を構える。さざなみの騎士はゆっくりと片手をつきながら、近づいて来ていた。


 どうもこうもねぇ……!殺し尽くすだけだ……!

 身体が一段と熱くなる。姿勢を低くして突撃の準備。足がつく地が抉れ、空気が震えた。


 ――よーいっ……!


「ドンッ!!」


 衝撃波と共に駆け出し、一息で近づいていく。さざなみの騎士は迎え撃たんと飛びつくように剣を振り上げた。濃い血の匂いが肌を掠める。だが、その剣が肉を絶つことは無かった。


 ――かかったなっ!馬鹿が!!


 騎士の射程に入る直前で足が潰れるほど地を踏みしめて、勢いを殺す。騎士の大剣は鼻先を掠め地を抉った。そのままたたらを踏むように大剣を踏み抑え、ジャバウォックの爪を振り上げた。


「潰れろ!!」


 無慈悲な一撃がさざなみの騎士に降りかかる。だが、騎士は容易く武器を放棄して下がった。爪は頭から外れ、火花を散らしながら鎧を浅く抉っていく。鎧の内側にはむき出しの臓腑が詰め込まれていた。


 ――なんて奴だよ……!だが、もう武器はねぇ!このまま押し切る!


 大きく踏み込みこみ、騎士を叩き潰さんと迫る。突然騎士の真後ろに土の壁が立ち上がり、退路を断った。追い詰めた。その中身ぶちまけろ!ジャバウォックの爪が空を裂いて鎧に降りかかる。だが、さざなみの騎士は落ち着いた様子で手をこちらに向けた。

 全身が泡立つ。背後から土と氷の防御壁が立ち上がる音がした。


 ――後ろ……!?


 だが、振り返る間もなく、地に突き刺さっていた騎士の大剣がアダムとリリスの防御壁を貫いた。息を呑む間もなく肩を刺し貫かれ、大剣は騎士の元へ。また、あの斬撃の構えをした。――光が収束していく。


 ――死


 アダムとリリスが俺を守ろうと前に躍り出る。邪魔だ……!どけ……!二人を強く押しのけて前に出た。


「来いっ!!俺を殺してみろっ!!!」


 橋上を轟かす啖呵。それが本音なのか、挑発なのか、もうわからない。だが、全身に力を込めてジャバウォックの爪で受け止めるように構える。耳鳴り、血が沸騰していく。騎士の大剣が輝きを増していった。


 一瞬、世界から音が無くなった。


 パキンっと音を立てて柄が二つに割れた。視界が明滅し二つに割れていく。だが――!


 スキル:ラストスタンド――最後の抵抗


 瞬き一つで全身に力が溢れ出てくる。血管が膨張し、全身に煮えたぎる血を送り出す。今までにない、最高のコンディション。もはや杭になった爪を両手で握り、さざなみの騎士に体当たりするように飛び掛かる。土の壁を突き破り、地に背中をつく騎士の胸に杭が突き刺さった。


「殺せなかったなぁ!?雑魚がっ!!!」


 そのまま馬乗りになり、杭を振り下ろし続ける。顔に、肩に、胸に。突き刺すごとに鎧に穴が開き、中身が抉れていく。さざなみの騎士が苦しみに悶えるように、内臓の隙間から叫び声を上げた。身体が熱くなっていく。痙攣するように騎士の腕が跳ねていく。この一刺すべてが、無慈悲な一撃。命を壊すためだけの一撃だった。


 〈さざなみの騎士を倒した〉

 〈経験値140,000ポイントを獲得〉

 〈レベルが74に上がりました〉

 〈各種ステータスが向上しました〉


 最後の一刺が地を穿つ。鎧はすでに原形をとどめておらず、血の海が夜空を映す鏡になっていた。


 ――これで、やっと、静かになった。


 脱力して空を見上げる。紫色の空に嫌味なほど星が瞬く。いくつもの月が俺を見下ろしていた。


 ――よく見たら、全然キレイじゃねぇや……


 〈ベルセルク・オーバードライブを解除〉


 瞼が落ちていく。全身の力が抜けていく。目を閉じると、そのまま生暖かい血と臓物の中に沈んでいった。

























































 ――チン。


 目を開けると、俺の部屋だった。

 六畳のボロアパート。壊れかかった電子レンジの前でコンビニの破棄弁当を温めている。

 俺の日常、くだらない毎日。


「……は?あれ、なんで?マキナは?」


 周りを見回しても、なにもない。だが、窓の外は異様に暗い。この部屋が巨大な箱に入れられたみたいだ。


「え……、え、何?何が、起きて……」


 事態が飲み込めない。裸足のまま玄関を開けようとするも、鍵が万力で閉めたように開かない。窓を叩き壊そうとしても、ゴムを殴っているように跳ね返された。


 ――閉じ込められた……?


 呼吸が浅くなってくる。訳が分からない。窓の外には何も見えない。真っ暗闇。だが、反射して人影が見えた。

 肩を震わせて振り返ると、“俺”がいた。無精ひげを生やして、死んだ目をした“俺”。電子レンジから冷えた弁当を取り出していた。ちゃぶ台に広げて、スマホ片手に貪っている。目の前にいる俺に気づいている様子はない。


 ――……なんだ……、これ……、どうしろってんだよ……


 胸が痛むほど鼓動が鳴る。こんなことをしている暇はない。一刻も早くマキナの元に戻らないと。服を握り、呼吸を落ち着かせていると、手からするりと何かが落ちた。


 直剣。


 俺が初めてスライムを殺したときに使った、溶けて歪んだ直剣が落ちていた。


 ――ガチャ


 心臓が跳ねた。玄関の鍵が開けられて、ひとりでに扉が開いた。外は太陽に光に照らされて、眩しいまでの日常の世界が広がっていた。

 外に出られる……。引き寄せられるように一歩を踏み出す。床に転がった直剣が蹴られ、乾いた金属音が鳴った。弁当を貪る“俺”の横を通り過ぎて玄関へと向かっていく。


「うわっ、でっけぇ蜘蛛。キモぉ……」


 振り返ると、“俺”が丸めた雑誌を持って壁を見つめていた。目線の先には、蜘蛛。ルビーを溶かしたような輝きを放つ、紅い蜘蛛がいた。


 破裂音。


 “俺”が蜘蛛を潰そうと壁を叩いた。息が止まり、身体が跳ねた。


 ――やめろ。


「っち、逃げんなよ」


 破裂音。

 蜘蛛は天井の隅へと追いやられて行く。心臓の音が耳奥から聞こえてくる。

 “俺”は蜘蛛を殺すために、ちゃぶ台を持って行った。


 ――やめろ。


 蜘蛛は追い詰められ、逃げ場がなく震えている。頭の中がかき回されて行く。

 “俺”は台に乗り、雑誌をきつく丸めなおして、振りかぶった。


 “殺される”


「やめろおおおおおおお!!!!!」


 空気が爆ぜた。直剣を拾い上げて、“俺”の背中に突き刺した。肉を裂く感覚が手に伝わる。“俺”が血を吐いて雑誌を落とした。飛沫となった血が壁にこびり付く。


「うおおぉぁああっ!!」


 力の限り持ち上げて、“俺”を床に叩きつける。仰向けに転がる“俺”は赤い泡を吹き、白目を向いていた。ちゃぶ台割れて、布団に血しぶきが飛ぶ。飛び掛かるように馬乗りになり、何度も、何度も“俺”の顔を殴った。息が止まる。歯が折れて、鼻がまかり、目玉が飛び出ても止めない。手がぬるりと滑る。もうこれが自分のものなのか、“俺”のものなのかも分からない。


「あ、が……」


 顔中を崩しながら“俺”がうめく。心臓が張り裂けそうだ。くらくらした頭で立ち上がり、呼吸を荒げながら歪んだ直剣を拾い上げた。視界が赤く染まっていく。

 そして、そのまま――“俺”の胸に突き立てた。


 ――カヒュ


 大きく痙攣すると目を開けたまま“俺”が動かなくなった。命を絶つ感覚。畳に血の海が広がっていく。震える手は血に汚れて、糸を引いていた。取り返しのつかないことをしてしまった時のように、全身が小刻みに震える。

 その時、手にあたたかな光が降りてきた。紅い蜘蛛。さっきよりも大きくなっている。なんでか、その蜘蛛がどうしようもなく愛おしい。涙が溢れ出てくる。そっと胸に抱くと、糸が心臓の奥を縫い、鼓動を一つずつつなぎ合わせていく。

 とても静かで、美しい世界。ここにはもう、俺たちしかいない。


 ――もう、これで何も怖くない。




 ◇◇◇




 ――修復プロトコル:シーケンス。


「っ!!」


「ヤマトっ!」


 目が覚めると紫色の星空が目に入った。マキナの腕が顔に回される。俺、戻って来た……?


「なんであんな戦い方したんですか!信じられませんっ!!」


 マキナが、泣いていた。腕に回された手が痛いくらいに力が入った。腕の中で、彼女の鼓動が微かに伝わってくる。不安に押しつぶされそうな、弱く儚い音色。喉の奥に熱い気持ちが動いた。


「ごめん。マキナ」


 マキナの背中に腕を回す。抱きしめるだけで壊れてしまいそう背中。腕が少し余るくらい細い身体が震えている。そうか、マキナも同じなんだ。俺と同じ。何も変わらない。手に当たる彼女の髪から、糸のような温もりが広がっていった。


「許しません……!もう二度とあんな戦い方しないでください……!」


 俺の背中に回されたマキナの手は、きっとおびただしい量の血で汚れているのだろう。彼女は罪を犯した。でも、それでもいい。俺はこの壊れてしまいそうな彼女に報いたい。マキナの罪ごと、愛したい。


「……ごめん」


 マキナを強く抱き寄せる。魂ごと強く結びつけるように。俺に出来ることは、マキナに寄り添うことだけだ。たとえ、それが地獄の底に向かっていたとしても。だから、一緒に墜ちて行こう。マキナ。

 エリュシオン・ノクスの大橋で、二人の冒険者は身を寄せ合う。血の海の中心で、お互いの存在を確かめ合うように涙を流し続けていた。


 〈EXスキル:ロゴス=ベヒモスをひらめいた〉


 つづく

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