表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベルセルク・オーバードライブ~ダンジョンの底であなたを創る~  作者: 佐倉美羽
第二層『封海城ル=シール』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/39

第17話 冒険者の頂点

 通路を進んで行き、下り階段の先にポツンと石のアーチが佇んでいた。向こう側は黒い膜が張って見えない。別の場所に繋がっているワープポイントだ。今までは木の扉やシンプルな敷居だったのに、明らかに特別仕様。この先にル=シールの階層主がいるということを雄弁に語っていた。


「先輩、あの先です」


「おっけー。んじゃ、武神くん、君の作戦は死なないこと!無理だと思ったら逃げ回ってねー」


 芹澤ミヤコは手に付けた血をよく弾く黒革手袋をギュッと引っ張って、指に通している。背から伸びた金色の羽根も準備運動をするように羽ばたいていた。広げた翼は見る者を圧倒するような威圧感を放っている。


「え、いいんすか?」


「もちろん!君、初心者だし!リカと私の目の届く範囲にいる限りはたぶん死なないから。いい感じに戦っといてー」


 伸びをしながら、あまりに軽い物言い。要は放置と言うことだ。正直、連携とか複雑な作戦は出来る気がしなかったのでホッとした。だが、盲のミノタウロスやヒュージゴーストのような強敵がこの先に待っているというのに、二人に怖がっている気配は全くない。信田さんにいたってはモンスターじゃなくて、俺を怖がっている始末だ。


「あの……攻略組にこんなこと聞くのもあれなんすけど、怖くないんすか?」


 二人は顔を見合わせてキョトンとした顔をした。君は何を言っているんだ、とでも言いたげだ。


「え?怖いよ?ねぇ、リカ」


「は、はい。でも、あたしはミヤコ先輩がいるから大丈夫です」


「くぅ~、リカは可愛いなぁ!私もリカがいるから安心だぁ」


 そう言って、芹澤さんは信田さんのボブカットをめちゃくちゃに撫でまわした。信田さんも嫌がりながらもなすがままだ。俺はいったい何を見せられているんだ。


「ま、私が死んでもリカが倒してくれるだろうし、リカが死んでも私が倒すから。そういうこと!」


「……ですが、そう簡単には死にませんよ。あたしたち。結構、強いですので」


 ぐしゃぐしゃになった髪を直しながら、メガネを押し上げて信田さんが言った。さっきまであった小動物を思わせる雰囲気はどこにもない。黒い翼を背負い、どこか神秘的な雰囲気を纏っている。芹澤さんの影に隠れていて意識しなかったけど、この人も“攻略組”なんだと直感した。

 この二人はお互いに葛藤無く命を預け合っている。


 ——絆。

 その言葉が、頭に浮かぶ。

 ——俺とマキナも、こういう関係なのか?

 でも、違う気がする。マキナは俺を信頼しているのか? それとも——

 ——いや、考えるな。マキナは俺を信じてくれてる。そうに決まってる。

 でも、胸の奥が——ざらりとした。


「よーし。じゃあ、サクッと倒して、入り口まで戻るぞー!」


「くれぐれも無理はしないでください。武神ヤマトさん」


「あ。は、はい」


 そう言って、二人はアーチに迷いなく足を踏み入れていく。俺も、何故か胸を躍らせながら後に続いた。






 ワープポイントを抜けた先は街だった。高台に築かれた広場から見えるのは、見渡す限りの天井へ伸びた通路、壁に続く階段、床に横たわる扉。かろうじて家と呼べるバグで作られたような狂った建造物が広がっていた。遥か上の天井にも同じように、騙し絵建築がぶら下がっている。


「先輩。ここ一帯に異常な数のモンスター反応です」


「わーお!強さは?」


「一部強力なモノも混じっていますけど、大方弱いですね。お話にならないです」


 俺は完全に蚊帳の外。というか、多分いつもこんな調子なんだろうな。


「えー、まさか全部倒さなきゃ許してもらえない感じ?」


「……この数、群れの頭がいます。そいつを落とせば終わりです。それで収束するはずです」


「おっけー、じゃあ、いつもの方法で。誤差は私が潰すから、好きに動いていいよ。武神くん!活躍のチャンスだよ~?私よりも先に主を見つけたらご褒美を上げよう!制限時間は30分以内!」


 急に話を振られて、キュッと背筋が伸びた。え、何。なんて言われた……?


「ご、ご褒美っすか?」


「そ!そっちの方がやる気出るでしょ?ご褒美はそうだなぁ……」


 芹澤ミヤコは顎に手を当てて目を細めた。だが、言うより先に信田リカが「気づかれましたね。モンスターの大群がこちらに押し寄せて来てます」と、口を挟んだ。


「ま、何かいいもの考えとくよ。青年、しっかり励め~!」


 そう言うと、芹澤ミヤコはしゃがみ込み翼を大きく広げた。そして、跳躍するように空高く舞い上がると、金色のほうき星になって高速で飛び去ってしまった。遠くで時折、煌めく飛沫を空中に撒き、神の槍を降らすように地上を蹂躙して回っている。


「では、あたしも失礼します。命を大事に、ですよ。武神ヤマトさん」


 信田リカも漆黒の翼を大きく広げた後に、包み込むように全身を覆う。すると、空間が捻じれるように圧縮され、音が消えた。

 静寂。風が、止まった。黒い羽が、一枚。


「……羽?」


 頬にふわりとした感触が掠めた。空を見上げると、黒い羽。ふわふわと雪のように、信田リカの黒羽がフロア全域に降り注いでいた。


「……レベル違いすぎね?これ」


 これが冒険者の頂点かよ。そう呟いたのも束の間、高台の下、階段をガチャガチャと駆け上がる多くの足音が聞えて来た。ガーゴイルの大群がやってきたようだ。


「じゃ、俺も死なねぇ程度に頑張るとするか!」


 背負った炎のグレートソードに手を掛けて、階段に駆けだす。そして、ガーゴイルの頭が見えた瞬間に両断した。レベルアップしたことを差し引いても、異様に柔らかい。ガーゴイル達をよく見ると、黒い羽が触れた部分から、ひび割れている。そのまま腰に剣を引いて、突き刺すように階段を飛び降りる。


 ——なんだ、これ?


 ガーゴイルが、まるで石膏のように崩れていく。切っ先が触れただけで。

 そういうことかよ。あの羽ヤバすぎだろ。

 おそらくだけど、あの羽に触れたモンスターは弱体化する。それも“お話にならない”レベルに。芹澤ミヤコが信田リカにしていたお墨付きは、お世辞でも何でもなかった。


 迫りくるガーゴイルを切り払っていく。空から、地上から、四方から雷槍が飛んでくるが、どれも遅くて当たる気がしない。囲まれても容易く一掃できる。それに、たまに光の槍がこちらに飛来してきてはモンスターの一群を文字通り消滅させていく。正直これまでの戦いに比べれば、あまりに楽勝過ぎた。


 ――でも、雑魚をどんだけ倒しても、無限のように湧いて出てきやがる。やっぱ主を倒さないとダメか。


 闇雲に走ってもダメだ。考えろ。信田さんは一部に強力な奴がいるって言ってた。そいつか?でも、それなら芹澤さんが空中から爆撃しているはずだ。じゃあ、どこかに隠れてるのか……?剣を翻して、思考を研ぎ澄ませる。


 ――マップを注意深く見ればおよそどこに繋がっているかは予測できます。


 マキナの声が、妙に鮮明に蘇る。ワープポイントの話だ。

 冷たいようで、どこか優しい、いつもの調子で。

 走り回りながら、小高い建物に飛び移り、マップを確認してみる。だが、何故かほとんど未踏破だ。


 ――そうか!ここって別マップ扱いなのか!じゃあ……!


 腰につけた巾着を広げる。中にはネコマテリア。ふてぶてしい猫がやっと気づいたかと言わんばかりに、目を細めていた。

 見上げると金と黒の雨。圧倒的な光景に呑まれたまま、俺は笑っていた。

 ……あの二人の背中に少しでも追いつきたい。それだけだった。


「お前、あとで名前つけてやるからな!来い!」


 マテリアをわしづかみ、空高く掲げる。半透明な猫の大群が、蛇口を捻ったように流れ出てくる。今までとは比にならないほど大量、出血大サービスだ!


「ニャオーン!」


 中の猫が遠吠えをするように鳴き声を上げると、猫の軍団がガーゴイルを器用に躱しながら四方八方に駆けだしていく。マップがみるみるうちに埋まっていた。

 そして、最後にはマテリアから一匹の猫が飛び出た。よく見知った偉そうで憎たらしい顔がついて来い、とでも言うように首をクイっと振っていた。


 つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ