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ベルセルク・オーバードライブ~ダンジョンの底であなたを創る~  作者: 佐倉美羽
第二層『封海城ル=シール』

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第15話 邂逅

 マキナの準備が終わったようなので、俺たちは階段を上がっていった。無機質な石階段に二人分の足音が冷たく響く。

 巾着袋に入れたネコマテリアを取り出してみる。猫は良きに計らえと言わんばかりに香箱座りをしながら、ふてぶてしい顔をしていた。


「憎たらしい顔してるなぁ」


「そうでしょうか。可愛いではありませんか」


 そんな他愛ない話をしながら階段を上って行くと、2階フロアが目の前に広がった。


「うわ、なんだこれ……!」


 まるで騙し絵の中に迷い込んだような、重力を無視した階段と通路が縦横に張り巡らされた空間が広がった。床が天井に繋がり、壁に階段が伸びている。見ているだけで酔いそうだ。


「ゲートダンジョンはこの世の理の外にある世界ですから。こういうこともありますよ」


 マキナは無表情の通常営業。いつも思うが胆力が強すぎて惚れ惚れする。毎度驚いている俺がおのぼりさんみたいだ。


「じゃあ猫にマップ埋めてもらうか!」


「はい。よろしくお願いします」


 掌に乗せたネコマテリアをころころと転がす。半透明な猫が次々と飛び出していき、あっという間に足元が猫まみれ担った。ニャーニャーと好き勝手に動き回っている。だが、玉の猫が大きく鳴き声を上げると、蜘蛛の子を散らすように張り巡らされた階段へと向かっていった。

 マップを開いて進捗状況を確認している。


「あれ?」


 ものすごいスピードで未踏破箇所が埋まっていくが、多くが途切れ途切れになっている。無数の図形が浮かんでいるが、どれも繋がっていない。猫の鳴き声も空間の奥で歪んでいく。


「おそらく、ワープポイントですね。ポイントごとのつながりまで反映されていないようです」


「げ、じゃあ意味ないじゃん」


「いえいえ。マップを注意深く見ればおよそどこに繋がっているかは予測できます。とても大きな手掛かりですよ」


 マップはあっという間に最後まで埋まった。様々な図形が浮かぶマップの中央に四角いアイコンがあった。ここが次の階段か。


「さて、ヤマト。ここからは私も微力ですが戦闘に参加します」


「え?」


 思わずマキナの方を見ると、手には弓を改造して作ったであろうクロスボウが握られていた。


「魔石を点火しながら射出するように出来ています。弾数には限りがありますのサポートどまりですが……。足手まといにならないように頑張りますね」


——待て、マキナは「戦えない」って言ってたよな? 超回復しかできないって。

でも、今、武器を持ってる。しかも、手慣れた様子で。

——あれ、これって——


「え、えええええ!?なんで!?」


「あ、勘違いしないでくださいね。決してヤマトが頼りないという意味ではありません。生存確率と討伐効率の問題です」


 マキナはそう言いながら魔石をお椀上の装填口に入れ、手慣れた手つきで引き絞るようにリロードした。


「……なんか慣れてない?」


「ヤマトのお役に立ちたくて、たくさん練習しました」


マキナが微笑む。その笑顔を見て——疑問が、消えた。


「そ、そうっすか。頼りにしてます」


「さ、行きますよ」


 そう言うと、胸の前でクロスボウを携えながら微笑んだ。落ち着いたゴスロリお洋服にクロスボウ。黒地に描かれた金色の蜘蛛の巣が魔石の青い光を受け、神聖とも狂気ともつかない輝きを放っていた。何故かめちゃくちゃ似合う。

 俺は咳ばらいをして「おう」と返事をし、適当な階段を上って行った。




 足裏が裏返る。視界が回る。方向の分からない足音が、別の階段から反響してきた。

 今、自分が“落ちている”のか“歩いている”のか、脳が判別を拒否した。足元の重力が数秒ごとにねじれて、吐き気が込み上げてくる。先々にある扉や門を潜ると別の足場に飛ばされる。その度に上下左右が入れ替わる。もう、どっちが“下”なのかわからない。

 そして、たまに出てくるのがこいつらだ。


「ヤマト!上から来ます!5体!」


「あいよ!」


 上空から飛来したのはガーゴイル。ひょろりとした体躯にコウモリのような羽、なのに顔は角の生えた人間の動く石像。ケタケタと嘲笑うような鳴き声をすると手から雷を帯びた槍が出現した。

 飛び回りながら次々と雷を投擲する。飛来する雷を大剣で弾くたび、腕が焼けるように痺れた。絶え間なく降り注ぐ雷に防戦一方だ。

 だが、一瞬の切れ目を狙ってマキナがクロスボウの引き金を引いた。シュポンっと空気が抜けるような音と共に魔石がまっすぐとガーゴイルへと吸い込まれていく。


 ――パァアアアアンッ!!


 ガーゴイルの目の前で青い煙を上げながら炸裂した。雷の雨が止んだ。


 ――チャンス!


 炎のグレートソードを握りなおして煙の中へと飛び込んでいく。一閃。砕けて動きが鈍くなったガーゴイルはたやすく叩き斬ることが出来た。


 〈ガーゴイルたちを倒した〉

 〈経験値500ポイントを獲得〉

 〈レベルが16に上がりました〉


 焼けた金属の匂いが漂う。視界の端で、マキナが息を吐いた。

 冒険者ライセンスがレベルアップを告げるファンファーレを鳴らす。経験値効率がいいので、ガーゴイル狩りを進めていたらどんどんとレベルが上がった。初めてレベルアップした時は震えるほど嬉しかったが、慣れとは怖いものだ。


――キンッキンッガラッ……


 金属が叩きつけられる音が響く。マキナが状態のいいガーゴイルに歩みより、胸を杭とハンマーを使って割っていた。初めはその鬼気迫る雰囲気に面食らったがこれも慣れた。


「それ、どんな素材が取れるんだ?」


「これは魔導核です。実はですね、ゴーレムとガーゴイルって、構造的にはほとんど同じなんですよ」


指で水晶をつまみながら、マキナの瞳が嬉々として輝いた。


「この魔導核が“頭脳”の役割をしていて……ふふっ、ちょっとワクワクしません?」


 曰く、冒険者の中にはゴーレムや人形を使用する者もいるらしく、魔導核は必需品らしい。なのに、供給は少なく値段は高価。要はウマイ素材だそうだ。


「俺も手伝おうか?」


「いえいえ。ゆっくりしていてください」


「ほいよ~」


 久しぶりに剥ぎ取りが出来るからかマキナは上機嫌だ。邪魔しないでおこう。

 俺は大剣を背中に背負い、ステータス画面を確認しようとライセンスを取り出した。だが、その時を待ち構えていたように冒険者ライセンスが警告を鳴らした。




 〈SYSTEM WRNNING:転送罠の発動を検知〉

 〈ダンジョン内の冒険者は可能な限りパーティーメンバーと接触してください。繰り返します――〉




「へ?」


「っ!ヤマト!こちらにっ!」


 マキナがいつになく焦った声で叫ぶ。泡立つような嫌な予感を感じてマキナに手を伸ばして駆け出そうとする。だが、死にぞこないのガーゴイルに足を掴まれた。掴まれた足首に、爪のような石の感触が食い込む。

 あの時、無理にでも振りほどいてさえいれば――。

 一歩。たったの一歩、出遅れた。



 〈転送開始〉



 手を伸ばす。マキナも、手を伸ばしている。

——届く、届く。

でも、届かない。

光がマキナを包む。彼女の姿が、消えていく。

——待て、待ってくれ。マキナ!

声が出ない。喉が、動かない。

マキナの唇が動いた。何かを言おうとしている。でも、聞こえない。

——なんて言ったんだ? 「大丈夫」? それとも——

光が消える。マキナが、消える――消えていった。それが、最後の記憶だった。
















































「ひ、ひやぁああっ!!だ、だれぇえええ!?」


「こーら、リカ。人をそんなモンスターみたいに言わないの」


 目を開けると、知らない場所にいた。伸ばした手の行先がどこにもない。まったく訳が分からない。いったい何が起こったんだ。マキナはどこに行った!?


「あちゃー、転送されちゃったか。いくら何でもカウント早すぎでしょ。どうなってんのこのダンジョン」


 知らない女の声。振り返ってみると、探偵のようなコートを着たポニーテールを揺らした女がいた。その後ろで丸メガネのスーツ姿の少女が俺を警戒するように見ていた。


「や!はじめまして。私は芹澤ミヤコ。こっちは相棒の信田リカ。同じ飛ばされた者どうし、仲良くやろう。君の名前は?」


 芹澤ミヤコと名乗った女は人懐っこい笑みを浮かべて握手を求める。反射的に手を握っていた。黒皮手袋の冷たい感触。握り返した瞬間、俺の体温が奪われていく。笑っているのに、まるで大鷹に掴まれたみたいだった。


「……あ、武神ヤマトっす」


「武神くんね、よろしく!ごめんね。リカ、人見知りだから。許してあげて!」


 芹澤ミヤコの後ろに隠れる少女、ショートボブの大きな瞳と目があった。さっと隠れられてしまった。


「あ、あの、何があったんですか。俺、どうなったんですか」


 芹澤ミヤコは眉を上げて意外そうな顔をした。何かおかしなことを言ってしまったんだろうか。


「あれ、転送罠知らない?」


「……はい。すんません」


 芹澤ミヤコの目が、俺を見る。鋭い。猛禽類のような目。まるで、獲物を見ているような——頭の中を見透かしているような威圧感があった。


「だ、誰かがトラップを作動してしまって、ダンジョン内の冒険者が別々の位置に飛ばされてしまったんです……」


 そっとこちらの様子を伺うように信田リカはポツリと呟いた。は?ならマキナも飛ばされた?今一人ってことか?血の気が失せて、手足が冷たくなってくる。

胸が苦しい。呼吸が、浅い。心臓が、暴れている。


——落ち着け。大丈夫だ。マキナは、きっと無事だ。


でも、不安が消えない。彼女がいないと——俺は、どうすればいいんだ?


「武神くん、大丈夫? 顔色悪いよ?」


芹澤ミヤコが覗き込む。その目が——俺を、見ている。


——この人、何を見てるんだ?


「……まぁまぁ!武神くん。そんなに気を落とさないで!きっと君のお仲間も臨時パーティー組んでるよ。私達もはぐれちゃったからさ、君が合流できるまでパーティー組もうよ!」


「せ、先輩……、それはあまりにも……」


「えー、ダメぇ?」


「……もう。わかりました……」


「やった!ありがとう!と、言うわけでリカのお許しも得たことだし、君もいいよね?」


 まったく口をはさむ暇がなかった。阿吽の呼吸でどんどんと話が進んでいく。正直マキナが心配で仕方無いが、この状況で今更、俺は一人でいいですなんて言えるはずがない。


「は、はい。お願いします」


 こうして、俺は芹澤ミヤコと信田リカの二人と臨時パーティーを組むことになった。冒険者の中でも屈指の実力をもつ天才達、攻略組。マキナをして、異常者の集まりと言わしめた冒険者とこんな形で出会っていたとは、この時の俺は想像すらしていなかった。


 つづく

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