第26話 夢の都へようこそ
マキナの援護によってキマイラを労せず倒すことが出来た。だけど、アダムとリリスが使っていたのはどう見てもスキルだ。……おそらく、誰かから奪ったソウルを素材にして作った人形なのだろう。元をたどれば、多分俺と一緒の存在。唯一違うことは、人格がないということだけだ。
――だけど、俺のこの人格も、マキナに創られたものだとしたら……?
心がざらついた。武器を握る手に力が入る。頭を振って嫌な考えを追い出す。マキナがそんなことをするはずがない。だけど、彼女はあまりに多くの人を手に掛けすぎている。その事実が、マキナの手を取る勇気を削り取っていく。でも、俺がマキナを拒絶するわけにはいかない。そんなことをしたら、本当にマキナが壊れてしまう気がするから。
水の抜けきった湖底から歩いて上がると、マキナが足を揃えて待っていた。
「お疲れ様です。ヤマト。見事な一撃でしたね。流石です」
「あ、あぁ。ビックリだ。スキルレベルを上げたからかな」
「まあ!そうだったんですか。見せていただいても?」
マキナはそう言って駆け寄り、そうすることが当然というように俺と腕を組む。清新な香りがふわりと肌をくすぐった。
◇◇◇
〈スキル〉
【メイン】ベルセルクOD(Lv.10)
【サブ】強襲(Lv.10)
【サブ】無慈悲な一撃(Lv.10)
【サブ】ラストスタンド(Lv.10)
◇◇◇
「――あぁ、美しい……。ヤマト。もう、誰も貴方を止められませんね……」
ゾクッとするほど艶のある声色でマキナは言った。絡められた腕が熱を帯びて、蕩けていく。砕かれた氷が解けて、湖に流れ落ちていく。
「ベルセルクODで力・速さが100%向上に加えて継続的に上昇。強襲で常時30%に3倍の威力ボーナス。加えて、無慈悲な一撃の超特大ダメージ。ラストスタンドで不測の事態にも対応……。ふふっ」
気づけば腕に紅い蝶が集まって来ている。マキナの指先に繋がった透明な糸が鮮血のような赤に染まっていく。修復プロトコルだ。光とともに腕の痛みがどんどん引いていった。
「そ、そんなにすごいのか?」
「ええ。ベルセルクは強力なスキルですから。限定的な状況ですが、あの芹澤ミヤコにも、もう勝てますよ」
「えっ!?」
曰く、信田リカのソウル探知を掻い潜り、油断している芹澤ミヤコにすべてのスキルをつぎ込んで、無慈悲な一撃を“当てる”ことが出来れば、あの光の化身と言えどもひとたまりがないらしい。
「信田リカの潜伏は私が発見できます。あとはベルセルクOD状態のヤマトが“大いなる平和”の詠唱を妨害すれば私たちの勝ちです」
言われてみれば、そうかもしれない。逆立ちしても勝てる気がしない人たちだったけど、微かに勝つイメージが湧いた。しかし、あまりに楽観的すぎる作戦だ。
「そんな上手くいくかなぁ……」
「そこはやり様ですね。ですが、奇襲が失敗した時点で私達の負けです。高速で飛び回る芹澤を捕まえる手段がありませんし、空からの猛攻を躱しながら信田を探すことは不可能です」
“リスクが高すぎるので、攻略組との交戦は避けましょうね”
アダムとリリスが両手でバツをして首を振った。もとより戦うつもりは無い。だけど、マキナは必要とあれば戦うつもりらしい。正直ぞっとした。
「戦わねぇよ。その時は全力で逃げるからな。鞄の中に入っててくれ」
「――はい。もちろんです。さ、腕も直りましたので、先に行きましょうか」
組まれた腕が解かれる。空になった湖の底には溶けだした氷水が溜まり、澄んだ水たまりになっていた。
消耗を最小限にするためにモンスターを回避しつつ、丘を歩いて行く。ビーズを溢したような夜空の元、宙を漂うエレメントや電撃を放つクラゲの群れをなす。影の街へと歩むほど、陸橋やギリシャ神話に出てくるような神殿の跡地が目立ってきた。ここにも文明の縁を感じる。
リリスが中遠距離でモンスターを牽制しつつ、アダムがマキナを守りながら地形サポート。そして、俺が近づいてモンスターを粉砕する。二人パーティーなのに実情は疑似的な四人パーティーだ。
「なぁ。マキナ。なんで俺とパーティーを組んでくれたんだ?」
エレメントからドロップした純魔石をマキナに渡しつつふと尋ねてみた。
「ふふっ。人形使いは基本的にハズレスキルですので。落ちこぼれだったんですよ。私は」
人形が壊れれば役立たず。人形の制作費も馬鹿にならない金食い虫。人形のせいで隊列上限違反と判断されてしまうかもしれない。そんな三重苦があるスキル、それがパペットマスターだという。あの時、マキナも誰ともパーティーを組んで貰えなかったらしい。
「あの時、嗤われるヤマトを見て自分と同じだと感じました。だから申し出たんです。ベルセルクのデメリットも人形なら関係ありませんしね」
――実情は貴方の回復ポーション代と合わせて、赤字続きでしたが。
そう言うマキナは少しも嫌な顔はしていない。むしろ、とても大切な思い出のように話してくれた。
「……なんか、すまん。そんな大事なこと忘れちまって」
「いいんです。思い出は、これから作っていけば」
潤った風がマキナの髪を揺らす。瑞々しいのに、どこか空っぽで、生命の気配を感じない。死の匂いがする風だった。
寄り道せずに目的地である影の街に向かっていく。近くまで来ると巨人のような城壁が天高くそびえていた。街と言うより城だ。濃い紫色の石で築かれた城下町。城門に向かって大橋が掛けられている。
「……ここです。ヤマト。構えてください」
底知れぬ敵意を感じる。ジャバウォックの爪に手を掛けて、両手でしっかりと握り込んだ。橋の先の上空が蜃気楼のように歪んでいく。そして、次元の裂け目からドロリと粘り気のある赤い液体が零れ落ちた。鼻を刺すような腐敗臭。目が小さな針で刺されたように痛む。その時、脳に直接語り掛けるような声が聞こえて来た。
「おっとっと。誰かと思えば、またお前か。見逃してやった恩も忘れたのか? ……あぁ、違うな。忘れたんじゃない。壊れたいんだろう?」
男と女が同時に話しているような声。ざわつくような不快感に思わず顔をしかめた。
「夢の王。お前を殺しに来ました。問答無用。押し通ります」
マキナの底冷えするような冷たい声が響く。返事を待たずにリリスが流線型の氷塊を射出した。冷気が螺旋の軌跡を残して城門に向かっていく。そして、城門をねじ切るように破壊――出来なかった。
斬られた。真っ二つに。両断された氷塊は軌道が逸れて、城壁に突き刺さる。マキナが舌打ちをした。
「おーこわ。ハハッ、いいぜ。やってみろよ。次はそのお人形と一緒に、指一本ずつ引きちぎってやる」
時空の裂け目から何かが堕ちて来た。金属が擦れる音を立てて倒れたそれは、赤い粘液に汚された甲冑の騎士。手をついて起き上るごとに、関節から血が滴り落ちる。そして、持っていた剣を胸前に立て、祈るようにその柄へ手を重ねた。
「――だが、まずは小手調べだ。“さざなみの騎士”。目覚めの代償を払わせてやれ」
さざなみの騎士は苦しむように頭を抱えて絶叫した。生命に対する憎悪、嫉妬、渇望がビリビリと鼓膜を揺らした。雷鳴のような叫び。
――こいつ……強ぇえ……!
何かが動いた、と理解したときには――刃が、目の前に迫っていた。
つづく
◇◇◇
――おまけ――
〈スキル詳細〉
□メインスキル:ベルセルクOD(Lv.10)
状態【狂化】を得る。
・力、速さを100%(Lv.10)向上させる。時間経過とともに10%ずつ継続的に向上。防御力が減少する。
・精神汚染無効。特殊な混乱状態になり痛覚鈍化、段階的に攻撃性が増す。解除不可。
・スキルレベルに応じて物理武器に+補正。素手での攻撃威力上昇。
・残りHPが低いほど力、速さが上昇する。
・周囲半径20m以内で敵対的意志を察知することが出来る。
■サブスキル:強襲(Lv.10)
不意打ち成功時に威力ボーナスを得る(3.0倍)(Lv.10)
・視認した相手を確率で恐慌状態(一定時間ステータスを30%低下させる)にする
・戦闘開始時に力、速さを30%(Lv.10)向上させる。
・不意打ちの発生確率を向上する。
・隠蔽率を向上する。
備考:常時発動
■サブスキル:無慈悲な一撃(Lv.10)
MPを消費することで防御力を無視した超特大ダメージを与える(消費50)(Lv.10)
・クリティカル発生確率をアップ(50%)する(Lv.10)
・肉体と精神に対する反動ダメージが生じる[デメリット]
・低確率で即死効果(5%)を得る。
・対象が状態異常ならば、さらに威力アップ
・物理無効、物理耐性を貫通する。
■サブスキル:ラストスタンド(Lv.10)
致命的ダメージを受けても一度だけ耐える状態を得る。
・スキル発動時あらゆる弱体化状態を解除する。
・HP、幸運を上昇。
・スキル発動時MPを全回復する。
・スキル発動時HPを30%回復する。Lv.10)
備考:常時発動。クールタイム24時間(Lv.10)




