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ベルセルク・オーバードライブ~ダンジョンの底であなたを創る~  作者: 佐倉美羽
第三層『エリュシオン・ノクス』

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第25話 覚悟の在処

 朝、通勤するかのように駅へと向かっていく。誰も俺を気にしない。パーカーにジーンズ姿のゴーレムが後ろを歩いているなんて誰も思わないだろう。運よく電車で座れたので目を瞑る。肩に生温い重みと共に、化粧の匂いが鼻を刺した。身じろぎして離れてもらう。

 逆に考えろよ。俺、そもそも失うモノもなかったし、今の何が問題なんだ?

 なんも問題ねぇだろ。今も昔も変わってない。

 マキナの力になる。


 ――それが、俺の“過程”だ。


 ゲート管理協会新宿支部につくと、この前の人だかりは嘘だったみたいに閑散としていた。攻略組の二人が帰ってしまったからだろう。ベンチに腰掛け、周りを見回しても、いつも通り役所のような硬質な空気が漂っていた。


 ――ここは本当に変わってないな……


 6年前の記憶と照らし合わしても、まったく変わっていない。まぁ、新宿ゲートは難しすぎて不人気だし、あまりコストを掛けられていないんだろう。


「お待たせいたしました。ヤマト。行きましょうか」


 透き通るような声の方を向くと、受付を終わらせたマキナがいた。いつもの通り無表情。だけど、鞄を持つ手がわずかに震えていた。


「……なんか緊張してる?」


「……はい」


 そう言って、俯いてしまった。二人の間に気まずい空気が流れる。俺も胸の奥がシクシクと痛んだ。マキナも……不安なんだろうか?それとも、また俺が死んじまうかもしれないことを恐れてる?椅子を蹴るように立ち上がり、震えるマキナの手にそっと手を伸ばそうとした。彼女を安心させたい。


 でも――出来なかった。覚悟を試されているような、そんな気配。この手を取ったら、もう後戻りはできない。そんな気がして、息を飲んでしまった。怖い。意気地のない自分を殴り飛ばしたくなった。


「大丈夫だって……、その……」


「――ダメですね。士気を下げては。すみません。ついに三層ですね。ヤマト。今まで以上に焦らずいきましょうね」


 そう言って、マキナは微笑んだ。その微笑みが、過去のマキナと重なった。


「……おう!」


 二人並んで、ゲートに歩み出す。すれ違う者たちのがこちらに目線を送り、コソコソ話している。前の見世物小屋のような目線ではない。あれは、恐慌状態のゴブリン達がしていた目。恐れられている。もはや、何の感情も浮かんでこなかった。




 ゲートを抜けた先は、新宿ゲート第三層『エリュシオン・ノクス』

 満天の星空。紫色のキャンバスに白い絵の具をちりばめたような美しい空だった。月がいくつも浮いていることを除いては。まるで瞳のような月がこちらを監視するように登っていた。


 川のせせらぎが聞こえる。緑に囲まれた丘の向こうに影の国が見える。尖塔がいくつも立ち並び、その先には灯火が焚かれていた。


「なんか見覚えあるな。綺麗なところだ」


「見た目だけですよ。ヤマト。ここほど悪趣味でおぞましい階層はありません」


 そう言って、マキナは鞄の中からずるりと二体のマネキンサイズの人形を引きずり出した。いや、マネキンと言うには幾何学的で、きめ細やかな直線と平面なフォルムだ。淡い黄色で緊張を孕んだ輪郭の男性型、淡い青で柔らかな陰影の女性型だった。


「アダムとリリス、私の決戦装備です。これからは私も本格的に戦闘に参加します」


 そう言って、両手を指揮者の如く振ると指先から糸がふわりと舞い、人形たちの脊髄と繋がった。そして、人形たち、アダムとリリスは風船に空気が入ったみたいに立ち上がると、人間と見紛うような優雅な礼をした。


 ――そうだった。俺がベルセルクで我を忘れても、人形なら壊しても平気。そう言うバディだったな。俺たちって。


「懐かしいな。前の人形はよりも、なんかモダンになったな」


 前の人形、確かジゼルとアルブレヒトは貴族の礼服を着ていた。だが、こちらは何も着ていない。見るからに人工の身体と言うような外見だ。


「ふふっ。そうですね。今思えば、あれは趣味に走りすぎて無駄が多かったんですよ。アダムとリリスは洗練された美しさを目指しました」


 そう言うと、人形達はモデルポーズを取った。確かにイケてる。人間の理想形のようなプロポーションだ。


「なるほどな。かっこいいじゃん。じゃ、行くとしますか」


 そう言って、俺はネコマテリアを取り出す。高く掲げると、半透明の猫たちが溢れ出て来た。マテリアの中の猫は大きなあくびをしている。


「そう言えば、猫に名前つけるんだった」


「まあ!それはいいですね。どんな名前にするんですか?」


 マキナは笑みを浮かべながら中を覗き込む。指をフリフリして気を引こうとしているが、猫は何やってんだコイツとでも言うような目でマキナを見ていた。名前、どうしようかな。玉の中に入ってるし……


「んー、じゃあタマ!」


「……わかりやすくて、素敵な名前ですね。玉の中に入っているからですか?」


 ……今なんか妙な間あった気がしたけど、タマは気に入ってくれるはずだ。マテリアを覗き込むと、タマは信じられないと目を見開いていた。そんなやり取りをしていると、見る見るうちにマップが埋まっていった。


「次は私の出番ですね」


 マキナの号令と共に鞄の中から紅い蝶たちが一斉に舞い上がった。ソウル探知。ソウルリンクで繋いだ紅い蝶一つ一つがマキナの眼になって、周囲のソウルを見ているそうだ。これで不意討されることはまずない。


「よし。じゃ、慣らしも兼ねてモンスター倒してみるか」


「はい。では、近くにキマイラがいますので、行きましょうか」


「え、大物すぎない?」


 キマイラと言えば象ほどの大きさのある獅子と山羊の双頭に蛇の尻尾を持つ強敵だ。石化の霧を吐く上に、尻尾に猛毒、単純に膂力もある。手始めにしては大きすぎる獲物だろう。


「問題ありませんよ。私達も強くなりましたからね」


 そう言って、マキナは嬉しそうに笑った。時間は経ってしまったけど、マキナはやっぱりマキナだ。根っこは変わっていない。その笑顔を見て、なんだか俺も嬉しくなった。




 水のエレメントやクラゲのような生物が辺りを漂う湖畔。闇よりも光の方が多いこの神秘的な場所で、キマイラはいた。10mほど先の湖の奥で獅子の頭が水を飲む。山羊の頭は周囲を警戒していた。その様子を俺たちは木陰に隠れて見張っていた。


「それでは、私が気を逸らしますので、ヤマトは隙を見て無慈悲な一撃を食らわせてください」


 ギョッとしてマキナの顔を見る。いや、違う。これは6年前から続けていた俺たちの基本的な戦い方だ。今までみたいに隠れてサポートに徹していたマキナの方がイレギュラーなんだ。


「わかった。行ってくる」


「はい。お気をつけて」


 湖を突っ切るわけにはいかないので、こっそり迂回しながらキマイラに近づいていく。肩には紅い蝶。俺からの連絡は出来ないが、マキナもこれで見ている。身を屈めて、息を殺しながらキマイラに気づかれるギリギリのところまで近づくことが出来た。あとは、マキナの陽動を待つだけだ。


 ぶるりと身震いした。知らない間に気温が下がっている。ジャバウォックの爪の柄が冷えて霜が降りていた。


 ――なんだ?なにか、来る……?


 そう思った瞬間、湖の木陰から車両サイズの氷柱がキマイラに突っ込んで行った。

 敵襲に気づいたキマイラは弾かれたように横に避ける。氷柱はキマイラがいた場所に突き刺さり、周囲の空気を凍てつかせながら氷の結晶が立ち上がった。


 ――あれは……氷結魔法のスキル!?


 キマイラは咆哮を上げながら湖突っ切ってマキナの元へ走っていく。だが、それを迎え撃たんとリリスが躍り出た。湖を滑走しながら水面に軌跡を残していく。軌跡はパキパキと音を立てて凍てついていき、あっという間にキマイラの足元が氷ついた。強引に引き剥がそうといして、足元から血が流れ出ている。


 ――今だ!


 爪を握りなおして、駆け出した。湖の中心。遠い。氷の上を走り抜けないと……!そう思って、足に力を込めた。だが、つま先の地面が次々と盛り上がり、空へと続く足場が出来上がっていった。これで上から飛び降りて近づける。チラリとマキナの方を一瞥するとアダムがオーラを纏いながら地に拳を突き立てていた。


 思わず笑ってしまった。頼りになりすぎる。そのまま足場を駆け上がり、キマイラ目掛けて飛び降りる。冷気が肌を冷やすが、すっかり身体に血潮が巡り、指先が熱い。キマイラの傍で舞い踊るリリスの糸が震える度に、俺の筋肉が反応した。そのまま、ジャバウォックの爪を振り下ろす。


「貰ったっ!!」


 一斉にこちらを向いた三つの頭と目が合う。霜に浸蝕されながら見開かれたその目に、ジャバウォックの爪が吸い込まれて行く。

 そして――


 ガキンッ!!!!


 湖が、大小さまざまな氷塊となって、粉々に砕け散った。


 〈キマイラを倒しました〉

 〈経験値4000ポイントを獲得〉


 キマイラは肉片すら残らずに血煙になった。窪みとなってしまった湖底に突き刺さるジャバウォックの爪を引き抜いて、思わず自分の手を見る。無慈悲な一撃の反動で痺れるように痛む。信じられないパワーだ。

 リリスがフィギュアスケーターのように滑り寄ってきて、クルリと優雅に一礼。そして、片手を上げた。つられて手を上げると、小気味よい音を響かせてハイタッチの音が湖畔に響く。

 氷片が月明かりを反射して、空に散った。


 つづく

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